何処からでも繋がる先
そう言えばこの作品には登場してないファンタジーものの定番がありますが....
ある程度形になっていたはずのミルトン攻略にここにきて想定外の要素が絡んできたことに、ジャンフランコは苛立ちを隠せない。
攻略のための情報収集と分析は順調に進んでいる一方で、そこから新たに判明した事実が攻略の成否を不透明にする。
一つは、一連の作戦目標の中で王族・貴族の救出ミッションの優先度が上がっていること。
もう一つは、まだミルトンに宮廷魔導師団などという一線級の戦力が残っていたこと。
前者については、現状のスフォルツァ家の戦力に鑑みれば成功確率が極めて低く、かつ他の作戦目標の成否に与える負荷も無視できないほどに大きいことが悩ましい。
最大の問題は、王族・貴族たちを幽閉されている場所から迅速に救い出しミルトンの外に出す手段がないことだ。
体力の問題でおそらく自力での脱出も期待できないであろう。幽閉されている場所から隠し通路までの距離が遠く、隠し通路自体もそれなりの距離があるため、脱出が可能かすら極めて疑わしい。
ヘリコプターのように何処にでも垂直に離着陸できて人を運べる移動手段があれば、この悩みも軽くなるのだけれど、そんなもの、今から開発しろと言われても数年単位の時間を要する。今からは手遅れだ。
かといって、動かせないまま王族・貴族をミルトンの中で保護する選択肢も取れない。完全制圧まで護衛・保護するためだけに十分な人員を割けるほどスフォルツァに余裕はない。
そもそも撤退できず守らなければならない場所を敵地に作るのは悪手中の悪手である。敵からすると、そこを狙い撃ちするだけで効率的にこちらの戦力を削れるのだから。
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そして、宮廷魔導師団の存在によって、想定していた制圧作戦が思うように機能しない可能性も出てきた。
当初は、スフォルツァ家の基本戦術の応用として、【自律飛行する魔道具】を飛び回らせて上空から【睡眠】と【麻痺】をばら撒き、首都全体を無力化してから制圧する作戦も考えていたが、城壁の兵卒か、せいぜいが剣の天恵持ちであればこそ通用する戦術であって、宮廷魔導師団に通用するかは五分五分となる。
杖の天恵持ちの中には、【睡眠】や【麻痺】に耐性を持ち、抵抗することにより無効化ないし効果時間の短縮が可能な者がいる可能性が高い。要は、想定より早く動き出す者達の対策までも想定しなければならない。なかなかに厄介だ。
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スフォルツァ邸の魔道具工房にフレデリカを伴って入り、何か良いアイディアが浮かばないか、そのヒントになるものでよいから得ようと、過去に検討途中で放り出した試作品をストックしてある魔道具工房奥の「お蔵入り」置き場を漁ってみたが、どれも今一つピンと来ない。
小一時間漁ったが結局目ぼしいものがそう簡単に見つかるわけもなかった。
こうなったら昔の人の知恵を借りるか、と【幻の書庫】に入ってみることを考え、【鍵】の疑似魔道具を使って何となく空間を開けてみた時にふと、そう言えば目の前の空間は少し離れた場所にある神学校の一角にあるのだったな、と思い至る。
そういえば、【秘事】と【看破】二柱のお知恵をいただいて、同じことが『【封印】 の【魔法陣】』と『【鍵】の【魔法陣】』のペアで実現できると判明したのだった。
それは距離的な制約をなくして空間と空間を繋げる魔術ではなかったか。
あの時は、【幻の書庫】に繋がる【鍵】を作ってもらっただけで満足してしまったのだったが、他の可能性もあることを検討すべきだった。
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まずはちょっとした実験である。
試しに『【封印】 の【魔法陣】』を描いた基板を作って【闇】属性の魔石を【隔絶された時空】から取り出して繋ぎ、以前魔法インクを溜めた桶の上に置いてみた。
フレデリカが興味津々で覗き込むが説明する手間が惜しくて、黙々とペアになる【鍵】の疑似魔道具を描き出す作業に没頭する。
