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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はビジネスの世界への入り口でもある

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会議室で起きる事件(会議室で起こらないと誰が言った?)

今回、舞台は会議室オンリーです。

 王立騎士団長との会談が終了すると、着替えのために一度スフォルツァ邸に立ち寄ってメディギーニ商会に向かう。


 到着するとそのまま会議室に通されるが、そこは戦場に変わっていた。

 黒板には先の会合での記録、具体的には大まかな注文内容であったり、訪問日時の予約、面会依頼、といったものがズラリと貼りだされていた。


 また、対応しきれずメディギーニの名刺だけを持ち帰った客からの面会依頼の手紙も徐々に届き始めており、それらも同じように貼りだされている。


 これらを仕分け、具体的な行動計画に落とし込んでいく作業を行うのだが、判断ができる人間がメディギーニ一人であったため、作業は遅々として進んでいない。

 見かねたジョヴァンナが書類の整理に介入していく。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 誰もこのような大量のアポイントメント依頼を捌いた経験をもたないため、誰もがどの依頼を優先するのか、どのように順序付けするのかわからず途方に暮れていた。それでも少しでも整理を進めようという気持ちだけが先走って、結果わいわいと騒ぐだけで一向に整理が進んでいない。


 そこへジョヴァンナが介入して最初にやったことは、「後回しにするもの」の峻別である。


 ・ 業務提携の申込みは全部お断り。

  遺跡探索者、研究者、魔石関係者など敵になりそうな相手は特に。

 ・ 受託生産の申し入れも、基本新しいものはお断り。

  旧スフォルツァ辺境伯領出身の商会を優先する方針に変わりはない。

  ロンギ商会が体制を強化しており、そちらに任せるので十分と考えられている。

 ・ 壁の施工業者は何件か見繕っておいて市場の評判などを確認しておく。

 商談の際に紹介という形をとる。


 これだけで、整理しないといけない依頼の数は1/3程度になった。

 既得権益を守りたいだけの輩は害悪でしかないし、お零れにあずかるための小判鮫のオファーも不要。

 後者の中から優秀な者を厳選してビジネスパートナーとしての有用性を吟味してもよいが、優先順位を考えると後回しでよい。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「次は、商談のアポと面会依頼を片付けましょうか。貴族家の場合は家格、商会の場合は事業規模でふるい分けと優先順位付けをやってしまいますよ」

 黒板では貼り出した【先の会合の記録】の並べ替えが始まる。

 ある程度整理がつくと、貴族家についてはもう一つの視点、即ちスフォルツァ家の巻き返しに助力を頼めるかどうかという視点での評価が加わる。


 中には既に訪問の約束が整っている所もなかったわけではないが、それも有用性の評価を加味した優先順位付けの結果、どんどん再調整(リスケ)の対象に落とされていく。優先順位が決まったら、あとは優先順位に沿って面会依頼に対する日時のオファーを入れていくだけである。メディギーニの号令が出ると、商会員が一斉にオファーの手紙の作成にとりかかり、優先順位の高いところから順に使者に立っていく。


 前世のジャンフランコであれば、『メールがあればこんな面倒な手順もいらないし少人数でも日程調整くらい簡単なのに』と思うだろうが、さすがに6年近くこの世界で生きてきて、【使者を立てる】というこの世界の交渉手順(プロトコル)とスピード感に慣れてしまっている。


 商談の対応者は、原則ジョヴァンナとメディギーニに振り分けられており、特に貴族家の場合はジョヴァンナが対応の中心となる。アポが決まるとサポートする商会員のアサインのほか、興味を持っていた商材などの情報により持参するサンプルの選定なども同時に行われていく。


 将来上客となる見込みの高い高位の貴族家と裕福な商家についてアポイントの整理とスケジュール調整がひと段落着いたのは、夕食の時間の直前であった。


 そのまま、なし崩し的に夕食とセットの会議(ワーキングディナー)へとなだれ込む。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「次に議論したいのは発注をいただいた王立騎士団への対応です」

 優先順位の高くないアポイントメントよりも、確定している大口注文への対応を優先する。

【治癒】の魔道具八個、【解毒】三個、【疲労回復】五個といきなりの大口発注であるが、注文通りにすべて対応するのであれば魔石(大)八個と魔石(中)八個の調達が必要となることが解消すべき課題だ。


