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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はこの世界の神秘の入り口

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過去の遺産への扉:【神具】160bit → 256bit

いろいろ落ち着きを見せたので、新しい魔道具に手を出します。

 フレデリカとの主従の誓いの後、いそいそと残る魔道具も修理していく。

 モルゲンステルン(棘付き鈍器)のほか、グレイブ(長柄剣)ゼンゼ(大鎌)などといった大型の武器も再生できた。さすがに工房の中で試しに振り回すのは遠慮願ったけれども。

 外した外装を再度樹脂で接着して硬化したら修理完了である。


 神測(デジタイズ)を出しているついでに、シュナウツァーに持たされた「墓場」産の(おそらく【闇】属性の)魔道具三つと、出資者の集いで研究者から購入した魔道具二つについても【非破壊走査(NDI)】でスキャンして【魔法陣】を読み取っておく。シュナウツァーのコレクションにあった魔道具の分を含めると随分と多くの魔道具を読み取ったまま放置していることになるが、使途を確認してから分析するか、分析を先にして使途を推論するかは悩むところではある。


 ひとまず先のグスタフの件も気になるので、昼食を終えた午後にはメディギーニ商会を訪れた。グスタフはどうやら待ち切れずに朝から来店していたとのことで、無事に引き渡しは終わっていたようだ。メディギーニが預かっていた残り半分の大金貨二枚も渡してくれた。

 なお、インクの積み込み時には、約束通り一芝居打って偽装したそうだ。

 インクそのものは【隠ぺい】の魔法を使って馬車に積み込んだが、その間中、グスタフは半ば怒り半ば悲しむ姿を嬉々として演じてたそうだ。狙い通りに「前日断られたのに続きインク販売を再度断られ」失意のまま手ぶらで帰ったように見えて敵の目を欺くことができていれば上出来だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 学友たちが座学に取り組む間、ジャンフランコは演習場を借りてフレデリカと二人【闇】属性の魔道具の検証をすることにした。安全確保のために、普段見たこともないような巨大な盾(タワーシールド)を構えたメディギーニも同席する。


【闇】属性の魔石は手に入らないが、疑似(quasi)魔道具の状態であれば、ジャンフランコが直接【闇】属性の魔力を流して駆動できるため、使途の確認くらいはできる。ただしヤバいモノであった時のための盾としてメディギーニも同席するのである。


「シュナウツァーの爺さんとこの【闇」属性の魔道具って、出処が貴族だったり遺跡だったりとかだろ?魔石の魔力が切れて無用の長物となったから手放されたって言ってもなぁ」確かに、本来なら貴族の門外不出の魔道具。なかなかに危険な匂いのするものばかりである。

「モノを温めたり部屋を照らしたりというような可愛げのある用途のものは一切期待しないほうがよさそうだぜ」


 最初に、シュナウツァーのコレクションから分けてもらった、彼言うところの「被り」五個を検証していく。ただ、やや拍子抜けすることに、順に【隠ぺい】【追跡抑止】【盗聴防止】【認識阻害】【闇属性の盾】だった。前四つは同種の魔法を習得しているため、【魔法陣】の類似性などから事前にある程度予想がついたが検証で裏を取った形だ。


【闇属性の盾】も発動したらただ盾のような板が出現しただけだったので、特段のハプニングはなしである。強いて言うなら強度を試したくなったメディギーニが剣で軽く殴ったところ、剣を通じて盾に魔力を吸い取られたことか。念には念を入れて剣に魔力を付与(エンチャント)して殴ったら付与した魔力ごと吸い取られたのはご愛敬である。実はそのたびに右手からジャンフランコに魔力が流れ込んできていた。『今度誰かに魔法を撃ってもらってどうなるか試してみたいな』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 続いては「出資者の集い」で研究者から購入した魔道具二種である。

 最初の一つは発動はしたものの効用は不明であった。大抵の魔道具にはあるスイッチのような触れて魔力を流す場所がなかったこと、実物の魔道具には【魔法陣】以外にも手の平大の平たくツルツルした場所があり、こちらは再現できなかったので、この魔道具は【闇】属性の魔石に魔力を補充する手段を見つけて実物で確認するしかなさそうだ。


 問題はもう一つの魔道具であった。


 起動した瞬間、右手の平の先の空中にリンゴくらいの大きさの昏い魔力の塊が(あらわ)れる。息を呑むジャンフランコに、正面に立ったメディギーニが怪訝(けげん)そうに問いかける。「ん?何か起こったのか?」「え…僕の右手の先に黒い塊が出現したのですが、ご覧になれませんか」どうやら、 ジャンフランコの正面つまりメディギーニの側からは魔力の塊は見えないようだ。


