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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
過去を清算するために ‐ スフォルツァ辺境伯領

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【土】属性+【木】属性=土木工事 その二

ミルトン共和国との接敵が近づくのに合わせて城の防備の総仕上げです。

【Day 8】

「ジジ。ダラヴィッラ城代がお呼びだけど、動けますか?」

 ドアのところから躊躇うように声を掛けてくるのはアレックス。

 気安いのかそうじゃないのか中途半端だな、と思いながらジャンフランコが身体を起こす。


 四日連続での城壁の補修作業は正直に言って身体に堪えたけれど、普通に動く分に大丈夫な程度には恢復しているのがわかる。ついでに言うと、魔力を限界まで消費しては回復薬で補給する、というのを四日間繰り返した挙げ句にブッ倒れたおかげで、魔力量の最大値も格段に増えたのがわかる。神学校の初年度の段階で「人外(じんがい)の域に片足をかけている」と言われた自分の魔力量は今一体どうなっていることやら。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダラヴィッラの執務室(オフィス)は大きめの会議卓が置かれていて、ちょっとした会議室のような体裁をとっていたが、そこには既にメディギーニと数人の成人騎士が着いていた。ジャンフランコが案内された席に着席すると朝食が給仕(サーブ)される。

 後ろに立つフレデリカの手がそっと肩に置かれる。

「昨日の今日ですからご無理はなさいませんよう」

 その上から手を重ねると緊張が緩むのを感じることができた。


 壁面にはスフォルツァ城周辺の地図が貼られ、ミルトン側を中心に複数の線やコメントがビッシリと書き込まれている。地図で見ると理解しやすいのだけれど、スフォルツァ城の正面から真っすぐ伸びるのがミルトン共和国の勢力範囲だが、その両側に違う色で表されてるのはかつてのスフォルツァ領の一部を不当に占拠している軍閥の勢力範囲だ。実際には両側を森に挟まれた回廊が続く形で、兵を伏せるには格好の地形になっている。


「まずは情報共有だ。敵守備兵への尋問の結果、次の輜重(しちょう)隊の到着が分かった。明日だ」

 ダラヴィッラの言うこの世界の「尋問」がどのような種類のものかは、何年か前の【怨霊】騒ぎの時に知っているからお察しだ。

「で、だ。相手の出方次第だが、できることなら折角の補給物資だし丸ごといただくことにしたい。そこで、こことここに部隊を置く」地図上に印を描く。


「一隊は若様の隊にお任せしたいのだけれど、構いませんか?」

 ジャンフランコは頷く。『構いませんか?』と聞いてはいるが、どうせ元々決定事項だろう。

「もう一隊はジャンフランコ様の隊のサポートだ。基本見ているだけでいいが、何かあった場合は撤退の支援を頼む」指揮官だろう成人騎士の一人が頷く。

「基本戦術はこの城を陥した時と同じ。隠密(ステルス)で接敵して【睡眠】で無力化。後は食い物でも矢弾でも持っていき放題って寸法だ」ダラヴィッラとしては、この戦術をスフォルツァ領の基本戦術(ドクトリン)に組入れたいらしい。その証拠に「他の部隊は城門の上から観戦だ」などと言っている。


「問題は、この城の姿かたちが大きく変わってる点なんだが」再構築された城壁を見ればスフォルツァ城に異変があったと遠目にも分かってしまうので、警戒されて伏兵も奇襲も無効になることを心配している。

「それについては、メディギーニ商会の積荷で対処可能です」ジャンフランコが挙手して発言する。

「この後にでも設置しちゃいますよ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 城の本館の一室。先に発見された城外への隠し通路の真上に位置する小部屋にジャンフランコ達は集まっていた。地下牢側の入り口を塞ぎ、この部屋を新しい入り口にするのだ。


