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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
魔道具はこの世界の神秘の入り口

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自分専用の魔道具工房

※ 手に呼び出した魔道具由来の魔法陣のことを「【疑似(quasi)】魔道具」と表記

 することにしました。

※ 「身体強化」の属性を【土】|【水】から【木】|【水】に変更しました。

※ 少々長すぎるのでキリがいいところで二分割しました。

 メディギーニ商会からの帰宅後、ジャンフランコは馬車を降りた足でそのままジョヴァンナの執務室(オフィス)に直行し、(あき)れる母親から工房のカギを受け取り自分の首にかける。そのまま自室に取って返し、手を触れることも禁じられ片隅に積んだままだった魔道具を抱え工房に向かう。


「ジャンフランコ様、ようこそ貴方様の城へ」

扉の前で待っていたフレデリカが少し(おど)けた仕草でジャンフランコを迎える。

「出迎え、大義である」芝居がかった台詞に、芝居がかった顔。少しの間二人は見つめ合っていたが、どちらともなく吹き出し、やがて腹を抱えて笑い出す。


「ふふふ。でも、『貴方の城』というのは本当ですよ。ジョヴァンナ様からは、本館に変な物を持ち込まないならここはご自由に使って良い、と伺っていますから」

「本当かなぁ。それはそうと、コレ持っててくれない?」

ジャンフランコは両手に抱えていた魔道具をフレデリカに渡すと、母ジョヴァンナから渡された鍵でドアを開ける。

 灯りをつけると、そこにはまだ中央のテーブルと壁際に並んだ棚以外にはとりたてて何も置かれていない部屋があった。

「いかがです?寝泊まりには不便そうなお部屋ですが」

「なぁに、これから色々な道具を入れて作業しやすい部屋にするから大丈夫」


 部屋の奥を見やると「魔道具庫」と表札の掲げられた部屋があり、そのドアを開けると何も置かれていない棚だけの部屋があることにニンマリする。

「差し当たってはここだね。フレデリカ、その魔道具を持ってついてきて」

『さて、この部屋をどういう風に使おうか』


 ひとまずはシュナウツァー商会の魔道具墓場にあった魔道具を入り口向かって左側一番奥に置き、その手前に少し距離を開けて分解済みの【照明】の魔道具を置く。シュナウツァー会長から譲り受けた「【闇】属性コレクション」は向かって右側の棚の奥だ。

「左奥は『要修理・未解析』少し手前に『要修理・解析済み』右側は『修理不要』ってとこかな」

「かしこまりました。間違えないよう後でラベルを作って貼っておきますね」


「さて次は、と」

 部屋を見回すと、さっきは気づかなかったが一方の壁面に小さな作業机と椅子が二組並んでいる。

「ああ、ここはシュナウツァー会長からの課題をこなすのに良さそうですね」どこから取り出したのか、シュナウツァーから与えられた魔道具修理の練習用具がフレデリカの手で作業机の上に二人分それぞれ並べられる。

「細かい作業はここかな?」椅子に座って座り心地を確かめる。


 それから夕食に呼ばれるまでの一時間弱はまさしく至福の時間となった。手始めに魔道具墓場から持って帰った腕輪のような魔道具を手に取り中を見るために外装を外しにかかる。

「よく見ると、窪みのところに貼り合わせた痕がありますね」

「そこに薄い刃物を入れていけば外装が外せるようになると思う」

 小刀を少しずつ慎重に差し入れていって、いい加減の場所で(こじ)るようにすると「バキ」と音がして外装が二つに分かれて中の基板が露わになる。


『【神測(デジタイズ)】【細密走査(ディープ・スキャン)】』

続けて【投影(プロジェクション)】も発動し、フレデリカからも【魔法陣】が見えるようにする。

「コイツの【魔法陣】は、と...アンジェロが見せてくれた【身体強化】魔法とそっくり同じ【魔法陣】があるね。壊れているのは...っとここだね」

 魔石が繋げられるであろう場所を指差す。

「先程取り外した外装を見ても、破損してるのはその辺りですものね」


 実物の魔道具と【投影(プロジェクション)】している【魔法陣】を見比べていく。

「コイツは魔石を二種使うんだね。残ってるのは【木】属性の魔石で、こっちは...」『【属性診断(ダイアグ)】』「...なくなってる方は【水】属性だね」

 魔石があったと思しき場所を中心に基板が割れて【魔法陣】が一部失われてる。

「ダメ元で【木】属性の方の【魔法陣】をコピペしてみるか...ん?」

興味深そうに手元を覗き込むフレデリカに気づく。

「ジジの天恵(スキル)はそんな風に【魔法陣】を扱えるんですね」

「【魔法陣】の意味が分かってる訳じゃないから半分は当てずっぽうだけどね。...」『【実証(プルーフ)】』「お、これが【身体強化】なのか」

 ジャンフランコの身体が緑と青の光に包まれる。


「今ならこんなこともできるかな?」人差し指一本での倒立を試すと出来てしまう。更に指に力を入れるとそのまま跳躍してしまい、天井に(したた)かに身体をぶつけ、床に落下する。

