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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
邸の外の世界を知る・人を知る

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入学式はメインイベントじゃない

新生活スタートです。

 九月の終わり。入学式の朝は入学試験の日と同じメンバー〜ジャンフランコとフレデリカに保護者であるジョヴァンナとフローレンスが加わった四人が馬車に乗り込む。


 意外にもロドリーゴは前日から公用と称してスフォルツァ邸を訪れていない。

 入学試験の際に子供達の天恵(スキル)に不自然に拘った係官が一年生の担任に着くと判明して依頼、アレやコレやと教会内で探りを入れているらしい。


 そのような事情を抜きにしても、そもそもロドリーゴは公の場でジャンフランコと親子として接することはできない。仕方ないことと割り切るジャンフランコだったが、一方で年齢相応に寂しさも感じている。


『まぁ、前世でも入学式と言えば父親は仕事のため欠席。母親に連れられて出席というのが定番ではあったね』


「ジャ…ジジ、今日もエスコートをお願いしてもよろしゅうござ…いいですか?」

「貴女は神学校では『護衛』ではなくて『幼馴染』としてジャンフランコ様に接しなければならないのですよ、フレデリカ。昨夜の内にもう少し練習しておけばよかったのです」

「大丈夫ですよ、フローレンス。貴女の娘は優秀ですからこれくらい問題なくこなしてくれます。そうでしょう?」


 フレデリカは本来の身分そのままに教会騎士フローレンスの娘〜ただし天恵(スキル)なしを偽装する〜として神学校に通うが、ジャンフランコは彼女と家ぐるみで親交のある富裕な商家の子息という「設定」である。


 その「設定」と齟齬のないように振る舞えというのは五歳児にはなかなかに高いハードルだとジャンフランコは思う。


「フレデリカ、大丈夫だよ。君は深窓の令嬢よろしく黙っていればいい。入学後暫くの間は変化した環境に戸惑っている風で誤魔化せるさ」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 入学の式典については、長々と偉い人が挨拶をするセレモニーというのが基本で、というのは洋の東西を問わず(というか世界を跨っても)変わらないらしい。


 唯一のサプライズは来賓席にロドリーゴが座ってたことか。

 教会内では「学僧の長」とも呼ばれ、それなりの地位を占める彼が神学校の入学式に来賓として招かれること自体は不自然ではない。ただ、それなりに根回しや調整をしてまで出席した理由については、神学校への警戒、父親としての欲目いずれであったかはロドリーゴ本人にしか知り得ない。


 式典が終了して教室に戻ってみればフレデリカは同級生として隣の席に座る。天恵(スキル)を持たない児童のクラス分けは成績順であるとのことだが、フレデリカがジャンフランコと同程度の成績をおさめるよう努力したか、それとも何らかの力が働いたのか。

 見回すと入学試験の際に顔を見かけた「学友」達も一人欠かさず同じ教室にいたので、おそらくは後者なのだろう。ジョヴァンナの名義で少なからぬ額が神学校に寄附されているのでその方面か、それともロドリーゴが教会内での立場を活用した結果かのいずれか。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一通り入学式当日の予定が終了すると三々五々解散となる。

 平民が大多数を占める神学校ではあるが、徒歩で通う生徒ばかりではなく馬車で通う者も一定数はいる。そのためか当然のように神学校内には馬車の待機場所があり、ジャンフランコ達一行もそこで馬車に乗り込む。


 乗り込む面子は往路と同じだが行き先はスフォルツァ邸ではない。

 狭い路地を含む複雑なコースを経て到着したのは首都の外れにある一角だった。馬車から降りて一区画ほど歩くと「メディギーニ商会ー魔道具と珈琲ー」の看板が下がっている、カフェと魔道具店が一つになったような店舗にたどりつく。


 店舗の中に入ると、出迎えた商会員が心得たとばかりにそのまま奥の会議室めいた部屋まで案内する。部屋には広めの黒板が置かれ、部屋の半ばから奥に複数並べられた四人掛けくらいのテーブルは大人が座るにはやや低く、その上には筆記用具が無造作に置かれている。

