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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はビジネスの世界への入り口でもある

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騎士団長との商談と会談

ようやく50話目です。

少しだけ新展開の匂いがするお話になります。

 朝一番で立てた使者は、「本日正午前。騎士団長執務室にてお待ちする」という簡潔な文面の手紙を持参して帰ってきた。


 時間もそれほど残ってなく急いで身支度するのだが、ジャンフランコは自分のために用意された衣装に驚いた。商家の集まりなどのために用意された衣装に加えて、明らかに上質な生地に金糸の縁取りが施された上衣が用意され、まるで貴族の子弟のような装いである。

 フレデリカは逆にシンプルで動きやすさ重視のシャツとパンツにゆったりとしたジャケットで、これは本気の護衛任務の時の装いである。


 最後に姿を現したジョヴァンナはいつもの商家の婦人然とした装いではなく、装飾過多にも見える豪奢なドレス姿である。貴族相手の商談であることを計算に入れても商人には超えてはいけない一線というものがあり、通常は相手より豪華な衣装とならないよう配慮するものである。それが、今日のジョヴァンナの衣装には一切の遠慮がない。相手が王族であるならようやくギリギリ「不敬とならないよう配慮している」と言えなくもないレベルである。


「母様、今日は商談に招かれたのではないのですか?」

「もちろん商談もありますが、本日は相手が相手ですので商談以外もあると心しておきなさい。今日の貴方はスフォルツァを名乗るべき場に招かれているのです」

 (いち)魔道具商としてではなく、亡国の貴族家当主とその子息として亡命先の国の騎士団長と話す場となると心せよ、ということだ。


 ふと気になったことについてジャンフランコは質問する。

「では、母様の天恵(スキル)については知られているという前提でのお話となりますね。僕の天恵(スキル)についてはどうすべきでしょうか」

「わたくしの天恵(スキル)も何も、旧ミルトンでのわたくしの所業まですべて知られていますよ。その上で招こうというのです」

 近接戦闘では杖の天恵もち(魔法使い)剣の天恵もち(騎士)に対して不利ですからイザとなったら抑え込めると思っているでしょうと説明した後に、ですが、と続ける。

「貴方の天恵(スキル)についてはなるべく伏せておきましょう。現在は身分を隠して神学校に通っていることを伝えればそれで察してくれるはずです」

「了解です。魔道具や【魔法陣】周りのことについてはどうしましょうか」

「今更ですが悩ましいですね。貴方が何か特別なことをしているとは感づかれているでしょうが、ひとまずは革新的な生産設備を入手できたとだけ説明して理解を求めましょう」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 馬車が騎士団本部に着くと、そこには数名の騎士が整列して待っていた。

 馬車の扉が開くと、騎士の中から一人が歩み出て馬車から出てくるジョヴァンナに手を差し伸べエスコートの形を取る。そのまま騎士の列にまで導くと、ジャンフランコとフレデリカが降りるのを待つ。

 今回はジャンフランコはエスコートするわけではなく、フレデリカが先に降り立ちジャンフランコを待つ。これはフレデリカが護衛優先で対応するときのスタイルだ。


 騎士が両側に並びジョヴァンナ達をガードする形をとると、そのまま建物の中に向かって歩き出す。

 廊下の奥の扉が開き奥の部屋に招き入れられると、両サイドの騎士たちは部屋の中と外に分かれて扉の両側を固める。


 招かれた時間から予想していた通り、昼食を兼ねた会談(ワーキングランチ)の用意がされている、

 ジョヴァンナをエスコートしてきた男性は彼女を席まで導くと、自分はテーブルを挟んだ反対側に着く。ジャンフランコが母親の隣に並びフレデリカがその後ろに立つと、騎士の一人がフレデリカにも席を勧める。

