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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
亡霊は無視しようとしても勝手に嚙みつきに来る

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行場のない逆怨みーside モブ女生徒

襲撃犯にも事情があったようです。

 わたくしはあのジャンフランコという一年生を許さない。


 わたくしの名はヤネット・ブラント。

 騎士学校で同学年の婚約者のローラント・ザイン様から「一緒に小遣い稼ぎをしないか」と誘われたのが、すべての始まりだったのです。

 ローラント様とは来年の卒業を待って結婚の予定だったため、少しでも結婚資金の足しになるならとご一緒することにしました。


 二人で一緒に、というところに心惹かれたのです。


 ローラント様がお持ちになったのは、神学校のローレ教諭という方の依頼でした。

 何でも古代の遺跡の邪魔をする者がおり、その護衛をとのことでした。


 護衛というのはそれほど難しい依頼ではないのでわたくしもそれほどの不安はありません。数日の護衛ということでしたので、それに備えた準備をしておりましたら、ローレ教諭のところに魔道具商を名乗る男が訪れました。


 すると、せっかく準備を進めておりましたのに護衛任務は中止、とおっしゃるではありませんか。何でも、これから向かう遺跡にいるのは単なる邪魔者ではなく【怨霊】と呼ばれる恐ろしい存在であり、そんな場所に学生を主としたメンバーで挑むのは無謀だと言われ、ローレ教諭はすっかり怖気づいてしまいました。


【怨霊】のいる遺跡には近づかない、だそうです。


 ここまでの日当は払う、ということでわたくしもローラント様も納得した、はずでした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ところが、皆が帰ろうとした時に、おかしな生徒が声を掛けてきました。

 顔に包帯を巻いているのですが、その形が変です。

 よく見ると片方の耳がないのでしょうか?

 それに常に目が虚ろでどこにも焦点が合ってないようなのです。


 その生徒が解散して帰ろうとしたわたくしたちに「すっぽかされた護衛任務の代わりに別の小銭稼ぎをしないか?」と声を掛けてきたのです。


 依頼内容は神学校生徒の確保。

 といえば聞こえはいいですが、実際には誘拐してこの生徒の前に連れてこい、ということのようです。

 対象は神学校一年のジャンフランコという生徒。

 それなりに裕福な家庭の子供らしく、自前の馬車で神学校に通っているらしいのです。「ムカつくガキだろう?」と言われ、なぜかその生徒が許せなくなりました。


 確かに、貴族のわたくし達が乗合馬車で通学している一方で平民のくせに専用の馬車を持ってるなんて、と腹立たしくは思います。わたくしの家もローラント様のおうちも男爵家。同じ貴族家の中でも大した天恵(スキル)を持っているわけではなく、それゆえ国への貢献への見返りである歳費も家格を維持できるギリギリです。

 ただ、冷静に考えれば、だからといって誘拐なんて非合法な事に手を貸す理由にはならないはずです。


 ですが、なぜかその時は片耳のおかしな男の提案を受け入れることが正しいことのように思えたのでした。それはわたくしだけではなくローラント様はじめ誘われた学生達も同じだったようで、皆何の疑問もなく提案された依頼に応えるつもりになってしまっていました。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ひとまずは情報収集からです。

 漆黒と白銀の髪に同じ色の瞳。告げられた特徴の一年生は確かにいました。

 遠目から確認したところ、常に同じ特徴の女生徒と行動しているのですが、双子の妹か何かでしょうか。


 ひとまずは作戦を練りましたが、学校では人目があるため、下校時に馬車を停めて中から引き出して捕らえ、ローレ教室まで引き連れていく手筈となりました。

 馬車二台を用意して前後を押さえ、人目につかない場所に誘導して停車させ、中から引きずり降ろして連れていくのです。


 速度を出すために人数を押さえるため、二台の馬車にそれぞれ、御者役に加えて二名ずつの配置となりました。わたくしはローラント様と同じ馬車です。


 神学校の生徒なので、魔法や戦技などの天恵(スキル)を持たない相手を誘拐するのです。せいぜい御者が護衛として何らかの武力を持っている可能性だけ用心していれば良い、はずでした。


 二台の馬車で前後を押さえるところまではうまく行きました。

 ところが、馬車は目の前で忽然と消えてしまったのです。

 御者が魔法を使ったのか、それとも何かの魔道具か。しばらく消失した地点の周辺を探していましたが、忽然と消えた馬車はどこにも見当たりません。

 聞いたことがあるのですが、杖の天恵持ち(魔法使い)の中には敵の目を欺き自分の存在を隠す魔法を使える者がいるのだそうです。

 おそらくは、御者がそうなのでしょう。

 どんなにお金持ちでも、平民である以上、さすがに【隠ぺい】や【認識阻害】といった購入するにも使うにも大金が必要な闇属性の魔道具は持っていないでしょうから。


 とにかく、一回目の依頼は失敗してしまったのでした。

 翌日に向けて、再度誘拐を試みるための手はずを整えます。

 魔法対策が必要ということになり、わたくしはメンバーから外されて代わりに魔法学校の生徒が入ります。【看破】の魔法を持っている杖の天恵持ち(魔法使い)だそうです。たとえ相手が魔法で隠れても彼がいれば見破ることができるのでしょう。

