急がば回れのリカバリープラン
取り戻さないといけない遅れはまだまだ残っていますが。
当面の課題であったコルソ・マルケ砦の【城壁】整備と魔道具工房の設置について、本来三日かかるところを二日間の突貫工事で終わらせたジャンフランコであったが、その翌日は朝の会議での爆弾発言からスタートする。
「僕にはここまでの作業の遅れを取り戻す秘策があります。ついては今日一日作業に集中するので邪魔しないで下さい」
「おいおい、今日からだって遅らせられない予定が山積みなんだぜ。それを丸一日放り出そうってのかい?」
「それ含めて一気に解決するので黙って見てて下さい」そう言い残すと会議室を飛び出してしまう。
自分の仕事があって動けないメディギーニに代わり、フレデリカがジャンフランコを探しに走る。
行き先はすぐに分かった。馬車の点検や整備を行うための作業場である。作業員数人に手伝ってもらいながら、何やら装甲馬車の荷台から降ろしている。彼らとジャンフランコはスフォルツァ城奪還の前夜の作業で顔見知りになっている。前回、砦の騎士を乗せる馬車に試作品の足回りを取り付ける手伝いをした面々なのだろう。
「フレデリカ、ちょうどいいとこに来たね。ここにメディギーニが来ないように入り口を見張っててくれないか。あの頑固者に見つかったらまた強制的に馬車に押し込まれてどっかに連れてかれかねないからね」
「またそんなことを」
「明日になったら僕が『一気に解決する』と言った意味が分かるはずだから。押しかけてきて五月蝿いこと言ったらそう言って追い返してよ」
そう言うと、ジャンフランコは装甲馬車から降ろされた部品群に向き直る。
王室に待ちぼうけを喰らわされ、予定を大幅に狂わされたことへの憤りに任せて作り上げた試作品の部品群を、これから馬車の車台の形に組み上げるのだ。
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「地面と接する履帯については、土属性に強い金属性の塊でね。それを支えて動かす転輪や動輪も金属性で成型しているから、少々手荒にこき使っても摩耗はごく僅か」
「へぇ、ココがギザギザに飛び出してるのは何でですかい?」
「こいつは綺麗に整備された道なんかじゃなくて荒地の上を突っ走るのさ。このギザギザは地面を噛んで前に進む力を生むためだよ」
前回馬車に組み込んだ足回りの評判を騎士達から聞いてるらしく、作業員達はジャンフランコの説明を興味津々といった風で聞いている。
「コレは、以前組み上げた馬車と同じ機構ですかい?」
「いや、アレより数段進んだ仕掛けだよ。ほら、ココに【魔法陣】を書いた部品があるだろう?これは僕と母様用に作った装甲馬車と同じ【綱渡りの神】が宿る足回りだよ」
「何が違うんで?」
「どんな荒れた道を高速でかっ飛ばしても馬車の車内は快適そのもの。食事や仮眠だって余裕だよ」
作業は昼食の時間でも中断することなく、見かねたフレデリカにより差し入れられた軽食を頬張りながら続けられる。
出来上がったのは金属性の魔力で動く無限軌道の上に装甲馬車の荷台を乗せた「馬のない馬車」のプロトタイプ である。ジャンフランコはとりあえず「無限軌道馬車」と呼ぶことにする。
生きた馬ではなく魔力で動くモーターを動力源にすることで、速度、稼働時間、航続距離いずれをも飛躍的に向上させる試みだ。夢はこれを量産しての機甲師団である。
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「おいおい、こんなオモチャに丸一日使って、せっかく突貫工事で遅れを四日間から三日間に短縮したのが四日間の遅延に逆戻りじゃないか」憤懣やるかたない、といった風情のメディギーニを目の前にしても、ジャンフランコは顔色一つ変えない。
「いやいや、コイツは遅延を完全に取り戻すための秘策なんですよ」
今朝言った通りですよ、と続けるジャンフランコ。
「そもそもコソコソとどこに雲隠れしていやがったんだ」
「僕は朝からずっとこの作業場にいましたけど?」
誰も探しに来ませんでしたよね?と首を傾げるジャンフランコだったが、答えを知っているのはフレデリカだ。
「それでしたら、最初から【隠ぺい】と【認識阻害】を使っておきましたので、見つからなくて当然です。メディギーニさんに押しかけられたら、わたくしであってもお停めするのは難しいので」自分の右手の魔道具を指してニッコリ笑う。
