神々との距離感と教会との付き合い方
神々とソフィア教会、どっちと仲良くしますか?ってお話です。
【怨霊】事件の後始末も一段落し、ジャンフランコ達も家臣団の面々も落ち着きを取り戻したある日、スフォルツァ邸にロドリーゴ、フローレンス、メディギーニが訪れていた。
今回の【怨霊】騒ぎだが、発端は確かにローレ教室の無分別な遺跡探索であったかもしれない。だが、黎明期の布教活動に起因するソフィア教会への根深く強い怨みが根本原因であることがわかった。そして神々との接触を深めていけば、いずれはソフィア教会との対立が不可避となることも。
これが端緒となり、改めて旧スフォルツァ辺境伯領家臣団のソフィア教会との関わり方に関する話し合いが持たれたのだ。要はリスクの再評価だ。
従前の旧スフォルツァ辺境伯領家首脳部のスタンスは、「ソフィア教会との対立を生むリスクに目を瞑ることはできない」というものであった。一方、リスクを冒しても手に入れたいのは「神々との約定」による戦力の増強である。【怨霊】事件はこのリスク評価にどれほど影響するのだろうか。
なお、現役の枢機卿であるロドリーゴ、教会騎士団の要職に就くフローレンスの二人については、ソフィア教会関係者ではなくスフォルツァ辺境伯家の関係者として他人事のような顔で参加している。それでよいのか、ということはこの際置いておくとして。
ソフィア教会の信奉する教義によれば、女神ソフィアただ一柱以外に神の権能を有する存在はいないことになっている。現在、リモーネ王国をはじめ周辺の多くの国で国教となり多くの信者を抱えるソフィア教であるが、その教義が必ずしも正しくはないことはジャンフランコの【魔法陣】研究の結果判明してしまっている。
杖の天恵もちたちや剣の天恵持ちの行使する魔法や戦技は、この世にあまねく御座す神々の権能を勧請しなければ成立しない。魔法や戦技の存在がすなわち八百万の神々の存在証明になるのだが、ソフィア教会の教義はその点を巧みに隠蔽することで成立している。
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「母様と父様が先日神々と直接約定を結んで属性を増やしたわけです。この情報を家臣団に広げれば、手っ取り早く家臣団の戦力の底上げができるわけですが」
積極策を推進したいのはジャンフランコだ。
「この情報をどこまで広げるか、の判断が『ソフィア教会と事を構えるか、否か』と直結しているのがものすごく厄介だと思うのですよ」
この場に集まっている人間は、みな神々との約定によって魔法や戦技の威力や効力の底上げが可能であると知っているのだが、知った上でどう対応するかの判断はそれぞれで異なっている。ジョヴァンナ、ロドリーゴ、ジャンフランコ、フレデリカは約定についての知識を活用して属性や使える魔法を増やしている。表立って魔法を使う機会がほぼなかったり、そもそも関係者以外には天恵について知らせていなかったりといった理由で、少なくとも家臣団の関係者以外で彼らの属性がどう変わろうが気にする者はいない。
一方、職業柄多くの目がある場所で戦技を使う機会のあるフローレンスは迂闊に属性を増やすことはできない。特に【闇】属性の戦技にも有用なものが多いことは分かっているが、その習得は確実に教会関係者から不審人物として注目を集める行為である。
メディギーニは、【学友】たち家臣団の子弟を指導する機会が多いこともあり、少なくとも家臣団全体に情報共有するまでは、と属性を増やすことについては自粛している。一方で、【身体強化】など既に習得している一部の戦技についてはこっそりジャンフランコに頼み込んで神々と約定を結び威力や効力を強化しているのだが。
【魔法陣】を使った直接の約定など、家臣団の能力を高めるための知見を活用する場合には、ソフィアが唯一神でないことについての情報共有もセットである。同時に、家臣団の外に対して「ソフィアが唯一神でないと知っていること」の漏洩は厳禁てある。
ソフィア教会は既に神学校をはじめ各所で国を支える基盤の一部となっている。一方で、いまだに異端の動きに目を光らせ、禁書を定めることに始まり、ソフィアが唯一神であることを否定する言説を厳しく取り締まっている危険な存在であることに変わりはない。
「『神々』という言葉を口にした瞬間にソフィア教会を敵に回しますよね。これがリモーネじゃなくてスフォルツァ辺境伯領なら、ソフィア教会の目もそこまで気にしなくても済むのですけれど」ソフィア教会に一番深く関わっている立場からフローレンスは懸念について述べる。
「そういや、ソフィア教会って父様のような生臭坊主は黙認されてるのに、女神ソフィアが唯一神ってことからの逸脱だけは絶対に許されないのは何なんですかね」ジャンフランコが腕組みしながら声に出す。
「おいおい、『生臭』って」苦笑するロドリーゴであったが、
「だが、言われてみれば、『禁書目録』に載ってる本の共通点というと、『神々』について触れた記述?それかソフィア教会が成立する以前の古書が多いね。女神ソフィア以外の神々が存在する…というかソフィアもその一柱であるってのは、本当にソフィア教会が忌避する最も都合の悪い情報かもしれないね」
