退屈な授業にはマルチタスクを・チートにはチートを
学友との交流?回です。
【隔絶された時空】を構成する【魔法陣】を複数入手した以上、ジャンフランコには【魔法陣】を解析する時間が必要になった。
神測を使って集中して取り組む時間は解析には不向きなので、集中力が不要なタスクに取り組む時間があれば最適なのだが…と考えているとちょうどよい時間があることに気づいた。
神学校での授業時間である。
もともとジャンフランコは真剣に授業を聞いているわけではなかったが、いつだったか、授業中に「前世のWEB会議みたく議事録作ってくれたりしないかな?」と考えたことがあって、それ以降は教師が話して板書した内容のまとめが自動で作られる能力が発動するようになった。
重要なポイントにはマーカーが引かれていたりと至れり尽くせりである。
これで授業に耳を傾けていなくても問題がなくなったので、神測を立ち上げて【魔法陣】解析のタスクを走らせる。授業まとめ作成のタスクに多少天恵のパワーが喰われるものの、ジャンフランコの天恵の能力からすると、ほぼ無視していい程度。
ますます上の空の授業態度に磨きが掛かるジャンフランコであったが、冬休みに覚えた【認識阻害】の魔法を常時薄っすらと発動しているため教師に目をつけられることもない。【認識阻害】の効果対象から外されたフレデリカと学友達は、ただひたすら苦笑しているが。
前世のWEB屋時代でも、部下に指示を出して報告を待つ間に協力会社に会議の打診をし、回答の待ち時間にデータの分析タスクを走らせる、と、このテのマルチタスク作業はお手の物だった。
もっとも、今は部下も外部の協力会社もおらず、使えるリソースは神測で底上げされた自分の能力と魔力だけであるが。
現状は神測をタスク管理ツール的に使っていると言えなくもない。
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そして、目下の最重要課題は「幻の書庫」で【隔絶された時空】を形作っていた【魔法陣】群である。
大きくは二つの要素で構成されており、一つは【本体部分】で
〇「大規模で複雑な【魔法陣】」が木火土金水の五属性分
〇「小規模な光と闇が組み合わさった【魔法陣】」
これらを部屋の壁面と天井・床に【魔法陣】を貼り付けて動かすと部屋の中が【隔絶された時空】となるのだ。
特に【木】【火】【土】【金【水】の五属性の【魔法陣】は、これだけ複雑で大規模な【魔法陣】であるにも関わらず、約定の印の魔方陣がほとんどを占める特異な構造をしている。
つまりは複雑で大規模な約定の印の魔方陣を要求する神々である。どう考えても勧請する神々の神格が低かろうはずもない。ジャンフランコの第一印象は「おっかない」である。
グヒヤデーヴィーの一件で懲りているだけに、神格の高い神々が関わってそうな【魔法陣】には間違っても自分の魔力を直接流してはいけない。目をつけられたが最後、勝手に顕現されて約定を結ばされた、オマケに神々の都合に振り回されるなど真っ平御免である。
解析し甲斐があるのは【光】属性・【闇】属性の【魔法陣】である。こちらは【隔絶された時空】を外部から隠すこと同時に、鍵のような魔力を流されると【隔絶された時空】に入ることができる、一種カギ付きの扉のような機能の【魔法陣】である。【光】属性・【闇】属性の組み合わせが複雑すぎて今の神測で分析するには少々能力不足気味であったが。
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もう一つの要素は【魔力供給の仕組み】で、ジャンフランコはコチラの分析にのめり込んでしまった。
〇礼拝堂の屋根を葺くのに使われた、光を魔力に変換する屋根材
〇雑多な魔力の属性を整え、七属性に分ける【魔法陣】
〇魔石をコンデンサ的に使って一定量の魔力を溜める【魔法陣】
〇魔力の出力を調整し安定供給させる【魔法陣】
これらは神の権能を必要とせず、魔力を変質させたり操作したりする、一種の魔力回路として組み上げられていた。読み込めば読み込む程に【魔法陣】の洗練されっぷりに感動してしまう。
グヒヤデーヴィーと約定を結んでいたという古の術者は【魔法陣】設計の天才であったのだろう。今となっては喪われているであろう技術をはじめ、その仕事には大いに知的好奇心を刺激される。
