スフォルツァ城奪還作戦 I
作戦開始です。
【Day1 → 2】
夕食も片付き作戦会議も終わると、ディナールームには酒器が運ばれる。
まだ成人しておらず酒を呑めないことと昼間の疲れを理由に、ジャンフランコはフレデリカを伴って酒席を辞する。
向かった先は寝室、ではなくて厩舎の隣の車庫。ジャンフランコの装甲馬車の横に、明日の作戦に使う二台の馬車が並んでいる。
ジャンフランコは右手に【照明】の魔法を発動させると、まずは装甲馬車の下に潜って足回りに傷や歪みが生じてないか素早く点検する。
今日の国境越えではさほどの無理はさせていないが、明日は限界まで酷使することが分かっている。少しのトラブルも見逃すまいとチェックするが、幸い神測で測定した限りでは傷や歪みも許容範囲内に収まっている。
ほぉと安堵の息を吐くと今度は車室内に入る。各【魔法陣】に軽く魔力を流してこちらにも問題がないことを確認していると、急にフレデリカから緊張が伝わって来る。
「いつもご自身で馬車の調子を見ておられるのですか?」フレデリカの視線の先にいたのは腕組みをして車庫の入り口にもたれ掛かるダラヴィッラだった。フレデリカの肩に手を置き警戒を解かせる。
「馬車というか、魔道具ですね。自分で設計して自分で作り自分の生命を預けるモノです。ちゃんと動くか自分の目で確かめておかないと、いざという時に安心して使えませんから」
ふむ、と考え込むダラヴィッラに「ところで、明日はかなり無理をすることになっていますが、残り二台の馬車は大丈夫なのですか?よろしければ少し手を加えさせていただきますが?」と申し出ておいて顔色をうかがう。
「明日の行軍は少しばかり酷ですよ?」と念を押すと、職人を呼んでくる、とダラヴィッラが踵を返す。
ダラヴィッラが車庫を離れたのを確認した後に、ジャンフランコは【隔絶された時空】から少し大きな箱組みのようなものを四つ、フレデリカに手伝ってもらいながら運び出して並べる。
さすがに人目のあるところで【隔絶された時空】を開くわけにもいかず急いだということもある。可能な限り軽量に作ったとはいえ、それなりの大きさのものを四つも動かしたのだ。腰を下ろして休んでいるとダラヴィッラが数人の男を連れて戻って来る。
もの言いたげな視線に「後で説明するので、馬車の車軸受けとコイツを交換してもらえますか?」と作業指示で返すと、ダラヴィッラが指示を出し、職人たちが馬車の車室を持ち上げ車台と切り離し始める。その車台も分解されると、ジャンフランコも時折手を出しながら車軸の交換が終了する。
職人達が二台目に取り掛かっている間に、ダラヴィッラと二言三言言葉を交わす。二台目の交換作業も終わった頃には流石に疲労を無視出来なくなって寝室への案内を乞う。
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翌朝、朝食を軽食で済ませ中庭に出ると、既に攻城戦に参加するメンバーは全員整列してジャンフランコを待っていた。この後、馬車三台に分乗して出発する。
ジャンフランコの装甲馬車には、フレデリカと学友たち八名が乗り込む。
残る二台の馬車にはダラヴィッラ率いるコルソ・マルケ砦の騎士二十名が分乗する。身体強化に長けた騎士を選抜しただけあって、体格に恵まれた筋骨隆々の大男ばかりだ。おかげで定員には余裕があったはずが騎士たちが全員乗り込むと僅かの隙間もない状態になってしまっている。
総勢三十名がスフォルツァ城奪還作戦の第一陣となる。隠密を旨とする一団は、楽団のファンファーレの見送りもなく、ただ迅速を旨として目的地を目指す。
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コルソ・マルケ砦からスフォルツァ城までは通常であれば馬車で二日の道程だが、馬車を引く馬には馬用に調整した【身体強化】の魔道具が装着されており、半日ほどで作戦予定地まで到着することを目指す強行軍だ。
ジャンフランコが昨夜二台の馬車を改造したのは、正にこの強行軍を想定したものだった。従来の車軸のままでの高速移動は怖ろしい程の揺れを生じることは自明で、いかな屈強な騎士たちとてそれに耐えられるとは思えない。何より車軸そのものが耐えきれず折れる可能性すらあった。
そこで用意したのが、装甲馬車のために複数試作した足回り一式である。試行錯誤の副産物であるそれらを、箱組みのサブフレームにアーム類やスプリング等を組み付けた状態で【隔絶された時空】に置いておいたのだ。その乗り心地がどんなものになったかは、御者役の騎士の表情を見ていればわかる。前世でいうところの高級SUVと同程度の乗り心地は実現できているはずだ。
そして、ジャンフランコの装甲馬車には試作品に更に改良が加えられた足回りが取り付けられている。最大の改善点は、サブフレームと車台をつなぐブッシュに相当する部品に【綱渡りの神】の権能を呼び出す【魔法陣】を刻み込んだことだ。地面から車輪を通じて強い入力があっても抜群の平衡感覚をもって足回りが完全にいなしてしまい、車室を並行に保つ、言うなればアクティブサスペンションである。
