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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
亡霊は無視しようとしても勝手に嚙みつきに来る

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戦い終わって

【怨霊】の動きを止める一撃を放ったフレデリカ

地上で【怨霊】の走狗を引き受けたメディギーニ

二人の働きがあって初めて【怨霊】を調伏できました。

【怨霊】が、いや、既に調伏され怨みや呪いから解放されたから【怨霊】ではないのだが、元【怨霊】がその場を去ってから暫くは、誰も一言も発さないで立ち尽くしていた。


 ジャンフランコは【怨霊】が去った後をじっと見つめていたが、その視界がすーっと色を失い暗くなっていく。


 フレデリカはジャンフランコの変調に気づき、慌てて駆け寄り今にも倒れそうな彼の身体を支える。


 ジャンフランコはそのままフレデリカの腕の中で意識を失う。彼の顔色は悪く体温も低いが、フレデリカは呼吸が安定していることを確認し、既に何度もジャンフランコかやらかしていて見慣れた魔力枯渇の症状と判断し、安堵の息を吐く。


 遺跡の封印に加えて【怨霊】との戦いで想定外に魔力を削られた上に調伏の女神の勧請(かんじょう)まで行った結果、限界まで魔力を使い切ったのであろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 フレデリカは穴の上を見上げ、上にいるであろうアレックス達に声を掛ける。

「こちらはすべて終わりました。ジャンフランコ様が魔力枯渇で動けないので、穴から脱出するのを手助けしていただけますか?」


 暫く時間が経ってから、メディギーニが穴の縁から下を見下ろして声を掛ける。

「悪い。上にいる連中も全員魔力枯渇させててな。暫くしたら恢復すると思うから、それまで待っててもらえるか?」

「分かりました。こちらもジャンフランコ様の恢復を待ちますね」


 フレデリカは腕の中で寝息をたてる主を見下ろす。

 強大な魔力や、どんな場面でも場馴れした大人のような振る舞いを見ているとつい忘れてしまうが、彼は自分と同じ子供なのだ。

 この小さな身体で巨大な建造物を一瞬で造り上げるような膨大な魔力を行使するとは、今の姿からは到底想像できない。


 ふと、自分が主に期待されたとおりの働きができたことを誇る気持ちが湧き上がってくる。


 彼女の主は、自分が【怨霊】の封印に係る一連の行動において欠くべからざる(かなめ)であることを自覚した上で、あえて【怨霊】からは攻めやすく家臣団達からは護りにくい場に身を置いた。


【怨霊】の立場からすれば、ジャンフランコが封印の最後の仕上げに集中した瞬間が、封印をとん挫させる上で絶好の機会となる。更に、家臣団達からの援護も尻すぼみになったタイミングで、【怨霊】はジャンフランコの生殺与奪を自由にできる、そう思ったであろう。

 まさにその瞬間、【怨霊】を沈黙させる乾坤一擲の一手を打てる位置にあらかじめフレデリカが配置されていたのだ。


 事前に神々から伺っていた【怨霊】の強さと家臣団の魔力の総量から起こりうる戦闘の流れを計算した上で【怨霊】の油断までを読み切ったジャンフランコの作戦勝ちではあったが、作戦の要に配置したフレデリカの働きに絶対の信頼がなければ、ジャンフランコとしてもとても自らを死地に置く決断は出来なかったであろう。


「わたくしがしくじったらどうするおつもりだったのですか?」


 フレデリカは今更ながら主から自分への信頼の重さに震える。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 メディギーニがゴロリと仰向けになったままで、作戦成功を意味する信号弾を打上げる。彼自身は大きな怪我は負っていないが、鎧は傷と凹みだらけであり、何より高速でかつ強力な攻撃を連発する【怨霊】の走狗 の動きに翻弄されて体力を限界近くまで削られてしまっている。


 ふと、彼を翻弄した【怨霊】の走狗はと見れば、既にその人としての形を失っており、そこには走狗の着衣であろうボロ布が塊となって落ちていただけである。


 メディギーニが走狗の打撃に身構えた瞬間、おそらくはフレデリカが【怨霊】に剣を突き立てたのと同時だったのであろう、【怨霊】の走狗は武器を振り被った勢いのまま頭から後ろに倒れたまま動かなくなり、服の間から見える手や顔がみるみる黒ずんで行った。