 ジャンフランコの目にはグループディスカッションをするための部屋のように見えるが、テーブルの高さから推理すると、どうやら子供向けの勉強部屋らしい。


 部屋に入ると、フローレンスとフレデリカの二人がすっと入り口の左右に立つ。部屋の中には既に十人を少し超える人が集まって待っていた。


「ジョヴァンナ様、ジャンフランコ様。この場を借りて若様の『ご学友』を紹介させて下さい」

 ジョヴァンナの姿を見たからか、大柄で胸板の厚いガッシリした髭面の男が姿勢を正す。どう見ても商家の装いよりは甲冑が似合うような体格だが、目には知性の光が宿る。

「頼みます。メディギーニ」


 商会の看板に掲げられた名を持つ大男が、どうやらこの場を取り仕切る役目を持たされているらしいとジャンフランコは推察する。


「畏まりました。では、アンジェロ、お前からだ」

 くしゃくしゃの白っぽい金髪に浅黒い肌の五歳児にしては体格のよい少年が前に進み出る。

「メディギーニが一子、アンジェロと申します。天恵(スキル)は【剣】。【身体強化】を得意としています。」

 髪の色は違うが、顔立ちはメディギーニに似ている。成長するとあのような大男になるのだろう。今の時点でもその予兆は感じられそうだ。


「それで、こちらがジルベルトとピエレッタ。二人とも【剣】持ちだが、ジルベルトは盾を使った護りが得意、ピエレッタは剣に魔力を纏わせて戦う技巧派、とやや得意な戦い方が違う」


灰色の髪に白い肌の、端正な顔立ちの少年と、やや長身で豪奢な金髪のお嬢様然とした少女が前に進み出て会釈する。二人とも剣よりはペンを握っている方が似合いそうな風貌だが、生き方を決めるのは彼らに与えられた天恵(スキル)である。


「で、こっちがダラヴィッラ城代のお嬢様で」

「ダラヴィッラが一子。アンドレアと申します。父は剣の天恵持ち(騎士)ですが、あたくしには【杖】持ちの母の血が受け継がれたのでしょう。攻撃魔法特化のアレッサンドロや強化(バフ)弱体化(デバフ)を得意とするアレックスと違って、何かに特化しているわけではなく魔法全般を得意としています」


 城代である父親を見て育ったせいか、アンドレアは自ら前に出て人を動かす性格なのだろう。


 ただ、アレッサンドロと紹介された少年が何も言わず軽く会釈をしたのに対し、浅黒い肌の少女は不満そうにアンドレアの方を睨む。金髪が何筋か混じった黒髪がややミステリアスな雰囲気を醸し出す。


「最後に紹介するのはシビエロ侯爵のご子息ティツィアーノ様と、チェラート伯爵のお嬢様であるダリア様。お二人ともスフォルツァ家中の方ではないけれど、政変で領地を失ったため、当家に身を寄せられています。お二人についてはリモーネ王国が貴族として亡命を受け入れたため、神学校ではなくそれそれ【杖】と【剣】の学校に通っていただきます」


メディギーニが少年達の方に向き直る。


「で、こちらが我らが盟主。次期スフォルツァ辺境伯であるジョヴァンナ様と、ご子息のジャンフランコ様だ。ジャンフランコ様は【剣】でも【杖】でもない固有の(ユニーク)天恵(スキル)をお持ちで、戦場を見渡して軍略を立て、一軍を指揮する才をお持ちとか」