このおかげで、不整地を含む道を高速で移動しながら、車内でサンドイッチなどの軽食を摘んだり、何なら仮眠すら取れてしまうのであった。
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日が沈む頃、城から五キロほど離れた森に到着するとようやく進軍を止める。
念のため、範囲を拡げて装甲馬車の隠密機能を発動させておく。走行中に屋根で受けた太陽光でチャージした分だけで、この後の作戦行動を考えてもお釣りが来るくらいの魔力は残っているので、このような贅沢な使い方も可能だ。
馬に飼い葉と水を与え、自分たちも食事を摂っていると、いつの間にか隣に立っていたダラヴィッラに話しかけられる。
「若様、昨日取り付けた奇妙な車軸ですが、とんでもないものですな。あんな高速で駆けているのに、時折突き上げがある以外は大きく揺れることもありませんでしたぞ」
「騎士の皆さんの疲労の具合はどうですか?」
「何、政変で奪われた我が家を取り戻すのだと思うと、どんな過酷な道行きでも耐えられるというものです」と胸を張ったのが苦笑に変わり、「強がりを言いましたな。正直助かりました。この程度の疲労なら作戦時間までには回復できそうです、」
「その『我が家』ですが、皆様いささか気負いすぎてはいないですか?今回の作戦はいかに気づかれずに接敵するかが肝要なので、その...士気が空回りするのが一番困るのです」
僕がその、スフォルツァ城を初めて訪れるので醒めすぎて見えるのかもしれませんが、と付け加えるのはコルソ・マルケ砦を支え続けたダラヴィッラへの配慮だ。
顎に手を当てて少し考え込むダラヴィッラだったが、表情を緩めると「確かに、少し気負い過ぎていたかもしれませんな。若様のご教示しかと承りました」部下へも隠密作戦の厳守を再徹底すると約束してくれる。
食事が終わると見張りだけを立てて馬車の中で仮眠をとる。野戦馴れしている砦の騎士たちは鎧のまま適当に地面にごろ寝だ。
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フレデリカが目で追う中、食事を終えた主は自分の装甲馬車に向かう。
馬車に乗り込んで中で仮眠をとるのかと見ていると、彼は馬車の下に潜り込む。
今夜のスフォルツァ城奪還作戦においては彼が主力となるはずで、フレデリカにしてみれば、少しでも長く休んでほしいのだが、彼女の主は働くのを止めない。
「思ったよりも車軸部分の疲労が大きいな」呟きが聞こえた後に馬車の下から天恵を使っているのであろう光が漏れる。おそらく、欠けたり擦り減ったりした部分の応急修理をしているのであろうが、フレデリカはそれが主にとって大きな負担であることを知っている。
ジャンフランコは馬車の下から出てくると、咎めるようなフレデリカの視線に気づいたのだろう。悪戯が見つかった子供のような顔で笑う。
「失敗したときには一目散に逃げださないと、だろう?最低限の修理だけだから魔力も体力もそんなに使っちゃいないよ」
「では、この馬車だけにしておいてくださいませ。残る二台は敵からは見えない場所で潜んでいるのでしょう?多少逃げ出すのが遅れてもどうとでもなりますよ」
「フレデリカはこの後の作戦がうまくいくと思うかい?」ふと真顔で尋ねる主にフレデリカは戸惑う。
「作戦の流れは、以前【怨霊】の走狗を拘束した作戦と同じではありませんか」何を懸念されているのですか?との問いかけにジャンフランコは無言で微笑みを返すだけだ。
そのまま次の馬車の点検に向かおうとしたジャンフランコだったが、背中側からフレデリカに両腕を回され、そのままキツく抱きしめられて身体を硬直させる。
「フレデリカ、何を」
「まったく、貴方という方は。もうお休みなさいませ」
フレデリカの右手にある腕輪のような魔道具が光ると、彼女は右手の平をジャンフランコの顔の前に翳す。そこに顕れた彼女の【神具】が光ると闇属性の魔力が溢れ出し、ジャンフランコの身体から力が抜けるとフレデリカにもたれかかる形となる。
「お休みなさいませ、ジャンフランコ様。眠りの神と約定を交わしたのは貴方様だけではないのですよ」
すみません。長くなりそうなのでここでいったん切ります。
今回は作戦位置に着くとこまでで終わりましたが、次回こそは城の奪還作戦の本番です。
今回の新要素:
・ 装甲馬車には魔道具版アクティブサスとソーラーパネルで魔力をチャージする機能が付いてます。
・ フレデリカの魔道具には、武器を形作る魔法陣のほか、魔法を発動させる魔法陣もセットできます。
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