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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
過去を清算するために ‐ スフォルツァ辺境伯領

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大量の報告と積みあがる宿題

リモーネに帰ると、早速大量の宿題が積みあがります。

 時は一月少々遡る。


 未練タラタラでスフォルツァ城から引き剥がされたジャンフランコは、フレデリカと学友たちに加えメディギーニを伴って無事国境を越える。


 ジャンフランコ一行は一度神学校に戻りローレ教諭に「遺跡探索研修」からの帰還を報告すると、その足でメディギーニ商会に向かう。


 メディギーニ商会には既に先ぶれが走っており、会議室ではジョヴァンナをはじめリモーネ在住の家臣団の面々も待ち構えている。


 会議室に通されたジャンフランコ達は、二週間のミルトン滞在について要点に絞って説明を加える。ジャンフランコがメインの説明者となってプレゼンを行い、メディギーニや学友が補足し、ジョヴァンナや家臣団の面々が説明を切っ掛けに議論を加えるスタイルである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【戦果の報告】

 ・スフォルツァ城の奪還

 ・小軍閥二つの調略と前線の押し上げ

 ・敵騎士の捕縛

 ・守備兵の吸収


「スフォルツァ城を奪還できたのは、当家にとって非常に重要な一歩となります」

「政変時に大きく壊された城壁をはじめ、ほとんどそのまま使われていた印象でした。占拠されていた間に城を弄ったりする余裕もなかったのでしょうか。補修すらされずそのままでしたね」

「城壁の補修は終わったので、次は本館の修繕ですね。領主の居城に相応しい姿を取り戻さなければ」


「旧スフォルツァ領に居座っていた小軍閥二つを取り込めたのは大きいですね。この先は共和国の直轄地になるので、奪還するのは難しくなるかもしれませんが」

「この後に起こるであろう城の防衛戦は、実は城を餌にミルトンの戦力を削る(いくさ)になります。結果次第で今後の展開が変わりますね」

「すぐに冬が来るのがもどかしいですね。冬の間に何かできないか考えてみますか」


捕縛(ほばく)した騎士たちは士気は低いのに急進思想にだけは強く拘るみたいでした。『せっかく俺達が美味い汁を吸えるようになったのに、大貴族の復活など悪夢だ!共和国万歳!』という調子で」

「自由とか平等とか叫ぶ割には、平民の守備兵から嫌われてましたね。身分をかさに着た横暴な振る舞いも多かったそうです」

「『人は元来自由で平等なものである』でも、『その自由や平等を享受出来る者は限られている』だそうだ」


「それもあってか、平民である守備兵の皆さんは、共和国への義理立てや忠誠心はまったく無さそうでしたね。使い方は考えますが、領軍に組み入れても問題ないでしょう」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【戦術の報告】

 ・隠密(ステルス)状態での接敵と範囲【睡眠】による敵の無力化

 ・伝言の魔道具(メッセンジャー)による情報伝達の迅速化


「本当に驚きました。城一つを丸ごと眠らせられるなんて」

「誰にでも出来るわけではないですね。若様以外では、実行出来るのはご当主くらいかと。それくらい規格外の魔法でした」

「それでも、小隊単位で敵を無力化させるくらいなら当領の戦術として有効活用できますよ」


「伝令を走らせなくても情報の共有や指示の伝達ができるのですね。画期的ではありません?」

「実際に隠密(ステルス)戦術と組み合わせると強力無比です。敵から姿を隠したまま前線の状況を指揮官に報告できるのですから」

「これは量産決定ですね。長距離で伝達できるような改良もお願いしますね」

「努力します...」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【試作品の成功】

 ・新城壁(魔力自動充填、【魔法陣】の多重付与、土属性と木属性の複合素材による一体成型)

 ・装甲馬車(能動的姿勢安定化(アクティブサス)隠密(ステルス)など新装備多数)

 ・伝言の魔道具(メッセンジャー)


「新城壁が実際に戦果を挙げる様をこの目で見届けられなかったのが、今回のミルトン行での最大の心残りです...」

「諦めの悪いこと。新城壁の構築はジジの天恵(スキル)頼みなのが難点ですね」

「魔法なら魔道具に落とし込むこともできるのですが、コレばかりは」

「防衛戦の戦果報告を待って、有効ならコルソ・マルケ砦にも施工をお願い」

「コルソ・マルケ砦が敵を迎える状態を想像できないのですが」

「いずれ分かります」


「装甲馬車の乗り心地が忘れられません。一度乗ったら他の馬車には乗りたくなくなります」

「それほどなのかしら?」

「田舎道を高速で駆けながら、車内で食事が楽しめたり仮眠だって取れる、と言えば伝わりますでしょうか」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【ミルトンの情勢】