 単に地下室を作るだけならば掘り返した土砂だけを材料に作業できるため、隠し通路に向かって降りていく通路は簡単に出来上がる。隠し通路と繋がると、今度は隠し通路を城壁に向かって進むついでに通路を拡げて壁も強化していく。大人が背を屈めてなければ通れない粗末なトンネルが、武装した騎士が行き交うことのできるキレイな通路へ変わっていく。


 城壁の真下少し手前に差し掛かると、隠し通路の天井を突き破って城壁の基部が露出しているのが見えた。

『この辺かな』通路の壁に穴を穿ち、下向きの階段とその先に新しく小部屋を作っていく。

「メディギーニさん、魔導線を運び込んでもらえますか」

 幾重にも巻かれて束ねられた太めの電線のようなものを受け取ると、小部屋の壁に入り口を作ってから城壁に沿う形で細い通路を作りながらその中に潜り込んでいく。暫くすると戻ってきて、反対側の壁にも入り口を作って同じように魔導線をもって何事か作業していく。


「配線は終わったので、『例の回路』を持ってきてもらえませんか」メディギーニが部下に命じて暫くすると、最初は箱状の魔道具のようなもの、続いて大人の身体程もある円筒形の物体が複数運び込まれる。


 ジャンフランコは箱状の魔道具をニ個ずつ受け取っては、先ほどの通路に潜り込んで暫くすると戻ってくるのを繰り返す。一方の通路の作業が終わったのを見計らってメディギーニが通路に少し潜ってみると、壁面から伸びる何本かの魔導線が箱状の魔道具に繋がり、それがいくつも魔導線で数珠つなぎにされて通路の奥の方まで繋がっているのが見える。


「魔導線に触らないようにしてくださいね」通路の入り口に立つジャンフランコから声を掛けられて、すごすごと通路から退出するときには既に、円筒形の物体もキレイに並べて設置され、それぞれ魔導線が繋げられていた。「この部屋の作業は終わりです。戻りましょうか」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後は隠し通路に沿って魔導線を這わせて壁面に埋め込みながら戻っていく。


 いつの間に使いを出したのか、入り口の小部屋にはダラヴィッラが待っていた。

「では、ダラヴィッラ城代とメディギーニさん、それとフレデリカだけついてきて下さい」

 三人を伴ってジャンフランコが地下通路を引き返していく。先ほど作った小部屋に入ると入り口に【結界】の魔道具を設置して起動する。

「ひとまず、ここにいる四人だけ部屋に入れるように魔力を登録しますね」四人が入れ替わり魔道具に手を押し付けるようにしたら登録は終わり。


「それで、この部屋は何なんだ?」それまで問いを我慢していたメディギーニが口を開く。


「城壁の制御室、ってとこですかね。城の護りの要になる部屋です」そろそろいいかな、と呟きながら壁に設置した魔道具に何回か触れるとその一部が光を発する。「これでこの城は幾重にも魔術で護られた城になったんです」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 詳しくは執務室(オフィス)で、と促してゾロゾロと移動する。


 ダラヴィッラの執務室(オフィス)の黒板を前にしてジャンフランコが説明を始める。


「新しく作った城壁はそれ自体が巨大な魔道具だと思ってください」

 ダラヴィッラとメディギーニが目を剥くが、『僕の最高傑作』と言ったでしょう?とお構い無しに続ける。


「まず、城壁には陽の光を魔力に置き換える【魔法陣】を組み込んでいます。城壁自体に魔石のように魔力を蓄える構造を組み込んであるので、日照がある限りどんどん魔力を溜め込んでいくことが可能です」

 黒板に城壁の絵を中心に機構の概念図を描いていく。この手のプレゼンは前世で幾度となくやっているのでジャンフランコにとってはお手の物だ。

 その時点でダラヴィッラもメディギーニも口をアングリ開けて固まってるがお構い無しに続ける。

「魔力は城壁に組み込んだ複数の【魔法陣】を動かすのに使われますが、それだけだと余ってしまうので城への魔力供給にも使います」先程城の方に引き込んだ魔導線がそのための配線になる。


