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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
亡霊は無視しようとしても勝手に嚙みつきに来る

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救出作戦に続くもの

古来より、奇襲は夜行うもの、と相場が決まっております。

 深夜、ジョヴァンナが立案したローレ教諭の救出作戦に向けた準備は概ね完了しようとしていた。


 ジャンフランコとフレデリカは教諭達の研究棟の屋上、ローレ教諭の研究室を見下ろす場所で待機だ。


 フレデリカが【魔法陣】を使って【隠ぺい】と【認識阻害】の魔法を発動した状態であるので、誰も二人がそこにいることを認識できていない。強いて言うなら、屋上の反対側で護衛についているジルベルトとティツィアーノが二人が潜んでいるであろう場所を睨みつけているくらいか。


 残りの学友たちも、ローレ教室を取り囲むように、やや距離をとって物陰に潜んでいる。高い位置にいるジャンフランコ達からは全員を見下ろす形になっており、全員の配置の状況が手に取るようにわかる。


 全員がジャンフランコの魔法の範囲外に着き、配置が完了する。

 真夜中ちょうどの鐘が遠くで鳴り、それが制圧作戦開始の合図だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジャンフランコが【睡眠】の魔法を発動させ、まず、外周部分から内側へと、徐々に徐々に魔法の効果範囲を狭めていく。範囲内に一気に魔力を展開するのではなく、気づかれないように丁寧に少しずつ魔法を発動させていく。


 微かに聞こえていた虫の鳴き声やざわめきが、すーっと静まり返っていき、やがて無音となった時、それを魔法発動完了の合図として、ジャンフランコは今度は範囲【麻痺】の魔法を重ね掛けしていく。これが完了した時点で、範囲内の敵は完全に身動きできないまま思う存分蹂躙される対象に変わっている。


 予定通り魔法の発動が完了した合図に代えて、フレデリカが【隠ぺい】を解除し姿を現す。

 魔力剣(ライトセーバー擬き)を一瞬光らせたら、それが制圧完了の合図となり、地上に展開した学友たちがローレ教室に近づき侵入と捜索を開始する。

 五分ほど経過しただろうか、アンジェロが長身痩躯の男性を、ダリアが女性を担いで運び出すのが見えた。二人とも身体強化を発動した状態だろう。担ぎ出された男性はローレ教諭、女性の方は、教諭の秘書のアルミーナだろう。


 続けて、頭に包帯を巻いた少年二人が、こちらは縄で拘束された形で連れ出されるのが見える。


 その後15分ほどのあと、ピエレットが剣に炎を纏わせて空中でバツ印を描く。

 これは、教室内の捜索が完了したがもうターゲットを発見できなかったこと、これ以上の作戦行動が不要であることを示す合図だ。その合図を受けてジャンフランコ達も待機場所を離れ撤退に移る。


 最後に、入れ替わるように身体強化組が黒い塊三つを教室の玄関口まで運んで置いていく。ジャンフランコを襲った襲撃者である他校生徒三名について、もう不要とばかりにその場に残していくと、作戦は完全に終了だ。


 ジャンフランコと学友たち、それにローレ教諭と秘書、それに「片耳」二名を乗せた馬車が夜闇に紛れるように出発していく。


 それぞれ念のため追跡抑止の魔法を発動し、複雑な路地の入り組んだ区画を経由してメディギーニ商会へと向かう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 メディギーニ商会に到着した一行は、「片耳」二名を地下の「厳重に施錠される部屋」に置き、ローレ教諭と秘書をそれぞれ客間に寝かせると、監視を大人に任せて会議室に集合する。


「ローレ教諭ほか一名の救出を完了。二人とも多少の衰弱は見られますが健康状態に問題はなし。念のため、監視を置いていますが、明日には回復して事情を伺えるものと思います。「片耳」は三名中二名を拘束。こちらは自殺できないよう猿轡も嵌めた上で拘束を継続しています」


 ジャンフランコからジョヴァンナに作戦の成功を報告する。

「最後に、当方に被害や損耗の発生はありません。作戦は成功です」


「ご苦労さま。あとは大人に任せて、貴方たちはゆっくりお休みなさいな」


 意外にアッサリと作戦が成功したことにジャンフランコはやや拍子抜けしたような風ではあったが、ひとまず客間に退き、明日に備えることにする。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 明けて翌日、ジャンフランコと学友たちは後髪引かれながらも登校する。


