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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
騒乱の気配 ー スフォルツァ領

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現地潜入調査とその成果ー望外の拾い物

目下の課題はどうにかして首都ミルトンにスパイを置く方法です。

 ジャンフランコは自爆テロの実行犯が持ち出していた「首都ミルトンを出入りするための鍵」の扱いをどうするか悩んでいた。


「鍵」の役目を果たす【魔法陣】は既に神測(デジタイズ)でスキャン済みで、やろうと思えば複製してスフォルツァ家臣団の間で共有することも難しくはない。


 ただ、その後に予想される反応への懸念から、今現在この「鍵」の存在を知るのは彼とフレデリカの他は領主夫妻のみにとどめておく。主戦論者が優勢な家臣団に「『鍵』さえあればミルトン内部へ潜入しての奇襲も容易」と前のめりになられては抑えるだけで一苦労であるのは目に見えている。


 自爆テロ犯からミルトン攻略に有益な情報を引き出せる可能性についても同じく伏せたままだ。


 家臣団は自爆テロによる領主夫妻暗殺を無効化できたことには喜んでいても、「死んだ頭は情報を吐かない」と思っているため自爆そのものを阻止できなかったことを残念がっている。


 一方、それはミルトン側も同じで、「〇人に口無し」と思っているからこそ「鍵」の持ち出しが容認されたのだろうし、おそらくはミルトンに侵入出来る隠し通路と「鍵」、両方の存在がバレているなんて思いもしないだろう。何せ死霊使役(ネクロマンシー)の存在など思いつきもしないだろうから。

 暗殺に失敗して捕らえられたとしても腹に抱えた爆発物を発見されるよりは自爆する方が早い。情報がスフォルツァ側に漏れることを最初から捨象していることは想像に難くない。


 ミルトン側にバレない限りは、だが、隠し通路と「鍵」の二つはミルトン攻略において万能の札(ジョーカー)として使えるはずだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夜になるのを待って、ジャンフランコを乗せた【幽霊馬車】が出発する。念には念を入れて完全隠密(ステルス)状態を保ち、闇に紛れて街道を外れることまでして秘密裏に行動する。同乗するのはフレデリカ一人である。


 目指すは首都ミルトンを包囲する拠点であるキーンズ。


 途中、キーンズの手前、街道から外れた位置にある集落の跡地の中、旧ソフィア教会の礼拝堂跡で【幽霊馬車】が停車する。


 ジャンフランコに使役された死霊(ゴースト)"11"がフワフワと姿を現すと、その後ろからジャンフランコ本人が降り立つ。礼拝堂跡に入り込み、そこで何事か"11"と話していたように見えたが、暫くすると【幽霊馬車】に戻ってくる。


 死霊(ゴースト)が姿を消し、フレデリカが【幽霊馬車】を前進させるとジャンフランコが目を閉じ、座席にもたれ掛かる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


【幽霊馬車】が走り去るのを確認したのか、礼拝堂跡に蹲っていた人影がムクリと立ち上がり、先程ジャンフランコが死霊(ゴースト)を伴って立っていた辺りで地面に手を這わせる。持ち手のようなものを手探りで見つけ出すと、そこに手を掛けて引き上げる。そこが隠し通路の入り口である。

『では、首都ミルトンにお邪魔するとしますか』


 懐から紙を一枚取り出すと一瞬人影をうすぼんやりとした光が包み、ジャンフランコの容貌を浮かび上がらせる。

『魔法を使いたいときには【魔法陣】を持ち歩かなければならないのが、写し身の不便なところだね』

 先ほど開けた入り口から地下に降りていく。【身体強化】を視力にも回した結果、不鮮明ではあるが下に向けて続く階段が闇の中に浮かび上がる。【身体強化】に続けて【隠ぺい】と【認識阻害】を発動させたジャンフランコ(写し身)の影が地下に消えて跳ね上げられた扉も閉ざされると、無人の廃墟は何事もなかったように再び静まり返る。


 隠し通路を使った首都ミルトンへの侵入経路を確認したいが、流石に罠が仕掛けられている可能性を捨てきれないため、ジャンフランコ本人ではなく写し身を使って侵入するのだ。

