肩透かしと小さな騒乱と
ジャンフランコ君は【聖具】を入手したつもりになっていますが…
スフォルツァ城での話し合いの途中、古い【聖具】が残っていると聞いたジャンフランコは、リモーネに戻る途中コルソ・マルケ砦に立ち寄る。
【聖具】とは、人に【神具】と天恵を授ける鈴のついたバトンのような形をしている道具で、女神ソフィアによって与えられたものだとされている。
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砦では、不機嫌そうな男がジャンフランコを待っていた。
「城から連絡をもらってはいますがね。いきなりポンと立ち寄ってもらっても、『はいコレです』と差し出せるわけではないんですよ」
「どういうことでしょう?」
「実際に見ればわかります」そう言って不機嫌な男~カルノーと名乗る管理人に案内されて、砦の地下にある宝物庫に向かう。
カルノーがカギを開け扉を開くと、そこには床から天井までギッシリと様々な大きさの木箱が山積みになっていた。
「あの、どの箱に何が入っているかは」
「荷札は着いちゃいますがね。それにしてもこれだけの数ですよ。一つ一つ見ていくだけでも相当な時間が掛かると思いませんか?」
すぐにでも【聖具】を触ることができると期待が膨らんでいた分、落胆も大きい。
がっくりと項垂れるジャンフランコを見てさすがに可哀そうだと思ってくれたのか、カルノーは時間は掛かるけれど、【聖具】が入った木箱を探してくれると約束してくれた。見つかったらメディギーニ商会に連絡を入れるようお願いしてジャンフランコ達はコルソ・マルケ砦を後にする。
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翌日はリモーネ王室との面会のために登城する約束があり、ジャンフランコ自身はまったく乗り気ではないものの、それでもスフォルツァ邸のスタッフ達の手により、何とか裕福な商家の子弟とみられる程度には身なりを整えられる。
レイチェル王女との対面は、スフォルツァ辺境伯就任式の話題で終始する。就任式から既に一月ほど経ってはいるものの、王女にとって初めての外遊と公務であったことから強く印象に残っているのだろう。
「それにしても、行き帰りの馬車があまりに快適で、すっかり虜になってしまいましたわ」
「レイチェル殿下のおめがねにかなったようで、苦労して準備した甲斐がありました」
幽霊馬車の試作車が出来上がるまでの経緯~レイチェル王女に振り回されたことへの鬱憤を叩きつけるように製作に没頭した~は、ここでは言わぬが花であろう。
「それにしても、雪の中を走るジャンフランコ様の馬車の方が除雪された街道を走る王室の馬車よりも快適だったのは不思議ですわね。あの馬車は商会の新商品になるのかしら」
「いえ、あれはまだスフォルツァ家の『秘蔵』なのです。まだまだ市場に出せるようになるまではお時間をいただくことになります」
「あら。ではあの快適な乗り心地の馬車はスフォルツァ家の皆様以外は堪能できませんのね。何とも羨ましいこと」
幽霊馬車は、先の冬、ゲームチェンジャーとなってスフォルツァ家の勢力圏拡大に貢献した新兵器であり、迂闊に他勢力の手に渡すわけにはいかない。特に馬を必要としない「馬車」であることについて徹底的にリモーネ王国の目から隠ぺいしたくらいである。
「リモーネ王国のような、平和で安心して暮らせる豊かな領地を目指して、スフォルツァ辺境伯領はあらゆる手段を使って取り組んでいるのです。レイチェル殿下にはもう少しだけお時間をいただければと思います」
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王女の前を辞して、フレデリカを伴って王宮の回廊を歩くジャンフランコは小さなトラブルに巻き込まれる。
時間を短縮しようと王宮の中庭を横切ろうとしたところ、貴族子女と思しき数人の男女に取り囲まれたのだ。進路を塞ぐように立ちはだかる男がいきなり罵声を浴びせる。
「ここは王宮でも王族と高位貴族しか立ち入れない場所だぞ。商人風情が呑気に横切るような場所ではない」
「お前はこの国の人間でもないくせに!我が王宮から出ていけ!二度とここに顔を出すな!」
