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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はビジネスの世界への入り口でもある

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門外不出と他言無用だらけの事業計画

ほかの商会が手を出せない領域で魔道具ビジネスに参入しようとしていますが…。

 ジャンフランコの立てた事業計画には、実は幾つかの穴があった。


 その一つは魔道具生産の場所である工房をどこに設置するか、である。


 最初に考えたのは、スフォルツァ邸内に作ってもらったジャンフランコ専用の魔道具工房である。

 だが、所詮は個人の魔道具研究のための工房であるため、非常に手狭であるし事業の拡大に合わせて拡張する余地がほとんどない。

 最悪なのは、ロドリーゴをはじめスフォルツァ邸に出入りする人間の何人かは「()()()()()()」邸を訪れており、その敷地内に原材料や製品の搬出入などで人の出入りを増やすことができない点である。


 次に考えられたのがメディギーニ商会であるが、ここはそもそも商品の販売を目的とした商会であるので、生産設備などを稼働させる場所を確保できない。せいぜいがインク製造のための小部屋止まりである。

 また、やはり旧スフォルツァ辺境伯領家臣団の隠れ蓑という商会の性格を考えると、魔道具生産のための従業員など関係者以外の人の出入りは少ないに越したことはない。


 では、生産委託をしているロンギ商会はどうか?

 ここの場合は首都から離れた立地が問題になった。

 学生であるジャンフランコが気軽に訪れることができない以上、管理も手薄になるし、契約で縛った上での生産委託がせいぜいである。


 残るはシュナウツァー商会である。

 郊外とはいえ首都に店を構える商会で工房もある。一見好条件に見えたが、現状の工房の取扱いは魔道具修理が主である。流石にシュナウツァーに今の商売を止めて新しい事業に乗り換えるよう強制するわけにもいかず、魔道具生産のための設備は新たに設けざるを得ないことを考えると、やはり敷地に余裕はなかった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ジャンフランコは解決方法として、結局シュナウツァー工房を選んだ。

 出資により実質的なオーナーはジョヴァンナ(とジャンフランコ)であったが、それでも、現行の工房には手を着けない方法を採る。

 では、どこに新事業のための生産設備を置くか。


 ジャンフランコが解決策として目を向けたのはシュナウツァー工房の敷地の下である。要は、地下に新たに空間を設けて生産設備を稼働させるための空間を作ったのである。


 ジャンフランコは【神測(デジタイズ)】【細密出力(ナノプリント)】〜立体的に生成(3Dプリンタ)する能力(アビ)〜を使い、かつて「魔道具の墓場」であった場所の地下に広大な地下五階分の空間を作り出す。原材料は元々その場所にあった土砂であり、以前【木】属性でやったのと同じように、片端(かたっぱし)から純粋な【土】属性の構造体に変えていく。

 水や生物の死骸など土砂に含まれた余分なものは地上に排出されていくが、純粋な【土】属性の成分だけが元々の土砂の何分の一かの体積に凝縮されると、壁も柱も天井も床も、純粋な【土】属性の高密度で強靭な素材で形成された、継ぎ目なく一体成型された箱状の構造物になって地下五階建ての空間を支える。


 基本的な構造が出来上がると、ジャンフランコは地上から地下五階まで貫く吹き抜けを穿(うが)ち、その周囲に人の出入りや原料・商品の搬出入、生産設備の搬入のための螺旋状の通路を設ける。


 最後に螺旋通路の地上出口部分を覆うように、屋根と出入り口のついた建屋を設けて完成である。


 まずはメディギーニ商会に持ち込んでいたインクの魔道具の複製が数台、地下五階に持ち込まれる。ジャンフランコ手製の【木】属性の樹脂を作り基板に成形する魔道具も同じように地下五階に設置された。


 あとは、【魔法陣】を転写する魔道具の魔改造が終わればゴールは見えたようなもの、とジャンフランコは考えていた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 だが、ジャンフランコはもう一つの課題をクリアしなければならない。