 フレデリカはジャンフランコに問い掛けるような視線を向け、ジャンフランコはそれに対し頷きを返す。

 この人数であれば何かあっても対応できるし、フレデリカが着席していても何とかなると判断していることが頷き一つで彼女にも伝わる。

 フレデリカがジャンフランコの隣に座り、ホストの男性の側にももう一人騎士が座ると、会談が始まる。


「本日は(いち)魔道具商に対して過分なお招きに預かり真に恐縮に存じます。メディギーニ商会の出資者であるジョヴァンナでございます」

 ジョヴァンナが『とりあえず商談を先に片付けましょう』と提案しているのがジャンフランコにもわかる。向かいの男性は苦笑交じりに「では、御家名抜きのお話から先に済ませますかな。当騎士団を預かっておりますグレーゴル・メービユスです」


 メービユス卿によると、王立騎士団では近年治癒術師の採用に苦慮しており仕方なく魔道具での代替を検討しているが、【治癒】の魔道具は遺跡探索を生業とする者や研究者の独占であるために、必要な数を揃えることもできず対応に苦慮していたという。そんな折、昨日の会合でメディギーニ商会が「価格応談」の札だけをつけて【治癒】の魔道具を並べていたのを見て驚いたのだそうだ。

『そんな希少な魔道具をゴミ同然にして放置してたローレ教室の罪深さときたら!』


『そう言えば、この人ショーケースの前で難しい顔をしてた人の一人だ』

「『価格応談』の札だけで『入荷時期未定』の札がかかっていないことが実に不思議でしてな。まるで価格が折り合えばいつでも売却できるかのようです」

「私どもとしては、もちろん納期のご相談はさせていただきますが、現実的な範囲であれば、お約束した納期に間に合うよう努めさせていただきます。昨日陳列していた魔道具であれば、概ねこのくらいのお値段を提示させていただいております」

 ジャンフランコが持ち歩いていたカバンから価格表を取り出して提示すると、メービユス卿が目を剥く。

「この値段でご提供とは、利益など全くないのではないですか?」

「今までどのようなお値段でお求めになっていたか存じませんが、近年光属性の魔石の値段も高騰しておりますので、今ですとこのくらいのお値段となっております」

 魔石の値段に三倍がけ、といったところか。ジャンフランコの場合、原価は魔石の調達コストくらいなので、完全にボロ儲けである。が、騎士団からすると信じられないくらいの破格値らしい。

『こっちは魔道具本体は量産できるからね。一品物の出土品とじゃ最初から勝負になる訳がない』


「いやいや、遺跡探索の連中ときたら、こちらの足元を見るのか治癒術師一人一年分の給金に相当するくらいの価格を平然と提示するのですよ。加えて、前金を要求するくせに入荷時期未定と(うそぶ)いていつまで経っても納品に来ないし、納品されたらされたで魔石の魔力がほとんど残ってないこともあったりと散々なのです」

「どういたしましょうか。魔石の値段も変動がございますし、ひとまずはこのお値段を前提にご入用の数を持ち帰り、後日納期とお値段のご提示をさせていただいて契約とするのがよろしいかと」

「それはありがたい。必要なら魔石の調達に騎士団からの口添えもさせていただくとしよう」

「それでは、こちらの基本合意書(MoU)をご一読いただき問題がなければご署名をいただきたく存じます」ジャンフランコがカバンから取り出した二枚の書類には、魔道具の売買については合意しており、条件等については別途協議し契約で明記するという内容が書かれ、予めジョヴァンナに加えてジャンフランコの名前も記載されサインも済ませてあった。「メディギーニ商会 出資者ジョヴァンナ / 同ジャンフランコ」と。


「あくまで商人としてのサインなのですな」そう嘆息したメービユス卿が自分のサインをして二枚あるMoUのうち一枚を返してくれる。契約書に準じた書類なので、双方サイン済みのものを両者が保持するのである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、ここからは国を代表する者としてお話をさせていただけますでしょうか」

 居住まいを直すメービユス卿に、ジョヴァンナも頷きを返す。

「それでは、わたくしもここからは亡国の臣、旧スフォルツァ辺境伯家当主ジョヴァンナ・スフォルツァとしてお話を伺いましょう」

 メービユス卿が一度目を伏せ、息を吐くと目を上げる。

「先の政変の折は何の助力も叶わず、一人心苦しい想いをしておりました。また、友であるロドリーゴにもあのような身の処し方をさせてしまい、我が身の力の無さには恥じ入るばかりでございます」

