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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
過去を清算するために ‐ スフォルツァ辺境伯領

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秘密の越境作戦

ジャンフランコは初めて旧スフォルツァ辺境伯領の地を踏みます。

【Day1】

 カロン遺跡を出発した一行は森の中を一路国境を目指す。

 アンドレアが装甲馬車の後ろに陣取り、魔法で地面を均して馬車の通った轍跡を消していく。


 国境の何か所に設置された監視塔からの監視を掻い潜るのは、森の中を走るとはいえ実はそれほど簡単なことではない。高い位置からは森の中にも視線が通る上に、警備兵は【身体強化】の魔法を使った強化された視覚で監視しているため高度な隠術が必須となる。


 国境の監視塔はかつてミルトン王国で政変が起こり難民の流入があった際に建設されたものだ。監視塔の上では今もリモーネ王国側の警備兵が国境を出入りする人の動きを監視している。


 最近では国境を挟んで接するスフォルツァ領が安定し、以前のように多数の難民が国境を超えることはなくなった一方で、スフォルツァ領家臣団との小競り合いに敗れた軍閥やミルトン共和国の敗残兵が国境を越えてリモーネ王国側に逃げ込む事案が発生している。彼らは飢えや渇きから逃れるためには近隣の民家を襲撃するなど直接的な手段に訴えることも多く、治安維持の観点からリモーネ王国にとっての頭痛の種になりつつある。

 このため、国境線の監視は緩まることなく今も続いているのだ。


 監視塔から視認可能な監視範囲はカロン遺跡を出てしばらく走った辺りから始まる。

 装甲馬車の中ではジャンフランコが馬車に備わった【隠ぺい】と【認識阻害】の術式を発動する。馬車の内側に描かれた【魔法陣】のいくつかが光を放ち、術式が問題なく作動していることを示す。【看破】の魔法などで外部から干渉を受けて【隠ぺい】の術式が阻害された場合は【魔法陣】が光りを失って知らせる仕掛けだ。


 もっとも、ジャンフランコが【魔法陣】に刻み込んだのはグヒヤデーヴィー(秘事の女神)と直接約定を結んで構築した術式であり、これを【看破】できる術者はいない(と女神本人が保証している)のであるが。

 基本的に装甲馬車による隠密(ステルス)の範囲内を走るとはいえ、万一を考えてアレッサンドロとアレックスは手元の【隠ぺい】の魔道具を発動する。闇属性を持つ二人が騎乗して国境に向かったのはこのためだ。


 この態勢で国境警備の目を掻い潜ってミルトン側へ抜ければ、作戦の第一段階は成功である。


 装甲馬車は二騎を伴って国境に向かってひた走る。

 監視塔に動きは見られないことから、今のところ監視の目は誤魔化(ごまか)せているようだ。

 国境線が迫る。

 馬車の中に緊張が走るが、監視塔には特段の動きはない。


 そのままミルトン側を走り続け、監視塔の視認範囲を抜けると誰ともなくホッと息を吐く。

 緊張感が緩むと馬車の中の面々の口も緩む。

「意外にアッサリと抜けられるものですね」

「どうだい?これこそ『装甲馬車』の目玉である隠密(ステルス)機能だよ。魔力供給を魔石で行うようにしているから隠密行動の後でも魔力は減ってないし、効果範囲も広くて随伴騎二~三騎くらいならカバーできて安心」

 ジャンフランコの自慢はともかく、敵の目を掻い潜って一度に十数人を前線に展開できる隠密(ステルス)機能を備えた装甲馬車は、いずれスフォルツァ辺境伯領にとって有効な戦力になるに違いない。ジャンフランコの前世で聞いたとある将軍のセリフ「量産の暁には」というヤツである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 監視範囲を出て一キロ程走ったところで、旗の立った広場が見えてくる。

 馬車の【隠ぺい】と【認識阻害】を解除し、速度を落として広場に近づく。


 アレッサンドロとアレックスが馬車の前に出て暫く進むと、広場に並ぶ衛兵の姿が見えてくる。ジャンフランコ一行であることを示すために魔力剣を展開して合図すると、衛兵もこちらに気づく。

 衛兵にとって初見の魔力剣であるが、だからこそ「魔道具から延びる魔力の刃」というのが分かりやすい符丁になった。


「ジャンフランコ様のご一行とお見受けします。ご無事の到着祝着至極(しゅうちゃくしごく)にございます。お疲れのところ申し訳ございませんが、このまま砦までご案内いたします」