彼(彼女かもしれないが)と会話したい、【魔法陣】について夜通し教えを乞いたい、と願いを抱き、それは絶対に叶うことがないのだ、と思い出し諦めることを何度繰り返したか分からない。
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「ジジ、授業は終わったよ」学友の一人アレッサンドロに後ろから軽く肩を叩かれて我に返る。
「魔道具って、そんなに面白いのかい?何だか深刻そうな顔で考え込んでたと思ったら、急にニヤニヤ笑い出して…恍惚の表情からこの世の終わりを見たような顔、そしてまたニヤニヤ笑いに戻るんだぜ」友達辞めたくなるレベルだぜ、と呆れられる。学友達には神測について開示していないことも多いため、上の空で何をしていたか、大抵は説明に困る。表情に出さないように努力すべきかもしれない。
ひとまずは当たり障りのない話題で誤魔化すことにする。
「魔道具の美麗な外装の下に何が隠されているか、見たことはあるかい?そこにはもっと美麗な【魔法陣】が描かれているのさ。金色のインクで描かれた複雑な線の何と優美なことか。特に、おそらくは魔力尽きるまでお貴族様が使っていただろう【闇】属性の魔道具は生活魔道具などとは比べ物にならないくらいの精細で繊細な【魔法陣】でできているのだよ。その心奪われる【魔法陣】を目にしたときの歓喜と、【闇】属性の魔石が【魔法陣】を満たすことが二度とないことを思い出したときの絶望ときたら!」
アレッサンドロは何だかマズいものを見てしまったようになって後ずさる。
「まぁ、あれだ。誰か魔道具のすばらしさに共感してくれる人がいればいいな」
どうやら、お喋りを無難に切り上げることに成功したようだ。フレデリカに声を掛けて下校の準備をする。
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メディギーニ商会に移動し昼食を学友達と摂った後は、短時間座学の復習を済ませ、実技の自主練習にめいめいが取り組んでいく。
ジャンフランコには護身術を身に着けるよう課題が出ていて、今日はレイピアの型を身に着けようと、鏡と練習用ダミーの前で奮闘中である。
魔法使い用の型なので、右手は魔法発動用に空けておきレイピアは左手に持つスタイルとなる。そのため、あまり参考にはならないと割り切ってしまえばいいのだが、本職のレイピア使いであるピエレッタが目の前でレイピアを振るっていると、どうしてもその動きを目で追ってしまう。
「ふふ。わたくしのレイピアは攻撃の型。ジャンフランコ様のは防御の型。目指すものが違うので参考にはなりませんよ」視線に気づいたピエレッタに釘を刺されてしまう。
「防御の型を何か見せてよ」
「そうですね」少し考えこむとニッコリ微笑んで「では、わたくしの方に打ち込んでみてください」レイピアを構える。
「いくよ」軽く踏み込んで下から上へ切り上げると、刀身をピエレッタの剣に乗せられて跳ね上げられてしまう。「 これがパリィという技ですね」
「もう一度見せてくれるかな」「どうぞ」ジャンフランコにはさっきピエレッタの右手が光ったのが見えている。騎士の天恵の発動。すなわち「戦技」である。ふと思いついて、こっそりと【神測】【細密走査Ⅱ】を発動する。『戦技の秘密を暴いてやる』
今度は突きを試すが、今度も剣を跳ね上げられる。が、本命はこっちではない。
「ずるいよ。今のは天恵じゃないか」チートじゃないか、と睨みつけると「天恵を使っても使わなくても動きは同じですから手本にして練習されるといいですよ」と微笑みで返されてしまう。武器の天恵は達人の技を自らの身体で再現するもの。手本として励めばいつかは達人の域に達する、という理屈だ。
だが、ジャンフランコには練習はいらなくなった。神測には先ほどのピエレッタが発動した【パリィ】が【魔法陣】の形で記録されている。
『チートにはチートで返してやる』
「多分、今ので技を覚えたと思うよ。ほかの技も見せてよ」「まさか。俄には信じられませんが…」「二回、見せてもらったからね。十分だよ」「そんなに仰るなら試しますよ?」「どうぞ」
攻守が逆転する。ジャンフランコは左手に【パリィ】の【魔法陣】を構える。ピエレッタが剣を構え、「行きます」と軽く踏み込む。ジャンフランコが気持ち早めに【パリィ】の【魔法陣】に魔力を流すと、彼のレイピアがピエレッタの剣を絡めとるように動きそのまま跳ね上げてしまう。
