「古代文字の考察」から始まる魔法陣解析:【神具】296bit → 360bit
念願の魔法陣解析の時間です。
「古代文字の考察」の読破には全部で四日を要した。
一日のほとんどの時間は近くに誰かしらの目があるために、合間合間に一人になる時間を作った上で読むしかない。ロドリーゴから「禁書」になっていると知らされている書物を、たとえ家族であっても人目のあるところで堂々と広げるわけにもいかない。そんなわけで、就寝時間に自室に戻ってから、家族の目をかいくぐって少しずつ読み進める以外にまとまった時間が取れなかった。
逆に言うとよくその条件下で四日で読めたものだ、とも思うが、これは並行して神測の能力を引き上げていたことも大きい。毎夜「古代文字の考察」を読んだ後は爻の数を増やすことにも挑戦し、四日間で296から360まで伸ばした。その恩恵か、書物を読む片端から神測が分析する速度が大幅に向上し、かつ、少ない魔力消費でするする内容が頭に入ってくるようになっている。
神測を所持しているジャンフランコにとって「古代文字の考察」を読み進めるのは単なる読書ではなく、頭の中に【いつでも呼び出せる辞書】を構築する作業に近い。読み進めるにつれて、大量に取り込んだ【魔法陣】を読み解く道標が形作られていく、それは文字通り至福の時間であった。
意味不明な「記号」から、意味と膨大な背景情報を持った「文字」へ
記号を並べた「パターン」から、文字列で表された「指示」や「文章」へ
書物のページを繰る度に置き換わっていくのである。
「古代文字の考察」を踏破し、古代文字が読めるようになった今、神測に記録されている数百の【魔法陣】を改めて見直す。
これまではただの「記号」の塊だったものが、これからは意味のある「文書」になる。
小規模・単純な生活魔法から、複雑・長大な戦略級の攻撃魔法まで、読み解く材料は大量にあるのだ。
『何年掛かっても構わない。全部読み解いてやる』
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「古代文字の考察」を読破したその夜、ジャンフランコは自室の寝台に寝転んだ状態で、ワクワクしながら最初の【魔法陣】の読解に取り掛かった。
ようやく。
ようやくである。
今までは「特徴的な記号の並び方」を目安に構造にアタリをつけていくのがせいぜいだったものが、これからは「構造化され、意味や内容を持った記述」を一つ一つ読み解いていけるのだ。
最初に入手した【魔法陣】「照明の魔導具」の【魔法陣】から着手しよう。千里の道も一歩から。まずは単純なものから手を付けて行く。
その先に目指すものは決まっている。
オリジナルの【魔法陣】、オリジナルの魔法、オリジナルの魔導具をいつか作り上げるのだ。
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まずは簡単な方から手をつける。
「【照明】の魔導具」は「【灯】の魔法」と同じ【魔法陣】以外の部分は、大まかには魔石の魔力が流れるすぐ先に
【魔石から流れる魔力を整える【魔法陣】】
【光属性以外をフィルターする【魔法陣】】
【流れる魔力を増幅する【魔法陣】】
が並ぶ構成だった。
この辺りの基本的な構造は、多少の差異はありつつもいくつかの魔導具で共通で、前世で使っていた電子機器の電源回路と似たようなものだ。魔力を流す線の周囲に、コンデンサや抵抗の代わりに細かい文字でビッシリと【魔法陣】が描き込まれている。
更に深く掘り下げていけば、それぞれの【魔法陣】に与えられた役割を実現するための細かい記述が並んでいるとわかる。親切なことに、(古代語で、ではあるが)アチコチに「ここで〇〇を定義する」「ここを修正すると〇〇が変化する」など、前世ではスクリプトを読み解く際などにお世話になった「コメント」らしきものまで付記されていたのが理解の助けとなる。
そして、その先にはティツィアーノに見せてもらって覚えた「【灯】の魔法」と同じ【魔法陣】が繋がっている。それを紐解いていくと想像していたものとまったく異なる記述があらわれて来て、ジャンフランコは少しばかり困惑する。
それは大きく二つの部分に分かれていて、前半部分は【光】を生成する【魔法陣】、後半部分は前半で得た【光】を適当な大きさ・明るさに整えて出力するというような内容が書かれた【魔法陣】になっている。ちなみに以前フレデリカを驚かせる原因となった強い光は、後半の「適当な大きさ・明るさ」の記述を弄った結果であった。
問題は前半部分で、ここまでの【魔法陣】にあったような論理的な記述が影を潜める。
「【灯】の魔法」の【魔法陣】、前半の記述を更に細かく読んでいくと
「約定により、『仄明かりの神 @+~'#_』を勧請する」
「約定の印の【魔法陣】をここに記す」
「対価として光属性の魔力を△△捧げる」
「もって、『仄明かりの神 @+~'#_』の権能により□□の光を顕現させることを希う」
などと書かれている(少なくとも付記された『コメント』を読む限りでは)。
何だか魔法の呪文かそれとも祝詞を唱えるみたいなノリの文章だが、やってることは認証コードを渡して外部ライブラリやAPIを呼び出してるように見えなくもない。まぁ、「捧げる」の部分は違うけれど。
『この世界の魔法や魔導具というのは、人間が魔力で何らかの現象を発現するのだと思っていたけれど、実は魔力を対価に「神(?)」を呼び出して望みを叶えてもらう、そういう仕組み?魔法って百%神頼み魔法って百%神頼みなわけ?』想像していた「魔法」の仕組みと【魔法陣】から読み取った内容が大きく異なることに困惑する。
続けて「暖炉の魔導具」や「インクの魔道具」の【魔法陣】を読み解くが、多少の違いはあっても基本は同じだ。「熾火の神 #$%@#^」に呼びかけて熱を分けてもらったり、「インクの神 ?[¡¢!」に呼びかけて魔力を伝達するインクを作ってもらったり。やってほしいこと毎に違う神様を呼び出す点は異なる。あとは捧げる魔力の属性が違うくらいか。
(「〇〇の神」の後ろに記述されてるのは呼び出される神の名前のようであるが、古代語を無理やり現代の文字に置き換えた関係で意味不明な記述になっていた。)
それよりも気になる点がある。『仄明かりの神』『熾火の神』『インクの神』とここまでで神様が三人も登場している。
先日のロドリーゴの言葉を信じるなら、この世には女神ソフィア以外の神々が存在する可能性が高いが、ソフィア教会はそのことを頑なに否定している。何となれば主張する人物ごと否定する勢いで。
今更ながら、ソフィア教会の異端審問官が探している対象が分かってジャンフランコの背筋を寒気が走る。思い出すのはいつぞやのロドリーゴの押し殺した声と表情。
ソフィア教会に睨まれないためにはこの【魔法陣】が呼びかける相手は「神」ではなく「精霊」の一種と強弁するか。尤も「神」を容認しないソフィア教会が「精霊」を認める可能性は限りなく低いから、「神」ではなく「精霊」と主張したところで異端扱いは変わらないだろう。
『こんなこと、たとえ事実でも誰にも言えないよね』
神々の名が書かれた【魔法陣】に魔力を流すと魔法が発動している以上、その先には八百万とは言わないが複数の神々が存在すると言えそうだ。
『でも、こんなの発表したら異端審問確定だよね』だの、『勧請する神々に気に入られたら魔法の効果が上がるのかな?』『杖の天恵もちでなくても祝詞を唱えて魔力を流せば魔法が使えるかも』だの考えるうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
「古代文字の考察」は、身近なもので言うと「漢和辞典」のようなイメージです。
漢字一文字に対し、読み方・文字の成り立ち・用例などがビッシリ記述されているような。
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