ジャンフランコとて好きで登城しているわけではないのに、随分な言い草である。彼らの言いぶりからすると、広く知れ渡っているのはジャンフランコが隣国スフォルツァ辺境伯領の者であることまでで、彼がスフォルツァ辺境伯子息であることまでは広まっていないし、王室の求めで登城していることも知られていないのだろう。
「お前が来るようになってから、レイチェル殿下が会ってくれなくなったのよ!」
「殿下がお会いにならないとは?」気になったので反応すると
「あなた達の話はつまらない、中身がない、と言われたのよ!前はドレスや舞踏会のお話を楽しんでらしたのに!」と金切り声が返ってくる。
知ったことではない。高位貴族の令嬢であれば教養を身に着け自身を磨くことに注力すればよいだけである。王女の興味関心のレベルを自分たちに合わせて下げようとは随分と不遜な令嬢たちである。
あまりにも中身のない罵声が続き途切れる気配がないことにいい加減ウンザリする。
神測を起動し、罵声を浴びせる令息、金切り声をあげる令嬢の顔を見渡していくと、この国の有力貴族家とその資産状況や直近のスキャンダルに関する情報が次々と目の前の顔に紐づいていく。
メディギーニ商会の基金運用業務の一環として、この国の主要な貴族家に関する情報は神測を通じて把握しているのだ。
「そういえば、ミント伯爵領は今年になってから次々手形が不渡りとなっているそうですね。このままいくと近いうちに領地経営の才覚なし、として領地召し上げとなると噂が流れています。こんなところで油を売っていていいのですか?」
「スメーノ侯爵家は一番上のご令嬢が不貞が暴かれて婚約破棄されたそうではないですか」
一つ一つ家名を挙げて借財の状況やスキャンダルを挙げていくと、家名を出されて鼻白む者、俯く者、そっぽを向く者、気づくとジャンフランコに浴びせられる罵声がどんどんトーンダウンしていく。
「何だ、高位貴族といっても、ここにいらっしゃるのは瑕疵のある家のご子息ご令嬢ばかりではないですか。王女殿下もお付き合いする相手を見直した、ということではないでしょうか?」
厳密にはどの貴族家にも金銭のトラブルやスキャンダルは大なり小なりあるものだが、敵対する相手に忖度する必要はない。ひとまずジャンフランコは情報を武器に高位貴族の令息令嬢たちに一矢報いることに成功した。とはいえ、最後の一言は余計だったようだ。
スメーノ侯爵家令息と思しき少年がブルブルと肩を震わせたかと思うと抜剣して叫ぶ。
「おのれ!下賤の身で我らを愚弄するか!」
王宮内で帯剣を許されているのは本当に一部の高位貴族に限られるが、それも真にやむを得ない場合を除いて原則抜剣は禁止のはずだ。大逆にあたる行いとして告発されても仕方のない行為である。
当然ジャンフランコ自身は徒手空拳のままであるが、前に出ようとするフレデリカを制して前に出ると格闘術の構えを取る。既に神測は起動しているので、格闘術に紐づいた「戦技」の魔法陣を呼び出しておくだけでよい。
「外国人め!この場で成敗してくれる!」力任せに振り下ろされるだけのショートソードの軌道を読み、自身は一歩踏み込むと「戦技」を発動し拳で剣身を弾き、振り下ろされる刃を受け流す。
弾かれたショートソードが宙を舞い、その持ち主は態勢を崩して尻もちをつく。
ジャンフランコが【パリィ】で剣を弾いたことが分かったのか、「平民が『戦技』だと?」と驚く声が聞こえる。
「これで終わりですか。なら、僕は帰らせてもらうよ」
立ち尽くす令息令嬢たちを放置して急ぎ足でその場を立ち去る。
グズグズしているとすぐに騒ぎを聞きつけた王国騎士団が集まってくるだろうし、あの令息令嬢たちは王宮内で刃傷沙汰に及んだ件で取り調べを受けるだろう。巻き添えは御免だ。
「無用のトラブルを避けるためにも、次からは貴族然とした衣装で登城するとよいのではないですか」
「冷静さを欠いて王宮内で抜剣するような輩だよ。何を着てても関係はないさ。真剣に戦装束を検討したいよ」
「戦装束」というのは、鎖帷子の上にスフォルツァ家の紋章入りのローブを羽織ったアレのことである。隣国の貴公子が平時に王宮を戦装束で闊歩するというのは、別の意味でトラブルの種になるのでフレデリカとしては断固として阻止せねばならない。
おバカな坊っちゃん嬢ちゃんが実家の権力を傘に着て…というのはある意味テンプレではありますが、だからといって簡単に書けるものではないですね(反省)
今回の新要素:
・ 特になし
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