【光】属性の魔石は、照明の魔道具に使うような小さなものであれば入手は容易だが、少しでも大きなものになると途端に入手難度が高くなる。もしかしたら、ローレ教室で治癒の魔道具が切り刻まれていたのも、乱暴に【光】属性の魔石を取り出した結果だったのかもしれない。


「それだけの【光】属性の魔石を調達するのは大事(おおごと)ですな」工房側の責任者として呼ばれていたシュナウツァーが腕組みをして悩む。「ほかの属性であればいくらでも調整できるんだがなぁ」


 ジャンフランコが自作した魔石を使うことも考えたが、これは当分の間は表に出さないと決めている。

 特に今回は納品先が王立騎士団であるため、出所を詮索されるような新技術は余計に伏せておきたい。


「これが【火】とか【土】とかありふれた魔石に【光】属性の魔力が充填出来たら話は楽なんだがね」シュナウツァーの呟きにジャンフランコが反応する。

『ん?そういえば異なる属性の魔力は魔石に充填できないって思いこんでるけど、単なる思い込みの可能性はない?』

 スープのよそわれた皿を少しどかすと、羊皮紙と魔力のインクを取り出して 【神測(デジタイズ)】【具現化(プリントアウト)】を発動し、魔力を魔石から吸い出し充填する【魔法陣】を描く。「幻の書庫」由来の魔力を充填・解放する【魔法陣】の一部を抜き書きするだけだから簡単だ。


「ねぇ、誰か適当に魔力の減った魔石もってきてくれな…あれ?」

 皆がジャンフランコの手元に注目して固まっている。

「僕の神具と天恵(スキル)については以前説明したと思っていたのだけれど…」

「説明は受けていましたが、実際に目の前で見せられるまでは半信半疑だったのです。ですが、やはり目の前で【魔法陣】が描かれていくのを拝見すると驚かざるを得ませんな」シビエロ侯爵が皆の意見を代弁してくれたようだ。どうやら、皆の注目する前で天恵(スキル)を使って【魔法陣】を描くというのは少々迂闊(うかつ)であったようだ。


 そのうちに、呆然自失(フリーズ)状態から復帰したメディギーニが会議室を出て商会員に声を掛け、やがて大ぶりの【火】属性、【水】属性、【土】属性の魔石を持ってきてくれる。どれも空になりかけていて、通常であれば魔石に魔力を充填する天恵(スキル)もちにそれぞれの属性の魔力の充填を依頼するものだ。


「それでは」ジャンフランコが土属性の魔石を手に取って【魔法陣】の上に乗せる。

 【魔法陣】に魔力を流すと、【魔法陣】の上にもやもやとしたものが浮かび始めるが、それはすぐに終わり魔石は石英の塊に戻っている。これは魔石が完全に空になった状態だ。

 もやもやとしたものは魔石に残っていた魔力であり、うっすらと【土】属性の貴色である黄色を帯びている。

「うん。完全に空になったね。この抜き出した魔力はもったいないから物質化させといて、と」左手をもやもやに当てるともやもやが吸い込まれ、代わりに右手からサラサラと無色透明の粉が出て来る。

 もう何も言う気力もなくなったのか、メディギーニが黙って部屋を出て、小ぶりの空き瓶を持って戻ってきてジャンフランコに渡す。

「ありがとうございます。これはまた何かに使えますので…ってあれ?」


「ジャンフランコ様。皆さまもはや突っ込む気力も失われているのだと思います」

「ジジよ。もうこの場で見聞きしたことは他言無用とするので好きなようにやってよいぞ」ジャンフランコの迂闊さには、フレデリカもジョヴァンナも呆れているということだろう。


「では気を取り直して、と。ここからが本番です」

 魔石を置いたままの【魔法陣】の反対側から、今度は【光】属性の魔力を流し込んでいく。

 これはジョヴァンナの特訓の成果なのだが、安定して大量の魔力が流せるために、あっという間に魔石は一杯になってしまう。先ほどまで【土】属性だった魔石は、今や白銀に輝く【光】属性の魔石に変わっている。

