スフォルツァ城奪還作戦 III
奪ったから、それで安心とは行かないのです。
【Day3】
ジャンフランコは装甲馬車の中で目を覚ます。
昨夜は鎖帷子を纏った戦支度のままで眠ったが、装甲馬車の中が快適に作られていたおかげか、城攻めの疲労はほとんど抜けてくれている。
馬車の扉を開けると不寝番に立ってくれていた騎士と目が合い思わず目礼を交わす。外を見渡すと、開かれた門から後発隊の馬車が続々と到着しているのが見える。馬車の半数は城の防備を固めるための兵員を乗せていて、残る半分は間伐材などを満載している。
元々城に使われている石材と持ち込んだ木材を一度属性魔力にまで分解して、結合させて新しく強固な建材にする。
ジャンフランコの天恵頼みの工法であるのが不安材料であるが、現状短期間に城の守りを固める方法がほかにないので仕方がない。
スフォルツァ城は政変の折の攻城戦で大きく傷ついており、その傷跡はいまだに残っている。コルソ・マルケ砦に向いた側はほとんど無傷なのに対して、ミルトンを向いた側の城壁には砲撃を受けた生々しい跡が多数残っていて城の防御という観点からは少々どころでなく不安だ。
堀も半ば埋められて空堀になっており、今の時点でミルトン側からの攻撃には丸裸も同然の状態であるので、防備を固めることは急務だ。城は奪って終わりではない。
唯一の安心材料は、おそらく昨夜の奇襲の成功がミルトン側に伝わっていないことで多少なりとも時間が稼げていること。城の守備兵が一人残らず無力化された結果、落城をミルトン側に伝える伝令の一人も出すことを許していない。ただし、これは逆に言えば城の補強は時間との勝負、ということでもある。
ひとまず、次にミルトン側から城に接触してくる機会、おそらくは輜重隊が物資や食料を城に運び込むまでが勝負と言える。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジャンフランコが後発隊の馬車を眺めていると、別の場所から大声が聞こえてくる。方向からすると城の中庭の方だ。
急いで中庭の方に向かって駆け始めると途中でフレデリカをはじめ学友の面々が追い付いてくる。
中庭で騒いでいたのは拘束され捕虜となったミルトン側の元守備兵たちだった。
昨夜【睡眠】で眠らされ【麻痺】で身動きできないようにされていたのが、今頃目を覚ましたのだろう。
「なんだコレは!」「身動きできんぞ!」「オレの鎧はどこだ?!」と好き放題に喚いていたのが、集まってきたスフォルツァ領の騎士たちの姿を認めて顔色を変える者が出てきた。
「我ら誇り高きミルトンの者。このような恥ずかしめを受ける謂れなどない!どこのどいつだか知らんが、早くこの縛めを解くのだ!」
「もう少し寝ててほしかったんだがなぁ。」後ろからダラヴィッラの声が近づく。
「貴様らの誇りなど知ったことではないよ。我らは貴様らが奪い不当に占拠を続けてきた城を奪還しただけなんでね。うっかり眠りこけてる間に城を取り返されたマヌケのことまで面倒は見れんよ。」
ダラヴィッラの挑発に顔を真っ赤にして歯をギリギリと噛み締めている者、反論のつもりか何事かを喚いている者、何事かを考えているのか油断なく周囲を見回す者など。固めて転がされていた場所からすると、彼らは鎧を剥ぎ取られた騎士なのだろう。
少し離れた場所に転がされているのは平民の兵士達なのだろう。コチラはコチラで、「腹が減った!」だの「メシを食わせろ」だの好き放題に喚いていて収拾がつきそうにない。百人からの男が好き勝手に喚くものだから、耳を塞ぎたくなるくらいには不快だ。
あ~うるせぇなぁ、と呟くダラヴィッラが「若様、お願いがあるのですが、よかったら、コイツらもう一回寝かしつけてくれませんかね?」と言うが早いか、ジャンフランコは【神具】を構えて捕虜たちの方に向ける。元よりそのつもりだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジャンフランコが捕虜たちの中心に【睡眠】をぶつける瞬間、捕虜の中の一人が拘束を自力で引きちぎって駆け出すのが視界の端に見えた。
「ヤバっ!【身体強化】持ちか!」
バタバタと倒れていく男達の中、一人だけが【睡眠】の範囲外に飛び出し、走り去っていく。
ダラヴィッラ麾下の騎士が後を追うが、初動で出遅れた分もあり、【身体強化】した騎士の全力疾走を止められる者はいない。
「誰か!足止めを!」
奇妙なことに、ミルトンの騎士は門ではなく城の本館の方に向かって駆けていく。ジャンフランコも駆け出すが、ミルトンの騎士の走っていく方向には疑念が浮かぶ。
『逃げ場はないはずなのに…そうか!地下だ!』
フレデリカと学友を伴って城の地階へ降りると【看破】を発動する。
思った通り、騎士らしき存在が地階のどこかに潜んでいるのを感じる。今は息を潜めてどこかに潜んでいるのだろうか。じっと動かない存在に少しずつ近づく。当然警戒は切らさない。
