新商品企画会議
魔道具市場へのデビュー前夜
工房の建設から生産設備の搬入・設置まで終わらせてしまったジャンフランコであるが、まだ販路の確立や最初の商品ラインナップの決定は手付かずであった。
もっとも、シュナウツァー工房の地下に建設した自身の工房も、原価のほとんどがジャンフランコ自身の魔力であるし、生産設備も安価に購入した中古品を再生させたり魔改造したり、とそれ程大きな負担とはなっていない。ロンギ商会に支払った屋根材の生産委託費もあるため費用がゼロというわけではないが、あくまで一過性の初期投資でしかない。
何より、生産のために人を雇う必要がない工房であるため固定費が不要である一方、スイッチさえ入れれば太陽光だけで工房を動かせるので、商品が決まるまでの間はインクや樹脂といった原材料を生産することでも最低限の収益を生み出すことができる。
要は、焦って工房を早く稼働させる必要が皆無なため、ジャンフランコは好きなだけ商品ラインナップの企画や販路の開拓に時間を掛けられるのだ。
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「まだ海のものとも山のものともつかない商会ですもの。最初は確実にお金を落としてくれる少数のお客様をコツコツと開拓するのがいいのではないかしら。商会の名が知られる前に一般家庭向けに破格値で魔道具を売るなんて、最初から大量の敵を作ってしまう商いの仕方はお勧めできません」
まずは富裕層の固定客を掴み、徐々に知名度をあげていくのがいい、という母ジョヴァンナのアドバイスのおかげで、迷走しかけていたジャンフランコのビジネスは方向が定まりそうであった。
狙う顧客層が決まれば、商品の企画にも弾みがつくというものである。
ジャンフランコの強みは、まずは自由に魔道具をデザインして生産できることであり、これは基本的に遺跡から発掘された魔道具を売るしかない既存の商会にはできないビジネスであった。
もう一つの強みは、複製や量産ができない希少な魔道具を求められるがままにいくらでも供給できることであり、これはこれまで言い値で購入するしかなかった類の魔道具を定価で安定的に市場に提供するビジネスでもある。もっとも、こちらは魔道具を遺跡などから持ち帰る研究者たちから顧客を奪うことになり、少数とはいえ敵を作りそうなビジネスではある。
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ここは、スフォルツァ邸にあるジョヴァンナの執務室。
ジャンフランコ、ジョヴァンナ、ロドリーゴにフレデリカとメディギーニが加わっての商品企画のためのブレスト大会が進行中である。
「富裕層の心掴んで離さない商品として、こんなものを用意してみました」
プレゼンの一番手はジャンフランコである。
ブレストと言っても完全にゼロから議論を始めるのは非生産的である。前世での経験から、ジャンフランコは議論の入り口となるよう余剰資材を使ったサンプルをいくつか用意していた。これをキッカケに改善意見や新しいアイディアがどんどん出てきて、それを入り口に議論が活性化することが狙いである。
『まずは議論を発散させなきゃね』
手始めに、半透明の暗緑色の板と真っ黒に光る板をテーブルに並べてみる。暗緑色の方は純粋な木属性の塊であり、真っ黒な方は同じく土属性の塊である。
そのままでも軽量で頑丈な上に光沢のある高級素材として売り出すことはできるが、富裕層の心を掴むには魅力が不足している。
「例えば、こんな感じではどうでしょう?」
ジャンフランコは木属性の板の裏にその場で照明の【魔法陣】を描く。少し工夫して、板全体が光るように【魔法陣】を配置して、ジョヴァンナに手渡す。
「ここから魔力を流してみてください」ジャンフランコに指し示された場所から魔力を流すと、板全体が緑色に発光する。緑色の柔らかな光だ。
「これを壁材にしたら、柔らかい光で包まれた落ち着いた部屋ができそうですよ。敢えて光量を落として、柔らかい光に包まれた空間にすれば魔力の消費もそれ程大きくなくできるしね」
「板材の色を変えたいかなぁ。半透明で強靭な素材を色々な用意して、並べてご提案、なんて売り方はどうかしら」
「照明の魔道具の外装を工夫して見栄えのいいものにしようって試みが過去なかったわけじゃないけど、でも壁全体が灯りになる、というのはなかったよ」
【魔法陣】を好きに描けて隅から隅まで均一に光らせるのが、この商品の肝だ。
「では、これは候補の一つとして用意しときましょうか」
「光るだけじゃなくて、壁面を水が流れ続けるのとかどうだろう?」
「玄関やお客様をお迎えする空間に、なんて提案ができそうですね」
『金持ちアピールしたい会社の受付とかでよく見かけたよな、そういえば』
世界は変われど、見栄のために金を出す層というのはそれなりにいそうである。
「光る壁の応用で、机の天板が光るのはどうでしょう?」
「目が痛くならないかな?」
「淡い光の書見台とか…これも見栄を張る用途でしか売れなさそうですかね」
「それなら、書見台の上にかざす板状の照明はどうだい?暗い場所でも本がバッチリ読めそうだぞ」
楽しいブレストは続いたが、、その中から使えそうなアイディア幾つかに絞り込み、ジャンフランコがサンプルを用意することとなった。
「それで、と。既存の魔道具で品薄なのはどれだろうね」
「【治癒】の魔道具は外せないぜ。効果と魔石の大きさで、治癒師が使うものから、貴族や王室の騎士団に売れそうなものまで揃えとけば飛ぶように売れるはずだ」
一応用意しておいた、複数の【治癒】の魔道具を並べてみる。
魔石の大きさと治癒効果が連動しそうなのは何となく見た目で分かる。
「魔石のコストがネックかなあ。空になった光属性の魔石とかが安く手に入るといいのですけれど」
「シュナウツァー商会に相談してみるといいんじゃないか。あそこは今でも故障や魔力切れの魔道具の再生商売やってるからな」
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用意する商品について粗方の整理がついたら、あとはそれぞれの役割に応じて動き始める。
ジャンフランコとフレデリカは工房に移動して、魔道具のサンプルの準備にかかる。シュナウツァー工房での空の魔石についての相談も忘れない。
ジョヴァンナとメディギーニは「出資者の集い」の事務局との交渉である。
スケジュールと部屋の空き具合をチェックして、プレゼンとその後の潜在顧客との個別交渉の機会を設けられるよう、予定を確保していく。
ロドリーゴは、教会に戻って宣伝である。
協会関係者、特に司教や枢機卿といった上層部は、ほぼイコール富裕層でもある。「出資者の集い」のような場所に本人が直接赴くことは稀であっても、家人や使用人を参加させて情報収集や商品の買い付けを行うのは貴族や商人と同じである。
こうして、ジャンフランコが新しい商いに踏み出す準備が着々と進んでいく。
まだ学生の身なのでメディギーニ商会を隠れ蓑にする必要はあるが、誰にも真似できない魔道具を世に問うていくのである。
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今回の新要素:
なし…実際に売れる商品は何でしょう?次回以降をお楽しみに。
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