 学校では昨夜のことが何らか話題になるかと思いきや、何事もなかったかのように授業が行われていく。ローレ教諭が不在であったり講義をすっぽかすのも、ある意味平常運転と学校から見なされているようだ。


 強いて言うなら、「他校生徒が校内で発見された」ことが周知されたくらいか。

 ローレ教室に近い場所で発見されたにも関わらず、ローレ教諭が不在であることが話題にのぼらないあたり、普段の行いが校内でどのように認識されているかお察しだ。


 下校途中の馬車の中で、ジャンフランコは「破魔の神」を勧請(かんじょう)し、【怨霊】と耳の関係についてヒアリングする。やはり【怨霊】に耳を奪われた者は時間がたつと【怨霊】に操られるようになり、やがて完全にその走狗となるとのことだ。最後には生命を奪われ動く死体(アンデッド)となって完全に軍門に下ることとなるらしい。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 下校後、メディギーニ商会の会議室を覗くとローレ教諭とアルミーナがメディギーニから説明を受けていた。


「では、あの遺跡で耳に負傷した生徒は【怨霊】の言うがままになっていたわけですな。更に人の心を操る力を与えられて、それで他の人間に影響力を及ぼすと」

「ええ。先生方が拘束されていたのもその影響だと思われます。昨夜、先生方を救出する際に、【怨霊】の影響下にあると思われる生徒三名のうち二名を拘束しております」

 道理で、何の疑問も持たずに教室に何日も籠もっていたわけだ、と納得していたローレ教諭に、後日時間を取って遺跡探索の状況について伺う約束を交わす。


「それで、残る一名について、先生は何かご存知ありませんか?」

「七年生のベルノ、という生徒ですな。学校の方に小職の方から問い合わせれば住所も分かるかと」

「今は、その生徒は完全に野放しになっています。一人で何かできるとは思いませんが、念のため先生方には護衛をつけておきましょう」


 もう一つ、ローレ教諭の情報によると、遺跡探索の護衛として頼んだ他校生徒は四名いたらしい。既に『事情聴取』済みの三名の他に、騎士学校の八年生ヤネット・ブラントという女生徒がいたとのことだが、彼女の扱いについてはひとまず保留としておく。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 メディギーニがローレ教諭のヒアリングを続けている間、ジャンフランコは「片耳」への対処方法を探るために「片耳」を拘束していた地下を訪れる。


 まずは、【解呪】が効くかを試す。【解呪】が効いて正常に戻ればまだマシな状態、だったが、これは全く効果がなかった。「片耳」は変わらず虚ろな瞳で壁を眺めているだけだ。が、拘束場所にジャンフランコが近づくと、隙を窺うように身構えるのが分かった。拘束しているもう一人の「片耳」にも【解呪】の効果がないことに変わりはなかった。


 次に試したのは、負傷した耳の【治癒】だ。一度魔法で【麻痺】させて動きを止めてから包帯を解いて耳の傷痕を露出させ、【治癒】の魔法を発動させる。

 奪われた耳を再生すれば元に戻るのか?と試しただけだったが、【治癒】の魔法は効果がなかった…だけでは止まらなかった。本来の発揮される効果通りなら傷痕から組織が再生を始め、やがて耳朶の形が再生する…はずが、【治癒】の魔法を受けた「片耳」は逆に傷痕を起点にグズグズと崩れ始め、最後は骨も残さず粉々になってしまった。


『既に人ではなくなっているのか』


 残った片耳に有効な魔法を探る方に切替えて【破魔】の魔法を発動させると一瞬で消滅してしまう。

 これが示すのは、耳を切り取られ走狗となった時点で既に動く死体(アンデッド)になっているということでしかない。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「すみません。『片耳』二人とも消滅させてしまいました」

 ジャンフランコは会議室に戻って結果を共有する。

「『消滅』という意味が分からないのだが?負傷させた、とか殺してしまった、ではないのか?」

「そのままの意味です。既に生命ある者ではなくなっていることが分かりました。彼らは人ならざる、人に仇なす存在になり下がってしまっていました。残る一人を早く見つけないと」

