遺跡探索研修のその先
始めの布石です。
「さて、諸先輩方。本日よりお世話になるジャンフランコと申します」
名前に続けて基礎教育課程での成績や得意科目について触れると、ローレ教室でのジャンフランコの自己紹介は終わりだ。
母親譲りの端正な面立ちに、すらりとした長身。貴公子もかくや、と思わせる姿に成長したが、漆黒と白銀の交じった頭髪と同じ色の瞳がどこか近寄り難い空気を醸し出すのは昔から変わらない。
ジャンフランコが自席に戻ると、今度はフレデリカが同じように前に歩み出て自己紹介を行う。フレデリカもジャンフランコと同じ髪の色、瞳の色であることは変わらないが、母親であるフローレンスと似てきてふんわりと柔らかな顔立ちが髪と瞳から来る印象に勝るのか、ジャンフランコと二人並んでも以前ほどは似通っては見られなくなっている。
その後も順々に一通り自己紹介が終わると、ジャンフランコが手を挙げ発言する。
「では、我々七年生もこれで晴れてローレ教室の一員として堂々と遺跡探索に出られるようになったわけですね」
ローレ教諭がジャンフランコに近づくと耳元で囁く。
「気持ちが逸るのはわかるが、もう少しほかの学生の目も気にしたまえ」
「準備万端整っておりますし。お許しさえいただければすぐにでも」
ジャンフランコがその場を取り繕う気がないことを悟ったのか、ローレ教諭は半ば諦め顔だ。
「わかった。遺跡探索研修を許可する。さっさと行ってきなさい」
「それでは早速、遺跡探索研修へと参りましょう」
外に出ると、中庭には比較的大型の馬車が停まっていて、荷物などが運び込まれるのを待っている。
ジャンフランコが振り返ると、皆が大きな木箱を抱えて続く。全員が【身体強化】の魔道具を身に着けていて、おかげでアレックスのような女生徒でも、平気で一抱えもあるような木箱を二段重ねで楽々と運べている。瞬く間に荷物の積み込みが終わるのを見て、ジャンフランコが「一度整列しようか」と声を掛ける。
何となく一か所に集まったのを見て、ローレ教諭が点呼よろしく次々と声を掛けていく。
全員が、上はシンプルなボタン止のシャツにポケットが多数ついたベスト、下はこれもシンプルな厚めの生地のズボンと、遺跡探索を想定した動きやすい服装ということでだいたい似通った格好になっている。あくまで遺跡探索「研修」であり、探索済みの安全な遺跡を活用した研修ということで、武装はなくせいぜい護身用の短剣と魔道具いくつかを身に着けているだけ。馬車に積み込んだのも探索の間の食料品や日用品だ。
杖の天恵持ちであるアレッサンドロやアンドレアが平然としているのに対し、剣の天恵持ちであるジルベルトにアンジェロ、ピエレットが何だか不安そうにしているのが面白い。短剣だけ、というのが不安を掻き立てるのだろうか。「腰が軽い」とでも言いたげである。もっとも武装に見えない魔道具はいくつか身に着けてはいるし、それらは魔力剣をはじめ「商家の子弟」として神学校に通う学生にしては、いささか物騒なものばかりなのだが。
「全員揃ったな。では、今回諸君らの護衛をお願いする御二方を紹介する。騎士のダリア・チェラート様と魔法使いのティツィアーノ・シビエロ様だ。御二方とも授業の一環として今回の遺跡探索研修に御同行いただくのである。くれぐれも失礼のないように」
二人の真面目くさった顔にジャンフランコは吹き出さないように必死に堪えているが、それはほかの面々も同じらしい。ここリモーネ王国内で、身分と天恵を隠して商家の子弟として神学校に通うか、そのまま亡命貴族の子弟として騎士・魔法使いの学校に通うかの違いはあるが、彼らは皆、ジャンフランコの「学友」として共に学ぶ旧スフォルツァ辺境伯家臣団の子弟である。
家臣団の外では一線を引く必要があるが、メディギーニ商会に置かれた勉強部屋と訓練場で共に学び、技を磨く気の置けない間柄である。
「では、チェラート様、シビエロ様、二週間の道中よろしくお願いいたします」ジャンフランコの気取った物腰に、挨拶を受けたダリアもティツィアーノも困り顔だ。何となく片手を挙げて挨拶を受けた形をとる。
「それでは」とジャンフランコがローレ教諭の方に向き直り、「遺跡探索研修に出発します。二週間の長きに渡りますが、その間、学校の方よしなにお取り計らい願います」
ジャンフランコがやや露骨にローレ教諭の役割を強調する一方で、「少しは取り繕え」とローレ教諭が苦笑いする。
ダリアとティツィアーノの二人は騎馬で、残りのメンバーは馬車で、今回の「研修」の目的地であるカロン遺跡を目指す。カロン遺跡はリモーネ王国とミルトン共和国の国境付近の森の中にある比較的規模の小さい遺跡だ。
遺跡そのものはかなり早い時期にローレ教室によって隅々まで探索され尽くしており、ローレ教室の学生の研修の場として何度も活用されているくらい安全な遺跡だ。
ただし、ジャンフランコとフレデリカに学友全員が向かう先として、いささか違和感の残る場所ではあるのだが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
