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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
過去を清算するために ‐ スフォルツァ辺境伯領

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スフォルツァ城奪還作戦 II

今度こそ本当に攻城戦?です。

【Day2】

「ジャンフランコ様、そろそろ目を覚ましていただけますか?」

 フレデリカの声で目を覚ますと時刻は概ね夜の十時といったところ。

 ゆるゆると起き上がりかけるが、ふと眠りに落ちる前のことを思い出して顔を赤くする。

「よくお休みになれたようでよかったです」とニッコリ笑うフレデリカに悪びれる様子はまったくない。

「人を強制的に眠らせておいてよく言うよ」


 見回すと全員が目を覚ましており、すぐに作戦行動に移る準備を始める。

 アレッサンドロとアレックスは装甲馬車ではなく二台の馬車にそれぞれ分乗する。彼らの役割は国境を超える際と同様、それぞれの馬車を敵の目から隠すというものだ。代わりに二台の馬車から一人ずつ、成人した騎士が装甲馬車に移る。


 三台の馬車がそれぞれ隠密(ステルス)状態に入り動き出す。

 今夜は新月。闇に重ねて隠密(ステルス)で動く。

 隠密(ステルス)状態の馬車を視認できる者は城にはいないはずだが、万一ということがある。念には念を入れて新月の夜を選んでいる。

 敵に見つからないことを最優先にゆっくりと動く。それでも予定通りであれば真夜中にちょうど作戦位置に到着する計算だ。


 この作戦は敵の真正面を進み、魔法の効果が最大限になる位置まで移動するのだ。隠密(ステルス)状態であることが大前提の非常にリスクの高い作戦である。その前提が崩れてしまえば十中八九作戦は失敗し、小さくない損害を受けることになる。

 とにかく小さな綻び一つ許さない。

 それが作戦成功の絶対条件である。

 ジャンフランコは念には念を入れる。


 馬車に揺られるまま、ジャンフランコは耳元にラーマデーヴァ(看破の神)グヒヤデーヴィー(秘事の女神)勧請(かんじょう)する。

『『またか』』『其方(そなた)は神々を便利に扱き使(こきつか)いすぎる』『神々の勧請(かんじょう)に馴れすぎではないかえ?』

『まぁ、そうおっしゃらずにいつものように教えていただけますか?』

 二柱の神を何度も勧請(かんじょう)している間に、神々には自分の権能(けんのう)が呼び出された場所が把握できることが分かり、ねだっているうちに教えてくれるようになっていたのだ。


 ジャンフランコの脳内に、周辺で【隠ぺい】の権能(けんのう)が使われている場所、【看破】の権能(けんのう)が使われている場所のイメージが浮かぶ。そこからスフォルツァ城の守備兵の配置を再評価し、隠密(ステルス)がもっとも有効な場所を割り出す。隠密(ステルス)を破る可能性のある魔道具や術者の位置を把握し、そこからは距離を取っておくのだ。


「魔法投射の位置は、最初の予定から南に馬車一台分動かして」

 ジャンフランコが左右両翼の馬車にも魔道具を通じて指示を出す。

「【看破】の魔道具が想定より手前で使用されている。待機位置を馬車二台分手前に」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 スフォルツァ城に籠るミルトン共和国の守備兵は、まさか今夜攻撃を受けるとは思っていない。

 新月の夜の暗闇は奇襲には有利だが、百名の守備兵が守る城を攻め落とすだけの大規模な軍勢であれば、新月の夜といえども発見は難しくない。

 何刻か前に「今宵は新月の晩ゆえ、最大限の警戒をもって監視にあたれ」と不寝番に指示した守備側の騎士も、よもや少人数で闇夜に紛れての奇襲があるとは想定していない。そもそも、その騎士が不寝番にそう言い置いて戻っていく先では、一瞬開いた扉の隙間から、酔いが回ったのであろう脈絡のないお喋りや下卑た笑い声が漏れ聞こえていたのであるが。


「お貴族様はお気楽でいいねぇ」

「おいおい、共和国では身分の上下はないはずだろう?」

「お前さん、まだそんな世迷言を信じてるのかい?じゃあ、俺たちが夜通し真っ暗闇を睨んでなきゃなんないのに、あいつらは酒かっ喰らって寝ちまえるのは俺たちの能力が足りないからだとでもいうのか?」

