八方塞がりなら、一歩引いて考えてみるのも一手
今回は反省会(回)です。
「【怨霊】ねぇ」
ロドリーゴが顎に手を当てて考え込む。
「どうやら、ローレ教室が残っていた魔道具を手あたり次第回収して持ち帰ったところ、その中に【怨霊】を封印していた魔道具が含まれていて、封印がなくなったところ【怨霊】が遺跡内を好きにうろつけるようになった…ということのようです」
ジャンフランコは神々を勧請して伺った話をかいつまんで説明する。横でフレデリカも頷いて同意していることを示す。
「危険な存在が野放しになっていることに貴方が不安になるのは分かります。ですが…」ジョヴァンナも思案顔で続ける。「貴方は裏事情を知っているだけの第三者です。本来の後始末は当事者であるローレ教諭たちか、神敵に備えているという教会騎士団にお任せするのでよいのではありませんか?」
彼女はジャンフランコの関与には否定的だ。
「少なくとも大人に対処を任せるようになさい。どこの世界に学校初年度の学生に【怨霊】退治を望むような者がおりましょうか」
「私からローレ教諭に警告しておこうか」
少なくとも怪我人を出しているし、ローレ教諭も自分たちだけで探索することは危険と認識しているのだろう?とロドリーゴが提案する。
「少なくとも、一番に責任を果たさなければならないのは、ローレ教諭であり彼の教室の学生たちだ。彼らも馬鹿ではないだろうから、自分たちを脅かすのが【怨霊】であると理解すれば、自分たちだけで遺跡に乗り込む愚かさを悟り、然るべきところに届けを出して【怨霊】に対処するよう頼むだろうさ」
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ジャンフランコがまだ納得できない、という顔をしているのを見て取ったロドリーゴは苦笑交じりに提案する。
「もし、君が何もしないことに罪悪感を覚えるというのなら、対処できる術をもつ大人を増やす、というのはどうだい?」
神々との約定について知っているジョヴァンナ、ロドリーゴ、フローレンス、メディギーニに【破魔】や【調伏】について神々と約定を結ばせるのではどうか、という提案だ。ジョヴァンナは自身の【神具】に約定の【魔法陣】を刻めば【破魔】や【調伏】を魔法として発動させることができる。残る三人は、それぞれが約定を交わした【魔法陣】を与えられ、危険に備える場合はそれを持ち歩けば、【魔法陣】を通して【破魔】や【調伏】を使える。約定を結べなかったとしても、多少威力は落ちるが最低限魔道具を複製して持ち歩けばその数だけ【破魔】【調伏】の権能を行使できる人間が増えることになる。
「まぁ、それであれば」ジャンフランコとしては、自らの手であの【怨霊】に一矢報いたい、という気持ちを捨てきれないでいるが、それは飲み込まざるを得ないようだ。
「わたくしからも、ジャンフランコ様は遺跡に近づかないようお願いいたします」フレデリカがジャンフランコの目をまっすぐ見つめて告げる。彼女の手は固く握られて小刻みに震えている。彼女は、ジャンフランコの写し身が【怨霊】に倒された瞬間のジャンフランコを見ている。だからこそ、彼が再戦を望んでいるのではないかと真剣に心配している。
「フレデリカにこれほど心配されているんだ。それを押してまで【怨霊】の件に関わることもないだろう?」ジャンフランコが写し身で【怨霊】と対峙して敗れたことについては、両親には話していない。これ以上【怨霊】に関わろうとするとフレデリカもそのことに触れてジャンフランコを説得しようとするだろう。そして、「写し身」とは言え、一度対峙して敗れた上に致命傷を負わされたと知れば、両親も甘い顔は見せないだろう。
「分かりました。それではせめて、【怨霊】に抗することができる大人を増やしましょう。それもなるべく早い時期に」
「わかった。私はフローレンスに話をしておく。ジョヴァンナはメディギーニと調整しておいてくれ」
ひとまず、ローレ教諭に遺跡に近づかないよう勧告することと併せて、これがこの場での結論となったようだ。
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「それともう一つ、ご報告とご相談があります」