「【結界】の先の部屋でしかできないようにしときますけど、空の魔石を持ってくれば魔力の充填も可能ですよ」それこそどの属性でもね、と言うとメディギーニが目を剥く。「それって光や闇の魔石も、ってことだな?」

 そうですよ、とジャンフランコが悪戯っぽくウインクする。

「限られた人しか入れないように【結界】を作った理由の一つはそれですからね。この部屋はスフォルツァ領の軍事的優位を保つためだけに使ってください」決して商売っ気は出さないでくださいね、と釘を刺す。

一定以上の大きさの光属性の魔石を再充填できる天恵(スキル)持ちは数少なく、闇属性に至ってはそもそも存在しないため、両属性とも魔石は非常に希少だ。


「本題から逸れましたが、城壁に組み込んだ複数の【魔法陣】を常時発動させられるだけの魔力は確保できるようにしました。夜間や悪天候時は城壁に溜め込んだ魔力で何日かは保たせられます」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「で、確保した魔力で動かす【魔法陣】は次のとおりです」

 黒板に書き出していく。

【認識阻害】ボロボロに崩れた城壁のように誤認させる。

【隠ぺい】城壁の上に備えた大砲や守備兵の動きを隠す。

【反し矢】城壁に放たれた矢弾や魔法をそのまま反射する。

【守護】城壁そのものを強化する。

【強化】城壁の上から放たれる矢弾や魔法の威力と射程を強化する。

【魔力補充】城壁を護る将兵や魔道具の魔力をゆっくり回復させる。

【体力回復】城壁を護る将兵の体力をゆっくり回復させる。

「どうです?ちょっとしたものでしょう?」とジャンフランコが胸を張る。


 城壁は単純な一枚板ではなく、生成の際にミルフィーユ状に複数の【魔法陣】を重ねて鋳込んだような造りになっている。これは城壁を生成したジャンフランコの能力(アビ)細密出力(ナノプリント)】が3Dプリンタをイメージしたものであるからこそだ。脳内に設計図、いや、神測(デジタイズ)で構造を把握してさえあれば複数の要素を同時に生成し複雑な構造も一度に成形出来てしまうのだ。


「では、外に出て検証してみますか?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 最初に城壁の上に登ると、メディギーニとダラヴィッラが自分の身体を触りながら「おお~」と声を上げる。

「魔力と体力の回復は分かりやすいですよね。次はコイツで」ポケットから小石をいくつか取り出すと、城壁の外に向けて軽く投げる。小石はあり得ない軌道を描いて森の方に飛んでいく。着弾の瞬間は見物だった。ちょっとした砲撃を受けたように木が何本かへし折れるのが見えて暫くしてからメリメリと木が倒れる音が響く。


「おい、これはシャレにならんぞ。兵士どもに遊び半分でモノを投げるのを禁止せにゃならん」


 それでは外から見てみましょうか、と促して城外に出る。

 外から見ると確かに城壁の印象があやふやになり、城壁があるともないとも堅牢であるともないとも曖昧になっていく。


「最後にコイツですかね。フレデリカ、盾を!」

 ジャンフランコが城壁に向かって小さな火球を飛ばすと、城壁の手前で軌道が180°変わりジャンフランコに向かって飛び、辛うじてフレデリカの盾で弾かれる。


「いかがです?ちょっとした難攻不落の城になったと思いません?」

物理だけでなく魔術でも城の防御を固めた結果、なかなかにヤバい城が出来上がってしまいました。

動力源は太陽光、と持続可能性(サステナビリティ)にも配慮はばっちりです。


メディギーニにヤバい橋渡って持ってきてもらったのは、太陽光由来の魔力を属性別に振り分ける配電盤もとい配()盤と、コンデンサよろしく魔力を一時貯めておくための巨大な魔石でした。


今回の新要素:

・ ヤベー城壁


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初めての作品投稿です。


誤字・脱字など見つけられた場合は、ご指摘をいただければ幸いです。


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