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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
亡霊は無視しようとしても勝手に嚙みつきに来る

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尾行と襲撃

なかなか、平常な日々、とはいかないようで。

 神学校での授業は、相変わらずジャンフランコにとってのサボりタイムである。


 今日は神測(デジタイズ)を使って、戦略級攻撃魔法の一つ「泥濘の焦土」の分析に取り組んでいる。

「泥濘の焦土」は、広範囲に腐敗した毒の沼を展開して効果範囲内にあるものすべてを呑み込み腐敗させるという敵からは忌み嫌われた攻撃魔法である。

 効果範囲内に敵魔法使いがいて対抗魔法を展開しても、対抗魔法の魔力を吸い上げ、逆に威力と効果範囲を底上げしていくという凶悪なオマケ付きだ。

 最盛期のジョヴァンナは半径5㎞くらいの範囲を一気に毒沼に沈め、城塞だろうが平地に展開する大軍であろうが一気に消滅させて「一騎当()」の二つ名を得たという。


 そんな極大魔法の分析であるが、神測(デジタイズ)のリソースが足りないのか分析がなかなか進んでいかない。

 これは、サボりで消費するリソースが馬鹿にならないことが原因であろう。

(ジャンフランコは「サボり」と一言で済ませているが、【認識阻害】で周囲の関心を失わせて爆睡しても見逃される上に、授業の記事録を自動で起こしてくれて後で確認ができるという、優れものの能力(アビ)である。)


 ジャンフランコは苦笑して分析を諦め、「泥濘の焦土」魔法発動の過程で勧請(かんじょう)される神々についての物語を、「八百万の神々」の中から探してみることにする。


「腐敗の女神」属性は闇と水。

 何物も腐敗せず残ってしまえば世界はゴミや死体だらけになるため、実はこの世界にとっては重要な神である。不要となったモノを腐敗させ分解し、新たな生命のための資源に変えるのがその権能(けんのう)である。


 言い換えれば、命を失った者が新たな誕生に向けて懐胎した状態に移る、その手助けをする神である。

 実際には「腐敗」に続けて何柱かの神々の権能(けんのう)が働いて新たな生命が誕生するのであるが、一連の神々の中には意外にも女神ソフィアも含まれている。


「腐敗」を呼んだら、次は「懐胎」を呼ぶことで戦場に集った望まれない生命を一旦輪廻に帰し再生に繋げるところまでが「泥濘の焦土」本来の術式である。

 実際ジョヴァンナがこの魔法を使って一月も経てば、そこに広がるのは腐敗沼ではなく新緑の目立つ林や新芽が芽吹く草原であったという。


「腐敗」って字面だけで判断しては駄目、ということか。

 少なくとも「腐敗の女神」は「悪神」ではない。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 授業が終わりメディギーニ商会へ向かう馬車の中、御者が車室をノックして短く告げる。「前後に怪しい馬車が着いている」


 ジャンフランコが小窓を少し開けて前後を伺うと、確かに前後に同じ形の馬車がいて、ジャンフランコ達の乗る馬車との間隔を少しずつ詰めている。


「【隠ぺい】と【認識阻害】で隠れるから、次の角で曲がって」ジャンフランコが御者に指示を出し、フレデリカは車室内で武器を用意する。右手に【神具】で出す(シルト)、左手にジャンフランコ作の魔力剣(ライトセーバー擬き)というスタイルだ。


「いま!」ジャンフランコが魔法を発動させると同時に馬車が角を曲がる。

 後ろを振り返って追って来ないこと確認すると【追跡防止】の魔法を発動して【隠ぺい】の魔法だけ解除する。


 そのまま暫く馬車を走らせるが新たな追跡者の気配はなく、ひとまずは追跡者を撒くことには成功したようだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 メディギーニ商会に到着すると追跡者について報告し、併せて学友の状況を確認する。

「僕らの方ではそんな馬車は見かけなかったけどなぁ」

「わたくしも」

 どうやら、追跡を受けたのはジャンフランコ達の馬車だけで、ほかは学校を出発してからメディギーニ商会へ到着するまで何事もなかったようだ。


 そうこうしているうちに、魔道具の商談に出ていたジョヴァンナとメディギーニも商会に到着するが、彼女らにも特に変事はなかったらしい。

「みな、何事かあったのですか?」逆に心配そうな顔で迎えた面々を訝しむ。


 その日は警戒を絶やさないようにしたままスフォルツァ邸に帰宅したが、その経路上でも特に何事も起きなかった。

 もしかしたら、ジャンフランコが狙われた理由はメディギーニ商会とは関係ないのかもしれない。


 夜は昼間の追跡者が気になって集中できないため写本のみをして過ごす。


 翌日。午前中は上の空でただし周囲を警戒することは欠かさず過ごすも、やはり特に何も起こらないまま放課後となった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 事態が動いたのは昨日と同じく下校時であった。