「メディギーニ、神学校で障りがあってはいけないから、ここでは『様』は止めましょう、と決めたはずですよ」


「おっと、これは失敬。それと、入り口で護衛してるのが若様の専属護衛のフレデリカ。こちらも固有の(ユニーク)天恵(スキル)持ちだ」


 メディギーニの紹介に入り口扉から離れないまま、目線だけこちらに向けたフレデリカが軽く一礼する。


 学友全員の紹介が終わると、この後の予定についての説明である。


「基本、放課後はここに集まってその日の学習内容を共有する。一般教養は神学校に、【剣】や【杖】にまつわることはそれぞれの学校に一日の長がある。互いに学習の成果を吸収するのだから、学校ではそのつもりで授業に臨むように」


「メディギーニ先生!質問があります!実技はどうしますか?」

「いい質問だ、若様」

「あれ、『様』呼びは止めようって」

「大人はいいんですよ。で、だ。実技についてはここの地下に演習場(遊び場)を作ってある。講師は若様の『ご学友』達の親族が交代で担当する予定だ。戦場帰りの猛者揃いだから実戦的であることは保証する」


「僕とフレデリカは【剣】も【杖】もないけれど?」


「いきなり天恵(スキル)特化の実技はありませんよ。当分は皆基礎の基礎から始めるから大丈夫。要は体力づくりだから何の心配も要りません。皆と混じって訓練を受けてもらいますよ」


「体力づくり」と聞いてジャンフランコの顔が盛大に引き攣る。  


「今日はどこの学校も式典だけで授業は無しだろう?今日のところは体力づくりだけやって解散だ。全員、一張羅から身体を動かす服装に着替えて地下演習場に集合すること」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 基礎的な体力づくりと言っても、要はランニングである。最初に音を上げたのは予想通りジャンフランコ。家庭の事情もあるが神学校入学までは基本的に邸に引き籠っていたのである意味当然である。


 演習場の床にゴロリと転がる彼の横にはフレデリカが心配そうに付き従って座っている。その彼女に赤毛で小柄、丸顔の少女が近づく。確かダリアと紹介された子だ。


「ねぇ、護衛をしているということは戦闘が出来る天恵(スキル)なんでしょう?わたくしに見せてもらってもいいかしら」


「どうしましょう。わたくしの【神具】は秘匿してこそ有効に使えるものなのですけれど」


「ここにいる者達は若様を護るために共闘することもあるでしょう?外部には当然漏らしませんけれど、ここの中であれば共有しておいた方がいいのではないかしら」


フレデリカが少し俯いて考え込む。


「ジャンフランコさ...ジジ、この場合わたくしはどうしたらいいかしら?」


「他言を禁じれば...いい、...のではないかな?...学校では、少なくとも武器を持ち込めない剣の天恵持ち(騎士)は、君を頼りに戦うことも想定しておいた方がいい」


「分かりました。では」


と言いかけたフレデリカだが、周りに学友全員が集まっていることに気づいて口元がヒクリと動く。


「見世物ではないのですが」と前置きして右手首に装着した魔道具を見せる。

その中の一本に左手の指を軽く添えて「フラムベルク」と唱えると、金色の光が手の平から伸びていき、以前ジャンフランコも見せてもらったことのある炎の形の大剣を形作る。


「フランベルジュ…」という呟きが聞こえると、フレデリカはニコリと微笑んで大剣を消す。


「いかがでしょう」と言いながら、周りを見渡すと、「ほかも見せてほしい」と声が掛かり、「では、こちらも...ビヘンダー」と唱え、片手では持てない巨大な剣を形作り左手を添える。「なかなかのものでしょう?」と笑ってから巨大な剣を消す。


「是非模擬せ 「そこまでだ。それに若様も言ったろう?お前さんらに必要なのは武器を持ち込めない場所でのフレデリカとの連携だ。お前らが武器を握ってどうする?」」


メディギーニに叱られて全員がしゅんとなる。


その様子を苦笑いして見ていたジョヴァンナが全員に声を掛ける。


「全員が強く賢くなり未来のスフォルツァ領を支えて下さい。この場所はそのために整えたのですから」

小学校って放課後の方が楽しかったですよね。


目的はともかく、楽しい放課後活動の開始です。


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初めての作品投稿です。


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