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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はビジネスの世界への入り口でもある

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事業拡張に向けたあれやこれや

そろそろインク以外の商材が欲しくなってきました。

 ローレ先生からお招きのあった日の次の週末。


 連絡を受けて、ジャンフランコはフレデリカとメディギーニ、そしてアンジェロを伴ってシュナウツァー工房を訪れていた。護衛任務などはフレデリカとメディギーニで事足りるのだが、メディギーニたっての希望で彼の息子であるアンジェロも同行させている。

 経験を積ませ社会勉強をさせるほかに顔つなぎの意図もあるらしい。


 ローレ教室の「魔道具の墓場」から救出した(外装などの見た目は無残な)魔道具が搬入され、かつてこちらの工房で「墓場」と呼ばれていた場所に並べられていた。もっとも、今は天幕(テント)が張られた下に魔道具が並ぶため、遺跡の発掘現場のような趣である。


 その中をジャンフランコが歩き回り、神測(デジタイズ)を使って魔道具の種類を判別して回る。その後ろをアンジェロが付いて行く。ジャンフランコの判別結果を聞いて、それをメモした紙を魔道具の上に置いていくのが彼の役目だ。

 結果から言うと、魔道具の数はそれなりにあったものの、ほとんどを【治癒】と【解呪】の魔道具が占めていた。

 ちなみにジャンフランコの【看破】の魔道具も同じ魔道具の山から入手したものだったが、【看破】は、どうやらジャンフランコが拾い上げた一つだけだったようである。【治癒】と【解呪】の魔道具だらけの判別結果を見てメディギーニが何事かを考え始めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「若様、この魔道具の使い道は考えられているのかい?」

「いや、ひとまずローレ教室の酷い扱いから救出するのが目的でしたからね。今のところは特に何も。ひとまずは外装をそれなりにした上で市場に流すのかなぁ」

「それであれば是非とも考えてほしいんだが、この魔道具を使える状態にした上でコルソ・マルケ砦に送るのはどうだろうか。今は砦の周辺も膠着状態だが、またいつ共和国政府や周囲の軍閥との間で戦になるか分からん。一方で、【治癒】を使える術者はいつだって不足してる。代わり、といっちゃ何だが、これくらいの数の魔道具が揃ってりゃ砦を支える連中の安心感は大きく変わるんだ」

 それに、と付け加える。

「戦が落ち着いたおかげか、砦の周囲に住み着く人間も増えてきてな。そいつらに安心して暮らしてもらうためにも、治癒の魔道具が手に入るならそれに越したことはない」


「外装もそこそこでいいならお安くできるぜ」ふいに後ろからシュナウツァーが声を掛ける。「ただ、【光】属性の魔石をこれだけの数揃えるのはそれなりに骨でな」


「魔石の代わりに人間が魔力を注いで魔法を発動できるように改造するのはどうでしょう?」とジャンフランコが提案する。「それなら、騎士でも【光】属性さえ持ってれば魔道具を動かせるけど」


「いずれにしろ、今すぐのことにはならないと思うし、この魔道具はメディギーニ商会で預かっておいてもらっていいですか」メディギーニの承諾をもらうと、シュナウツァーに頼んで再度梱包してもらう。一つ一つ布で包み直して木箱に入れる作業だが、工房から何人も職人が出てきてあっという間に終わらせてしまった。


「そういえば、その後ローレ教室はどうなってました?」

 まだ遺跡探索を諦めてないのだろうか?

「こいつを引き取った時にはまだ怪我人だらけでとてもじゃないけど『次』なんて考えてられなそうだったけどね」先ほど梱包した木箱を指さす。


 今日この後、傷物になっていない魔道具の取引だそうで、その時に様子を見てきてくれると約束してくれた。


 魔道具を詰めた木箱を馬車に積み込んでもらうと、一旦メディギーニ商会へ移動し木箱を降ろす。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 早目の昼食を手早く済ませると、再び馬車に乗ってトレレス商会へ向かう。

 インク転売ヤー事件以来、メディギーニ商会とも取引関係ができた生活魔道具の最大手だ。事前にメディギーニが約束を取りつけてくれていたおかげで今日は魔道具生産の現場を見せてもらえることになっている。


 取引をそれなりに重ねているためメディギーニの顔も知られており、特に誰何(すいか)されることもなく横に商会員が付き、商人同士の気安い挨拶を交わすと魔道具生産の現場に案内される。ジャンフランコ・フレデリカ・アンジェロの三名はメディギーニの同行者扱いであるため、特に名乗ることもしない。


 魔道具生産の工程は単純化すると、【基板の成形】【魔法陣の転写】【魔石の取付】【外装の取付】に大別される。どの工程も微細な塵や埃の侵入を嫌うため、透明な魔石でできた窓越しの見学になってしまう。中で立ち働くのも全身白衣を着た職人達なので、ジャンフランコは前世の知識から「クリーンルーム」という呼称を思い出す。


 一通りの見学が終わったら、応接間に案内されて商談だ。メディギーニからは今回訪問の趣旨を「魔道具生産ビジネスへの参入検討のための情報収集」と事前に伝えていたため、商談も中古の魔道具の譲渡に関することが中心となる。生産工程の中に人間の手だけでは足りない工程があるため、生産のための魔道具を揃えることが事業立ち上げのためには必須となる。


 今回の見学も、生産設備(魔道具)の刷新を図ったトレレス商会から、旧式となった魔道具の譲渡の打診があったことから始まっている。何でも新しく発掘されて市場で売り出された魔道具は【魔法陣】を基板に転写する所要時間が格段に短縮されたのだとか。トレレス商会は新しい魔道具を入手し、今まで魔道具の生産に使われていた魔道具はお払い箱となる。


 生産設備である以上、魔道具が旧式になったからといって廃棄するのではなく、手元不如意(ふにょい)あるいは最新型を入手する伝手を持たないために魔道具を入手できない商会に格安で譲渡するなどして少しでも投資を回収しようとするのは異世界であっても同じであった。


 今回、メディギーニ商会を隠れ蓑にジャンフランコが求めるのは【魔法陣】を基板に転写するための魔道具である。基本的に魔改造が前提のため、動作さえするのならば状態の良し悪しは二の次であり、並べられた魔道具の中でも一番古びたものを格安で譲って貰うことで契約が成立した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 帰りの馬車の中では恍惚の表情で魔道具を撫でまわす(ように見える)ジャンフランコと、少し引き気味で眺めるフレデリカ、といういつもの光景が展開されていた。

 目論見通りに改造できれば、「遺跡から貴族の屋敷へ直行する」クオリティの魔道具を量産できるようになるはずだ。それは魔道具を生産・販売する商会にとっては完全な新規開拓市場(ブルーオーシャン)であり、価格設定次第では敷居を下げて高機能の魔道具の普及を促進することも、遺跡発掘専門の学者たちの顧客を奪うことも望みのままである。


 ジャンフランコの頭の中では、既に新事業の収益計画(捕らぬ狸の皮算用)が出来上がりつつあった。

今回の新要素:


・ 特になし(強いて言うなら魔改造の素材になる中古の魔道具)


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