 予め下校時の御者がメディギーニに代わってはいる。荒事を想定して非戦闘員の御者に代わって護衛騎士として動けるメディギーニを配しているのはおそらくはジョヴァンナの指示たろう。


 馬車が校門を出た所で昨日と同じ馬車が二台。

 ジャンフランコ達を待ちかねていたかのように後を追って動き出す。


 ジャンフランコ達がそれに気づかない訳もなく、馬車内では臨戦態勢が整えられる。ジャンフランコが写し身を呼び出しフレデリカは【神具】と魔力剣(ライトセーバー擬き)で武装する。


 メディギーニが郊外に向かって馬車を走らせるのはわざとだ。

 これには人目を気にせず応戦できる場所に相手を誘導するのと、手を出しやすい状況を作り出して相手の出方を見る、二つの目的がある。

 相手に狙いを悟られるか?と危惧したが、二台の馬車は特に動きを変えることなくこちらの馬車を追跡している。


 民家も疎らになってきた辺りで、馬車の一台が加速して並びかけ、そのまま追い抜きをかける。これは前日と同じように前後で挟み込むつもりなのだろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジャンフランコが 「避けて!」とだけ声を掛けて前方と後方の馬車の直前に【泥濘】を発生させる。


 タイミングはバッチリで前後の馬車は二台ともが馬が泥濘に足を取られて転倒し、つられて馬車もその場で横転する。


 それなりの速度で走っていたはずだが、メディギーニはジャンフランコの一言だけで意図を察したのか前方の泥濘を悠々と避けて、暫く走ったあと、少し戻ってきて馬車を停車させる。彼はそのまま御者台の上でクロスボウを構えて警戒に当たる。


 まずはジャンフランコが馬車から降り立つが、これは写し身だ。

 本人は写し身の視覚と聴覚だけを受けて周囲の情報を得る構えである。前回【怨霊】に酷い目に遭わされた反省から、痛覚は繋いでいない。


 写し身を前方を走っていた馬車に接近させて声を掛ける。

「申し訳ないですけれど、害意を感じたから先手を打たせてもらいました。脅すつもりはないけれどケガをしたくなければ、武装解除して出てきていただけませんか」

 そうすると、馬車の中から「手遅れだ。もう怪我人は出ている」と返事がある。

 泥濘に半ば埋まった馬車から出てきたのは、神学校の制服を着た上級生と思しき少年である。右手には剣を携えている。


 続いてうめき声を上げながら二人。やはり神学校の制服を着た少年が這い出してくる。見ると、一人は片方の手首が明後日の方向に曲がり、一人は額からダラダラ血を流している。


「『武装解除して』と言ったつもりですが」

「脅しのつもりか?そっちは子供を含む三人。こちらは後ろの馬車を入れたら倍以上の人数がいるんだ。この人数差をひっくり返すことができるとでも思っているのか?」


 少年は器用にピョンっと馬車の屋根を蹴って硬い地面のある場所を目指して飛び上がる。


「できますよ」と写し身が応え、馬車の中からジャンフランコ本人が新たな泥濘を少年の着地予想点に発生させる。


 ジャンフランコの狙いに気づいた少年が空中で姿勢を変えたり落下地点を変えようと試みるが、結局は何もできないまま、足から腰までズッポリと泥濘にハマり込む。


「とりあえず念の為に」

 ジャンフランコの写し身が呟くと、馬車の上に残る二人の両手が球状の土の塊に包まれ、拘束される。

 一人泥濘にハマった少年は脱出しようと藻掻くが、その度ズプリズプリと少しずつ泥濘に沈んでいく。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「コッチは無力化出来たかな?」と呟いた写し身の右肩に矢が突き刺さる。


「へへへ。前に注意を向けすぎだぜ」

 男が一人、後方を走っていて転倒した馬車の上で弓を構えている。


 コチラは学生ではなく見たなりに怪しげな風体の破落戸(ごろつき)のようだ。

「まったく。面倒な天恵(スキル)持ちはいないなんていい加減なこと言いやがって、杖の天恵もち(魔法使い)がいるなんて聞いてねぇぞ」

泥濘に埋まった少年に向けて悪態をつく。

「さすがに右肩射抜かれちゃ神具は使えんだろうが。とっとと降参しちまいな。さもなきゃ、今度は額のど真ん中から矢尻が生えるぜぇ」破落戸(ごろつき)がニヤニヤ悪いを浮かべているが、写し身がそちらを振り返ってニッコリと笑う。