 足音を立てず、【身体強化】で強化された視力を頼りにまっすぐ伸びる通路を進んでいく。『当分は写し身に勝手に動いてもらっても大丈夫かな』意識を写し身から【幽霊馬車】に乗った本体の方に戻す。


「首尾の方はいかがですか?」【幽霊馬車】を運転しながら後ろを振り返るフレデリカに、「今のところ順調。罠が張られている可能性はあるけれど、写し身に任せておいてもある程度のところまでは大丈夫じゃないかな」


「であれば、間もなくキーンズです。ピアネッツォーラ子爵にはご挨拶されるでしょう?」

「そうだね。僕とフレデリカがここに来ていることは彼以外には伏せておきたいけれど」

「【認識阻害】を切らずにおけば大丈夫でしょう。ああ。子爵がお迎えにいらっしゃってますよ」


 フレデリカが【幽霊馬車】を停車させると、目の前にはそれほど背が高くはないがガッシリした男性が立っている。少し癖のある黒髪がジルベルトとそっくりだ。

 ジャンフランコが中から扉を開け招き入れると、ピアネッツォーラ子爵が【幽霊馬車】の中に乗り込んでジャンフランコと握手を交わす。

「お久しぶりですな。若様。ジョヴァンナ様とロドリーゴ様を暗殺から守り切ったとか。暗殺未遂の知らせを聞いたときは肝を冷やしましたが…」

「そのこともあって、この目で首都ミルトンを見ておきたいと思いまして」

「ならば、攻勢は近いのですかな?城からは冬が明けたらすぐにでも、なんて声も聞こえてきますが」

「それはいくら何でも気が早すぎますよ。どのようなルートでどれくらいの力をもって攻めればよいのか。まだ皆目見当もついていないのです」

 何せ、密偵の一人も潜入させられていないのですからね、と付け加える。


「それは我々の力が及ばず申し訳ありません」

「いえいえ、なので今日の目的は搦め手から忍び込む方法がないか探ることなのです」

「では、とりあえず今日のところはこのまま砦にお泊りになって朝から任務に手を付けられてはいかがでしょうか」

「うーん。そうしたいのは山々ですが、先ほどのお話を聞く限りでは僕はキーンズの砦には寄らない方がよさそうですね。攻勢を焦る方々の背中を押す結果になってしまうのが怖いです。子爵にはこのまま砦にお戻りいただいて、我々は目立たぬところに身を潜めることにします」

「それは残念。長らく顔を見ていない息子の話を伺えると思っておりましたが」

「申し訳ありません。でもご子息は学友のまとめ役になることも多いし、任務も的確にこなしておられますよ」

「今回はそれだけ伺えれば十分、としましょう。では、ご武運を」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ピアネッツォーラ子爵が降りると、フレデリカは先ほどの廃墟が並んでいた辺りに向けて【幽霊馬車】を動かし始める。隠密(ステルス)状態を続けるといっても、できれば昼間でも目立たない場所に【幽霊馬車】を潜ませておきたいのだ。


「ちょうどいい廃墟がありますね。壁もそれなりに残っているし、【認識阻害】を切らさないようにしておけば見つかることはないでしょう」

「そうだね。あ。待って。ちょっと向こうに意識を向けるね」

 写し身では対処できない何かがあるようである。


 フレデリカの顔と写し身が見ている隠し通路の壁が二重写しとなる。

『ああ。城内から逃れるには不要だけど外から入る時にはカギを開けなきゃならないのか』

「フレデリカ。写し身では対処できなそうな事態になったみたいだ。ちょっと出てくるよ」

「お待ちください。わたくしも一緒に参ります」

「ひとまず、ここまでの写し身の記憶を見た限りでは何の妨害も受けずに奥まで行けたみたいだ。それに隠密(ステルス)状態であれば感知されることもないしね。君はここで【幽霊馬車】を見ていてくれ」

