ローレ教諭の魔道具教室
変人の魔道具専門家にお誘いを受けていたのでした。
約束を果たすために教室を訪問しますが…
「こんにちは。今日この時間に、ということで先生のお招きをいただいているのですが」
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ジャンフランコは、ローレ先生からの出頭命令に応じるため、フレデリカを伴って地図に描かれた教室を目指していた。
「地図によれば、このあたりのはずなんだけれど」
地図を信じるならば、1年生の教室から向かう場合は教諭たちの研究室の並ぶ棟を横に見ながら進むと、一番奥側に独立した建物が建っているのが見えるはずで、そこがローレ教室らしい。
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その建物は、手書きの地図から想像するよりもずっと、教諭たちの研究室棟から離れた場所に建っていた。さらに言うならば、教諭の研究室、というイメージからはほど遠く、壁には焦げ跡や穴が空いたのを板でふさいだような場所が何か所もあるのが見える。
更に、その敷地には別の場所で見たことのある光景が広がっていた。
魔道具の成れの果てが積み上がったような場所。そう、魔道具の墓場である。
建物の周囲には上級生と思しき薄汚れたローブを纏った学生が数人たむろしており、これも研究室というよりは場末の工房のような雰囲気だ。
「こんにちは。今日この時間に、ということで先生のお招きをいただいているのですが」
学生たちのうち何人かがこちらを振り向き対応してくれそうな雰囲気ではあるが、「ローレ先生?」「誰か知ってる?」と実際に案内してくれそうな人は一人もいなさそうだ。
「ああ、君、魔道具コースは人気なのに何でこんな場末の教室なんだろう?って顔をしているね」
「人気なのは同じ魔道具コースでも、もう一人の先生の教室の方だね。裕福な商会とのお付き合いも多くて寄附金もたくさん集まるらしいし、魔道具工房への就職にも有利ってことで学生にも人気なんだそうだよ」
こっちの教室に来てるのは、ローレ先生に騙されて入った人か、それかローレ先生と行動を共にしたい変わり者だけだよ、と付け加える。
一年生は珍しいのか学生たちが集まってくるが、その中に事情を知る者がいたようだ。「先生なら、週末に遺跡に潜るって言って出て行って、そのまま帰ってきてないのだけれど。でも、人と約束をしてもすっぽかすのは珍しいことではないから、待ってればそのうち帰ってくると思うよ」
『それは人としてどうなんだろう?時間指定をして人を呼び出してすっぽかすなんて』
『これは待っていても望み薄かな』と帰ろうとしたところで、女性の上級生に呼び止められる。
「もしかしてジャンフランコ君とフレデリカ嬢かしら?わたくしがローレ先生からお二人のことを承っています」
八年生のアルミーネと名乗った彼女は、着ているローブも清潔感があり髪もかっちりとまとめられているため、学生というよりかは「できる秘書」のような雰囲気だ。
「昼食をご一緒する、と言われているのでしょう?お腹も空いているでしょうし、ひとまず中にお入りなさいな」
玄関から中に招き入れられると、外見から想像するよりは小綺麗な印象の廊下が続き、その奥のダイニングルームに案内される。
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「あなた達のことは先生から仰せつかっております。わたくしで申し訳ございませんが、お話をさせてくださいませね」
「外の学生から聞いたかもしれないけれど、この教室は魔道具工房への就職に有利、みたいな上品な教室ではございませんよ。ボルツァ枢機卿猊下に紹介状を頼まれたということを伺っておりますけれど、就職を有利にしたい、という意図でしたらお相手を間違っておりましてよ」
「いえいえ、そのような意図がある訳ではございません。魔道具の謎を紐解いていた時に壁に突き当たりまして、どなたかに師事できないかと願っている時に、人伝でご紹介をいただいていたのです」
「まぁ、まるで謎の答えは既に見つけたような受け答えではありませんか」
「いえいえ、浅学の若輩者をからかうのはおよし下さい。今も新しい魔道具との出会いと新しい発見を心待ちにしております」
「あら、それであれば当教室にお招きしても良い働きを期待できるのかしら。当教室では教諭自らが年中魔道具を求めて遺跡に潜られてるし、必要なら高価な魔道具も平気で分解することもしょっちゅうよ」もう一つの教室からは『狂気の沙汰』呼ばわりされることも多いのよ、と笑う。