「ぐえ」カエルが潰されたような声が漏れ出て、そのまま床で丸まって痛みに耐える。

「大丈夫ですか?」駆け寄るフレデリカを片手で制して、【治癒】の【魔法陣】を呼び出し魔力を流す。ジャンフランコの身体が白銀の光に包まれて痛みも消える。

「とりあえず、これが【身体強化】の魔道具だと分かったし、直し方も分かったね。実際に修理できるかはシュナウツァーさんに相談しようか」

「そうですね。でも、今度から【魔道具】を試す時は大人がいる時にしませんか」

「確かに痛いのは嫌だしね。シュナウツァーさんからもらった【闇】属性の魔道具なんかは何が飛び出すか分からないし、メディギーニさんに相談して地下演習場を借りるようにしようか」

 そこで時間切れとなった。侍女が夕食の時間を告げにきたのである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この日はロドリーゴがスフォルツァ邸を訪れていて、まずは夕食のテーブルに着いたジャンフランコから魔道具工房についての報告を聞きたがった。


 夕食の席であることに合わせて、この場で話せる話題を選んだ。自室にあった魔道具を工房に運び込んだこと。魔道具修理の練習も今後は工房でやりたいということ。シュナウツァー工房で譲り受けた腕輪のような魔道具に魔石がついていないので、おそらくは魔石を繋ぎ直せれば使えるようになりそうと推測していることなど当たり障りのない内容を話した。


 食事が終わると、恒例の執務室(オフィス)での報告会だ。


 まず、工房での発見について報告する。

『【投影(プロジェクション)】』右手に魔道具由来、左手に魔法由来、二種の【身体強化】の【魔法陣】を呼び出して、両方の【魔法陣】の共通点を説明した。

 もう一つ、神測(デジタイズ)の新しい能力(アビ)である【非破壊走査(NDI)】での【魔法陣】把握についても説明した。こちらについては、分解不要で魔道具の解析ができる、と説明したことで「ゴミを増やさなくてもいいのね」とジョヴァンナが喜んだが、ロドリーゴがそこで新しい可能性に気づく。

「分解せずに見せてもらうだけでいいのなら、魔道具を持っている商会や個人にお願いして魔道具の解析をさせてもらえる可能性を考えたい」


「今のところ、ジジの天恵(スキル)について知ってて魔道具を扱っていると言えば、メディギーニ商会くらいですわね」

「生活用の魔道具が中心だから、それほどたくさんの種類は扱ってないようだが」

「こちらから出資して、増資分で新しい魔道具を仕入れてもらうのはどうでしょう」

「でも、出資分が回収不能となるのは避けたいね」


「あとは、そうねぇ。シュナウツァー魔道具店には少しずつ出資を増やしているけれど、出資者の立場としてお願いするのはどうかしら。シュナウツァーさんの個人的な【闇】属性の魔道具コレクションを見せてもらえればねぇ」

「いっそのこと、シュナウツァーさんを味方として取り込むのはいかがでしょうか。ジジの天恵(スキル) についても一部情報を開示してこの【身体強化】の魔道具みたいにあちらの工房で修理できなかった魔道具の修理方法を示すようにすれば、 引き換えに協力してもらうこともできるんじゃないかと思うのです」

「彼については信用してもよいか調査中だ。時期をみて提案してみるよ」


「ほかは、父様のお知り合いに魔道具のコレクターなどいらっしゃいませんか?」

「うーん。一番に考えられるのは先日紹介状を書いた魔道具の専門家なんだが、いつまで待っても紹介状の返事が来ないんだよね」

「そちらは待つしかありませんか」


「あ」とジャンフランコが声をあげると、皆の注目が彼に集まる。

「何か思いついたのかしら」「身近に魔道具たくさん持ってる人を知ってる」

 ジャンフランコがフレデリカをじっと見つめ、一気に話す。

「フレデリカ。君の魔道具を解析させてもらえないだろうか。壊れて使えなくなったものも、今使えているものも両方」「君の魔道具は、たくさんの武器に対応するように種類がたくさんあるだろう?そうしたら直し方の情報がたくさん見つかると思うし、今から修理した【魔法陣】を用意しておけば、修理の技術が身についたらすぐに修理できるでしょう?それに」