 ・軍閥の困窮と弱体化(簡単にカネで転ぶほど)


「領地経営の知見(ノウハウ)は政変で断絶しているのですね。何も分からないまま領地・領民を突然任されることになった僭主(せんしゅ)の皆さんには同情を禁じえませんね」

「やっと解放される、とでも言いたげな表情は今でも忘れられません」

「スフォルツァ領の周辺のほかにも、少し手を広げて接触してみるのも良いかも知れませんね。冬の食糧支援をちらつかせれば、簡単に食いついて来そうな気もします」

「そういえば、チェラート伯爵とシビエロ侯爵の領地も軍閥に占拠されたままでしたな」

「ええ。ただ、今のままでば領地を回復しても僭主の二の舞いになってしまいます。領地を上向かせる算段が欲しいところですが。スフォルツァ辺境伯のお力をお借りしたいところです」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 防衛戦に参加できなかった悔しさをぶつける様にプレゼンするジャンフランコであったが、こうして振り返ってみると、とても二週間の滞在とは思えないほどの成果と情報を持ち帰ったことを実感できた。


「実際、ジジはよくやってくれたと思いますよ。おかげで悲願の旧領地回復は二年は前倒しできそうですし、その先の展望も見えてきました」

「その先の展望とは?」

「今は秘密です」


 続けてフレデリカが立案したスフォルツァ城防衛戦の作戦について報告される。この時点では戦果は未知数だったが、後にドンピシャにハマったと判明する。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 続けて、今後の方針についての議論が始まる。


【試作品の民生品転用】 


「今回持ち込んだ試作品は、いずれもスフォルツァ辺境伯領の軍事的優位を担保するものばかりです。民生品に転用するのはずっと先ですね」

「僕も賛成です。というか、領軍の分を揃えるだけで四苦八苦しているのです。民生品として売り出すなんて、身体が持ちませんよ」


【軍閥の調略】


「チェラート伯爵とシビエロ侯爵は近いうちにコルソ・マルケ砦に入っていただいて、ご自身の旧領地を取り戻す方向で情報収集の指揮を開始いただきたいのです」

「かしこまりました。領地を失って途方に暮れた我々を家臣団で受け入れていただいた大恩に報いる働きをさせていただきます」

「お願いします。ご息女・ご子息はこのままお預かりしますのでご安心を」


【コルソ・マルケ砦の強化】


「ジジには近いうちにコルソ・マルケ砦に向かってもらいます」

「では、ついでにスフォルツァ城の防衛戦にも 「あなたにはそのような暇はありません。城壁の強化以外にも貴方にはやってもらわなければならないことが沢山あります」 」

「そんな殺生な 「コルソ・マルケ砦にも魔道具の工房を立ち上げてほしいのです。と言えばやる気になってくれるかしら?リモーネと違って誰の目も憚らず好きなものが作れるのよ」 」

「例えば、それはソフィア教 「それ以上は言っちゃダメ」 」


【スフォルツァ城の強化】


「今、実際に機能する新城壁はミルトン側だけですが、コルソ・マルケ砦に必要なのであればこちらも必要になりますね」

「追加の魔道具を生産するための魔道具はあるのですよね」

「魔力を溜めるための魔石だけは僕じゃないと作れないのです」

「では、コルソ・マルケ砦用のものと併せて製造なさい。施工は慌てなくてもよいです」

「いえいえ、急いで対応させて 「あなたには他にやってほしいことがあります。優先順位を間違えないで」 」


【農地の改善】 


「冬の間に貴方に優先して取り組んでほしいのはこちらです。農地に魔力を流し込んで農産物の生育を高める方法を検討してほしいのですよ」

「農産物ということは木属性ですね」

「そう単純でもなさそうですよ。貴方にはよき相談相手がいらっしゃると思うのだけれど」

『神々のことか、確かにこれはリモーネ国内では大っぴらに研究できない』

「スフォルツァ辺境伯領は元々豊かな実りを約束された地でしたが、政変で農地が荒れ、土地が瘦せてしまったと聞いています。これは軍閥を取り込む上でも武器となります。次の春までに形にしてください」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここからは領地の最重要課題について話します。申し訳ないのだけれど、次に呼ぶ者以外は退出していただけないかしら。ジャンフランコ、メディギーニ、フレデリカ、シビエロ侯爵、チェラート伯爵。そのほかは退出してちょうだい」


