領主夫妻への報告と女神の託宣
ジャンフランコとフレデリカ…立派に「朝帰り」です。
ジャンフランコ達を乗せた【幽霊馬車】がスフォルツァ城に戻る頃には、東の空が白みかけていた。高い尖塔の先が正面からの朝日に照らされて闇の中に姿を顕し、それが下の方へと徐々に広がって行く。最後に聳え立つ城壁が正面から朝日を受けて一瞬光り輝いた後に【認識阻害】が発動して見た目は古ぼけた石積の城壁に変化する。
隠密状態を解き城門に向かって合図を送ると、ユックリと跳ね橋が下りてきてジャンフランコ達を迎え入れる。
城の中に作られた車庫に【幽霊馬車】を戻していると、車庫の入り口正面にジョヴァンナとロドリーゴが立っていた。
「女性を連れて二人きり深夜に逢引だなんて、うちの息子がそんな女泣かせに成長したとは思いもしなかったわ」
「いえ、逢引ではございません。わたくしはあくまでジャンフランコ様の護衛として...」
「いいから二人ともいらっしゃい。朝食を一緒にどうかしら」
そう言うとロドリーゴにエスコートするよう促し、後ろも見ずに歩き出す。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで、成果はあったのかしら」
朝食が終わり、人払いを済ませると早速本題に入るよう促す。
この頃では、ジャンフランコが【防諜】の魔法を張るのが当たり前のようになっている。
「ミルトンの隠し通路は実際に使えました。隠し通路の奥までは到達できたのですが、その先が外から施錠されているので、その先をどうするかは課題ですね」
「なるほど。ではその件は間諜の人選と併せて検討することに 「間諜 の件は目処がつきそうです」」
「目処と言うと?」
「僕の|死霊使役についてはご報告したとおりですが、有能な死霊の方に巡り会えまして。死霊であれば壁にも床にも邪魔されず動けますのでミルトンの旧王宮の中を隈なく調べることも可能でしょう。」
「有能な死霊?」
「なんとお祖父様です。生前お目にかかることは叶いませんでしたが」
「父上がご健在...ではありませんね。その場に残る程強い想いを残されていたのですか」
「痛々しいお姿にはなられていましたが、まるでご存命の方のようにしっかりと会話もできました。スフォルツァ城の奪還と母様の辺境伯就任には大変お喜びになってましたよ」
「今ここでお話を伺うことはできませんか?」
フランチェスコに呼びかけてみるが、流石にミルトンとここスフォルツァ城では距離が遠すぎるようだ。
「残念ながら、距離が離れすぎると声が届かないようです。ミルトンの隠し通路を出る辺りまでならお話ができたのですが」
「ならば、この城までお連れすることはできませんか」
「それも叶わぬようです。お祖父様の想いはよほど強くミルトンと結びついているらしく」
「仕方がありませんね。父上には叶うことならお会いして まだまだ教えを請いたいと思っていたのですが」
「ジョヴァンナの魔法の師はお義父上なのだよ」
横からロドリーゴが助け舟を出す。
「あら、魔法だけではありませんよ。領地の経営の仕方、戦に勝ち続ける方法、それに家族の絆を深める方法、まだまだ学び足りてはいません」
「では、一度【死】の女神にお伺いを立ててみましょう。お祖父様をこの城にお招きし母様とお話ができるようにする方法について」
「いえ、今はミルトンのことに集中しましょう。【死】の女神の勧請は貴方にも負担が大きいと聞いています」
「では、本題を。お祖父様には可能な範囲でミルトンの中、特に王宮の中を動き回るようにお願いをしました。一日~二日間を置けばそれも出来上がるでしょうから、再度隠し通路から王宮内に入り、お祖父様から移動の履歴の情報をいただきます。それを神速で分析すれば、ある程度までは精緻な王宮内の地図を作り上げることができると思います」
「危険はないのですか?」
「お祖父様は普通の人間からは姿が見えません。【死】の女神と約定を結んでいる人間がいれば別ですが」
ジョヴァンナがため息を吐く。
「父上ではなくて貴方のことです」
「隠し通路自体に罠や仕掛けは見当たりませんでした。おそらくは、ですが緊急脱出のための通路であるために迅速な脱出を優先して罠の設置は避けたのでしょう。外部からの侵入は王宮との出入口に設けられた【魔法陣】で防げると踏んだようです」
「ジャンフランコ様のように【魔法陣】のカギを解いてしまえる方が規格外なのです。そのような方の存在は考慮の外でしょう」
「ただ、いつ誰が通るかも分からない隠し通路に突っ立ってお祖父様とお話をするのも危険ですね。隠し通路に少し細工をして、横道というか小部屋を造ってしまいましょうか」
「気取られる心配はないのですか?」
「【封印】と【隠ぺい】の魔道具を置いておけば気づかれないでしょうね。時々は魔石を交換しなければなりませんが」
「では、暫くはそのようにしてミルトンの中を探ってください」
「承りました。それでは次は二日後の夜を待って行動します」
フレデリカと顔を見合わせて頷く。
「お待ちなさい。護衛はフレデリカ以外の者をお連れなさい。彼女も間もなく年頃となります。それに自身も婚約者のある身であることを自覚なさい。年頃の男女が深夜に行動をともにしているなど、互いの外聞にとってよいことではありませんよ」
「ジョヴァンナ様、わたくしの外聞よりも機密の漏洩の方が問題ではありませんか。わたくしはジャンフランコ様の護衛としてこの身を捧げると誓っておりますし、それにジャンフランコ様からは正直まだ男性の匂いがいたしませんので大丈夫です」
