自前で概念実証と試作品作成までできる強み
前回が中途半端だったので、後始末回です。
「それにしても、若様にはなかなかにとんでもないものを見せていただきました」
『え、そんなだっけ?』
いつの間にかロンギ商会長まで「若様」呼びになっている。
ロンギとメディギーニ。二人の商会長の目の前で、【新たな魔道具を作り出す】という前代未聞のデモンストレーションをやってのけたにも関わらず、ジャンフランコ本人にはまったくその自覚がない。
「そもそも魔道具というのは、どうやって動くのかも、どうやって作るかも、まったく解明されておらんのですよ」だから、簡単なものであれば複製することができるが、ほとんどの場合は遺跡などで発見されたものをそのまま使うしかないのである。
壊れたら修理も不可能だし、【闇】属性の魔石を使う魔道具にいたっては、魔石の魔力が尽きたら捨てるしかない。
「ところが、若様はその常識を目の前で壊してしまわれました」
樹脂を作る魔道具を天恵で再現するところまでは、まだ理解できたという。「魔道具の複製と再現ができる天恵自体はとんでもないですが、既存の魔道具の延長で理解ができます」
「ところが、若様は『どこにも存在しない』魔道具を天恵で実現して見せ、更にはそのまま誰でも使える『新しい魔道具』を作り上げてしまわれました」
神測の中で「樹脂を作る魔道具」の【魔法陣】を書き換えて「木片を純粋な木属性だけの素材に換える」【魔法陣】を作り上げて、前世で言うところの概念実証をやってのけ、更に【魔法陣】を書き換えて実際に動作する魔道具の試作品まで作り上げたことになる。
出来上がった試作品の魔道具は、実際にメディギーニが操作しても、まったく同じように純粋に木属性だけの樹脂の塊を作り上げることができた。
あるものをそのまま使うのではなく、用途に合わせて魔道具を作る。
ジャンフランコ本人はまったく無自覚だが、まさに、この世界の魔道具の常識が塗り替わった瞬間であった。
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「それで、この魔導具はどう使われるのですか?」
「いずれは魔導具で作った素材を元に、新商品を作って売り出したいところですが、まだ先の話です。何よりこの先の工程は、まだ僕自身でなければできませんから」
「この先と仰るのは?」
「ああ、この【魔法陣】を転写するのですよ」
屋根材の裏の【魔法陣】を指差す。
「そもそも、先日見せていただいたこの板状のものは何をするための魔導具なのですか?」
「あれ?言ってませんでしたっけ?陽の光を当てると魔力を生み出すのですよ。普通の屋根材の代わりにこいつで屋根を葺いたら、魔石も魔力を流す人間もなしで魔導具が動かせると思いませんか?」言いながら、木片由来の黒い塊に、小さくした【魔法陣】を転写し始める。
前世で言うところの太陽電池であるが、ここでもジャンフランコは無自覚に特大の爆弾を投下したことになる。
その証拠に、ロンギもメディギーニも口を大きくあんぐりと開けたまま固まってしまっている。
「よし、できた。ああ、いや、例えばここに置いてあるインクづくりの魔道具だって、放っておいても勝手にインクを作ってくれるんですよ?便利だと思いません?」
ああ、もちろん、他にもいろいろと必要ですよ、と付け加える。
「魔力の属性を整えたり、太陽が出てない時のために魔力を蓄えたりするものがないと、年中無休で動かすなんて無理ですものね」
ここに至っては、ロンギもメディギーニも、そして主の言動にある程度は慣れているはずのフレデリカにしても、完全に置いてきぼりである。
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「あー、では少し分かりやすい方の話をしませんか?」要は商談である。
「新しく出来た、うーん、『木材強化の魔道具』とでもしましょうか。これとオーブンの魔道具『改』を使って、この黒い板材を、とりあえず50枚作っていただきたいのですよ」
「それは是非とも、当ロンギ商会で請け負わせて下さい。えーと『改』とおっしゃいましたか、普通のオーブンの魔道具ではダメなのですか?」
「火力を大幅に強化してまして、高温高圧で焼き固めるためのものです」
「危険はないのですか?」
「規定の火力と圧力を守っていただければ大丈夫です」
「それで、生産のための魔導具はこちらから貸し出しますし、オーブンの魔道具に必要な【火】属性の魔石も用意します。対して、原材料の木材の調達と魔道具の移動、それと出来上がった屋根材の納品はお願いします。守秘義務と魔道具の安全確保の分も込みで大金貨一枚でいかがですか」
「若様のご指示であれば無償でも差し支えない、と言いたいところですが、そのお値段で差し支えありません。何か他にご注文はございますか」
「出来上がりの板材の形と寸法は揃えて下さい。オーブンで縮む分を見越して原材料の寸法を決めていただければ。あとは、当方から発注した以外で貸与する魔道具を動かす場合は事前に相談してください」
「わかりました。よろしければ、メディギーニさん。今の条件で契約書を作ってください」
サインして握手。これがジャンフランコの魔道具ビジネスの最初の一歩であった。
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商談が終わってメディギーニ商会からスフォルツァ邸に戻る馬車の中で、フレデリカが話しかける。
「あの、ジャンフランコ様?」
「ん?」
「今のジャンフランコ様なら、あの【魔法陣】を転写する魔道具も作れるのではないですか?」
「うん。作れるね」
「それなら、その魔道具も貸与して、屋根材も半製品で納品してもらうのではなくて完成品まで委託した方が良かったのではないですか」
「まぁ、そうだね~」
暫し沈黙が続く。
「フレデリカがそういうことを考えてくれるのはありがたいね」
「まあ、深い考えがあるわけではないけれど、まだロンギ商会とはお付き合いを始めたばかりだからね。母様の領地の縁や守秘の魔法とかのこともあるけれど、全面的に信用するのはまだ早いかなぁ」
「そういうものですか?」
「そういうものだよ。例えば、これがフレデリカ相手だったら、最初から最後まで全面的にお願いしちゃうものね」
また沈黙が続く。
小さな声で聞こえる。
「そういうことを無自覚に言わないでくださいませ」
今回の新要素:
・ 木材強化の魔道具
・ ロンギ商会への生産委託
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