馬車が動き出した瞬間、乗り込んだ学友たちが一斉にジャンフランコの方を向く。
「ジャンフランコ様~」アレックスが半目でジャンフランコに詰め寄る。
「この馬車、何かしましたね?」
「何かって何のことだろう?」
とぼけるジャンフランコをアレックスが問い詰める。
「この馬車、何でこんなに揺れないんですか!また変な魔道具を仕込んだでしょう!」アレックスがまだ幼さの残る瞳をかっと見張って言い募るが、ジャンフランコは素知らぬ顔だ。
「よく聞いてくれたね!実はこの馬車はゼロから僕が設計した『装甲馬車』でね。車輪と馬車の間に特別な仕掛けがしてあるおかげで、少々のことでは揺れを感じないんだ」
ジャンフランコの前世での趣味に、様々なジャンルのマニアックな雑誌を読み漁るというものがあった。クルマ関係のマニアックな技術解説雑誌もその中に含まれていた。
彼の天恵である神測は、そんな前世の記憶を自由に引き出す能力を早い段階で発生させていたのだが、天恵を通すと、ただの曖昧な記憶だったはずが雑誌の中の図解までが鮮明に正確に蘇るようになっている。
その成果が、この「装甲馬車」の足回りである。
神測の能力にかかると、二本のV字型のアームで車軸を支える形、それが独立した四本の車軸それぞれに備わる、いわゆるダブルウィッシュボーン形式のサスペンションが図解からの逆算で寸法から形状まで正確に再現されてしまう。スプリングとダンパーの再現はそのついでだ。
「この馬車の凄さは足回りだけじゃないですよ。『装甲馬車』というだけあって、この馬車の外側を囲む外板も強固で、少々の攻撃にはビクともしない上に【魔導書】もいろいろ仕込んであってね。それで」
「おっと、そこまで」大きな手を拡げてアレッサンドロが割り込む。
「そこから先の口上は、この馬車をお貴族様やらに売り込むために取っておいてください。私らがいくら頑張っても到底買えないお値段でしょ?これ」
「えー。この馬車は誰にも売らないよ。これはスフォルツァ領の戦力にするための試作品だからね」
アレッサンドロの試みも空しく、同乗者たちは目的地であるカロン遺跡に着くまでジャンフランコによる「装甲馬車」の説明を聞かされ続けるはめになる。長広舌の切っ掛けを作ったアレックスは皆の非難めいた視線を浴びて小さくなったままだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ちょうど昼前になる頃、ジャンフランコ一行は「研修」先であるカロン遺跡に到着した。騎乗したまま駆け続けてきたダリアもティツィアーノも疲労の色が濃いが、馬車から降りて来た面々はいささかウンザリしたような顔になってはいるものの、それ以外にはほとんど疲れを感じさせない。
「おーい。今からそんな疲れててどうする。本番はこの後なんだぜ」ジルベルトがダリアとティツィアーノの肩を軽く叩く。
用意してあった軽食を広げ昼食になる。
昼食を頬張りながらの話題は馬車の乗り心地についてだ。「いや、本当に滑るように走るのですよ。おかげであれだけの時間馬車に乗ってたのにお尻も痛くならないしまったく疲れてないのです」ピエレットが嬉しそうに話すのをダリアとティツィアーノが恨めしそうに眺めるが、それも次の一言を聞くまでだった。「これでジャンフランコ様がお静かにしていただけていれば、最高だったのですけれど」
「よければ続きを」と言いかけたジャンフランコであったが、皆の顔を見て言い直す。「メディギーニ商会が運び込んでくれていた装備と物資を積み込んだら出発だよ。着替えもしておこうか」ジャンフランコが皆に声をかけると、まだ疲労の抜けないダリアとティツィアーノを残して、他のメンバーは淀みない動きで遺跡の入り口を潜る。入り口を入ってすぐのところには複数の木箱のほかに黒い大盾が数枚と長柄武器が何振りか。
木箱を開けると、鎖帷子を取り出して全員が着込む。第二次性徴の兆しが現れる年頃である。男女分かれることなく同じ場所での着替えに一瞬浮ついた空気が流れたが、それも剣の天恵持ちが鎧を、杖の天恵持ちがローブを着けるまでである。遺跡の中には馬鎧も置いてあり、ジルベルトとアンジェロが馬に装着していく。
先ほどまでと違い、今度はアレッサンドロとアレックスが騎乗し、ダリアとティツィアーノが馬車に乗り込む。これには騎乗による負担の分散以外の理由がある。
このカロン遺跡での遺跡探索研修を名目にローレ教室を出発した一行であったが、実際には本来の目的地を偽装するための中継地点であった。本来の目的地は、隠してあった武装が必要となる場所だ。
「それでは、いざ、我らの父祖の地。スフォルツァ辺境伯領へ」
次回は、初めての密出国/密入国です。
今回の新要素:
・ ジャンフランコの装甲馬車
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