『【封印】 の【魔法陣】』の中に書き込んだ【秘密鍵】を元に【暗号化】 して【公開鍵】を作り、それを【鍵】の【魔法陣】の中に書き込むことでペアを作るんだったか。
フレデリカをそのまま工房に残して自分は本館の方に移動する。
【神測】【投影】そして【実証】
【鍵】の疑似魔道具で空間を開くと、その先に真上から空の桶を覗いているかのように桶の内側が見えている。
横に向けて空間を開いたのに真上から覗き込む形になることに違和感を感じるものの、お構いなしに試しに手近にあったペンを投げ込んでみると、桶の底に当たった音がして、桶の底にそのままペンがとどまっているのが見える。
空間を閉じてから工房に戻り、桶の上に置いた基板をどかすと、先ほど投げ込んだペンがそこにあった。
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本館の部屋から工房に置いた桶へ。
離れた場所から場所へとモノ(ペン)を移動させることに成功した。
モノが上手くいったが、ヒトはどうか。次に試すのはソレだ。
軽い興奮状態のまま、今度は縦二メートル、幅と奥行きが五十センチほどのロッカーのような箱を作る。ロッカーの扉にあたる面と反対側の面は空けたままで、ちょうど、人一人が中を通り抜けられる狭い門のような形だ。
口の悪い人が見たらフタと底のない棺桶、と言うかもしれないが。
先ほど作った『【封印】 の【魔法陣】』を描いた基板を今作った箱のサイズに合わせて作り直して箱の上に置く。【魔法陣】が起動しているので見た目の一風変わった『フタ』だ。
フレデリカはポカンと口を開けて見ているだけだが、彼女への説明は後回しだ。
もう一度本館に戻ると、写し身を一体勧請した上で【鍵】の疑似魔道具で空間を開く。
今度の実験ではジャンフランコ(本体)が魔道具で空間を開いて繋ぐのは同じだが、今度はジャンフランコ(写し身)が先程のペンの代わりに開かれた空間に飛び込む。
これからが本命の実験である。
ドキドキしながら意識を半分くらい写し身に移す。
ジャンフランコ(本体)が【鍵】の疑似魔道具で開いたまま維持している空間に、意を決してジャンフランコ(写し身)を動かして足を踏み入れる。
くぐると同時に急に身体の正面に向かって引っ張られるような力を感じ、その一瞬後には顔から地面に落下し、顔をしたたかに床に打ちつけてしまう。
「いってぇ~」
本館にいるジャンフランコ(本体)の方にまで聞こえるくらい派手な音を立てて床に落ちたのだ。痛くないわけがない。
前に進んだつもりが魔法陣の向きが悪くて床に向かって上から落ちる結果になった。目の前にあるのが工房の床だと理解する。痛みに耐えながら寝返りを打つように身体の向きを変えて上を向き、フタ代わりになっている基板を押しのける。
驚いた顔で箱を見下ろすフレデリカと目が合うが、彼女はまだそのまま放置でいい。箱から抜け出してジャンフランコ(写し身)を本館の方に歩いて行かせると、椅子に座ったままのジャンフランコ(本体)と目が合う。
本館の部屋から工房に置いた箱まで、(厳密には写し身であるが)人を移動させられた。実験は成功だ。
ジャンフランコ(写し身)の体調などに何の不調もないことを確認していると実験が成功した実感がじわじわと湧いてくる。
ジャンフランコ(本体)とジャンフランコ(写し身)が互いの右手を打ち合わせる。パァンと小気味よい音が響く。
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ジャンフランコ(本体)とジャンフランコ(写し身)が二人連れ立ってニヤニヤしながら工房に戻った時には、流石に我慢しきれなかったのだろう。フレデリカが入り口に仁王立ちしている。
「先ほどからわたくしを放って何をなさっているのですか。何か危険な実験であるなら、わたくしお止めしなければなりませんよ」
「ごめん。今から説明するから少しだけ待ってもらえるかな」
工房に入ると、写し身に持たせるために即席の【鍵】の魔道具を造る。
ジャンフランコ(本体)とジャンフランコ(写し身)の二人がかりで、先ほどの箱を立てる。ジャンフランコ(写し身)が何度か箱の中をくぐって見せるのを横目に、ジャンフランコ(本体)が説明を始める。