『おかしい。もう間近のはずなのに姿が見えない。』
視界に入るのは、扉の開いた独房とその奥の壁だけで人の姿はない。
『確かに反応はあるのに…そうか!隠し通路か!」
ジャンフランコはもう一度、魔力を叩きつけるようにして【看破】を発動する。
独房の奥、その奥の壁にぽっかりと人の背丈ほどの高さの穴が空いている。さっきまで壁にしか見えなかったのは【隠ぺい】の魔道具で隠されていたからだ。駆け寄ると穴の奥に向けて走っていく男の姿が見える。ジャンフランコは隠し通路をまっすぐ駆けていく男に向けて【麻痺】を発動する。撃ち出された魔力が男に追いつき、男が転倒して身動き一つしなくなる。
ジルベルトが隠し通路に入っていき、暫くして身じろぎ一つしない男を引き摺って戻ってくる。ブスブスと煙を上げる塊が穴の出口に転がっていたのに気づき、無造作に蹴っ飛ばす。おそらくジャンフランコの【看破】に耐え切れず焼き切れた魔道具の残骸だろう。
「参りましたね。これ結構奥まで続いてますよ。」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「捕虜の扱いをちゃんと考えてませんでしたね。私の手落ちです。申し訳ない。」開口一番ダラヴィッラが謝罪するが、今重要なのはそこではない。
「おかげで未知の脅威を発見できたんです。あの隠し通路に気づかなければ致命的な脅威になりえた。『怪我の功名』ってやつです。」
「『ケガノコーミョー』とは?」
「ああ、すみません。失敗が却っていい結果をもたらす、って意味です。」
捕虜のうち、魔力を持たない兵士七十名は眠らせたまま後発隊を乗せてきた馬車でコルソ・マルケ砦に送ることになった。近隣の農民や食い詰めた難民が守備兵になることが多いため、彼らも食料や生活が保障されればスフォルツァ領のために働かせることもできる。
問題は三十名の騎士だ。
【身体強化】もちが潜んでいる可能性が残っているため、手足の筋を切った上で完全に拘束して地下牢に押し込めることにする。まったく人道的ではないが、戦時協定など存在しない一方で天恵一つで人が簡単に超人になれる世界では、リスクを減らすためにやむを得ない行為だ。いずれにせよ【治癒】魔法一つで元通りになるわけでもあるし。
先ほど逃げ出した騎士の尋問結果も教えてもらえた。隠し通路に潜んでいたのは目が覚めた時に拘束されているという訳の分からない状態だったからで、多少なりとも情報収集してからミルトンに向けて逃げるつもりだったらしい。それがいきなり隠し通路を隠す魔道具が壊れたのに慌て、情報収集は諦めて逃げ出したとのことだった。
ある意味、彼が欲をかいて止まったおかげでスフォルツァ城奪還の情報が漏れずに済んだ。あのまま一目散に隠し通路を逃げられていたら、誰も彼に追いつけなかっただろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地下の隠し通路の先は城の堀を超えた先の森の中まで続いていた。
城に変事があった際にはこの隠し通路を抜けてリモーネまで伝令を走らせるのだろうし、外部から城への進入路にも使われかねない。
潰しておくのが一番なのだろうが、ひとまずは途中に罠をいくつか設置して見張りを置いて監視することとなった。
「畜生め。時間を取らせやがって」ダラヴィッラが悪態をつきながらパンを頬張る。捕虜が逃走した後始末には結局午前中いっぱいを取られてしまった。
「午後からは堀を何とかしましょう。」ジャンフランコもそう言ってパンを齧る。
堀を深く広くして水を張っておけば数を頼みにした攻城は防げる。幸い、後発隊が到着したおかげで作業の手は足りそうだ。兵士に【身体強化】の魔道具を配れば作業の効率にも期待できる。
「あとは大砲ですかね。全部とは言いませんが、なるべくミルトン側に向けるように動かしとかないと。」
「そのためにも城壁の強化は急務ですね。」
「とりあえず、コルソ・マルケ砦に残ってた城の普請図をもってきてますよ。」ダラヴィッラが普請図を拡げるとジャンフランコもさっと目を通す。
「城本体にはそれほど手を加えなくても大丈夫そうですね。基本は城壁の崩れた部分の補修をした上で可能な限り厚みを増やし建材の強度を上げていくのでよいかと思います。」
「また若様に大きく負担をことになりますなぁ。本当に面目次第もない。」
「僕のこの天恵の派生能力の一つでも魔道具にできれば楽が出来るんですがね。」苦笑するジャンフランコの肩にフレデリカがそっと手を添える。「そう言って無理ばかりされるのですから。お仕えする身としては気が気ではありませんよ。」
ようやくスフォルツァ城奪還できました。
ただ、まだまだ「最前線」なので当主を迎え入れるにはもう少し前線を押し上げる必要があります。
今回の新要素:
・ 特になし
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