 そのまましばらく進むと、正面にコルソ・マルケ砦が見えてくる。

「砦」と呼称されるが、元々国境の要として建設されたこと、ミルトンの政変後の旧スフォルツァ辺境伯領を支えるために増築が重ねられたことから「城塞」と呼んでもよいほどの威容を誇る。


「僕とフレデリカは初めてだけれど、君たちには何年かぶり、なんだよね」

「ええ。何だか懐かしく感じます」


 先導する衛兵が松明を振って合図するとゆっくり門が開く。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 掘に渡された橋を渡り門の中に入ると、城代のダラヴィッラが正面に両刃の戦斧を立て、両手を柄に添えて仁王立ちで待ち構えている。ジャンフランコ一行も装甲馬車を止め、全員が下車する。


「ご無沙汰しております。今回のこと、ご同行感謝します」

 ジャンフランコがダラヴィッラに向かって挨拶すると、当のダラヴィッラが相好を崩す。

「若様。随分大きくなられて。それに伺ってはおりましたが、その御髪と瞳の色は実際に拝見すると何やら神々しくも見えますなぁ」

「神々しさはともかく」と苦笑いするが、「ようやく戦場に立つことを許される歳になりました。今回は母の名代としての参戦ではありますが、皆の足手まといとならぬよう励むつもりです」

「若の初陣のお供が出来るのです。これ以上の栄誉はございません」


「城代。お久しぶりです。ジャンフランコ様の初陣のお供の栄誉は、残念ながら私たちが先にいただいておりますよ」後ろから声を掛けたのはアンジェロだ。

「他国の教会騎士団への助力、ではありましたが、敵地への潜入任務にお供させていただきました」

 胸を張るアンジェロに「あんたは子供のふりして囮役やっただけじゃない。その点わたくしは先行しての偵察役を立派に務めたのです、城代」と自分のアピールをするアレックス。


「ひよっこ共が(かしま)しいことだわい」と苦笑したうえで、「では、まずはお食事などいかがですかな。その若の初陣とやらのお話もゆっくりと伺いたいものです」と砦内へ先導する。その後ろでは砦の衛兵たちが忙し気に立ち働いているのが見える。馬は厩舎に誘導され、ジャンフランコの装甲馬車からは積み荷が降ろされていく。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジャンフランコ一行が案内されたのは、砦の中にある広めのディナールーム。

 とはいっても壁一面に周辺の地形図や部隊の配置図などが所せましと貼られていて、お世辞にも落ち着いて食事を楽しめそうな場所ではない。


 ジャンフランコ達のほか、ダラヴィッラたちコルソ・マルケ砦側の将も何人かテーブルに着き、始まるのは会議を兼ねた夕食(ワーキングディナー)だ。


 冒頭、ダラヴィッラから今回の作戦について説明される。

「今回の作戦には、リモーネにいらっしゃる我らが戦姫(いくさひめ)ご当主ジョヴァンナさまに代わり、ご子息であるジャンフランコ様にご参加いただくことになっている」

 紹介に応え、ジャンフランコが立ち上がる。

「今回の主戦力はジャンフランコ様が持ち込んでくださった『装甲馬車』だ。その直衛にはリモーネで若様のお供をしている鼻垂れどもが就く」

 学友たちが立ち上がるとコルソ・マルケ砦側がざわめくのは、まだ成人前の少年少女ばかりであるからなのだろう。

「残念ながら若様は今回が初陣ではない。既にリモーネ王国内で既に何度か戦場(いくさば)にお立ちになったとのことだ。ここの鼻垂れどももいっしょにな。若様の初陣に御伴出来なかったのは業腹だが、皆、若いとは言っても腕前については心配無用だ」

 ダラヴィッラの言葉に心配より安心が勝ったのか、その場の空気が少しだけ緩む。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、今回の作戦は二段構えだ」

