走狗
こっちはメディギーニ商会視点のお話になります。
会議室に入ってきたメディギーニが手に持った紙の束を叩きつけるようにテーブルに置く。
「胸糞悪いにもほどがあるぜ」
ジャンフランコを襲撃してきて拘束された三人の学生への『事情聴取』は数日間にわたった。どんな手段をとったかは敢えて聞かないことにしたが、地下室から運び出された学生達の様子を見た限りでは、「手段を選ばず」情報を引き出したのだろう。
「まず、切っ掛けはローレ教室から遺跡探索の護衛依頼が出ていて、それに応募したことだってのは共通している」
その後、遺跡探索は一旦中止となったはずなんだが、と続け、
「その後、『片耳の男』から若様の『確保』って依頼を出されて何故か何の疑問も持たずに応じてしまった、てのも共通だ。ま、同じ学内の生徒の『確保』なんてどう考えたって荒事だろう?最初っからきな臭い、いいや、もろ犯罪だって気づいてて請けたってことになるな」
一応良家の子女のはずが犯罪に手を染めることに躊躇しなかった理由が解せない訳だけれど、と腑に落ちない点を挙げる。
「いくら『問い質しても』三人ともに共通するのは、『片耳の男に唆された』『あのジャンフランコってガキはムカつく』それだけだ」
「ムカつかれる理由に心当たりはないのですけれど」
ジャンフランコには騎士学校や魔法学校の知り合いはいないし、神学校でも交友関係は広くないので間接的に怨みを買っている、というのも考えにくい。
「まぁ、貧乏貴族の逆怨みだと思っときゃいい。が、ただそんだけの理由で子供一人誘拐する踏ん切りがつくとも思えん」
身分の違いだけを理由に貧乏貴族が平民の富豪に横暴な振る舞いをするのは恥ずべき振る舞い、というのが現在のリモーネの風潮である。まだ子供だからというのも言い訳にならない、くらいには浸透している。
「ということは、問題なのは『片耳の男』の方、だな」
ジャンフランコは「片耳」という言葉を聞いて何気なく片手を耳に当てる。
そのまま、手を頬まで滑らせる。
ふと、顔の横を抜けていった風と、そのあと頬を伝って流れた血の感触を思い出した。
「そうか、耳か」
ジャンフランコが顔を顰めて独り言ちたのをメディギーニが拾う。
「耳?」
「写し身」の身ではあったが、片方の耳を切り落とされ奪われたことを思い出す。そういえば、まるで戦利品のように目の前でチラつかされていたのを今更ながら思い出した。
「【怨霊】にとって人間の【耳】は戦利品なんですよ」
メディギーニが何のことか分からず首を傾げている一方、フレデリカが顔色を変える。
前世によく遊んだゲームで、Player Killer行為の戦利品が【耳】であったことを思い出す。それは単なるトロフィーとしての意味しかなかったが、そこにそれ以上の、例えば呪術的な意味があるとしたらどうだろう?
生命を奪われた者が【怨霊】の軍門に下ることはラーマデーヴァから聞いていたが、【耳】を奪われただけで生者にもその力が及ぶこともあるとしたら。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「これはあくまでも推測なのですが」ジャンフランコが前置きをして続ける。
「ローレ教室の学生たちの内、何人かは遺跡発掘の折に負傷していますよね。その際の負傷部位ですが、特定の場所に集中していたのではないでしょうか」
ジャンフランコは「写し身」の目を通して、ローレ教室の生徒たちの内の何人かが頭から流血しながら遺跡から出てくるのを見ている。
「これは間違いのない筋から聞いたのですが【怨霊】と呼ばれる存在が遺跡に潜んでいるそうです。そいつに遭遇したのが負傷の原因だと思われます」
ローレ教諭は「何者かに邪魔された」と言っており、その後再度探索に挑んだら負傷者を出している。
「『事情聴取』の中で頻出した『片耳の男』ですが、【怨霊】に片耳を切り取られた生徒ではありませんか?もしかしたら、ですが、片耳を奪われた者は【怨霊】の走狗とされてしまうとしたら」
「で?【怨霊】と『片耳の男』に繋がりがあるとしましょう。でも、それと若様と何の関係があるんですか?名指しで【怨霊】に怨まれるようなことを何かされたのですか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それはわたくしも気になります。貴方と【怨霊】にどんな縁があるのかしら?」ジョヴァンナが問いかけながら会議室に入ってくる。
