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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はビジネスの世界への入り口でもある

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末(ではなく現在形で)怖ろしい子供

メディギーニ商会でジャンフランコに引き合わされたロンギ商会長視点のお話になります。

 ロンギ商会長は、自分の商会に戻る馬車の中で先程メディギーニ商会でのやり取りを思い出していた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 最初にメディギーニ商会から商談の打診があった時、大恩ある商会からの商談の打診だと喜び勇んで馳せ参じた。商談の時間は昼食時を少し過ぎた辺りを指定されており、やや遅目の食事しながらの商談(ワーキングランチ)だと最初は考えていた。


 最初の違和感は、商会長のメディギーニがテーブルに着いていたにも関わらず商談が開始されなかった時に感じた。口を開きかけると、「商談の相手が間もなく到着する」と手で制される。


 到着の知らせに続いて現れたのが学校に通い始めるくらいの幼子二人であった時には、これは何かの趣向で自分が揶揄(からか)われているのではと(いぶか)った。

「メディギーニさん。今日は魔道具についての商談、というお話でしたが、こちらの小さな紳士淑女もご一緒ですかな?」


「ロンギさん、こちらは当商会の出資者のご子息でジャンフランコ君。もう一人はフレデリカ嬢です。魔道具についてはなかなかお詳しいですよ。ジャンフランコ君、こちらはロンギ商会のロンギ会長。ミルトンからリモーネに移った魔道具商です」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あのミルトンの政変の際、国外脱出を支援した上にリモーネでの商会の再建支援までしてくれたのは旧スフォルツァ辺境伯領の家臣団だった。


 あちらこちらが戦火で覆われ街道が寸断する中、ひとまずコルソ・マルケ砦まで落ち延びることができたことで、そこを拠点にミルトン各地に散在する商会の資産や従業員を可能な限り救い出せた。ある程度落ち着いた頃にはリモーネ王国内での商会再建の地ならしまでしてくれていた。その旧家臣団がリモーネ国内で活動するための隠れ蓑として複数の商会を立ち上げたことも知っている。


「メディギーニ商会の出資者」


 暫くして、旧家臣団が悲願であった亡命中の当主との再会を果たしたと聞いた。


 ジョヴァンニ・スフォルツァ辺境伯家令嬢。継嗣と決まっており政変により当主となった彼女の異名が「メディギーニ商会の出資者」である。


 紹介されたのはスフォルツァ辺境伯家当主の子息という少年と、髪と瞳の色を同じくする少女。だが、当主に娘がいるという話はなく、おそらくは子息に付けられた護衛であろうか。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ランチは他愛もない話題で始まる。年末に始まり年が変わるのを境に突然収束した犯罪に関するものだ。


 その後、政変前のミルトンの魔道具事情の話題には目を輝かせていたし、歳の割にしっかりした受け答えに(さと)い子供だな、との印象は持った。ただ「この子供を昼食の席で喜ばせるために商談にかこつけて自分は呼ばれたのか」道化のような扱いだな、と少々肩透かしを喰らったような気持ちにもなった。


 しかし目を輝かせて魔道具について語っていた少年に何気なく私が掛けた一言で場の空気が一変する。


「魔道具の神秘について興味はおありか?」


 その瞬間の「我が意を得たり」とでも言いたげな少年の表情を、私は一生忘れないだろう。


「その問いへのお答えは、食事の後に場所を変えてとさせてください」


 密談へと誘ったのが、メディギーニ商会長ではなく「出資者の子息」ジャンフランコ様だったことでこの場の本当のホストが誰なのかを理解した。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 密室に移動してからは更に驚きに次ぐ驚きの連続だった。


「これから見せる魔道具について、無断で他言しないこと、契約を結べますか?」そう言って渡された契約書には、珍しいことに、契約の文言のほかに【魔法陣】を思わせる模様が魔力を通す金色のインクで描かれていた。


 その下には同席する三名が既にサインを終えていた。

 メディギーニとジャンフランコ、そしてフレデリカというのは護衛と思しき少女の名か。


 内心の動揺を隠しつつ、自分もサインをしてメディギーニに返す。そのまま契約書をしまうのかと思いきや、彼はジャンフランコ様に手渡すのである。


 ジャンフランコ様が【魔法陣】のような模様に触れると、契約書が金色に光り、サラサラとした金色の粉に変わったかと思うとジャンフランコ様の右手に吸い込まれていく。


 私も初めて見たが、【守秘】の魔法というものが存在すると聞いたことがある。

 それを年端もいかぬ少年であるジャンフランコ様が使ったことそのものが、既に他言することのできない事実に含まれるのであろう。


 強力無比な大魔法使いとして名を馳せたスフォルツァ辺境伯家令嬢。そのご子息が魔法使いとしての才を示し、彼女直々に魔法使いとしての指導も受けていると言うではないか。それだけでもミルトンを崩壊させた「共和国」を名乗る連中をはじめ、混乱に乗じて勢力を伸ばそうとする軍閥どもの心胆を寒からしめる情報となるであろう。


