【閑話】いろいろ解決の目途がつく
ジョヴァンナとロドリーゴが移動するまでの最後の課題解決…かもです。
ジャンフランコが冬の間に与えられた課題のうち、残った一つにも、概ね目処がついてきた
戦乱で荒れ果て、痩せてしまった土地を再び農地として復活させるプロジェクトである。この課題は、ジャンフランコにとって少しだけハードルの高い課題となっている。
他の課題は【城壁】や魔道具工房の建築などの拠点の強化などであり、ジャンフランコが直接出向いて対応できていた。
対して、農地の改善は少なくともスフォルツァ領内~将来的にはミルトン全域が対象となる。とてもではないが彼自身がカバーできる範囲を超えているため、家臣団ないし商会を動かすことまでを考えなければならない。
「試作品一つ作るとか僕が直接作業するとかで片付くなら楽ちんなんだけどね」
「わたくし達にとっては、こうやって若様をお手伝いしながら魔道具開発を学べる貴重な機会ですから。ありがたいと思っていますよ」
ジャンフランコの愚痴に反応したのはピエレッタだ。好奇心の強い彼女はジャンフランコの作る魔道具に興味深々で、このところコルソ・マルケ砦の魔道具工房に顔を出すことが多い。
「君のような優秀な剣の天恵持ちが魔道具に興味を持つなんてね」
「なにをおっしゃいますか!わたくしの属性付与の戦技を応用して【魔力剣】なんて魔道具を作られたら、興味を持たない訳にはいきません」
「そんなこともあったかな…と、やっぱり例の仮説は有望だね」
口を動かす一方で手も動かす。
コルソ・マルケ砦の中庭の一角に作られた実験エリア。
冬のさ中にも春並みの室温を保つ、透明な樹脂で覆われた言うなれば温室の中では、ジャンフランコの試作した魔道具の実験が行われていた。通常の生育条件の畝より明らかに早く発芽したことをもって、ジャンフランコの立てた仮説が有望であると判断する材料の一つとする。
「樹木の生育に効果があるなら、農作物でも同じ効果が得られる。まさか【中継局】のために作られた魔道具が土壌改良にも使えるなんて驚きです」
「いや、僕もこの目で見るまで信じられなかったんだけどね」
ジャンフランコが土壌改良についての課題を与えられた時に真っ先に思いついたのは「化学肥料」である。もちろん、最適な成分の肥料を作るのは難しいので、最適な配分で魔力を流すことで代用するのであるが。
「【中継局】の魔力供給源として樹木の中を流れる魔力を取り出す試行錯誤。あの時は樹木を流れる魔力を抜いて、金属性と火属性を抜いて戻したら枯死などの問題が起きないってことだったんだけど」
「その後暫くして、【中継局】 の周辺の樹々の生育がよく冬の最中でも葉の瑞々しさが違うとの報告があったのでしたね。調べてみると、どれも魔力を引き出す仕掛けを着けた樹木だったとか」
そこから発想を得て作られた試作品の魔道具は、太陽光を属性別の魔力に分解して、不要な魔力を抜いてから液体状にして土壌に撒くというものである。
「では、この後の実験は任せてしまってもいいかな?」
「メディギーニ商会から何人か人を派遣してもらう手筈です。この冬から春にかけて、最適な魔力の供給量、属性別の魔力の配分を見つける作業をやるんですよね。少し気の遠くなる作業ですけれど」
「なに。この冬から春は荒れた土壌で作物が育つ組み合わせが見つかれば御の字さ。作物の種類ごとに最適化するのは来年以降の課題だよ」
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土壌改良の魔道具開発についても時間のかかる実験を人に任せてしまえば、ジャンフランコの予定にも少し余裕ができる。そこで長い間放置していた課題に手を着けることを考え始めた。【隔絶された時空】の再現である。
「リモーネではできない実験なので、ミルトンに行く機会があれば」
という理由で長い間保留にしてしまっていた。魔道具の事業拡大などで多忙の身となった彼のミルトン行きがようやく叶ったわけではあるが、そのままスフォルツァ城奪還から始まる一連の作戦に身を投じていて、それほど優先順の高くない実験に割ける時間がほぼなかっただけではある。
ある意味ずっと放置していたわけだが、忘れていた訳ではない。
ひとまず、リモーネに戻る馬車の中で次回ミルトンに渡ったときを想定して計画を立て始める。