「ゆっくりこちら側に回り込んでいただけますか」メディギーニがジャンフランコの右手の先に目線を向けながら、大回りしてジャンフランコの背中側に回る。

「うわ、何だこれは」再び目線を据えながら今度は魔力の塊の横に回り、チラチラと表側に戻ったり裏側に歩いたりしている。どうやら微妙な角度で見えたり見えなかったりするらしい。とりあえず魔力の塊が(あらわ)れて浮かんでいるだけで無害なようではあるが、そのまま消してしまうのも面白くない。頭の中で「動け」とか「撥ねろ」とか念じてみるが何の反応もない。


「外部から刺激を与えるとどうなるんでしょうね、これ?」フレデリカに適当な棒を持ってきてもらう。その棒でつつこうとすると、軽い反力を感じた後に、スルスルと魔力の塊の向こう側へと突き抜けていく。横から見ていたメディギーニが「うげ」と変な声を上げる。

「何かおかしなことでも?」

「いや、ここからだと闇の塊に触れている棒の先が消えてしまって見えるんだ」

 よく見ると、棒の周囲を闇の魔力に縁どられた緑赤金青の四色の光が囲みユックリ回転している。そのまま押し込んでいった先で何か硬いものに当たった感触があり、驚きに棒を横に振ると、その動きに合わせて軽い抵抗を感じさせながらも緑赤金青の光 がグニッと少し横に広がり、隙間から黄色の光が漏れ出してくる。


 棒を引き抜いて確認してみるが棒自体は何ともなってない。

 引き抜いた後には、緑赤金青の光がすーっと戻っていき、穴が塞がると最後はまた昏い塊に戻っていく。


 恐る恐る左手の指を差し入れるが、ジャンフランコの指先が塊の中に入った瞬間、フレデリカが目を剥いて左腕を掴んで引き剥がす。

「いきなり何をなさるんですか!」

「いや、さっきの棒にも特に変わったこと起きなかったようだし、大丈夫かと思ってさ。ほら、見た目には何ともないし、痛みや痺れなどの自覚症状もないよ」


 フレデリカが深いため息をつくと、メディギーニが木剣を二本持って来て二本とも昏い塊に突き刺す。一本の先を押し込むと、先ほどと同じように剣を囲んだ緑赤金青の光が広がる。クリンと縦にすると、その後円を四半分にした扇形ができ、そこから黄色い光が漏れ出す。もう一本の剣を差し入れると、二本の剣を器用に使ってグニグニと開いた口を拡げていく。


 漏れていた黄色の光が少し明るさを落とし眩しい程ではなくなると開いた穴の先に空間が広がっているのが見えた。奥行きはちょっとした会議室くらいの広さはありそうである。メディギーニが手前の方に手を入れて何かを拾ったのが見える。こちらに見せてくれるが、金貨のような形のものだ。ただし、見たこともない紋様が刻まれている。

「フレデリカ。試してみたいことがある。さっきの棒を開いた口の中に入れてみてもらえないかな」頷くと棒を開口部に置いて手を放す。

「メディギーニさん。剣を抜いて口が閉じるに任せてください」剣を抜いて暫くすると、じわじわと口が閉じ、昏い塊に戻っていく。それを確認した後、一旦右手に魔力を流すのを止めると昏い塊も消える。


 再度謎の疑似(quasi)魔道具に魔力を流すと、同じように忽然と昏い魔力の塊が顕れる。メディギーニが再び剣を使って開口部を設け、広げる。

「フレデリカ、さっき中に置いた木の棒はあまだるかい?」

フレデリカが恐る恐る手を入れて棒を拾い手を引っ込める。取り出した棒には何の変化もなかった。つまりは疑似(quasi)魔道具の動作に関わらず、開口部を通した先の黄色い光が溢れる場所には何の変化もなかったということである。開口部の先の空間(?)は疑似(quasi)魔道具 に魔力の供給がされない間も維持されていたことになる。


 それに疑似(quasi)魔道具自体の【魔法陣】はそれほど複雑なものではなく、今【魔法陣】に流れている魔力自体微弱で、とても隙間から見えたような比較的広い空間を維持できるほどではない。


 ともかく、三人が三人ともが青い顔になっているのが分かる。そろそろと剣を抜いて開口部が閉じるに任せると、ジャンフランコが疑似(quasi)魔道具の発動を止め、神測(デジタイズ)も切る。