 その事実でさえも【守秘】の魔法に値するが、「これを見てしまったら後には引けんぞ」との脅し文句と共に見せられたのは黒く薄い板状のもの。

 純粋に一つの属性だけで形作られた魔石のような板材は、細密に見ていけば元は木材であったことの痕跡を残しつつ、木属性以外の魔力を一切含まない驚異の素材であった。


「これは興味深い」


 思わず感嘆の声を上げてしまったが、驚くべきは私の分析結果を、さも既知の事実の確認であるかのように一切の驚きを見せなかったジャンフランコ様である。

 魔道具の細密な【魔法陣】も読み解くことの出来る、私の自慢の魔道具でなければ解明できなかった魔石の構造について、まるで知っていたかのように頷くのである。


 結局その日商談として成立したのは、使い古した魔道具を一つ、安価で売却するというものに留まった。他に持ち帰ることができたのは、あの魔法を使った守秘義務契約と引き換えに見せられたものに対する驚きだけである。


 そして、最大の謎を残したまま商談を終えることなどできなかった。魔石の裏側をビッシリと覆うように描かれた複雑で美しい【魔法陣】。

 そんなものは存在しない、あるいは話題にするまでもない、とでも言いたげに商談を終えようとするジャンフランコ様に、我慢できずに「既にご存知なのですか?」と問うてしまった。


「それを聞いてしまうと、本当に()()()()()()()()が、その覚悟はあるのか?」というメディギーニの一言で、疑問は確信に変わった。


 おそらく、ジャンフランコ様は美しい【魔法陣】がどのように作用するのか、この板状の魔道具のようなものが何をするためのものか、既に確証を得ているのだ。


 思い出せば最初に「数を揃えたい」と仰った。

 目の前の魔石のようなものを再現する術について、既に目星をつけているのであろう。そしておそらくはそこに描かれた美しく複雑な【魔法陣】についても。


 その先にあるのは覇道に突き進むための兵器か、それとも莫大な富を生み出す魔道具か。いずれにしても長く魔道具に関わってきた私にとっては見送ることなど絶対に出来ない絶好の商機である。

 

「後に引く」気など一切ない。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私が「覚悟を示す」機会は二日後に訪れた。


 売却を約束していた魔道具を、指示のまま先日密談を行った部屋に搬入する。

 対価を受け取ってもそのまま立ち去りがたくしていると、メディギーニ商会長がニヤニヤしながら肩を叩いてくる。


「どうやら『覚悟』ができたみたいだな。ここから先を見てしまったら一蓮托生だ。もう後戻りはできんぞ」

「元より覚悟の上ですよ」そうやり取りをしていると、ジャンフランコ様が入室されて、私の姿を見て破顔する。

「思っていた通り残ってらっしゃいますね。これからお見せするものについては本当に他言無用でお願いします」


 そう言うと、ジャンフランコ様は左手を魔道具の起動スイッチになっている小さな魔石に触れると、右手に光を宿し、魔道具の上を滑らせ始めた。


「まずは、ここまでが上手く行ったかを検証しますね」そう言うと、私が魔道具と一緒に持ち込んだ木片を一つ手に取り、テーブルの上に置く。

 テーブルには既に小皿のようなものが置いてある。


「では、首尾をご覧くださいませ」戯けたように両手の平を見せると、そこに木属性の貴色に輝く【魔法陣】が現れた。


 ジャンフランコ様は左手を木片の、右手を小皿の上に翳すと、魔力を流された【魔法陣】のように両手の平の貴色の輝きが増す。

 左手が木片に触れ、下に下がっていくに連れ木片が嵩を減らし、一方右手の平からは小皿の上に暗緑色の樹脂が滴り落ちていく。


「うまくいきましたでしょうか?」ニッコリと問いかけられれば頷くことしか出来ない。

『自分は何を見せられているのであろう?』ジャンフランコ様が、あたかもご自身が魔道具に成り代わったかのように、私が持ち込んだ魔道具の機能を再現して見せたのだ。

 と、横からメディギーニ商会長が興奮した声で、「そのような天恵(スキル)をお持ちだったとは!」と叫ぶ。


「おや、メディギーニさんにはお見せしていませんでしたっけ?」と首を傾げるジャンフランコ様に、フレデリカと呼ばれる少女が、「はい。ご家族以外でご覧になったのはお二方が最初ですよ」と告げる。