「酷いなぁ。これ、下手をすると致命傷ですよ。失血死の可能性だってあるし、最低でも後遺症残っちゃいます!コチラは出来るだけ穏便に済ませようとしてるのに…」他人事のように語る写し身に苛立った破落戸(ごろつき)が二の矢を放つが、飛んできた矢を写し身は今度は左手で掴んで止める。

 写し身の痛覚を遮断しているため、 右肩に刺さった矢は右腕を除いてジャンフランコが動かす写し身の動作に何の影響もない。


 男の左右にいる破落戸(ごろつき)も弓を構えるが、この二人は最初の男と違って余裕をなくし恐怖に震えているように見える。

 何の前触れもなく現れた泥濘に馬が足を取られ馬車が転倒したショックから回復できていない上に、右肩を射抜かれたにも関わらず痛みにまったく動じていないように見えるジャンフランコ(の写し身)に恐怖しているのだ。


「なぁ、わ...いや、お客さん。後ろの三人は雇われっぽくて情報を引き出せそうにないからとっとと眠らせちゃえばどうだい?」

『若様』と言いかけて途中で言い換えたメディギーニが早く事態を収束させることを進言する。


「そうですね。痛い思いは懲り懲りですしね」

 写し身がそう口にすると、馬車の中からジャンフランコが【睡眠】の魔法を発動する。

 破落戸(ごろつき)三人がクタリ、と倒れ込むと彼らの足元の馬車がズブズブと泥濘に沈んでいく。


 それを写し身の目を通して見つめていると、今度は左肩にナイフが突き刺さり、写し身の左手がダラリと垂れ下がる。


「【神具】を左手に持ってる変わり種だろうが、さすがにこれで手詰まりだろう!」

 写し身を振り向かせると、泥濘に胸まではまり込んだ少年が右手にナイフを持っている。

「コッチは投擲の戦技で狙った場所を外しっこないんだぜ。泥沼で足の踏ん張りは効かんが、この距離なら眉間に命中させることも簡単なんだ」

 男は戦技でナイフを無限に生み出せてオマケに命中率にも自信があるようだ。写し身が余所見した隙に形勢逆転に成功した、そう信じているのかもしれない。

「そこの御者!そういうわけだから、目の前のコイツを殺されたくなかったら武器を置いてコッチを助けろ!」


「それは出来かねますね」そう言いながらユラリと近づく写し身に、咄嗟にナイフを投じる少年。人質を失ってしまったことに気づいたのだろう、顔色を失うが、直後、眉間にナイフを突き刺したまま近づくのを止めない写し身を見て、別の意味でさらに青褪める。


「あ~あ。さすがにこれではもう身が持ちませんね」


 器用に目を寄せて眉間に刺さったナイフを見つめながらユラリユラリと近づく写し身の姿は恐怖でしかなかったろう。ナイフの少年は完全に固まってしまう。

 写し身はそのまま前のめりに少年の目の前に倒れ込むと、顔を泥濘に浸け、そのままグズグズと形を崩していく。


 少年はヒィッと声を上げるが、その場で身体の支えをなくしクタリと俯く。

 ジャンフランコの【睡眠】魔法が命中し、馬車の上で拘束されている残る二人も眠らせる。

 馬車の中で、はぁ、と息を吐く。


「どこの誰だか知らないけれど、何の目的でこんな狼藉を働こうとしたんでしょうかね」

「神学校の制服を着てはいるけれど、こいつら騎士学校と魔法学校の学生みたいだな」

「とりあえず、この三人を連れていけば情報を得るのには足りそうですね」

 そう言いながら泥濘を浅くしていくと、眠り続ける三人の少年と馬車、そして足を痛めてもがく馬が浮かび上がってくる。


 今度はフレデリカが写し身を動かして馬車を起こし、3人を馬車に放り込むと御者台に座る。ジャンフランコが馬に【治癒】魔法をかけると馬は少しだけ身体を震わせるが、痛みの消えたことに気づいたのか暴れずおとなしく待っているようである。


 後ろの破落戸(ごろつき)は情報源としての価値がないと見切り、馬車ごと泥濘に飲み込ませる。さすがに命までは取らないにしても自由に動き回らせる気はない。ジャンフランコが一計を案じると、首だけを出して残りは泥濘を消して埋めてしまう。道路の一端に汚い男の頭だけが三つ並ぶ異様な光景の出来上がりだ。


 ひとまず何らかの証言を得られそうな三人を拘束したまま、自前の馬車と襲撃者の馬車2台でジャンフランコ達はメディギーニ商会へ向かった。


 どうもあまり穏便な手段はとれそうにはないが、何の情報も得ないままにこの三人を返すことは出来なさそうである。

次回、少々手荒な事情聴取となりそうです。


今回の新要素:

・ 「腐敗の女神」のバックストーリー


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初めての作品投稿です。


誤字・脱字など見つけられた場合は、ご指摘をいただければ幸いです。


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