「わたくしの知る限り、貴方はローレ教室の遺跡探索への参加を打診されたくらいしか遺跡との繋がりはないはずだし、それを断ったとしても怨まれるのはせいぜいローレ先生くらいでしょう?ましてや【怨霊】との繋がりなんて考えられませんけれど」
ここでジャンフランコは隠し通すことを諦める。
「実は、直接ではないのですが、一度知己を得ておりまして」左手の指を針で刺して一滴の血を右手に垂らし、その場に「写し身」を顕現させる。
「こいつに少し強行偵察がてら遺跡に向かわせたら【怨霊】と遭遇しちゃいました」
頭を掻きながら説明すると「写し身」もシンクロして頭を掻く。
「迂闊といえば迂闊なんですが、まさか顔を見たくらいで執着されるとは思ってもいませんでした」
完全に想定外でした、と言い訳するが、ジョヴァンナは胡麻化されてはくれなかった。
「待って!貴方【怨霊】に遭っているの?」
「ええ。間接で、ですがね」
「写し身」を指さす。
「はぁああああああああああああああ」
ジョヴァンナが盛大に溜息を吐く
「裏事情を知っている第三者どころではなくて、完全に当事者ではないですか!」
裏事情とは、魔法陣を通じて神々から聞いた【怨霊】が封印されるまでの経緯のことだ。
「フレデリカ!貴方もです!なぜ今まで黙っていたのです!?そういう事情が分かっていれば対応の優先順位も変わるのですよ!?」
久々のジョヴァンナの雷にフレデリカともども身を縮こまらせるが、ジャンフランコとしてはお叱りを回避するためにも必死に頭を回転させて善後策を提案する。
「でもまぁ、とりあえずの対策はわかったようなものです。僕が確認した限り、片耳を奪われた学生は三人いました。これを押さえてしまえば、ひとまず【怨霊】の走狗はいなくなるわけです」
『そしたらまぁ、少なくとも時間は稼げる』
「ただ、一人ならまだしも三人を特定して確保するのには時間がかかるぜ。どうするおつもりです?」
「ローレ教諭を確保する必要がありますね。そうすれば負傷した生徒の特定にも繋がります。何とか接触する方法はないでしょうか」
「ジジとフレデリカは間違っても接触しないでね」
それは鴨が葱背負って近づくようなものだ。
「今回『事情聴取』した学生たちはローレ先生について何と言っていましたか?」
「『片耳の男』が常に側にいたそうだ。何だか顔色が悪かった、と言ってた者もいる」
それでは、監禁されている可能性も考慮しないといけない。
「それでは、ローレ先生の救出と『片耳の男』確保を同時にやるというのはどうでしょう?」
「ジジ、何か腹案があるのですか?」
「幸い、ローレ教室は他の教諭の研究室から離れた場所にあります。以前、母様からご教授いただいた『拠点制圧』メソッドで無力化した上で救出と確保を行うのです」
隠密して接近し、【睡眠】や【麻痺】などの範囲弱体化魔法で無力化する戦術のことを指している。軍事拠点ならともかく、神学校の中で対抗魔法などの用意はないものとして対処できるだろう。
「『片耳の男』が確保できれば、魔法で【怨霊】の『走狗』になっている状態を解呪できないかどうか試せますし、ローレ先生が確保できれば、【怨霊】の封じ込めに必要な情報を得られるかもしれません」
「【怨霊】の封じ込めというと?」
「ちょっと考えてることがあります。後ほどご説明できれば」
「では、すぐに着手できることから考えましょう。まずはローレ先生の確保からです」
ジョヴァンナが指揮官モードで動き出す。
「フレデリカ。貴方はフローレンスを通じて教会騎士団に根回しをしなさい。騎士団の了解を得次第決行します」
「メディギーニ。あなたは学友たちに動員を掛けなさい。後方支援並びに周囲の哨戒監視の人員が必要ですが、大人は神学校に侵入することが難しいですから」
「ジジは学友たちが利用できるよう、有用な魔法の魔法陣を用意なさい。【隠ぺい】、【認識阻害】や【看破】、【治癒】などがあれば十分だと思います」
それぞれが準備に向けて動き出す。決行は、早ければ今夜だ。
PKの戦利品として「耳」をドロップするMMO RPGがありまして、ですね。
今回の新要素:
・ 「写し身」で遺跡に潜ったことがジョヴァンナにバレました。
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