 すぐに戻るから、と言い置いて【幽霊馬車】を降りて先ほどの礼拝堂の廃墟に向かう。先ほどの写し身と同じように【身体強化】と【隠ぺい】【認識阻害】を掛けると秘密の入り口から隠し通路に忍び込む。


【身体強化】で脚力も強化された恩恵で、さほど時間をかけることなく写し身が待つ通路の奥に到着する。写し身の目から見た自分と自分の目から見た写し身が二重写しになって若干だが気持ち悪い。

『ああ。写し身には加護が及ばないから元々の黒髪に戻っちゃうのか』

 写し身が指さす先には半透明の魔石のようなパネルがあり、奥に【魔法陣】があるのが見える。神測(デジタイズ)で【魔法陣】を読み取り解析すると、神々を勧請(かんじょう)する【魔法陣】も何もない、ただ写し取ったのと同じ【魔法陣】を示せば解錠できる仕掛けと分かった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 カチリと音がして鍵が開いたのがわかる。そっと扉を押すと向こう側にも人の気配はない…が別のモノの気配を感じてジャンフランコ(本人)が身構える。

死霊(ゴースト)か……そういえば政変時からこっち、大勢の人がここで亡くなっているものな』

 先ほど隠し通路を通っている間もザワザワと死霊(ゴースト)の気配は感じていたが、間近にいるソイツは他よりも一段と気配が濃い。よほど恨みか遺した想いが強いのだろう。

 うっすらと半透明の…老人だろうか…血に染まったローブはアチコチ破れてボロボロだが、よく見ると喉のあたりに大きな穴が穿たれてそこから血を流している。まさに戦場跡に出る亡霊を絵に描いたような姿だ。


 最初は物陰からこちらをうかがっていたのが、急にこちらに近寄ってくる。

『懐かしい気配に釣られて来てみたが…似ておる』

死霊(ゴースト)にしては普通の人の様な話し方ですね。どちら様でしょうか。』

『似ておる…其方ジョヴァンナの血縁の者か?』

『ジョヴァンナは母ですが、何かご用でしょうか。』


『ジョヴァンナの子か。無事に育っておったのだな。(わし)はフランチェスコと言う。其方から見れば母方の祖父となるのだが…』

『お祖父様は政変時に急進思想に染まった輩と戦い命を落とされたと伺っております。』

『それが(わし)よ。誰ぞが跳ねっ返りの小僧っ子どもを討ち滅ぼすまではこの場に留まろうと頑張っておったが、まさかそのおかげで孫の顔を見ることができるとは。名は何という?』


 ジャンフランコ自身は物心ついた時から血縁者はジョヴァンナとロドリーゴの二人だけだった。ロドリーゴの身の処し方の影響で父方の祖父母とも疎遠であったため、突然「祖父」と言われても親愛の情よりは戸惑いの方が大きい。

 だが、やはり血縁関係がよい方向に作用することもあるだろう。


『お祖父様...ですか。ジャンフランコと申します。もしその場に縛られているのでなければ、こちら側の通路までおいでいただけますか。』

 少しだけ間が空き、何事か藻掻いているような気配が判る。

『うむ…残念ながら儂はその扉より先には進めぬようじゃ』

『では、大変不躾なお願いなのですが、【死霊使役(ネクロマンシー)の鬼神】の【魔法陣】を通して縁を結ばせてはいただけないでしょうか。お祖父様を使役するような形となるので大変に礼を失することになってしまいますが』

死霊使役(ネクロマンシー)とな!生きておった頃ならばそのような呪術と忌避しておっただろうが、このような身に成り果ててはな...なに!ここ敵地まで一人で乗り込むような剛毅(ごうき)な孫に使役されるなら祖父(じじい)冥利に尽きるわい。構わんからやってくれ』

 ジャンフランコが【魔法陣】に魔力を流すと祖父の霊との間に繋がりが生まれ、霊体が少し銀灰色を帯び、血みどろだった姿が傷一つない生前のような姿に変わる。


 そこへ扉の先でいろいろと探っていたジャンフランコ(写し身)が戻ってくる。

 どうやら扉の先は倉庫のような部屋になっているが、外からカギを掛けられていて部屋の外には出られないらしい。魔術的な鍵であれば手の打ちようもあっただろうが、物理的な鍵ではお手上げである。

