「神々への道標」から始まる神々の世界への接近と血の約定
本日の更新は短めです。
メディギーニ商会から戻ると、ジャンフランコはフレデリカを伴って自身の魔道具工房に直行する。扉に鍵をかけ、【防諜】の魔法を展開する。
秘事や密談を始める時と同じ主の行動に、フレデリカが心配そうな顔になる。
『今日は終始魔道具のことばかりじゃの。帰宅してもこの部屋に籠るとはずっと魔道具で遊ぶのみかえ?』女神の囁きが聞こえるが、かぶりを振りながらジャンフランコが呟く。「ここなら、誰の目も憚らずに昨夜の続きが出来ますので」今日は主様にもお付き合い願います、と続ける。
昨夜は魔力を使いすぎていて断念したが、神々を勧請し、約定を結ぶ手がかりまで手に入れていたことが分かったのだ。今日ここまでは魔力を温存しつつ他者の目から隠れられる機会を待っていただけだ。
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ジャンフランコがこれから始めるのは「国教」であるソフィア教会に知られたら即座に異端認定される行為だ。「幻の書庫」から入手した「禁書」の中の一冊「神々への道標」を紐解き、そこに記された【魔法陣】を手掛かりに神々と約定を結んでいこうというのだ。
【魔法陣】を紐解いていった末に、この世界の魔法も戦技も何もかもが実は八百万の神々の権能を勧請しているのだとの結論に至った。そして今目の前にあるのは、その最後のピースである神々と直接相見えるための手がかりだ。
『まぁ、神々との約定については誰ぞに唆されたからでもあるけれど。こういうの、悪魔の囁きって言うんじゃなかろうか』
『聞こえておるぞ。約定を結ぶのならば手始めに妾の眷属から呼び出してみるがよいぞ』
苦笑交じりの託宣が下る。
『まず先に妾を顕現させるがよい。最初にフレデリカに助力を頼め。傍らに妾がおればすぐに妾の使徒と知れよう。そうと判れば眷属どもも約定に否やは言うまいて』
「フレデリカ。女神を勧請するのを手伝ってはくれないかな」声をかけ右手を出すと、彼女もおずおずと右手を出し、ジャンフランコの右手に重ねる。
ジャンフランコが右手にグヒヤデーヴィーとの約定の印の【魔法陣】 を呼び出し魔力を流すとフレデリカの神具が反応し、二人の傍らにグヒヤデーヴィーが顕現する。
「ジャンフランコ様、何をなさるおつもりなのですか」
「【魔法陣】の神秘の極みに見えるのだよ」
「其方の主はどうやら『ソフィア教会』を名乗る破落戸どもの目を盗んで妾の眷属と約定を結ばんとしておるぞ」
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「疾く整えよ」
とっとと準備しろと言われ、左手で鍵の疑似魔道具を使いその先の空間から神々を勧請するための手引書「神々への道標」を取り出す。
左手でゆっくりとページを繰っていくと、「まずはこ奴じゃな」と女神の声がかかる。女神が指定したページには、「分け身の魔神」との表記の下に小柄な男性の絵姿が書かれている。
「こ奴は『ラクタヴィージャ』という。魔力の代わりに約定に一滴の血を要求する珍しい奴でな。血の一滴から其方の分け身を作り出すのがこ奴の権能よ。まぁ、血の一滴では木偶に毛の生えた程度の分け身らしいがの」
武器や道具を持たせて暴れさせるのがせいぜいで天恵まで使わせたければそれなりに血か魔力を要求されるそうだ。
神測で魔神の絵姿の隣に描かれた【魔法陣】を読み取る。
「おお、忘れるところであった。我が使徒よ、羊皮紙を一枚用意して【魔法陣】を写しておけ」フレデリカが用意した羊皮紙に【魔法陣】をコピペする。
「主様、これは何のために?」
「後でわかる。これがあると一手間省けるでな」
読み取った【魔法陣】を左手に顕現させて魔力を流すが、特に何も起こらない。
「こ奴を呼び出すには『血の一滴』と言うたじゃろう。フレデリカよ、手伝うてやれ」
フレデリカが左手で小刀を取り出しジャンフランコの前に突き出す。
左手の人差し指を刃先に滑らせると傷口から血が滲み、【魔法陣】に吸い込まれていくにつれ【魔法陣】から魔力が滲み出す。
そのままフレデリカの右手に触れさせると、すぐに絵姿の男性が傍らに顕現する。ジャンフランコとフレデリカを胡散臭げに眺めるが、側に立つグヒヤデーヴィーの姿を目にした途端、顔が引きつるのがわかった。