 結局、お貴族様はお貴族様さ、と嗤う。

「『共和制』つったって頭に立つ奴が変わっただけじゃねぇかよ」


 そんな名もなき不寝番たちの愚痴も話題が尽きてしまう頃には、騎士たちの宴会も終わり、城内は寝静まってしまっている。その不寝番でさえ、何人かはうつらうつら舟を漕いでいる。


 これまで何十回と繰り返してきた新月の夜。いつもと同じ朝がまたやってくる。

 城内の誰も、それを疑ってはいなかった。


 月のない新月の夜、城に焚かれた松明の灯り以外は漆黒の闇と静寂の中。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ジャンフランコ様、こちら左翼のアレッサンドロです。こちらは位置に着きました」

「ジャンフランコ様、こちら右翼のアレックスです。位置に着きました」 

 左右両翼から配置完了の知らせが魔道具を通じて知らされる。

「では、我々も動きましょう」ジャンフランコの合図にジルベルトが頷き、装甲馬車をゆっくりと城のま正面、魔法を投射する位置に向けて進ませる。


 車内には緊張が走るが、城には何の動きもない。

 いつもなら気にも止めない虫の鳴き声だけが馬車の中に届く音になる。


 そして、予定の位置にまで移動するまでの間、城からは矢の一本、一筋の魔法すら飛んでこない。隠密(ステルス)を保ったまま魔法の投射位置に着くことに成功したのだ。 ジルベルトは装甲馬車の後ろを城に向けて停止させる。


 ジャンフランコは城の方に向かって座り、右手に【神具】神測(デジタイズ)を呼び出して構えると、傍らに侍るフレデリカに向かって頷く。


 フレデリカが魔道具に向かって囁く。「こちらフレデリカ。作戦開始です」

 同時に、ジャンフランコの右手が光り城に向かって彼が組み上げた範囲【睡眠】の魔法が発動する。


 ジャンフランコの【神具】を通して、眠りの神の権能(けんのう)が次々と顕現(けんげん)していく。闇夜に紛れる闇属性の魔力。少しずつ角度を変えて魔法を投射していき、狙う効果範囲をすべてカバーしていく。

 虫の鳴き声すら少しずつ静かになっていく。

 魔法の効果範囲に入った者は抗うことなく眠りに引きずり込まれてしまったのだ。

 そのうちに、しんと何の音もしなくなる。


 ジルベルトが【身体強化】を目に集中させ、ジャンフランコの肩越しに城壁に立つ兵士の様子を確認する。ある者は得物にもたれ、ある者は壁に寄りかかって、またある者は正体なく床に転がって眠りこけているのであろう、壁のこちら側からは見えなくなっている。

 すべての兵士が眠ったことを確認するとジャンフランコの肩を叩く。


 ジャンフランコが【睡眠】の魔法の投射を止め、代わって【麻痺】の魔法を発動する。


 すべてが終わると、ふっと息を吐いて魔力回復薬を(あお)る。


 それを見てフレデリカが魔道具を通じて魔法発動完了を左右両翼の馬車に連絡する。この時点でスフォルツァ城に籠るミルトン共和国の守備兵は、奇襲に気づく時間さえ与えられないままに完全に無力化されている。たとえ【睡眠】に抵抗(レジスト)しても直後の【麻痺】で完全に身動きできなくなるはずだ。


 二台の馬車が動き出して城壁に取り付くと中から騎士が飛び出し城壁に取り付き乗り越え城内に侵入していく。

 しばらく待つと、既に城の両翼から潜入した騎士が仕掛けを動かして正面の吊り橋を降ろす。隠密(ステルス)で見えないが装甲馬車がいるであろう辺りに向けて松明を振って合図する。


 ここまでは怖いくらいに順調に手筈どおり進む。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 隠密(ステルス)を解いて、装甲馬車がゆっくりと城内に向けて進んでいく。