 こんなヤバいものを見つけてしまったのだ。当然、検証は中断である。


 知らないとは怖いもので、あの研究者はおそらく折角遺跡で発掘したものの魔石の魔力も残っていないため発動させて確認することもできないまま、こんなヤバい魔道具を捨て値で手放していたわけである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 とるものもとりあえず、メディギーニ同伴でスフォルツァ邸へ向かう。

 まだ警戒は解いていないため、【隠ぺい】と【追跡防止】の魔法を発動しての移動である。


 侍女に取次ぎを頼み、ジョヴァンナの執務室(オフィス)に入ると、彼女は何事か書き物の最中であった。


「どうしたのですか。こんな昼間から三人揃って青い顔をして。幽霊でもご覧になったような顔ですよ」「説明するよりもご覧いただく方が早いです」右手に疑似(quasi)魔道具を呼び出し闇の塊を顕現(けんげん)させる。


「何もありませんけれど」と(いぶか)るジョヴァンナの方に歩み寄ると、身体の向きを変えて彼女から闇の塊が見えるようにする。「!!」ジョヴァンナが身構え身体の周りを魔力が渦巻き始め警戒モードに入ったことが分かる。


「いえ、とりあえずこいつは何もしません。本題はここからです」と左手の指を3本差し入れ、そのまま拡げて見せる。指の周りを緑赤金青の光が囲み、隙間から黄色い光が漏れる。メディギーニが横から手を入れて開口部を拡げ、ジョヴァンナからも内部の空間が奥まで見通せるようになる。


「母様、これをどのようにお考えになりますか」

「分かりません。今日はロドリーゴ様のお渡りがありませんが、急いでお使いを出せばご都合をつけて下さるはずです。いらっしゃるのを待ってから再度検証いたしましょう」今はジョヴァンナも青い顔の仲間入りである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ロドリーゴがスフォルツァ邸を訪れたのはその日の夕刻少し前であった。

 出迎える面々が全員青ざめているのに気づき、ジョヴァンナから「魔道具のことで少し」と耳元で告げられると夕食を後回しにしてジョヴァンナの執務室(オフィス) に入る。ジャンフランコからあらましを説明し、昏い塊の先の空間を見せたところ、ロドリーゴの表情が変わった。目を細め何かを面白がるように変わった。偏執的研究者マッドサイエンティストの顔である。


 まず、ロドリーゴは砂時計と鉢植えの花を持ってこさせると、開口部近くに置いて開口部を閉じさせ疑似(quasi)魔道具もいったん消すよう指示する。


 そのまま、この魔道具に関するジャンフランコの推論を話すよう促す。魔道具自体の作動に関わらず空間の中に置かれたものに変化がないこと、魔道具の魔力消費が極端に少なく、魔道具によって空間が維持されているのではない可能性が高いこと、おそらく別の魔術によって他から隔絶された空間が作られていて、この魔道具はそこに繋がるためのカギのような役割を果たすのではないかということ、などなど十分ほど推論を聞いたのちに、疑似(quasi)魔道具を発動させるよう促す。


 空間の中から、先ほど置いた砂時計と鉢植えを取り出す。

 十分ほど経っているにもかかわらず砂時計の砂は未だサラサラと流れ続けており、先ほど昏い塊の先に置いた時からほとんど砂の量も変わってない。鉢植えの花にも何の変化もなく、花弁は瑞々しく爽やかな香りをほんのり漂わせている。


「さて、今の実験で二つのことが分かった」ロドリーゴが興奮気味に説明する。「一つは、この空間が閉じられた間は、中では時間が停まっているないし進みが非常に遅いこと。十分経ってたのに砂時計の時間は進んでなかったよね。二つ目は、少なくとも植物は中で生き続けることが出来ていること」動物やましてや人間などは安全を確かめながら段階を踏んで試すしかないが、時を止めた状態で生き続けられる可能性だけはある、と推測を述べる。


 ということは、と前置きし、「この空間の中にはおそらくは大昔にしまわれたものがそのまんま時を止めて存在していて、今この瞬間僕らの前に(あらわ)れた、ということになるね」と続ける。

 メディギーニが拾い上げた金貨のようなものを手渡されると自らの天恵(スキル)を発動して検分し、「うん。これは太古の遺跡から出土した事例がある古代の貨幣だね。おそらくは五百~六百年ほど昔のものだと思う」表面に刻まれたこの文字に見覚えがないかい?と言われジャンフランコは【魔法陣】を構成していた古代の文字を思い出す。