『まずは実験に最適な場所を見つけるところからかな。なるべくコルソ・マルケ砦の近くで人目につかない森の中に地下室でも掘るか』
神測を立ち上げて、記憶の隅の方にしまってあった【隔絶された時空】の【魔法陣】を呼び出して、復習するように目を通し直す。基本になるのは五柱の大神を呼び出す五枚の【魔法陣】であり、それ自体がソフィア教会の目が光るリモーネ国内での実験をしり込みする最大の理由となる。
『うっかり顕現とかされた日には、拘束されて異端審問に直行だもの。おっかなくて迂闊には手がでないよ』
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『其方まだ諦めておらなんだか』耳元で囁くのは、ジャンフランコを勝手に使徒にしている秘事の女神だ。どうやら、看破の神も参加するようだけれど。『其方は五柱の大神の【魔法陣】に囚われすぎてはおらぬか』
『 いきなり顕現されて驚きました。囚われる、とは?』
呼んでもないのに、とは思っても口にはしない。
『其方が再現しようとする部屋にはもう一つの【魔法陣】があったではないか』
『よく見直してみるがよいぞ。見覚えのある約定の印の魔方陣が含まれてはおらぬかえ?』
「もう一つの【魔法陣】」とは、【隔絶された時空】の外側全体を覆っていた光属性と闇属性の組み合わさった【魔法陣】のことか。そういえば、そちらにはあまり関心をもっていなかったかもしれない。
勝手に顕現して耳元でやいのやいのと言い始めた二柱の提案もあり、今更ながら完全に放置していた【魔法陣】の解析を始める。
『おや?言われてみればこれは面白い【魔法陣】かも』
『今頃気づいたのかえ?そこに妾と【看破】を呼び出すための【魔法陣】が含まれておろうが』
『確かにそうですが、改めて解析を試みても複雑な【魔法陣】ですね。ちょっと構造を把握するだけで四苦八苦なのですが』
『さもありなん。光と闇二柱の権能を同時に呼び出す【魔法陣】であるからな』
勧請される二柱がせっかくいるのだから、複雑な【魔法陣】を無理して解析するよりは直接二柱に聞いてみるのが手っ取り早いのかもしれない。
『其方らも大事なものは鍵のかかる入れ物に仕舞うであろう?妾が鍵をかけ、【看破】が鍵を開けるのじゃ』
『鍵はどこに?』と聞きかけて、ジャンフランコは【鍵】の魔道具を思い出す。
『さすがに同乗者の目のある馬車の中では止めておくがよかろう』
と耳元で囁かれて疑似魔道具を呼び出すのは止めておく。
スフォルツァ邸に到着すると魔道具工房に直行する。
【鍵】の疑似魔道具が勝手に呼び出され、ある部分が範囲指定されて強調されると耳元で囁き声が聞こえる。『この部分をこれで置き換えてみるがよい』使徒だからと勝手に人の【神具】弄らんでほしいと思いつつ何気なく魔力を流すとその先に開かれたのはなぜか【幻の書庫】だった。
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『どうじゃ。【魔法陣】の権能が分かったのではないか』
という得意げな声が聞こえる。
『あれは一つの【魔法陣】の中に妾の【暗号化】と【看破】の【復号化】の権能と、それに【鍵】の【魔法陣】を書き込んでおるのよ』
【隔絶された時空】を包む【魔法陣】には秘密の【鍵】が書かれていて、それを【暗号化】 して【鍵】の魔道具を作り、【鍵】を【復号化】した結果が一致すると、【隔絶された時空】に繋がる仕組みであると説明される。
秘事の女神は「隔絶された 時空」側の【魔法陣】を『【封印】 の【魔法陣】』と呼んだ。【封印】の【魔法陣】側の【秘密鍵】と【鍵】の【魔法陣】側の【公開鍵】のペアで空間を繋ぐのが、この【魔法陣】の権能だそうだ。
この瞬間、かつていろいろ思い悩んだ【幻の書庫】問題が解決した気がする。
手持ちの【鍵】の魔道具でいつでも【幻の書庫】を開けられるようになったのではないだろうか。
だが、同時にどこかで「チャリン」と銭の鳴る音もした気がした。
新たな【魔法陣】の発見を即新商品につなげて考えるジャンフランコは、既に純粋に【魔法陣】の謎を追及するだけではいられなくなったのかも知れない。
「チャリン」と銭の音
今回の新要素:
・ 土壌改良の魔道具(初期試作品)
・【封印】の魔法陣と【鍵】の魔道具
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