「このように、底の抜けた箱があるだけで、何の仕掛けもございません」
戯けた口上に胡散臭げにこちらを睨みつけるフレデリカの姿が箱の向こう側に見えているが、それにはお構いなしでジャンフランコ(写し身)に先ほど作った【鍵】の魔道具を持たせる。
箱に【魔法陣】が発動したままの基板を立てかけた後にジャンフランコ(写し身)に少し離れた場所で【鍵】の魔道具を使わせ空間を開かせる。開いた空間の向こう側にギョッとしたフレデリカの顔が見える。
そのままジャンフランコ(本体)がピョンと開かれた空間に飛び込むと箱の向こう側にいたフレデリカが後じさりしようとしてバランスを崩すのを見て、そのまま抱きとめるようにして彼女を支える。
「ジャンフランコ様、何を」
「どうだい?大成功だよ!離れた場所と場所を繋ぐ魔道具ができたんだ!」
「いえ、そのお離しいただければ、と」
フレデリカの耳が赤くなっているのが目に入って、流石にバツが悪くなったのかジャンフランコが彼女から離れる。彼の耳も少し赤くなっている。
「ゴメン。でもこれが凄く画期的なのは分かってもらえたかな?どんなに離れていても一瞬で移動できる魔道具なんだよ!」
「これは、【隔絶された時空】と同じものですよね」
「そう!あの時は絶対に見つからない場所に大事なものを隠すことばかり考えていたけど、よく考えたら離れた【場所】と【場所】を繋ぐことにも使えたんだ!」
「その......危険はないのでしょうか?わたくしはそれが一番気になりますけれど」
「そこは、『写し身』で実験済みだよ。君も見ていたろう?」
「ええ。物凄い音で床にお顔をぶつけるのを」
そこで二人クククと笑いが漏れ、次には大爆笑に変わる。
ひとしきり笑い終えるとジャンフランコの表情がすっと変わる。
「念のため、コレを教えていただいた【秘事】の女神には危険がないか確認しておくよ。他にも思いもよらない事故が起きたときにどうなるかとか、色々実験もしておく」
「それで、これをどう使われるおつもりなのです?」
「そうだね。さしあたりは身体を動かすのも難しい人を救い出したり、罪人を牢獄に直送したりといった用途だね」
あとは、と顎に手を当てて考える。
「スフォルツァの城とあちこち、例えばコルソ・マルケ砦とか、各地の代官の事務室とかを繋いだりすると移動の時間が省略できてよいかもね」
だが、それは状況が少し落ち着いてからだ、と呟く。
まずはこの魔道具を用いたミルトン攻略の戦術を練るのが先決だ。
現状の戦力をなるべく減らさずにミルトンを攻略する作戦の形が見えてきたことに、ジャンフランコの表情も明るい。
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【秘事】の女神にお伺いを立てると、『害があるわけがなかろう。其方の父親が何度【幻の書庫】に出入りしていると思うのだ』とややお叱りの混じったお答えをいただけた。
そもそも、女神にお伺いを立てず先に写し身を使って実験したことに女神はご立腹らしかったが。
平行して行った「写し身」を用いた実験では、どちらかの魔道具が魔力切れなどで停止しても、途中に取り残されることなくヒトやモノが元の空間に引き戻されるだけだった。
特に、空間の繋がりは【鍵】の魔道具が停止した後もじわじわと空間が閉じていくだけなので、暫くの間であれば行き来する猶予が残ることも分かった。
そして、どこまで離れていても空間を繋げることが出来るわけではなく、一度に同時に稼働する『【封印】 の【魔法陣】』の数が多いほど距離が延びる、とのこと。【幻の書庫】では書庫全体を覆うように無数の【魔法陣】が稼働していたが、そこまでしなくとも魔道具工房の床面いっぱいに【魔法陣】を描く程度であれば、ミルトンの東の端からでもスフォルツァ邸まで届くようだ。
そこから、距離に応じて必要な【魔法陣】の数を割り出していってミルトン攻略に必要な『【封印】 の【魔法陣】』の仕様を決めていくのだ。
今回の新要素:
・ 『【封印】 の【魔法陣】』と『【鍵】の【魔法陣】』の組合せで「転移」が実現。
(異世界ファンタジーものの定番がついに!)
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