「中には魔石研究を頑張る生徒もいますし、お上品に魔道具を撫で回すのを目指すのでなければ、当教室に出入りいただくといろいろと発見があるかもしれませんね」
「【魔法陣】の研究をされている方もいらっしゃるのですか?」
まぁ、とアルミーネが驚いた顔になる。
「貴方、その歳で相当深みに嵌っていますわね。当教室にも何人かおりますが、成果に結びつけた者はまだおりませんのよ。【魔法陣】自体が複雑すぎて、お手上げ、というところかしら」
「この教室は、実は魔道具を見つけるための遺跡探索の研究が一番進んでるのよ」
わたくしの専攻もそれ、と付け加える。
「発掘した魔導具はどうするのです?」
「綺麗なのはお貴族様に流すけれど、大抵は教室内の物好きに切り刻まれて墓場行きかな?あなたもそんな物好きの仲間入りをするのかしら?」
「そうですね。今は壊れた生活魔道具を直すことに挑んでおります。実はとある魔道具修理の工房に知己を得て修行させていただいています」
『教諭ご本人とは会えずじまいだし、代理の人と話す当たり障りのない話題としては、そんなとこくらいだろうね』
「ランチも終わってしまいますわね。一生懸命間をもたせたつもりでしたけど、先生も帰ってこなくて、碌なおもてなしもできずごめんなさい」
「もし少しお時間をいただけるのであれば、帰りに魔道具の墓場を拝見してもよろしいでしょうか?」
『何か新発見があるかもと多少は期待して足を運んでみたものの、興味を持てそうなのはそれくらいしかなさそうだよ』
「そのようなものでよろしければ、ご案内いたしますよ」
物好きですね、と聞こえたような気もする。
アルミーネが席を立ち、そのまま魔道具の墓場までジャンフランコとフレデリカを案内する。
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墓場で一番上に積まれていた魔道具を手に取ったジャンフランコは魔道具の状態に驚いた。外装は素人が切り刻んだように傷だらけのボロボロだが、中身は高度な【魔法陣】が描かれた貴族に献上されるような、要は高品質の魔道具のように見える。外装からはみ出して見える【魔法陣】の細やかさが違う。
『これもだ』『これも、これも』
手に取る魔道具という魔道具全てが乱暴に外装を剥がされた高品質の魔道具なのだ。
『この教室の連中は魔道具の扱いを知らなすぎるんじゃないか?救い出してあげないと魔道具が可愛そうだよ』
「気に入ったのなら、二つ三つ持って帰りますか?どうせゴミのように積んであるだけですから」
「お許しを得られるのであれば是非。遠慮せずいただいていきます」
『この教室の連中は、魔道具を遺跡探検のトロフィーくらいにしか思ってないのかな。こんな酷い目に遭わせるくらいなら遺跡に残してくればよいのに』
せめてもの救いになれば、と持ち帰る魔道具を物色していると、ボロボロの服を纏ったローレ先生の姿が目に入る。
「おお、君たちはジャンフランコ君とそれとフレデリカ嬢だったか」
「ローレ先生。本日はお招きに預かりありがとうございました」
「先生、ランチは終わりましたが、お二人のお時間をもう少しいただきましょうか?」
「いや、私もすぐに遺跡に戻らねばならん。遺跡でとある魔道具を見つけたのだが、持ち帰ろうとすると邪魔が入るのでな。今、対策を検討しているところだ。吾輩は約束があったことを思い出して顔だけでも出さねばと戻っただけだ。あと、ついでに食料などの補給も兼ねておる」
「先生、講義があったことも思い出してください。また休講かとお叱りを受けてます」
ローレ先生が、何かを思いついたかのようにジャンフランコの方を向く。
「どうだね、ジャンフランコ君、君も一度遺跡に潜ってはみないかね?」
「今日中に帰宅できるのであれば是非ご一緒させて下さい」
「当然、今日中など無理に決まっておる」
「では授業もありますし、泊まり掛けは無理なのでご遠慮いたします」
遺跡というのは一年生が潜っても良いものなのだろうか?
「週末なら泊まり掛けでも授業には差し支えんぞ?」
「保護者に相談してみますが、またここに来ればよろしいのですか?」
「現地に直接来てくれたまえ」ローレは手帳らしきものを開くと、地図らしき物を描いて、そのページを破り取ってジャンフランコに押し付けるとズカズカと大股で教室の建物に入って行った。
仕方なくアルミーネに暇を告げてその場を離れる。
手には魔道具の残骸を三つしっかりと握ったままである。
今回の新要素:
・ 新しい魔道具の墓場
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