 

「今度は魔法で姿をくらますこともさせない。今度こそは取っ捕まえてやる」そう笑うローラント様を見送りました。

「小遣い稼ぎのゲームのようなものだよ」その時まではわたくしもそう思っていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その日ローラント様は帰ってこられませんでした。


 行方を知らないか、片耳の男に詰め寄ろうとすると、ローレ教室の生徒たちから止められました。片耳の男に逆らうと何か酷い罰を受けるのだと言い募り、近づかない方がいいと言います。


 片耳の男から何も聞き出せないまま何日かすると、ローラント様は帰ってきました。誘拐に参加したほかの二人の生徒と一緒にローレ教室の前でぼーっと座っていた所を発見されたのだそうです。


 そのことは、ローラント様のご実家から教えていただきました。


 数日ご自宅で療養した後に騎士学校に復帰されました。

 以前と変わらぬ優しくて明るいローラント様が戻ってきました。

 そう思っていました。


 けれど、ふと、あの時何があったのですか?とわたくしが口にした途端、ローラント様のご様子が一変しました。

 突然叫び声を上げたかと思うと、そのままうずくまり動かなくなってしまったのです。

 わたくしはどうしていいか分からず、その時は馬車を頼みローラント様をご自宅まで送ることしかできませんでした。馬車に乗っている間、ローラント様はただ、じっと虚空を見つめているだけ。話し掛けても何も応えていただけません。


 ご自宅に着くと少し落ち着いたご様子を見せたものの、わたくしの顔を見るとその顔が恐怖に強張ったのが分かりました。


 ご家族はローラント様のご様子を見て悟られたのでしょう。急いでご自宅に運び込むと、わたくしに向かってここまでの礼を言った後に、「ひとまず今日はお引き取りください」とまるで追い返すように告げられたのです。


 それから数日後、ローラント様のご両親がわたくしの家を訪れ、婚約の破棄を申し入れられてしまいました。曰く、今のローラント様は少しずつ回復されているものの、外出やましてや学校に通うことも叶わない状態なのだそうです。

 どちらにせよ、ローラント様は婚姻を結ぶのに適当なご容態ではないため、これ以上婚約関係を続けることはできないとのことでした。


 わたくしはローラント様から遠ざけられたまま、細い(えにし)すら絶たれてしまったようなのです。最後に一目会わせていただけませんか、そのお願いはご両親に拒絶されてしまいました。せっかく小康状態がみられるようになったのに、わたくしの顔を見てしまえば元の木阿弥になってしまう、とおっしゃるのです。


 それから何日かすると、ローラント様が騎士学校を退学されたという噂が聞こえてきました。噂を確かめにご自宅を訪れると、そこは空き家になっていたのです。近所の人に聞いても夜逃げ同然に何処かへ引っ越されたということしかわかりませんでした。


 一度、起こったことを両親に告げて、ローラント様の仇を討ちたいと相談したことがありました。両親は首を横に振ってわたくしに諭すように言った。


「そもそもローラント様の行いは犯罪以外の何物でもありません。相手が平民であっても、今の法の下では正当な理由なく危害を加えれば罰せられます。このことを何処かへ訴え出てもダメですよ。仮に相手がローラント様への加害を認めたとしても、正当防衛であると認められるでしょう。我々が貴族であるという一事のみをもって平民に理不尽を強いることができる時代は終わったのです」


 それから一月ほど経ったある日、我が家に純白のサーコートを纏った数人の騎士の来客がありました。

 来客は両親にわたくしに同席させるよう告げ、わたくしをその場で拘束することを宣言されました。

 曰く、わたくしは【怨霊】と呼ばれる邪悪な存在の走狗に唆され、犯罪に手を染めたのだそうです。

【怨霊】の走狗には言葉巧みに相手を悪事に誘い込む力があり、わたくしは未だその影響下にあるため、いつまた犯罪に走るか分からないとのこと。

 そのため、当分の間、わたくしを教会騎士団の下拘束するのだそうです。


 騎士たちの代表と思われる女性騎士はそう言うと立ち上がり、彼女の部下であろう数人の騎士がわたくしを囲むと屋敷の外で待っていた馬車に乗せました。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今、わたくしは教会騎士団が犯罪を犯した貴族を拘束するための部屋で暮らしています。わたくしの拘束は、【怨霊】とやらが倒されるまで続くそうです。


 わたくしは、わたくしからローラント様を奪い、平穏な学生生活を奪ったジャンフランコという神学校の生徒を許すことが出来ません。この気持ちが果たして【怨霊】とやらに唆され植え付けられた一時的な感情なのか、それとも【怨霊】とやらが倒されてもこの怨みは残り続けるのか、わたくしには分からないのです。


ナイフを投げていた少年の名前はローラント・ザインでした。


【怨霊】は人間の僅かな悪意につけこむのです。


今回の新要素:

特になし


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初めての作品投稿です。


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