「どうせなら、時を隔てて僕らの前に(あらわ)れた古代の遺物を手にとって拝見したいものだね」ロドリーゴがそう言うと、ジョヴァンナが触手のような魔法を発動し、神測(デジタイズ) が反応する。「あなたも今ので覚えたでしょう。一緒に手伝いなさい」と言われ、ジョヴァンナと二人、魔法で出した【触手】を使って空間の中のモノを運び出す。


 結果、執務室の床は足の踏み場もない状態となる。空間に入っていたのは、

 ・古代の金貨がぎっしり入った箱x1

 ・闇を含む大粒の魔石がぎっしり入った箱x7

 ・金塊が詰められた箱x10

 ・見たことのない魔道具x3

 そして、例の古代文字で何事か書きつけられた一枚の羊皮紙

 以上であった。


 すべてを取り出し終わった後、ロドリーゴが拡げた入り口の周囲の緑赤金青の光つまりは木火金水属性の魔力の動きを神測(デジタイズ)で記録するよう指示する。

「大丈夫です。最初に開いたときに記録しましたから」「魔力の動きも記録している?」「あ、いえ、それはまだです」

『動き、ということは動画で記録しなきゃってことかな?』と考えた途端、右手がパッと光り、継続して記録され始めたことが分かった。【細密走査(ディープ・スキャン)Ⅲ】

 暫く後に魔力の動きを分析できるかと問われ、少し考えたがまだできなさそうだと答える。これは、新しい能力(アビ)が発動するしないではなく、魔力の動きが複雑すぎて神測(デジタイズ)の能力が追い付いていない、ということのようだ。ひとまず記録だけ残せればその場はよしとする。


 さて、改めて空間に入っていたものを評価してみると、即換金できそうな金塊だけでもかつてのスフォルツァ辺境伯領の資産を大きく上回り、闇以外の魔石についてもこのまま市場に流すと市場が崩壊しそうなレベル。取引そのものが成立していない闇属性の魔石に至っては天文学的な評価額となりそうである。


「さて、こいつはどうしますか?」ジャンフランコの問いに、大人が三人とも固まってしまった。世に出してしまえば国家レベルで大混乱を引き起こしかねない量の貴金属と魔石である。考えようによっては戦略兵器よりも危険な代物が今目の前に鎮座している。その所有者には魔力や武力とはまた異なった才覚が求められることになるだろう。

「とりあえず、今は封印かなぁ」

「リモーネを滅ぼしたくなるまでは、ですかね?」

「スフォルツァの旧領を回復するまでは、ですよ」

 魔道具三つ、それに一枚の羊皮紙だけを手元に残して、残りはすべて元に戻す。とにかく、この魔道具のことは他言無用となった。並行して手元に残した魔道具と羊皮紙だけは可能な範囲で調べることとなったのである。


 その日の夕食は皆無言である。


 メディギーニが帰宅すると、ジャンフランコは時間を少しもらってフレデリカを伴って工房に籠ると太古の魔道具を神測(デジタイズ) で読み取ることに挑戦するが失敗に終わる。どうやら神測(デジタイズ) の読み取りを拒否するらしい。ジャンフランコはあの空間を開く魔道具を「鍵の魔道具」と名付けて、ひとまず現時点では保留にしておきたい物を「鍵の魔導具」で開いた先の空間に仕舞っておくことにする。

 太古の魔道具三つと「鍵の魔道具」の実物、出資者の集いで購入したもう一つの魔道具を鍵の疑似(quasi)魔道具 で開いた先の空間に放り込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 自室に戻ると就寝の用意をしてジョヴァンナとロドリーゴを待つ。

 しばらくすると二人が魔力回復薬を数本持って部屋に入ってくる。これからなるべく魔力枯渇を起こさないよう神測(デジタイズ) を強化するのである。ジャンフランコはひとまず今夜の目標として「(こう)」の数を160本から256本に増やすと宣言する。その間、魔力を大幅に消費するタイミングが12回存在する。


 そうして、 ジャンフランコは目を瞑り強化を始める。168本にするタイミング、176本にするタイミング、184本にするタイミング、と増える (こう)の本数が8本となるごとに事前に声を出す。192本になるタイミングで魔力が心もとなくなったので、1本目の魔力回復薬を飲む。その後、もう一本の魔力回復薬を飲んだあとは、ギリギリ魔力枯渇になりそうと計算し、無事256本まで(こう)を増やした上で昏倒し、そのまま就寝したのだった。

時を超えたインフレ要因。

そのまま市場に流したら国家崩壊レベルで経済を混乱させる規模の資産を手に入れてしまいました。


ひとまず死蔵させますが、いよいよ「銭」の使い方が問われる場面が増えてきそうです。

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初めての作品投稿です。


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