「「フレデリカ!」 よくやった!」
種を明かすと、この後の予定は生産された魔道具をスフォルツァ城に運び込むほか、ジャンフランコの予定も含め、馬車を使う予定ばかりである。これを無限軌道馬車で代替することで馬車の数分の一から十数分の一の所要時間でこなし、トータルの所要時間を大幅に短縮するのがジャンフランコの「秘策」である。
前世では他人の都合の辻褄合わせをする役目として遅延を取り戻す計画を書きまくったジャンフランコである。一見遠回りに見えても最後で計画の帳尻を合わせるというのは得意中の得意なのである。
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既に夕刻ではあったが、ジャンフランコはフレデリカを同乗させて「無限軌道馬車」の試走のために砦を飛び出す。メディギーニは諦め顔だ。
左右の無限軌道の速度を調整する二本の操縦桿を少しずつ手前に倒し、徐々に速度を上げていく。既に街道の痕跡すらなくなった不整地を物ともせず、騎馬の駈歩の速度を超え、襲歩さえ超えて更に加速する。
「ジャンフランコ様、これは速すぎるのではありませんか」フレデリカの顔は既に駈歩あたりで引きつっているが、ジャンフランコはお構いなしに速度を上げていく。フレデリカの声がどんどん悲鳴に近くなっていくが、操縦に集中するジャンフランコの耳には届かない。
更に速度が上がり、車体が小刻みに揺れ始めると「さすがにモーターの限界より履帯のグリップ限界が先に来るか」と呟きながら操縦桿を微妙に操作して車体を安定させようと試みる。
暫く操縦桿と格闘した後に諦めたような声音で「やっぱ車体安定装置がいるかぁ」と呟くとようやく操縦桿を若干戻してそこからは高速巡行に移行する。
「ゴメン、フレデリカ、何だっけ?」
「もうジャンフランコ様なんか知りません!」
高速移動に慣れたのか、車体が安定したので安心したのか分からないが、フレデリカは落ち着きを取り戻したようだ。
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そのまま高速巡行を続ける無限軌道馬車は、開けた平原に差し掛かる。
『どこか見覚えのある地形だな 』ジャンフランコがそう思った瞬間、車体の左後方少し離れた位置から爆発音と衝撃が伝わってくる。ようやくここがスフォルツァ城正面の平原であることに気づくが、今度は右後方から同じように衝撃が伝わってくる。
「ジャンフランコ様、攻撃を受けてます!」
「フレデリカ、安心して。これは威嚇射撃だよ。止まれば攻撃はされないさ」
威嚇射撃の意図を理解したと示すために無限軌道馬車の速度を落としながら大きく左旋回して停止させる。
「ダラヴィッラ城代にメッセージ送って」そう頼みながらも万が一同士討ちになった時に備えて 急いで装甲馬車に仕込んだ【防護強化】の【魔法陣】を作動させる。その横ではフレデリカが伝言の魔道具でダラヴィッラを呼び出している。
「フレデリカです。ジャンフランコ様と一緒に城の裏手の平原まで来てしまいました。撃たないように守備兵に命じてください」
新たな砲撃がないまま暫し待つと、
「若様か!馬もいないのに走る妙な馬車がいると報告があったが、やはり若様だったな」とメッセージが返ってくる。続けてのメッセージは「歓迎します。そのまま城内へどうぞ」だ。
速度を落としてゆっくりと門に向かって進むと跳ね橋が降りてくる。
門をくぐると正面にダラヴィッラの姿が見える。
「若様!城の真正面から攻めてくるのは前回に引き続き二度目ですなぁ」
「いやぁ、まさかこんな短時間に城にまで来れてしまうとは思ってもいなくて」
気づくと城が目の前にありました、と頭を掻く。
「それにしても、また妙なものを作られましたなぁ。前回はちゃんと馬車の形をしてましたが、兵たちから馬も引いていないのに飛ぶように走る怪しい馬車がいると報告があったとおりですな。よくみると車輪も普通ではないですが、これは今までに見たことのない何とも不思議な形ですな」馬車に近寄って無限軌道をペタペタと触り始め、次いで質問攻めが始まる。
「この板みたいなものは何ですかな。車輪のようなものがたくさんついてるのは何のためなのでしょうか」