「これは失敗したかな?」と苦笑するジャンフランコ様だが、「まぁ、ここで立ち止まっているのでは、お二方に同席いただく意味がありませんしね」と呟くと、何やら考え事を始められた。


 時々、「ああ、老木の精霊に瑞々しさを捧げ、代わりに樹脂をいただく訳ですね」とか、「水属性と木属性の比率は」とか、「細胞壁を壊さないようにするには」といった呟きが聞こえてくる。


 視線を巡らすと、「ジャンフランコ様、この時点で既にお二方は後戻りできなくなりました」と頭を抱える少女と、「精霊だと?」と青ざめるメディギーニ商会長の姿が目に入る。


「あ。お二方ともソフィア教をどれほどか深く信仰してらっしゃいますか?」というジャンフランコ様の発言は間違いなくあまりにも不穏である。幸いにして、旧ミルトン出身の自分も、おそらくはメディギーニ商会長もそれほど敬虔なソフィア信徒ではない。が、ここリモーネの地では、この場の発言を外部に漏らした瞬間、大変マズいことになるのは想像できた。


「では、『老木の精霊』へのお願いの仕方を少し変えてみました」ニッコリと笑うと、両手に同じような大きさの木片を持ち、テーブルの上に置く。

 先程の同じように両手が木属性の貴色に輝き、左手側の木片が嵩を減らしていくが、右手側の木片は大きさ、形を変えぬまま、徐々に樹脂のような暗緑色に染まっていく。


 左手側の木片が姿を消すと、右手側には暗緑色の樹脂の塊が残った。


「これをみてもらってもいいですか?」と、暗緑色の塊を手渡され触れてみると、僅かではあるが弾力を残しており、手に持った重さも、元の木片よりは軽くなっているものの、「驚く程の」という軽さではない。


「では、ここで秘密兵器の登場です」と言いながら指し示されたのは、裕福な家庭によく見るオーブンの魔道具である。

 ただし、扉には何やら物々しい仕掛けが付いているのが見える。


「ここに樹脂の塊を置きまして」その後に扉を閉め、何やらハンドルのようなものを回す。


「では、この魔道具を使って、高圧の状態で加熱していきます」魔力が流される。外からは見えないが、暗緑色の塊は魔道具の中で地獄のような高温と高圧に曝されているのだという。


 しばらく見守っていると、「チン」と鈴のような音が鳴り、魔力の流れが止まったのが分かった。


「では、少し冷めるまで時間を置きましょうか」ジャンフランコ様のお言葉を待ちかねてメディギーニ商会長が質問を始める。「 ジャンフランコ様、これは何を作られたのですか?」「うまく行けば、先日お見せした板材のような素材が出来上がっているはずです」

「うまく行けば、というのは?」「温度と圧力の塩梅が難しそうだな、と思っています」


「さて、そろそろいいですか」そう言うと、ハンドルをゆっくりと回していく。あるところまで回すと、シューッと音がして熱い空気が漏れ出てきた。


「おっと、まだ熱いですね」そう言うと、右手から冷気を発し、熱い空気を冷ましていく。空気が漏れ出てくるのが止まると、ジャンフランコ様が扉を開け、中のものを取り出す。


「これは、なかなかうまく出来上がったと思いますよ」手の中にあったそれは、半ば透明で薄っすらと繊維のようなものが見える黒い塊、先日見せられた魔石のような板と同じものだった。


 ジャンフランコ様が右手を塊の上に翳し、「うん。構造もまったく同じですね。ロンギ商会長、貴方の魔道具でも確認されますか?」そう言って手渡されたものは、細部に至るまで先日見せられた板状の魔石とそっくり同じだった。


「一度で完成形が見えたのだから、僕は本当に運がいい」そう言いながらジャンフランコ様が論議が持ち込んだ古い魔道具の外装を外しにかかる。


「何をされるのです?」と問うと、「生産方法に目処が立ったので、こいつの【魔法陣】を書き換えます」と答えが返ってくる。露出した【魔法陣】の上をジャンフランコ様の右手が少しずつ動いていくと、金色に光る右手の下で【魔法陣】が少しずつ違うものに変わっていくのが見えた。

今回の新要素:


・ 木材の形質転換を促すための魔道具


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初めての作品投稿です。


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