 ジャンフランコの事業計画の穴その二である。


 魔道具生産のための魔道具を稼働させるためには、いずれもそれなりに大きな魔力の持主が必要であったが、シュナウツァーとジャンフランコの出会いのきっかけとなった魔法インクの事例を考えても、必要なだけの魔力持ちを雇用するのは容易ではないことがわかる。


 その解決のためには幾つかの壁を突破(ブレイクスルー)する必要があった。


 魔力を供給する人を雇用するのが難しいなら、他の手段で魔力供給の問題を解決するしかない。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔力供給の問題を解決するための種は、既にジャンフランコの手によって各方面に撒かれていた。


 まずは、ロンギ商会に発注していた屋根材の納入が開始されていた。


 概念実証(PoC)を兼ねて五枚ほどの素材に礼拝堂の屋根材に描かれていた【魔法陣】を転写すると、日中の太陽の下に持ち出し、想定通りの稼働、即ち魔力を生み出す屋根材として十分機能することを確認できた。


 一方、トレレス商会から買い取った古い魔道具を動かすための【魔法陣】がジャンフランコの手で改良され、何度かの試行錯誤を経て精細な【魔法陣】を転写する魔導具として完成する。


 概念実証(PoC)の成功を確認すると、生産用の魔道具の基板上に屋根材の【魔法陣】が描き出され、古ぼけた魔道具の筐体にセットされる。見た目はボロだが、いまだかつてない精細度で【魔法陣】を転写する魔道具の完成である。新しい魔道具の稼働試験として、更に十枚程の屋根材が生産され、試験の結果、いずれも問題なく機能することが確認できた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 全部で十五枚の太陽光を魔力に変換する屋根材は、地下工房の地上建屋の屋根の上。東〜南〜西に面したところに設置され、そこから壁伝いに地下一階の一角まで魔力を伝える配線が伸ばされる。


 これがまずはブレイクスルーの1つ目である。

 屋根に降り注ぐ日光を魔力の供給源にする目処は立った。


 そして、地下一階の一角には小部屋が一つ設けられ、そこには「幻の書庫」で見つけた幾つかの【魔法陣】が設置される。日光から得られた魔力を魔道具に流すための技術の確立の目星はついていたが、それを具体化する。


 これがブレイクスルーの二つ目である。


「幻の書庫」で見つけた【魔法陣】は、それぞれ次のように実装された。

[1] 流れてきた魔力を属性別に分ける【魔法陣】

 屋根材で生み出された魔力は七種の属性の魔力が混在するものであり、それを魔道具を稼働させられるように属性別に分ける【魔法陣】である。これは「幻の書庫」で見つけた【魔法陣】そのままを基板に転写して完成である。

[2] 余剰魔力を魔石に貯め、必要に応じて魔力を放出させる【魔法陣】

 これも基本はお手本にした【魔法陣】そのままであったが、魔石を着け外しする口を設け、空の魔石に魔力を充填する【魔法陣】としての機能の追加を行った。

[3] 安定供給回路

 これは、大容量の魔力にも耐えられる強靭(ロバスト)性を持ったお手本をそのまま基板に転写した。回路としてはどの魔道具にも大抵備わる一般的なものであったが、その先にある魔道具を安定稼働させる上で要になる【魔法陣】である。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 小部屋は「配()板室」と表札を掲げられ、厳重に施錠と入退室管理がされるようになった。

 それは、そこに設置された【魔法陣】がとてつもない価値を生み出すものであったためである。


 魔石への魔力の充填は、それぞれの属性に応じた天恵(スキル)持ちにしかできない仕事であり、更には【闇】属性の魔石に魔力を充填できる天恵(スキル)持ちは確認されていない。これが高価であるはずの【闇】属性の魔道具が使い捨てにされる原因であったのだが、そんな事情をまったく無視して七属性すべての魔石に魔力を充填できるのである。