「もったいなきお言葉に御座います。メービユス卿におかれましては、当辺境伯領の者が越境してこのリモーネの地で新たに生活の場を築くことに随分とご尽力いただいたと伺っておりますよ」

 改めて御礼申し上げますとジョヴァンナが深々と頭を下げるのをメービユス卿が制止する。

 メービユス卿は父ロドリーゴの友人であり、彼の教会入り(出家)にも思うところがあったようだ。また、旧ミルトンから逃れてきた商家がリモーネで再起するにあたっても随分と便宜を図ってくれたらしい。


「その後のご消息を伺うこともできず悶々としていたところ、家臣団の皆様から助力の打診をいただき微力ながらお手伝いをさせていただいたに過ぎませんよ」

 それよりも、と続ける。

「昨日本当に偶然に元気なお姿を拝見し非常に嬉しく思いました。家臣団の皆様とも合流されただけでなく、この国にしっかりと根付いていらっしゃるご様子。そもそもあの会合に顔を出すのはこの国の名士として認められている証。よもや貴方のお顔をあの場で拝見するとは思いもよりませなんだ」

「あら、わたくしの運用する基金(ファンド)の規模はこの国の中でもちょっとしたものになっておりましてよ」

「そのようですね。更に、今度は魔道具業界に新しく嵐を巻き起こそうとされてらっしゃいますな」


「それはわたくしではございませんのよ」

 ジャンフランコに目線を移す。

「では、このお子様がロドリーゴの…」

「メービユス卿、その件についてはそれ以上触れられませぬよう。ジャンフランコ、ご挨拶なさい」

 ジャンフランコが立ち上がりメービユス卿に向かって一礼する。

「スフォルツァ辺境伯家当主ジョヴァンナが一子ジャンフランコと申します。当家家臣団の助力を受け、この国の魔道具市場に小さいながらも居場所を得ようと奮闘する者に御座います」

「昨日、少なからぬ数の貴族家が貴方の商品に涎を垂らしていたのを見た限りでは、そのように謙遜する必要は早晩無くなるのではないかな」


 視線をジャンフランコからジョヴァンナに移す。

(かつ)ての貴方が大勢の敵兵を一度に魔法でなぎ倒す姿に小職も胸のすく想いを抱いておりましたが、ご子息は魔道具で同じことをされるおつもりのようですな」

 ですが、と表情を変える。

「魔道具の商いで余計な敵を作るのはなるべく避けるようになさいませ。特にご子息が狙われる危険性は非常に高いと思われます。差し支えなければ護衛の騎士を派遣することもできますのでご検討下さい」

「ありがとうございます。ですが、フレデリカを始め十分な護衛を側に置くようにしておりますし、何より自分の身は自分で護れるように日々鍛えておりますのよ」


 これは失礼、と呟くと

「差し支えなければ国王に謁見する場を整えさせていただけませんでしょうか。隣国の情勢も日々動いている様子。国としての方針を検討するにあたり是非とも見識を伺いたいのです」

 ジョヴァンナは少し考えると、

「畏まりました。その折には是非ともこのジャンフランコも同伴させて下さいませ」と応える。


 その後は騎士団として欲しいと思っている魔道具や国境付近の情勢などについての雑談を楽しんだ後、挨拶を交わしてその場を辞する事となった。


「ジャンフランコ殿、当騎士団には魔道具に一家言ある者も何人かいてな、貴方さえ良ければその者共と語らう場を持って貰いたいものだ」

 最後に魅力的なお誘いを受けて、その日の会食はお開きである。

商談は順調すぎるくらい順調に終わりましたが、

ちょっと余計なオマケ(王室との謁見の予約)まで着いて来ちゃいました。


今週の新要素:

特になし


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初めての作品投稿です。


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