『お祖父様。今はここまでしか入り込めないようです。僕はこのままお(いとま)しますが、使役のための縁を結ばせていただいたので、ある程度までなら離れていてもお祖父様とお話ができると思います。』

『そうか。なら敵に見つかる前にそちらの木偶(でく)ともども戻るがよい。気が向いたらまた爺にも話しかけてくれい』

『では失礼します』

 別れ際に念のため祖父の霊体に多めに魔力を注いでおいてからその場を辞する。


 隠し通路奥の扉を閉めると写し身を先行させて隠し通路を戻っていく。

 その間も祖父の霊体が話しかけてくる。

『ジョヴァンナはどうしておる。異国に残したまま消息が分からなくなったので気にしておったのだが』

『母様であれば、半年ほど前にスフォルツァ辺境伯の座に着きました。父様…ロドリーゴ・ボルツァ侯爵令息ですが、母様の配偶者としてともに城にいらっしゃいます』

『おお。婚約者どのも健勝であるか!む?そういえば”城”と言うたな。跳ねっ返りどもがスフォルツァの城を陥としたとか世迷言を言うておったが』

『一度奴らの手に落ちたのは事実ですが、その後取り返しました。今は崩れた城壁も修復して強固な堅城に生まれ変わっています』

『ところで、其方の髪と瞳はどうしたのだ?気配が似ておったからジョヴァンナの血縁とわかったのだが、ジョヴァンナも婚約者殿もそのような色ではなかろう?』

『これには少々事情がありまして、おいおいお話します。』

『其方は、死霊術師(ネクロマンサー)となったのか...髪も瞳もそのせいか...【杖】の天恵(スキル)を授かるのではなく...』

『ご説明が難しいのですが、【杖】の天恵(スキル)を授かってはおりませんが死霊術(ネクロマンシー)でもありませんし、なんとなれば魔法は使えます。少々特殊な天恵(スキル)なのです』


 その後も質問攻めが続き、ジャンフランコの神測(デジタイズ)に始まり、政変からのジョヴァンナをはじめスフォルツァ家が辿った変遷について祖父に説明していく。

『ふむ。では(かつ)ての領地にとどまらず、ミルトンの首都を除きほぼ全土を支配下に置いておるというのだな』

『ええ。ただ、政変での荒廃が酷くてその回復も道半ばというところです。最近になってようやく領民を飢えさせない算段がついたところです』

『うーむ。ミルトン全土からあの跳ねっ返りどもを叩きだしたのであればジョヴァンナの貢献は計り知れぬぞ。その処遇についても王にお諮りせねばな。』

『王…ご健在なのですか?』

『我ら死霊(ゴースト)となり果てても王をお慰めするくらいはできるのだ。最近はあまりの酷い暮らしに心を折られてらっしゃるようにも見えるが…』

『では、今のお話ですが母様にもお伝えしておきます。一つお願いがあるのですが、可能な範囲で動き回っておいていただけますか?鍵や重要人物など重要な場所を教えていただけると嬉しいです』

『わかった。儂に間諜(スパイ)として動けと言うのだな。思うに任せぬこの姿だが、壁でも床でもすり抜けて好きに動けるのだけが利点だわい。次はいつ会えるだろうか』

『近いうちに、としか言えませんが、冬の間に何度かお伺いするかと思います』

『では次の機会にな。その時は其方の祖母や叔父叔母にも引き会わせよう』

 身近に感じていた祖父の気配がふっと消える。


 隠し通路を出たところで写し身を解除し、一人【幽霊馬車】に向かって歩く。

 扉が開きフレデリカが顔を出す。

「おかえりなさいませ。何かよいことがございましたか。お顔がほころんでいるように見えます」

「城に帰ろう。母様と父様と一緒に話を聞いてもらいたい」

「かしこまりました。では人目につかぬうちに戻りましょう」

今回の新要素:

・ お祖父様!


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初めての作品投稿です。


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