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「若様、少しだけ動かしてみていただけませんか?」
操縦桿をほんの少しだけ倒してジワジワと前進させる。動輪が動くにつれて履帯が少しずつ送られて無限軌道馬車が前に進む様子を見せる。
一連の動きを見れば、無限軌道が前進する機構について理解しやすいはずだ。周囲の守備兵からは「引いている馬が見えない」「幽霊の馬が引いているんじゃないのか」と怯えたような声が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。
「なるほど、これは魔力で機構を動かしているから馬がいないんですな」
「ええ。車台に大型の魔石をいくつか積んであって、そこから魔力を供給してます。ああ、それで思い出したんですが、後でコイツに積んでる魔石の魔力を充填させてもらえますか?どれくらい減ったかも確認しないと」
「それくらいはお安い御用ですがね。あんまりここに長居するとコルソ・マルケ砦の方が若様の心配を始めるんじゃありませんか?」
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点検すると魔石の一つが完全に空になっていたので取り外して守備兵の一人に預ける。
【城壁】に溜まった魔力を使って魔石の充填をしている間、会議室に入り人払いの上でダラヴィッラと情報交換を行う。
ダラヴィッラが言ったように時間の制限があるため、文字通りの要点に絞った情報交換だ。
「【城壁】はじめ残していただいた魔道具に問題はありません。生み出される魔力にも余裕が十分あり、メディギーニが持ち込んだ生活のための魔道具への魔力供給もまったく問題ありません」
「ミルトンに新しい動きはありますか?」
「『主力』部隊を必死に掻き集めているのは変わりません。小軍閥の変化にも気づいてない模様です。で、その小軍閥の勢力ですが、スフォルツァの軍編成への取り込みも順調です」
「では、こっちの情報を。リモーネ王室に母様の移動を通知済みです。ついでにリモーネとスフォルツァの相互不可侵を約定しました」
「ほぉ、それは重畳ですな」
「まぁ、とんでもない代償も払わされてますが。コルソ・マルケ砦の方は【城壁】の整備と魔道具工房の建設が完了したので魔道具の生産も始まってるはず。この秋の収穫の状況は?」
「共和国や軍閥の支配下にあった地域はやはり悪いですな。リモーネからの追加の食料がなければ餓死者を出すところでした」
そこに魔石の充填が終わった、と連絡が入り、ジャンフランコはダラヴィッラを伴って無限軌道馬車の前まで戻る。守備兵から渡された魔石を無限軌道馬車に再装填する。
「普通ならお戻りについて早馬の伝令を出すところですが、何せ若様の『馬なし馬車』の方が先に着いてしまいそうですからな」
そういえば兵たちは『幽霊馬車』と呼んでいますな、という呟きは無視することにする。
「なるべく早くこことコルソ・マルケ砦の間でも伝言の魔道具のメッセージが届くようにしますよ。それとこいつの速度なら、ミルトンが押し寄せて来る前にもう何往復かできそうです。次からは威嚇射撃はなしでお願いします」
「承りました」
「では、ご武運を」
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ジャンフランコ達がコルソ・マルケ砦に到着したのはあと少しで就寝時間となるような深夜であった。さすがに捜索隊を出そうと準備を始めたところだっただけに、盛大に青筋を立てたメディギーニにしこたま叱られたことは言うまでもない。
ちなみに、ジャンフランコの主張空しく、彼の無限軌道馬車の呼び名は「幽霊馬車」で定着してしまった。気になる燃費は?いや、【魔】 費は、魔石一つで馬車二日の行程を走り切ることができた。すなわち搭載する魔石十個をフルに使い切ると馬車で二十日の距離 約千二百キロ相当を走り切れることになる。
これはミルトンという国の端から端まで十分に往復が可能な性能となる。
やりたいことに全振りした一日が終わったので、明日からは馬車馬のように働きます。 by ジャンフランコ
(馬のいない馬車を使って、ですが)
今回の新要素:
・ 「馬のない馬車」→無限軌道馬車 → 幽霊馬車
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