 装甲馬車の中では、ジャンフランコがようやく緊張を解いてふーっと長い息を吐く。

「存外、あっけないものだね」

「ここまでの準備が完璧だったのです。(ことわざ)にも『撃つ前に三度は測れ、だが撃つ時は一度だけ』というではありませんか」

 フレデリカの言う諺はジャンフランコには分からないが、要は準備作業を完璧に行った上で一度のチャンスに賭けろ、という意味らしい。


 城内へ入ると、御者席に座るジルベルトを残して全員が下車する。

 その間も、【身体強化】した騎士が眠りこける敵兵を背負って忙しなく中庭に運んでいく。中庭では別の騎士が武装解除と拘束を手際よく行っている。

 通りかかった騎士に声を掛けて【隠ぺい】の権能(けんのう)を感知した場所を伝え、【隠ぺい】を使って隠れている守備兵あるいは騎士も忘れず拘束するよう伝える。


『これで作戦の第一段階は問題なく終わった』ジャンフランコの心を占めるのは何よりも一人の死傷者も出さずスフォルツァ城開城に成功したことへの安堵だった。

『でも、これは母様を本来の場所に招き入れるための第一歩でもある。母様は晴れてスフォルツァ辺境伯となり、父様もその配偶者として堂々と傍らに立つことができる』

 そう思えば、今度は心の奥から達成感が湧き上がってくる。


 学友たちを連れてジャンフランコは城の奥へ進む。

 装甲馬車を別の騎士に預けたジルベルトとアンジェロが大盾を構えて先頭に立ち、ピエレットとダリアが剣を構えて両翼を固める。ジャンフランコの横ではフレデリカがクロスボウを構え、杖の天恵持ち(魔法使い)たちはジャンフランコの後ろに固まって進む。


 誰とも出会わないまま奥へ進み、城主の居住区画も過ぎて天守へ至る。

 ここまで誰とも会わないのは、この先も既に敵兵を中庭に運び込んだ後なのだろうか。


 天守に入るとサーコートを着た騎士が三名程寝台の上で眠りこけているのが目に入る。

 ジャンフランコが念のため【看破】の魔法を発動するが、周辺に隠れた兵士はいないようだ。


「この三人で最後だね」

 ジャンフランコが独り言(ひとりご)ちると、周囲を固める学友たちがわっと歓声を上げる。フレデリカが魔道具で制圧の完了を伝えて暫くすると、騎士たちに交じってダラヴィッラが上がってくる。


「若様。ついに戦姫(いくさひめ)様、いえご当主様のご生誕の地である、この城を取り戻していただけましたな。これで当家の悲願の達成にあと一歩でございます」

 ジャンフランコが頷く。

「ダラヴィッラさん、城の守備兵の武装解除が終わったら、皆を中庭に集めていただけますか?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 中庭に降りると、学友をはじめスフォルツァ城攻めに参加した騎士が整列して待っていた。ジャンフランコの横にはダラヴィッラとフレデリカが並び立つ。

 城の完全制圧が完了した今、もはや遠慮することなく焚かれた篝火と【照明】の魔道具がジャンフランコを照らす。


「皆も見たであろう。若様の魔法は城を覆い、一滴の血も流さずに城を攻略したのだ。また、ご自身が魔法を操るのみならず、有用な魔道具を多数用意していただいた。今回の作戦でも要所要所で使われているのは周知のとおりだ」

 ダラヴィッラに続けてジャンフランコも宣言する。

「皆さま、この度はスフォルツァ城の奪還にご助力いただきありがとうございます。手筈通りに一糸乱れず、まさしく精鋭と呼べるお働きでした。皆さまのご活躍は母にも報告させていただきます」

 続けて、今回のスフォルツァ城攻略に使用した戦術の有用性を訴え、今後のスフォルツァ辺境伯領の完全回復に、そしてその先の戦いでも活用することを宣言する。


「城に備蓄された食料を見つけた。三月は籠城できそうな量だ。少しばかりいただいても罰は当たるまい」ダラヴィッラがニヤリと嗤う。

「今宵は英気を養い、明日以降に備えてくれ」

 居並ぶ騎士たちから歓声が上がるがダラヴィッラの次の一言でジャンフランコ達は気勢を削がれてしまう。

「まぁ、お子様方には酒は出さんがな」

強制的に無血開城成功です。

次回は、ゲットした城を取り返されないよう守りを固めます。


今回の新要素:

・ 神々と仲良くなると、権能(けんのう)が発動された場所を教えてくれるようになります。

 (一種のパッシブソナーとして使えます。)


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初めての作品投稿です。


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