シュナウツァー工房の【闇】魔道具の件を話す。
大量の【闇】魔道具を普通に市場に流すとシュナウツァーの身に危険が及ぶ可能性が少なからずあるので、いっそのこと旧スフォルツァ家臣団で買い取ってコルソ・マルケ砦に送るのはどうか、という提案だ。
「確かに、それだけの魔道具を一度に調達できるというのは魅力的ね。基金の運用益にも余裕があるし、基本的には買い取る方向で進めてちょうだい」
基金の責任者であり辺境伯家当主でもあるジョヴァンナが好意的な反応を示した以上、この件はほぼ決定だ。
メディギーニを実際にシュナウツァー工房に派遣して、確認と査定を行ってから契約書を作成するらしい。
「ジジ、この件ではよくやりました。これだけの数の魔道具を入手できたなら、我が旧領地の回復も早まるというものです」
今、リモーネの地で進めている人材育成に一通りの目途が付けば、と準備は着々と進んでいるが、魔道具があることで準備期間の短縮も視野に入るらしい。
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「さて、魔道具に関する商いが軌道に乗り、スフォルツァ辺境伯領の回復に向けた魔道具の手配にまで手を広げている。さらには命がけで【怨霊】とやらに挑む余裕まである」
ロドリーゴの口角がにぃっと吊り上がる。
「でも、ジジ。君は何かを忘れてはいないかね?」
記憶を探るジャンフランコが、あることを思い出し小さく「あ」と声を漏らす。
「どうやら、思い出したようだね。僕が大人しく黙っているのが悪かったのかな?『写本』をお願いしたのは随分と前のことだと思うのだけれど、進み具合はどうなのかな?」
ロドリーゴの笑顔が怖い。ジャンフランコとしてはここでうまく言い逃れたいところだが、どうやら期待薄だ。
「いえ、けっして忘れていたわけではなくて、ですね。このところ思いがけず魔力を大量に消費する出来事が続きまして」
礼拝堂で発見した素材やら【魔法陣】やらの事業化に夢中で、ロドリーゴから「古代文字の考察」 の写本を申し付けられていたのをすっかり忘れていた。
実際、「古代文字の考察」は読み込むだけで魔力を大量に消費する特殊な本であるため、実際、前回は読むだけで四日を要した。今回は更に写本の作成までを求められているため、真面目に取り組んでもそれなりに時間と魔力を要することに間違いはない。
「わかった。このところ忙しく働いていたことも理解しているからね。時間が取れなかったことも分かっているよ」
ただし、と続ける。
「空き時間を見つけて少しずつでも写本を進めてくれ。妙な【怨霊】騒ぎに首を突っ込む時間があるのなら、その時間で写本を進めること」
僕は楽しみにしてるからね、とロドリーゴに釘を刺されて、その日の報告は終わった。
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自室に戻り、ジャンフランコは久しぶりに【隔絶された時空】を開く。
そこにしまっていた「古代文字の考察」を取り出し、写本の続きに手を着けるつもりだったが、ふと、ほかの本も気になって取り出す。
そう言えば、このところ魔道具のことばかりに集中しすぎていて、「幻の書庫」から持ち出した書籍については目を通していなかった。
重要性で選ぶなら、やはり「神々への道標」を読み込むべきであるが、これも「古代文字の考察」に負けず劣らず難物である。書籍の半分、情報量だけでみるとほとんどを神々を勧請するための【魔法陣】が占めているため、読み込むのに時間と魔力がかかるのである。
この本の目的を考えると粗雑な写本に意味はなく、描かれた【魔法陣】を正確に写し取る必要がある。最初は一柱一柱神々を勧請して約定を結ぶことも考えたが、神々を勧請する行為自体が 大量の魔力を消費するため、全部の神々を勧請するのはあまり現実的ではない。
そこで、当分の間は「古代文字の考察」の写本と並行して「神々への道標」 を神測で読み取って取り込んでいく作業を行うことにした。一度取り込んでしまえば、必要な時に呼び出せばよいのだから。