 そのままグズグズと形を崩し、塵へと変わり、暫くはヒトの形に塵が積もっていたが、それも風に吹かれて散ってしまっている。


【怨霊】の走狗との死闘で疲労の極みに達した重い身体を引きずっていくと、魔力枯渇と疲労の影響であろう、アレックス達までもがゴロゴロと地面に転がっているのが見える。

 メディギーニに気づいて片手を挙げているところを見ると深刻なダメージはないが動くことは難しい、というところか。

 ちょうどその時、下からフレデリカの声が聞こえたので救援を待つよう声を掛ける。フレデリカの声を聞いた限りでは、ジャンフランコもその近侍のフレデリカも無事のようだ。ただ、自力で穴から這い登るのは難しそうで、救助を待って引き上げてやることが必要になるようだが。


 しばらく横になったまま待っていると、信号弾をみて、待機していた家臣団が到着した姿が見えたので、ゆっくりと体を起こす。

 そのまま指示だけを出してジャンフランコ達が救助され、馬車に運び込まれるのを見守る。


 ひとまず、これでスフォルツァ辺境伯家当主ジョヴァンナの息子ジャンフランコを悩ませた【怨霊】騒動もひと段落ついた。


 明日からはまた、旧スフォルツァ辺境伯領の回復に向け力を溜め、子供たちを鍛える毎日に戻れそうである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【怨霊】騒ぎが収まってメディギーニ商会の喧騒も収まったある日、ジャンフランコはフレデリカを伴って、かつて【怨霊】と戦った遺跡の跡地に立っていた。


 既にかつて遺跡であった場所の上には木の葉や土が覆いかぶさり、森の木々の間の少し開けた場所、という以外にかつてここが遺跡であったことを示すものは残ってない。


「ジャンフランコ様、どうしても元【怨霊】にお会いになるおつもりですか?」

「いや、だって気になるじゃないか」

「そんな理由なのですか?」

 ジャンフランコが少しだけ眉を寄せる。

「真面目な話をすると、ソフィア教会が今のところ手を出せない広大な土地がリモーネの隣に広がってるのを、いつまでも指を咥えて見ていると思えないから、なんだ」

「スフォルツァ辺境伯領がいつか狙われる、と危惧しているわけですね」

「今はまだ手を出さないだろうけれど、スフォルツァ家が領地をしっかり統治できるようになったタイミングが一番危険だと思ってる」


「だから、ソフィア教会の遣り口について、今のところ僕が知っている一番の被害者に聞いとこうとおもってね」懐から羊皮紙を取り出す。そこには、かつて元【悪霊】が調伏された去り際に残して行った【魔法陣】が書き写されていた。


「じゃ、【結界】の展開をよろしくね」

 フレデリカが【魔法陣】を一枚取り出して魔力を流すと、彼女とジャンフランコを覆う半径五メートル程の半球状で半透明の壁のようなものが現れる。


「では、僕も始めるとするか」

 ジャンフランコはまず自分の写し身を作り出す。魔力は流さず、血も最低限の一滴だけ。そのままではただの木偶人形のような最低限の能力しかない写し身である。

「それでは、元【怨霊】様に顕現(けんげん)いただきますよ、と」

 ジャンフランコが【魔法陣】に魔力を流すと、ユラリ、と魔力の塊が立ち上がる。

 ジャンフランコは自分の写し身に左手を添え、右手を魔力の塊に添えると【神測(デジタイズ)】【細密出力(ナノプリント)】を発動する。左手の写し身がグズグズと形を喪っていくのと同時に右手側に骨が、内臓が、筋肉が形作られ、やがて皮膚で覆われると、そこには壮年の総髪の男が立っていた。