『【治癒】の魔法で骨も残さず消えてしまうんですからね』

 現時点では、それが人の姿をしてどこかに潜みあるいは徘徊していることだけが確かな事実だ。


 最大の懸念は、【怨霊】の走狗である「片耳」が誰かを襲撃することである。

「一番襲撃のリスクが高いのは、やはりローレ教諭ですかね。襲撃されるリスクを考えて監視と護衛をつける必要があるのでは?」

「ジャンフランコ様、お忘れですか?一番襲撃されるリスクが高いのは貴方ですよ」フレデリカに指摘をされるジャンフランコに、メディギーニが献策する。

「警戒するのは間違いではないが...攻撃に怯えて待ち続けるよりは攻めないか?」

「攻めるというとどこをですか?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「奴らの本拠地があるだろう?」

「遺跡のことですね」


 ジャンフランコはまず、【怨霊】が封印されるまでの経緯について、知っている話を共有する。

「【怨霊】を再封印するとなると、過去に封印した時と同じように【怨霊】を削って封印に最適な場所まで追い込み、【封印】の魔導具を配置する、ですかね」


 そう言えば、とジャンフランコがローレの方に向き直って確認する。

「【封印】の魔道具がどこに配置されていたかの情報はありますか?」

「すまない。「片耳」に記録を破棄されてしまった」

 封印をゴールにする場合、実際に効果を発揮した【封印】の魔道具の配置は重要な情報であるのだが、それが破棄されてしまったことに不安が募る。


「いずれにせよ【怨霊】を削る必要があるのなら、中途半端なところで止めて封印するのではなくて、最後まで削り切るのはどうだ?」

 メディギーニが提案する。

「【怨霊】に対しては【破魔】の魔法が有効なことはわかっています。が、どれだけの戦力を用意すればよいのか情報がないのです」

 【怨霊】との戦闘を前提にする作戦にはどうしても不安が残る。


「ジャンフランコ様なら、別の方法も取れるのではないですか?」フレデリカが何かを思いついて提案する。

「ジャンフランコ様、地下工房を建設した時のことを思い出して下さい。貴方なら、遺跡の周辺に破壊不可能な壁を築いて閉じ込めることも可能ではないですか?」

 ジャンフランコなら、土を資源にして頑強な壁を構築できる。そのことを言っている。

「なるほどね。それは面白いかもしれないね」


 状況を整理する。

「できることは三つ。一つは『破魔』を使える戦力を増やして完全に滅するまで【怨霊】を削る。もう一つは、ある程度削った上で【封印】の魔導具を再配置して【怨霊】を再度霊的に封印すること。そして最後は、物理的に封印してしまうこと」


「『物理的に封印してしまう』?どういうことだ?」

「破壊不可能な物質で周囲を完全に覆ってしまうんです」

 メディギーニはまだ納得出来ない。

「『周囲を完全に』というのはどういう意味だい?」

「そのままの意味ですよ。入り口も周囲も上も下も。本当に全部覆ってしまうんです。地面を掘ろうがどうしようが【怨霊】が這い出せないように」

「そんなこと」

「できますよ」


『物理的な封印』が選択肢に挙がった時点でジャンフランコはローレに確認を求める。

「そもそも、あそこの遺跡には何があるんです?上層階にあった魔道具が何かは分かりました。【怨霊】を封印するまでの戦闘で使われたものでした。でも、【怨霊】は奥にある物を守る構えだった。その奥に何か価値がある物があるのかどうか、念のために教えて下さい」


「ほかは…わかってないのだ。すまない」

「逆に言うと、あの遺跡には喪って困る価値あるものはないのですね?」

 その点が確認できれば、最適な選択肢は一つしかない。

「正直に言います。三つの選択肢のうち、前二つは遺跡に入って【怨霊】と遭遇または戦闘することが前提です。僕としては正直採りたい選択肢ではありません。それであれば、現状では最後の選択肢が最適解だと考えます」


 今まで観測した限りでは、【怨霊】は遺跡から出てきてはいない。

 少なくとも第二第三のローレ教室を出さない、要はフラフラ遺跡に紛れ込んで耳を奪われた走狗を増やさなければいいだけだ。さらに、もし走狗と【怨霊】の接触を断つことに意味があるのなら、それに越したことはない。


 議論の結果、ジャンフランコの天恵(スキル)に期待して『物理的な封印』を選択することになった。地の利のない遺跡の中ではなく、屋外での作戦となることも大きい。

 

 作戦の段取りと人員の配置について決めて、その日の会議は終わった。

次回、大規模土木工事、もとい、敵本拠地攻略です。


今回の新要素:

・ 【怨霊】の走狗は動く死体(アンデッド)になっちゃってます。


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初めての作品投稿です。


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