そしてもう一冊「八百万の神々」こちらは魔力の要件もなく読むことのできる本であるので、一気に神測で取り込んでおこう。 「神々への道標」の【魔法陣】で呼び出される神々についてのガイドになりそうであり、むしろ先に読んでおいて神々についての知見を深めておいた方がよいのかもしれない。
前回はグヒヤデーヴィーのおススメで彼女の眷属神を呼び出して約定を結んだが、彼女のガイドだけじゃなく、自分の考えで約定を結ぶ神々を選べるようになっておきたい。
『妾の薦めた眷属の権能に不満かえ』
噂をすれば、というか頭に名前を思い浮かべただけで何の前触れもなく女神が声だけで顕現してきた。
『そういうわけではないのですが、多様な視点、というのは必要かと愚考いたしまして』
『ふん。屁理屈を捏ねておるが、その実神々を得体の知れぬものとして二の足を踏んでいるだけであろう?』
『いえいえ、滅相もない。それにこのところ約定する相手が光と闇の属性ばかりに偏っておりますれば、他の属性の神々とも約定を結んだ方がよいかと思いましてね』
『妾なら一つか二つの属性に絞って極めることを考えるがの』
女神が小馬鹿にするような声で囁いてから気配を消す。
『其方、【器用貧乏】という言葉を聞いたことはあるかの。あまりあれもこれもと手を出していると中途半端なままぞ』
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「『器用貧乏』に『中途半端』か」ジャンフランコが独り言ちる。
女神の言葉が妙に心に残っているのだ。
確かに、魔道具を切っ掛けに【魔法陣】の神秘に心惹かれ、気づけばどっぷりとはまり込んでいる。自分としても【魔法陣】の神秘の探求に一生を捧げてもよいと思うくらい心奪われている自覚はある。
【魔法陣】の一面である神々の勧請については、「神々への道標」と「八百万の神々」というガイドが見つかった。
ただ、【魔法陣】のもう一つの魅力、洗練された【魔法陣】を解析し自らも描くことを試みる、その楽しさに、礼拝堂で出会った【魔法陣】によって気づかされてしまった。
実はジャンフランコがより心惹かれているのは後者である。
今回、シュナウツァー工房の地下に作り上げた新しい工房のために用意した魔道具や【魔法陣】は、オリジナルの【魔法陣】の構造や構成を理解した上で、ジャンフランコなりの改良や改造が加えられている。それが期待したとおりに動作し、滞りなく魔力が流れるのを見て、この上なく心が高揚したのだ。
【魔法陣】によって発揮される神々の権能の数を揃えることは無意味ではない。一方で、神々を次々勧請していくと、いつかは神々の都合に振り回される恐れがあることを忘れてはいけない。
有無を言わせずグヒヤデーヴィーの使徒にされ、事前に知らされていなかった思わぬデメリットがあることを教えられ、慌ててラーマディーヴァと約定を結ぶ羽目に陥ったのがよい例である。
また、神々ではないがローレ教諭の興味本位の勧誘に振り回された挙句に【怨霊】騒ぎに巻き込まれかけている。
『そういえば、ソフィア教の強引な改宗への怨みつらみなんてのに振り回される可能性も残っているんだよな』
考えてみれば、【怨霊】方面の話も元はといえばソフィア教が元凶だった。
『流されるままに流された結果なんだよな』その結果、「器用貧乏」と嗤われる程度であればまだいいが、教会による異端審問や【怨霊】の同類に出会う可能性など身の破滅に繋がる可能性は決して低くはない。
やはり、自分の突き詰める先にあるのはオリジナルの【魔法陣】構築だろう。もしかしたら一つの神を勧請して満足するのではなく、複数の神々を同時に勧請し、互いに連携させながら広範囲に影響を及ぼすような高度な【魔法陣】。
『そういえば、母様に無理矢理覚えさせられた戦略級の攻撃魔法も複数の魔法を時間差で連携させて発動させるような【魔法陣】であったよな。そちらに手を広げてみるのもよいかもしれない』
まぁ、これも実は母ジョヴァンナの暴走に振り回された成果ではあるが、とジャンフランコは自嘲しつつ、まずは「八百万の神々」を神測で取り込むことに注力するのだった。
ガイドブックは読むけど、あくまで指南書としてですね。
大きな方針を決めるのは自分自身であると。
今回の新要素:
特になし
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