 これは当面の間、関係者の中でもジャンフランコとフレデリカの二名にしか共有されない知見である。

「ねえ、コレって誰になら話しても大丈夫かなぁ」

「充填済の【闇】の魔石を売るだけで巨万の富を得られそうですよ!」

「ああ、フレデリカもダメだったか」目が$¢¥マークになってるよ。

「ひとまず、このことは絶対に他言無用だからね!君ですらそんなじゃ、あの人(ジョヴァンナ)あの人(ロドリーゴ)あの人(メディギーニ)も、空の魔石持ってドアの前に列を作りそうじゃないか」

「…かしこまりました」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 最後に魔力を充填する先の魔石である。


 最初は、使用済みを含めた天然の魔石を使う予定であったが、実際に使ってみるとすぐに魔力で一杯となってしまい、余剰魔力を貯める器としては全く不足であった。


 そこで、純粋な属性だけで出来上がった素材が魔石としても大容量・高出力の魔石としても使えることに着目し、ひとまず【木】属性の素材由来の魔石に色々な魔力を充填する実験を行った。

 結果はというと大失敗であったが別の大発見に繋がるものであった。


【木】属性の魔力は同じ属性だけに無尽蔵に貯蔵できそうであったが、【火】属性の魔力は魔石そのものに引火して無理。そこまでは概ね予想通りだったが、次に【土】属性の魔力を流し込むと、今度は魔石から魔力を取り出すことができなかった。魔石の色も【木】属性由来の濃緑色から無色の半透明に変わっている。


 できあがったものを神測(デジタイズ)で詳細に調べてみると、元々の【木】属性と流し込んだ【土】属性の魔力、それぞれが純粋な魔力であったためか、両者が分かち難く固く結合してしまっていた事がわかったのである。これがまた安定していて何をしても影響を受けない素材で、高温の炎に曝しても焼けず、極低温に曝しても脆くならず、傷がつきにくいというとんでもない素材だった。前世で言うところのシリコンカーバイド(SiC)である。


 これを試しに微細な格子状の構造体として作り出したところ、構造体の隙間に七属性いずれの魔力であっても大量に保持できる超高エネルギー密度の魔石が爆誕した。これは、流石にジャンフランコの神測(デジタイズ)以外には作り得ない特別な魔石である。


 これを「幻の書庫」由来の魔法陣に接続することで、一度魔力を充填すると長期間連続稼働できる電源、いや、ここは()源回路と言うべきか、が爆誕したのである。


 ジャンフランコは、この地下工房を支える技術そのものが、実は最も高付加価値の商品になりえることに気がついたが、そのインパクトが大きすぎて影響を読みきれないことに戦慄した。さらに、【闇】属性の魔石や魔石に魔力を充填できる魔法陣など、売り出せば確実に既存の市場を木っ端微塵(こっぱみじん)に破壊しかねない代物ばかりである。


 下手をすると、勢いと思いつきで構築してしまったこの地下工房を構成する【魔法陣】やら魔石やらを切り売りするだけて、コツコツ魔道具を生産して販売するよりも高収益が見込めそうというのは、自分でも何をやっているのかわからなくなった。

『事業計画って、一体なんだったんだろう?』門外不出の素材や【魔法陣】、他言無用の技術がテンコ盛りで、関係者に共有する事業計画ですら墨塗りや穴開きだらけでまともに読めない代物になってしまっている。


「くそっ!こうなったら高付加価値の魔道具ガンガン企画してボロ儲けしてやる!」

「〇〇の問題はチート技術で解決します。」なんて書かれた事業計画書なんて、誰にも信用されませんよね。


今回の新要素:


・ 3Dプリントで建てられた地下五階建ての工房

・ 微細な魔法陣を転写できる魔道具

・ 魔力を属性別に分ける魔法陣

・ 魔力を自由に充填・解放できる魔法陣

・ 新素材の魔石(大エネルギー密度・高出力)


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初めての作品投稿です。


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