「ああ、其方らグヒヤデーヴィー様の使徒か。我を勧請し何を望むのかね」「約定を」それだけで通じたのか、ラクタヴィージャと呼ばれた魔神は頷き、手をジャンフランコの左手の【魔法陣】に重ねる。
ジャンフランコの左手の【魔法陣】が書き換えられ、約定の印の【魔法陣】に変わり古代文字でジャンフランコとラクタヴィージャの名前が追記されたら約定は終了だ。
ラクタヴィージャが「もう用はあるまい。我は去ぬるぞ」と言うが、グヒヤデーヴィーが引き止める。
「フレデリカよ。良い機会であるので其方もこ奴と約定を結んでおけ」【魔法陣】をもう一つ用意させたのはこのためだったようだ。
「よろしい…のでしょうか」遠慮がちにジャンフランコの方を窺う。
「せっかくの女神のご厚意だ。遠慮なくご相伴に与かればいいだろう」
ジャンフランコが先ほど女神に言われて【魔法陣】を写し取った羊皮紙を手渡す。
フレデリカは言われるままに自身の左手の指を小刀で傷つけ、【魔法陣】が描かれた羊皮紙に血を一滴たらす。
「それでよし。其方の魔力を【魔法陣】に流してみよ」魔力を流すと、血が【魔法陣】に吸い込まれ見えなくなる。
「ラクタヴィージャよ。この女童とも約定を結べ」仕方なく、という風情で【魔法陣】に触れるラクタヴィージャ 。
羊皮紙の上の【魔法陣】が書き換えられ、それがフレデリカとの約定となっていく。
フレデリカが羊皮紙を丸めて大事そうにしまう。
ラクタヴィージャは今度は引き止められるまいぞ、とばかりに急いで顕現を解く。
いつの間にかグヒヤデーヴィーも姿を消していたが、ジャンフランコの耳には女神の声が届く。『この要領で神々と約定を結ぶがよい。ごねたりぐずったりする神がおれば妾が躾けてくれようぞ』
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夕食の時間が近づいていたため、神々の勧請は一旦中断し、本館へと戻る。
前日に引き続きロドリーゴも同席していたため、夕食の話題はローレ教諭とロンギ商会長だ。
「ローレ教諭には随分前に紹介状を渡していたのだがね。今頃声をかけてきたのは、ジャンフランコとフレデリカが噂になったからだろうね」
魔道具の事故という設定になっているが、実際には女神の暴走だ。
「正直、今更です。多分、あの教諭よりも僕の方が【魔法陣】の真理に近づいてますよ」
「そう言うものではないよ。あの変人は魔道具の発掘のために年の半分は遺跡に籠もっているという御仁だ。うまくすれば見たこともないような魔道具に触れる機会があるかも知れんぞ」
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「ロンギ商会長については有望です。『守秘の魔法』で縛った上で例の屋根材を見せましたが、製造方法の確立に協力を得られそうです」
魔道具を購入することも報告する。
「それに、【魔法陣】にも並々ならぬ興味を持っているように見えました。メディギーニが『深入りする覚悟はあるか』と脅していましたが」返答次第では得難い協力者と成りうる、と付け加える。
「深入り」の内容に言及するなら、夕食の席の話題にはできなくなるが、その日は誰もそれ以上深い話題には踏み込まなかった。
ジャンフランコも、女神に唆されるまま怪しげな魔神と約定を結んだ件については、もう少し時間をおいてから報告することにした。
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その夜、ジャンフランコは自室に戻ると「八百万の神々」を紐解いてみた。表題からしてバリバリの禁書ではあるが、内容は神々の由来や伝承を集めた書籍である。
名前はラクタヴィージャとは異なるが、流した血から分け身を次々生み出して、侵略者と戦う魔神の逸話を見つけた。侵略と略奪に抗い、無辜の民を守るために戦った魔神の物語を読んで、必ずしも「怪しい魔神」と約定を結んだわけではないことに安堵するとともに、疑いを持ったことに少し罪悪感を覚えた。
今回の新要素:
・ ラクタヴィージャ
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