ジョヴァンナがはぁ、と息を吐き苦笑を浮かべる。
「ジジも男性としてはまだまだ未熟、ということですか。仕方はありませんがフレデリカの言う通り情報を共有する範囲は最小限にしなければならないのも道理ですね。ならばせめて、なるべく周囲に気取られないように行動なさい。あまり大っぴらにふるまうとリモーネにいるお姫様のご機嫌を損ねるかもしれません」
「その件ですが、レイチェルには僕が義務感で婚約しているだけだととっくに露見しております。彼女の天恵があれば嘘をすべて見抜けるらしくて」
「それがわかっているなら、せめて誠実な男であると納得いただけるように振る舞いなさい!」
朝食後の密談はジョヴァンナの雷が落ちたことでお開きとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「流石にクタクタだね。僕はこれから休むから、君も休むといいよ」
「では、お言葉に甘えます」
フレデリカに休むように伝えて自室に戻ると、ピエレッタから届いた映像記録の魔石が積まれていた。
おかしい、昨日の撮影分は取り込んで魔石は返しているはずだけど、訝しんでいるとメモがついていることに気づく。
『撮影の魔道具の設定を変更して夜間撮影モードにしたら夜間撮影もできました。夜間撮影も徐々に増やしたいので、可能ならあと二機くらい追加生産をお願いします』
「機体を増やしたって、飛ばす人間の体力は有限なんだよ。そっちの手配も一緒に進めなきゃ仕事は回らんよ」
そうメモに文句をつけてから夜着に着替えて寝台に向かう。
考えてみれば今世では初めての完徹だ。
前世では納期や追い込みの前に当たり前のように徹夜していたものだが。
そんなことを思い出しながら横になっているといつの間にか意識を手放していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「其方は働き過ぎなのだ。少しは身体を厭うてはどうなのだ」
歳経た老婆のような落ち着いた声にふと顔を挙げると、目の前にしっとりと美しい婦人の顔があった。銀灰色の髪と瞳が一際目を引く。
「どちら様で...」
「そう言えば、これまでゆっくりと顕現したこともなかったか。妾は【死】よ。これまで其方の負担を考えて顕現を控えておったが、たまには話をしておかなくてはと思うてな。其方が寝入ったのを見計らって我等の世界に招待したのよ」
「神々の世界、というと僕は今死んでいるのですか?」
「人が夢の中にいる時は、心が身体を離れて夢の世界に遊んでいるのよ。それを攫って来ただけで身体との繋がりは切れてはおらぬ。安心せい」
「それで、其方の気にしておった、『地に縛られた死霊』のことじゃが」
祖父をミルトンの地から離しスフォルツァの城にお迎えする件だ。
「普通、死霊は何事かに強く執着することで場所か人か、少なくとも何かと己を強く結びつけることでこの世に留まっておる。逆に言えば、その繋がりを絶ってしまえばこの世に留まることも能わず消えてしまうことになる」
「それではお祖父様を城に招くのは無理なのですか?」
「早合点するでない。其方の祖父はおそらくミルトンの王に強く執着しておるのだろう。その者をスフォルツァの城に招けば其方の祖父も一緒に動くことができよう」
「ではその方が亡くなってしまえば祖父もこの世を離れてしまうのではありませんか」
「ふむ」
「其方が使役している限りはすぐに消滅するわけではない。だが、執着が薄れて行くに従ってその者の人柄も薄れて平凡な死霊へと変わるであろうな」
「やはり.....」
「一つ手がないわけではない。神々から生前その徳を認められるか死して後に信仰を集めることで鬼神へと変ずることで、人が死して後にも長くこの世に留まることができる」
あの【怨霊】が鬼神へと変じたように。
「じゃが、あの者の徳は鬼神へと至るには足らぬ。埋めるためにはそうよな......其方の一族で彼の者を祀るか?祭壇を造り日夜祈りを捧げればあるいは届くやもしれぬ」
「後ほど彼の者を祀るための【魔法陣】を教えよう」
「ありがたく存じます」
「それと、一つ忠告しておかねばなるまい」
「忠告.......何でございましょうか」
「其方気付いてはおらぬか。今、其方は男神一柱と女神三柱から使徒としての加護を受けておる。そこまで言えば分かるかの」
「まさか」
「そのまさかでな、其方の纏う陰の気がいささか強くなっておる。あのフレデリカという女子から『男の匂いがせぬ』と言われたであろう?今はまだ女と交わっても子が成せない程度であるが、いずれ...少なくともこのまま放置せぬ方がよいであろう。妾の知る限りで其方を使徒にしたそうな男神に声は掛けてみるが、自分でも探すようにせよ」
妾から伝えることはこれで終わりじゃ、と声が聞こえ女神の姿が薄れジャンフランコは深い眠りに落ちていく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「夢?」
目覚めたジャンフランコは夢で告げられたことを思い出して身震いする。
ただの夢だと切り捨てたかったが、右手に握られた【魔法陣】がソレをさせてくれなかった。
今回の新要素:
・ 人が鬼神と変じるための条件
・ ジャンフランコ君の現状ー男神の影響(陽気) < 女神の影響(陰気)
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