「【土】属性の魔石が【光】属性に…」

「え。こんなに早くもう魔石が魔力で一杯になったのですか?」

「【光】属性の魔石を調達しなくて済むのは助かるがなぁ」

 会議室にいる面々が次々と驚きを口にする。


「あの、どなたか昨日展示していた魔道具を持ってきてもらえますか?」

 フレデリカが席を立ち、ジャンフランコの席に【治癒】の魔道具を持ってくる。

 ジャンフランコは魔道具にセットされていた魔石を外し、先ほど【光】属性の魔力を充填した、「元【土】属性の」魔石をセットする。


「では、ちゃんと魔道具を動かせるか試しますね」

 ジャンフランコがポケットからナイフを取り出すと自分の左手の人差し指を傷つける。そのまま魔道具を発動すると、彼の指がほんのりと光を帯び、光が消えるとそこには傷一つない指が現れる。ジャンフランコの自傷行為の痕跡はナプキンの上に滴った数滴の血だけだ。


「このとおり、【光】属性の魔石として問題なく使えますね。属性は何でもいいので大きさだけ揃えて空の魔石を調達してもらえれば王立騎士団向けの魔道具の準備にはそれほど時間かからなさそうです。これで万事解決で…す…ね」

 流石に空気の変化を感じ取って語尾の方は小声に変わっている。


 誰もジャンフランコの検証を見ていない。いや、見えてはいるのだろうが、彼らの頭は別の心配事に占拠されている。

「俺の勘違いじゃなきゃ、今、一つの市場が崩壊した瞬間を見た気がするんだが」

「これは、絶対に公表しちゃならない。倒れる商会は一つや二つじゃないし、職を失う人間が何人出るか分からん」

 魔石の調達や充填に関わる商会やその従業員は無視できるほど少なくはない。


 ジョヴァンナがパンパンと手を叩き皆の注目を集める。

「はいはい。この話題は終わりです。さっきジジが作った【魔法陣】があれば魔石の調達にも目途がつきましょう。属性は問わないので必要な数の魔石を揃えてください。余事はこの後の打合せが終わってからです!」まったく、他所の商会の心配など後回しでよいのです、という呟きがきこえる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 王立騎士団の注文に目途が付いたら、受注してからの動きについて確認を進める。


 壁材の場合は、必要な壁材のスペックが分かり次第、素材の生産委託の発注をロンギ商会へまわす。

 ロンギ商会は納期の見積もりを返すと同時に壁材の生産に着手する。


 ジャンフランコは学業があるために基本的な工房の稼働はシュナウツァー工房に任せることにする。

 このため、量産の効く【壁のコントロールユニット】(魔石をセットして魔力を供給するユニット)や、【シーリングライト】【卓上電気スタンド】【書架の照明】などは予め魔道具にセットする【魔法陣】を用意しておいて、あとは職人に任せることにしている。


 壁材に【魔法陣】を描くのはジャンフランコが個別対応せざるを得ず、魔石への魔力充填も同じである。

 後者については、魔石から魔石へ魔力を移す【魔法陣】をジャンフランコが書き出して魔道具にするなどすれば、一部は解決の目処が立ちそうではある。


 残るは、先ほど後回しにしたアポイントメント調整の続き、ということでジャンフランコとフレデリカはお役御免となる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 スフォルツァ邸に戻ろうとしたジャンフランコとフレデリカを、シュナウツァーが呼び止める。


「一つ聞いていいか?さっきのは【光】属性だったけど、充填する属性は何でもいいのか?」

「と、言いますと?」

「例えば魔力を充填すれば【闇】属性の魔石にもできるんじゃねぇか?」

「ジャンフランコ様...もう隠すのは諦めなさいませ」

 シュナウツァーの追及にタジタジとなるジャンフランコに、フレデリカが助け舟を出そうとして...結局突き放す。

「その話は場所を変えてしませんか」


 ジャンフランコとフレデリカはシュナウツァーを伴い工房へ向かうことになった。

事件…というよりはジャンフランコ君のやらかしでしたね。


今回の新要素:

・ 魔石は完全に空になれば違う属性の魔力でも充填できる。

 (魔石に関する市場は再編待ったなしですね)


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初めての作品投稿です。


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