「え」ピエレッタだけではなく、演習場にいた学友たち全員が呆然とジャンフランコを見つめている。一方のジャンフランコは一連の動きで確信していた。『本当に達人の動きを再現するんだな。騎士の戦技までが【魔法陣】で記録できるなんてね』
ついつい【パリィ】の【魔法陣】をその場で解析してしまうが、基本構造は魔法由来のものとほぼ同じ。戦技は自分の身体を使って顕現させる権能 と考えると理解しやすそうだ。
勧請する神の権能によるものであろう。『魔法由来の【魔法陣】では見たことのない神様の名前だね。やっぱ武神なんて感じなのかな』
「おいおい、ピエレッタを放置して何を考えこんでいるんです?」ジルベルトに肩をポンと叩かれて解析と考察に沈み込んだ意識を現実に引き戻される。
「あ。うん。【パリィ】を覚えた理由だね。ピエレッタの教え方がいいからだと思うよ」ニヤリと笑い、試してみるかい?とジルベルトを挑発すると意外にも乗ってきた。
すっと距離を取るとジルベルトがショートソードを構えるのが見える。
「ケガしても知らないからな」一度身を後ろに引くと剣を背中の後ろに構え、直後猛スピードで踏み込んでくる。剣の動きは上から下への単純なものだが速度が段違いだ。それでも身体を少しずらすと剣の鍔の部分をレイピアで強かに打ち据える。それだけでジルベルトの剣の軌道が逸らされバランスを崩して大きくよろめいてしまう。『同じ【パリィ】を発動しても相手次第で技の形は自動で変化するのか。便利~』
「へへっ 一本」大きく体勢を崩したジルベルトの喉元にレイピアを突き付けて誇る。
「マジかよ」剣の天恵持ちの卵たちが呆然とする中、ピエレッタが真剣な顔で問いかけて来る。「ねぇ、もしかしてコレも真似できてしまうの?」彼女がレイピアに炎を纏わせる。
「ちょっと待って…うん。こんな感じかな」ジャンフランコのレイピアも炎を纏う。そこから、ピエレッタが岩塊→冷気とレイピアに属性付与の戦技を変えると、ジャンフランコも続けて次々と再現する。
「間違いないわ。ジジは魔法と同じように騎士の天恵も真似できてるでしょ」ピエレッタの確認する声に頷きを返す。「魔法だけじゃないのか…」杖の天恵持ちたちがいつの間にか集まってきている。
「原理は同じ、と今分かったよ。まぁ、戦技を覚えられたところで僕は体力がないから軽量武器くらいしか扱えないけれどね」
「ねぇ、『戦技』には【魔導書】みたいなものはないのかな?読むと覚えられるヤツ」
「あるけど…ジジには絶対に【秘伝書】はみせたくねぇ」「酷いなぁ」「どっちがだよ」
戦技の習得は【秘伝書】を何度も読み技を試してようやく、とそれなりに大変で、発動の様子を一度見るだけで覚えられるのはズルく見えるらしい。
「魔法も戦技も見ただけで覚えられるなんて、ズルすぎるぞ。何て天恵か教えてよ」
「ゴメン。それには母様のお許しが要るんだ」
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このところ次から次へと新事実が判明して、学友たちも追いつけなくなってきている。
情報開示の範囲を見直す必要がありそうだ。常に機密保持を考える必要が生じていて、ジャンフランコの行動にフレデリカ以外を同伴できなくなるという形で弊害が顕れ始めている。
魔道具、魔法、そして剣の天恵持ちの戦技、いずれも【魔法陣】に魔力を流すことで発動するもの。発動の原理がまったく同じであること。そして、杖の天恵も武器の天恵も 【魔導書】や【秘伝書】から【魔法陣】に復号し「覚え」て、必要な時に発動できるもの。
そこまでは開示しても問題ないのではとジャンフランコは思う。
神測が【魔法陣】を理解・把握できる天恵だと説明してしまえば、【魔法陣】の探索任務などにも無理なく学友のサポートを受けられるだろう。
ただし、【魔法陣】の向こうに神々がいることについては、当面は秘しておくべきだと思う。頑なに唯一神以外の存在を否定するソフィア教会とは完全に袂を分かつ、その決断を下すまでの間はジョヴァンナ・ロドリーゴ・フローレンス・メディギーニそしてジャンフランコとフレデリカが知っておくだけに留めた方がよさそうだ。
『いずれにせよ、母様にも父様にも相談した上で進めないと』
今回の新要素:
・ ジャンフランコの「上の空」を支える技術
・ 【隔絶された時空】を構成する魔法陣(複数)の構成要素
・ 騎士の天恵もまた、魔法陣で発動すること
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