 人払いが終わると、ジョヴァンナがジャンフランコに目配せし、ジャンフランコが【防諜】の魔法を発動する。


「皆の働きで、城とその周囲の領地が我らの元に戻ってきました。最早わたくしが亡命者としてこの地に留まる理由はなくなりました」

 何より城代のダラヴィッラが積みあがる政務に悲鳴をあげています、と付け加えると皆クスリと笑う。

「ですので、この春を目途にわたくしはスフォルツァの城に入ろうと思います。併せて、ロドリーゴ様を僧籍(そうせき)からお救いし、我が配偶者としてお迎えします」


「母様、よくぞご決断くださいました。僕はそのお言葉を伺うのを今か今かと待ち焦がれていたのです。無事にスフォルツァの地にお渡りいただけるよう、全力を尽くします」

 ほかの皆もジャンフランコに続いて立ち上がり口々に祝辞を述べる。


「ですが、おそらくいくつかの課題を解消しなければ、わたくしがこの地を離れることは叶わないでしょう。是非、皆の知恵と力を貸してください」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まず、おそらく一ヶ月後に起こるであろうスフォルツァ城防衛戦が終われば、多くのことにカタがつくと思われます」

「家臣団については、なるべくならご当主にお供してスフォルツァに戻りたいものと思います。ただ、スフォルツァ辺境伯領はまだまだ商圏としては成り立たないので、家臣団が商会長となっている商会も含め各商会はリモーネで事業継続するのがよいと考えます」

「そうですね。家臣団は半数をリモーネに残し商会の経営とジャンフランコのサポートをお願いしたいと思います。メディギーニ、人選はお任せしてよいかしら」

「仰せのままに」


「僕はリモーネに残るのですか?」

「わたくしたちがリモーネに来て以来、生き延びるために様々な営みをこの地で行ってきました。また、それらはいまだスフォルツァ領の支えとなっているのです。主に商会と基金(ファンド)ですが、それらの運営を統べる者が必要です。ジャンフランコ、貴方にはこの地に残るスフォルツァの者を率いる役目を与えます」


 確かに、それは誰かがやらなければならない仕事だ。


「ご下命、確かに拝命いたしました」


「貴方には銭を動かす才があります」

 それに、と前置きを置く。

「わたくしたちが無事にスフォルツァに移るためには、あなたの働きが不可欠なのです」

「それは?」

「リモーネ王家との関係です。優秀な諜報員を抱えているのでしょうね。おそらくスフォルツァ城奪還は彼らの知るところとなっています。それにより、家臣団の力量についても再評価し警戒の目を向けられていることでしょう」

 リモーネ王家の立場に立てば、隣国が政変でガタガタになっていると高をくくっていたら、いつの間にか強力な軍事力を持つ勢力が突如現れたように見えるだろう。


「それに、貴族の虚栄心をくすぐって財産を大いに毟り取ったメディギーニ商会への反発も近頃では無視できなくなったと聞きますよ」

 これには苦笑いしかない。


「では、僕からのご報告です」

 母ジョヴァンナに期待される働きはこれだろう、との確信を込めて。

「母様の基金(ファンド)と僕の基金(ファンド)による出資を受けている商会は、リモーネ国内の主要な商会の八割にのぼっています。そのうち資産の五割を超える出資を受けている商会は、その半分というところです」

 ざっくりとした推計であるが、この国の資本市場の四割から五割をスフォルツァ領に関わる基金(ファンド)が押さえていることになる。「あなたがミルトンに行っている間に、更に増えたようですよ」


「ありがとうございます。もう一つ。この国の貴族の虚栄心というのは留まるところを知りませんね。『ほかでは買えない魔道具』この一事だけで身の丈にそぐわない出費を平然と行うのですから。おかげで、この国の上位貴族の総資産の一割に相当する手形がメディギーニ商会の手元にあります」


 出資先の商会が保持している手形を合わせれば、それ以上ですね、と付け加える。


「ジャンフランコ様、確かに莫大な富を有するに至ったことは称賛に価すると思いますが、それとリモーネ王家とどう関係するのでしょうか」

 生粋の騎士であるチェラート伯爵には無理もないのだが、一国家の富の大きな部分を一つの意思が左右できるという状況はなかなかに想像できないだろう。


「つまりは」とメディギーニが咳払いする。「スフォルツァ辺境伯の意向一つで、この国の多くの商会が立ちいかなくなるし、手形を決済できなくなって路頭に迷う上位貴族が多数出て来るということだ。『資産を引き揚げる』との一言で、この国を大混乱に陥れることが出来る」

「それは何とも悪辣ですな」

「実際に引き揚げなくても『引き揚げるかも』と噂が流れるだけで十分なのですよ」ジャンフランコは前世での知識にある金融不安から政情不安に陥った国々のことを思い浮かべる。


「なるほど、それを王家に対する脅しとして使うのですな」

「ご名答。当家は資産の引き揚げをチラつかせるだけで、母様と父様がスフォルツァに移ることに何の文句も言えなくすることができるのですよ」

資本は集積されるとそれだけで強大な力をもちます。

生半可な武力では太刀打ちできないくらい。


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初めての作品投稿です。


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