「それに?」フレデリカが続きを促すと「僕が君の魔道具を直す、って約束したしね」と続ける。

 フレデリカは両手で口を覆って涙ぐむ。


 しばらくの沈黙の後に、


「そっか。そうでしたね」と噛みしめるように呟くと、フレデリカが自分で涙を拭いながら笑う。

「はい。是非お願いしたいと思います」


 その後の話し合いで、次の魔道具作成の修行の時間からフレデリカの魔道具の解析に着手することが決まった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ところで父様。もう一つお伺いしたいことが」

「何だい?」

「古代文字についての文書って見つかりましたでしょうか」

「ああ、そのことか」

 ロドリーゴが大きく息を吸ってジャンフランコの方を向く。


「あの文書だがな。残念ながら手に入らないことが分かった」「は?」「つい最近、『禁書目録』に載せられていたのだよ」


「以前、天恵(スキル)を忌避する一派があるって言ったことがあるのを覚えているかい?そこから『禁書目録』に載せる申請が出てた。申請者は神学校のバレストル先生だった」


  ジャンフランコはそれを聞いて歯噛みして悔しがる。


「その一派ってそんなに力を持っているのですか?」

「ソフィア教会の権威を高めたい、って一派だからね。最近、『()()()を女神ソフィアの神威(かむい)で平定した』なんて教義の解釈本を出版してたらしくてね。その立場からすると五百年以上前に複雑な文字を持った高度な文化があった事実は都合が悪いんだろうね」

 ただ…とロドリーゴが暗い顔になる。

「これからは『古代文字』の扱いにも慎重にならないとね。『禁書目録』に載ったということは『古代文字』について人前で語っただけで異端審問に掛けられる可能性が出てくる」


 暗い雰囲気を振り払うようにパンパンと手を叩く。


「まぁ、そもそも『禁書目録』に載らなくても、あれは幻の文書だったらしい」

「それは、初めて伺いました」

「うん。『禁書目録』に載った経緯を調べてわかったんだが、そもそも教会の蔵書目録にも『所在不明』と書かれていたらしいんだ。例の一派の要求で、普通の蔵書目録から『禁書目録』に記載が移っただけで、文書そのものは誰も見たことがないらしい」

『へぇ、幻の文書ですか』

「教会には、誰も入ったことのない【幻の書庫】があるって噂もあるんだけどね。今度探してみるのも面白いかもしれんな。例の古代文書をはじめ、今の教会主流派をはじめ例の一派が目の色変えて隠したがる文書がわんさか残ってるかもしれないし」

「やめてくださいな」ロドリーゴが偏執的研究者マッドサイエンティストモードに入りかけたのを察してジョヴァンナが止める。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それよりも【魔導書】です。どうやって研究を進めますか?」

「それですが、母様。お願いがあります」ジャンフランコは午前中に【魔導書】の山を見せられた後、メディギーニ商会での実技の時間にふと思いついたことを話す。


「僕に見せていただいた魔法を皆さんが覚えるときに使った【魔導書】を見せていただきたいのです。神測(デジタイズ)で読み取った魔法由来の【魔法陣】と、【魔導書】の記述を比較して分析してみたいのです」


「かまいませんよ。昨日見せてあげた魔法は普通の魔法使いが誰でも覚える魔法がほとんどでしたから、それは本になっています。当家の書庫にもありますよ」

「ありがとうございます。それでは明日の午前中にでもご一緒いただいていいですか?【魔導書】のページごとにどの魔法の【魔導書】か教えていただきながら読みたいと思います」

「そうしましょうか。では夜も遅いし、もう休みましょうか」


 お開きになりそうな雰囲気を、ロドリーゴが壊す。


「待った。ジョヴァンナ。『昨日見せた魔法』ってどういうことだい」

「あら、ジジに基本的な攻撃魔法を見せてついでに魔法を撃たせて鍛えただけですわ。ジジは襤褸布(ぼろぬの)のようになってましたけど」

「ということは、ジジは君のような攻撃魔法を覚えて撃てるようになったということかな」

「さすがに、メディギーニ商会の地下演習場が壊れない程度の威力の魔法までしか見せてないわ。ジジはまだまだわたくしの足元にも及びませんよ」

「あー。わかりました。君もどうやら全盛期の力を取り戻したっぽいし、スフォルツァ辺境伯家はいずれ天災級の魔法使いを二人抱えることになるって訳だね」


「言われてみれば、そうなりますわね」ジョヴァンナが嫣然と微笑む。

この後、スフォルツァ邸の魔道具工房はジャンフランコにとっての重要拠点の一つになります。


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初めての作品投稿です。


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