「これは驚いたな」

「ご不便をおかけして申し訳御座いませんが、この方がお話頂きやすいかと思って勧請(かんじょう)と同時に人形(ひとがた)を形作り、そこに顕現(けんげん)頂きました」

「何百年ぶりか分からぬが、これはこれで悪くはない」

 ジャンフランコが手渡すローブを羽織るのは、元【怨霊】が生前そうであったであろう姿の男だ。


「それで、何の用かな?小さな魔法使い殿」

「単刀直入に言えば、ソフィア教会にやられた手口を教えていただきたいのです」

「流石にそれは、幼子二人に面と向かって話す内容ではないのだがね」

「それでは、これに記していただけますか?」羊皮紙とペンを渡す。


「私はこの時代の文字は書けないのだが、大丈夫かね?」

「それについてはお気になさらず」

 男が羊皮紙とペンを受け取るとサラサラと何事かを書き付け始める。


「これで良いのかね?」

 ジャンフランコが渡された羊皮紙にさっと目を通し、一瞬顔を顰めるがすぐにくるくると丸めて懐に収める。

「君は私の時代の文字も読めるのか。それであればあれほど赤裸々には書かなかったのだが」

「いえ、お気遣いは御無用に願います。私も子供であることにいつまでも甘えることは許されぬ身にて」

「そうか、君も一族を統べる血の持ち主かね。難儀なことだ、それは」


「さて、これで要件は終わりかね?」

「いえ、もう一つ。この遺跡が何だったのか教えていただけますか?私が不躾にも封印してしまいましたが、本来そのような扱いをすべきでない場所かもしれないと思いまして」

「私としては、不届き者、特にソフィア教会の破落戸(ごろつき)が足を踏み入れることのできない現状は非常に好ましいと思うのだがね。かつて、ここは死を目前にした人が安らかに過ごし、そのまま神々の世界に招かれる場所。【死】の女神の神殿だったのだよ」

「では貴方が行使していたのも」

「いや、私の怨念は神殿を護る神兵と分かち難く癒着してしまってね。私が行使していたのは神兵の権能(けんのう)だよ。あの神兵も長い間に私の怨念で汚染されてしまっている。下手にここの封印を解いたらまた同じことの繰り返しさ」

「そうですか。ならば永遠に封印はそのままとしておきましょう」

 男がニヤリと嗤う。

「適当な生贄を先に放り込んでしまえば神兵の怒りも収まるかもしれないよ」

「例えば、ソフィア教会の高位聖職者とか、ですか?」

「ああ。それなら申し分ない。教皇とかなら【死】の女神の怒りを鎮めるにも十分足りるぞ」

「では、いつか叶う時が訪れれば」


 不穏な軽口の応酬を楽しんでいると、男の髪がサラサラと細かな粉に変じ始める。

「そろそろ時間のようだね。最後に私との約定は要らんかね?」

「差し支えなければ、というところですが」

「何を言う。私の方こそ君のような人と約定を結べたら随分と助かるんだ」

「では、約定を」ジャンフランコが元【怨霊】が残した【魔法陣】を用意する。

「まだ神格が足りなくて名前をもらえてないのだがね。我、【屍】の鬼神■■■■■はこの者との約定を望みます。八百万(やおよろず)の神々よ、我が約定をご照覧あれ!」

 男が短い祝詞を唱えると、漆黒の魔力が【魔法陣】に流れ込み、支える力を喪った人形(ひとがた)はサラサラと崩れ、消えていく。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ジャンフランコ様は、あんな怖い【怨霊】と約定なんて結んで大丈夫だったのですか?」

「大丈夫だよ。彼はまだ鬼神としても駆け出しで、何かしようとしても僕に加護を与えて(取り憑いて)いる怖〜い神々には立ち打ちできないからね」

「それなら良いのですが」


「彼の権能(けんのう)権能(けんのう)でなかなかに面白そうだよ。ちょっとした屍霊遣い(ネクロマンサー)の真似事くらいならできそうだしね」

「またソフィア教会に睨まれそうなことを。母様にお願いして騎士団を出していただこうかしら」

「まぁ、ソフィア教会とはいずれ事を構えることになる気がするよ」

「なっ!」

「そっかぁ、教皇を生贄にねぇ。ちょっとした楽しみが増えたかもね」

「不穏なことをおっしゃらないで下さい!」

ひとまず、【怨霊】の脅威は去りました。

次回、反省会です。


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