「そういえば、ソフィア教会の始まりって女神ソフィア以外の神々を否定することでしたね。教会の伝承風に言うなら、他の神々をなぎ倒していった結果女神ソフィア一柱だけが残ったってことになりますが」
実際には八百万の神々は今も昔も変わらずこの世のあちらこちらに御座すのに、その事実を知る人間をなぎ倒した上で、ソフィア一柱だけを信仰の対象として残すことを強要したのだけれど。
「そこから例えばあの【怨霊】みたいなのが生まれてしまったんだから、救いがありませんね」
「そういえば、あの【怨霊】事件は教会の中ではどんな扱いなんですか?」
一応、フローレンスを通じて教会騎士団には通報されたはずだ。
「教会に反する思想を捨てきれない狂信者の暴走、ということになってます。ジャンフランコ様のおかげで遺跡は跡形もなくなってますから、そちらと結びつけることは難しいですし。ローレ教室の学生何名かが異端思想に染まり、教諭はじめ数名を拉致監禁した上に他校生徒を巻き込んで異端に捧げる生贄を探していた、という説明ですね」
そもそも【怨霊】なんて存在は教会は死んでも認めませんし、とフローレンスが付け加える。
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元々、スフォルツァ辺境伯家に残っていた聞き取りの記録から、ソフィア教会が成立したとされる三百年前の出来事についてジャンフランコは知っていた。
美味な食料や宝石などを贈って部族の長を篭絡して教会の設置を認めさせた後は、そこを拠点に略奪の限りを尽くし、抵抗する力を奪った後に問答無用で住民に改宗を迫ったとか。世俗権力による征服と改宗による同質化強制の相互補完。似たようなことをやらかして世界各地に信仰を拡げた世界宗教があったことが、前世の日本人としての記憶に残っている。
日本は英明な君主によって侵略を免れることができたが、それ以外では、そのまま強国の植民地とされ、土着の信仰を奪われ、人種的特徴すら失われてしまった国はいくつもあった。リモーネ王国をはじめソフィア教会の影響下にある国々は同じ目に遭ったわけだ。
「あ奴らは我らの神々を奪い、知識を奪い、歴史を、財産を奪い、妻子を奪ったのだ」
そのような行いを受けた者がどのような思いを抱くのか。
知識としては知っていた。あるいは、想像はしていた。
実際はどうであったか。
【怨霊】の怨念は、もはやソフィア教会に連なる者であろうがなかろうが、生きる者すべて手当たり次第に向けられるようになっていた。その怨念に触れた者は【怨霊】の走狗となりさらにその害意を拡げていく。あんな風に執拗な害意を向けられ続けるなんて二度とご免である。
今回の【怨霊】事件を受けて、ジャンフランコ自身はなるべくソフィア教会から距離を置くと心に決めている。
怨念から解放されてなお、【怨霊】 はこう聞いたのではなかったか。
「其方、 教会の走狗とは相容れぬ者か?」
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「やれやれ、【怨霊】みたいな目立つ事件が起きても教会の態度は変わりませんか。であれば教会と対立するリスクの評価も現状維持、ですな」
一神教の怖さは、「自分とは異質な者の存在が許せない」こと。
ソフィア教会には「異端審問」というものが存在して、少しでも教義から外れる者を探し出しては異端として処分するということをやめられないのがその顕れだろう。
「そうは言っても、当分の間は『神々』関係は現状維持とせざるを得ませんね。少なくともリモーネ王国にいる間は」メディギーニとしては今すぐにでも家臣団の強化を図りたいところだろうが、リモーネ王国内に活動拠点を置く間は王国内の各勢力との関係を損なってまで、とはいかない。
裏を返せば、家臣団の中で【神々との約定】 について広め一気に戦力を強化するのは、いずれ旧スフォルツァ辺境伯領に活動の拠点を移したタイミングで、 ということでもある。
「やれやれ。当分の間は雌伏の時、ということですか」ジャンフランコが肩を竦める。
「いいではありませんか。その時間を使って力を蓄えればよいのです。何者にも屈する必要がないくらいの強大な力を。兵を鍛え、武具と魔道具を揃えましょう。
幸い、『共和国』を名乗る狂信者どもの手際が悪いおかげで、我々には十分な時間がありそうですしな」
メディギーニがニヤリと嗤い、ジャンフランコが野心を開示する。
「では、僕はその間【銭】 の力を蓄えることにいたしましょうか。教会どころか国でさえ動かせるくらいの【銭】の力を。幸い、僕の魔道具はこの国の富裕層には評判がよいそうですからね。この国の富を吸い上げ、国が富むも貧しくなるも我が意のままとなるくらいの【銭】の力を蓄えることにいたしましょう」
【怨霊】騒ぎが収まって、いよいよジャンフランコが利益追求に邁進することを妨げるモノはなくなりました。
今回の新要素:
・ ジャンフランコの野望(笑)
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