「まずは、我らの宿願の一つ、スフォルツァ城の奪還が第一の目的だ」

「その後は資材を運び込んで、ジョヴァンナ様をお迎えできるようスフォルツァ城を整える」

 居並ぶ各将の反応は、期待に目を光らせる者、作戦の困難さを予想して顔を曇らせる者、この後の説明を聞こうと身を乗り出す者、と様々だ。


 ダラヴィッラに促され、まずは偵察部隊の報告が入る。

「定期的に妨害してはいるものの、食糧などの補給物資はあまり滞ることなく城内に運び込まれているため、守備兵の士気は維持されていると思われます」

 悔しそうに報告する偵察部隊の将にダラヴィッラが問い質す。

「今回は力押しの城攻めではないから士気を気にする必要はないぞ。その守備兵の規模はどうだ?」

「守備兵は五十名程の軽装兵と三十名程の砲兵、二十名程の騎士、で間違いありません」


 ダラヴィッラがジャンフランコの方を振り返ると、すっと頷く。全部で百名前後であればジャンフランコの範囲魔法でカバーできる範囲内だ。


 続けてジャンフランコが作戦の概要を説明する。


「新月の夜に紛れてスフォルツァ城に近づき、僕の魔法で城内の守備兵を無力化します。その後に突入した皆さんで無力化された守備兵を一か所に集め、武装解除していただければ作戦の第一段階は完了です」

 簡単でしょう?とジャンフランコがテーブルに着く面々を見渡すが、学友たち以外に納得した顔はない。

「今回の作戦では、リモーネ国内で行った制圧作戦で使用した魔法の改良版を使います。基本は範囲【睡眠】と範囲【麻痺】の魔法ですが、投射範囲と射程を改良した僕のオリジナル魔法になります」

 正面扇状に三キロ程を射程に入れるというのは、神々との間で約定を結んだ上で自力で【魔法陣】を組み上げることができるジャンフランコにしかできないデタラメな効果範囲の魔法だ。


 ダラヴィッラが視線をジャンフランコと学友たちの顔を何度か往復させた後に破顔する。

「かつてジョヴァンナ様とご一緒した(いくさ)を思い出しますなぁ」

「毎回デタラメな効果範囲の攻撃魔法が前提の作戦ばかりでしたからな」

 

 全員が納得した空気を確認した上で、ダラヴィッラが視線で続きを促す。


「この作戦の肝は、敵に気づかれないように接敵することです。そのためにこちらをお持ちしました」

 ジャンフランコが持ち込んだ新兵器の説明を始める。並べているのは、

 〇 大盾に【隠ぺい】と【認識阻害】を組み込んだもの

 〇 伝言の魔道具(メッセンジャー)

 〇 拘束具

 大盾は一~二名単位で敵の目を盗んで接敵しやすくするためのものだが、【魔力吸収】の効果も付与されて大盾としての機能も高いもの。

 【伝言の魔道具(メッセンジャー)】はジャンフランコが新しく開発した魔道具で、離れた場所にいる同士で十秒程度のメッセージを文字に変えて送受信するためのものだ。今回は三か所に分かれての作戦となるため、分隊相互の連携が重要となる。

 拘束具はメディギーニ商会の隠れヒット商品のタイラップである。これはジャンフランコが前世の記憶から再現し、生産のための魔道具まで作って量産しているものだ。


 その後暫くは、コルソ・マルケ砦側の各将が実際に魔道具に触れてみて感想を言い合う時間を設ける。

 一番注目を集めたのは【伝言の魔道具(メッセンジャー)】で、歴戦の戦士然とした各将が魔道具をもってディナールームの両端に立ち、メッセージを送りあっては歓声をあげている。

 タイラップが拘束具になることについては皆半信半疑だったが、結局ディナールームの警護をする歩哨が犠牲となり、後ろ手に揃えた両手親指をタイラップで縛られて動けなくなる様子を見て皆が納得する。


 その後、作戦の詳細の議論が再開され、ジャンフランコの装甲馬車の他に二台の馬車を用意することになった。

 ジャンフランコが隠密(ステルス)したままスフォルツァ城正面から範囲【睡眠】と範囲【麻痺】を投射し、無力化を確認した後に両翼の馬車に分乗した兵士が突入し、ミルトン共和国側の守備兵を拘束して中庭に集めて武装解除する、というのが作戦の一連の流れとなる。


 その後はスフォルツァ城付近の地形、特に姿を隠せる森や起伏などを加味した微調整が入る。スフォルツァ城周辺は家臣団の古参兵(ベテラン)達にとっては庭も同然であり、作戦の調整も彼らの独壇場だ。


 細かい手順の確認を終えると、会議は終了だ。

 翌日はいよいよスフォルツァ城奪還のための作戦が始まる。

次回、攻城戦?です。


今回の新要素:特になし。


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初めての作品投稿です。


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