スフォルツァ城での報告会
リモーネ王宮でレイチェル王女と対面した翌日、ジャンフランコはスフォルツァ城の広間にいた。
今回は公務としての帰国であるので【隠ぺい】も【認識阻害】も使わなかったが、早朝まだ暗いうちからスフォルツァ邸を出発し国境の関所まで馬車を全力疾走させる。正規の手続きで国境を越えると、コルソ・マルケ砦からは幽霊馬車に乗り換え全開走行でスフォルツァ城の朝の会議に間に合わせるという、なかなかの強行軍である。
領主夫妻の前のテーブルには前日に運ばせた【|自律飛行する魔道具飛行】の試作機が置かれており、今日の会議の主題はそちらである。
ロドリーゴは必死に試作機を見ないふりをしていたが、そのロドリーゴも撮影の魔道具が撮影した映像記録の上映が始まると完全にその映像に魅入っている。
ジョヴァンナに目で合図をした後、ジャンフランコがプレゼンを始める。
「この【|自律飛行する魔道具飛行】は残党を封じ込めているミルトン攻略に先立っての偵察のために使うことを目的としており、常時【隠ぺい】と【認識阻害】、そして【看破】を発動させた状態でミルトン上空を往復させて上空から撮影を行います。その後、先ほど上映したような映像記録を回収し、分析することでミルトンの街路や兵器の配置などについて把握するのです」
最終的には隠密状態で比較的低空を低速で飛ぶことを目指すのは、可能な限り鮮明な映像を得るためである。
「操縦方法は?」
「分け身の魔神の権能を発展させ、操縦者が自身の「分け身」を操るのと同じ原理で動かします」
「『分け身』とは?」
「ああ、すみません。コレです」
確かにそれ程知られている魔神ではないな、と思いながら質問に答えるためにジャンフランコが自身の指を突き、血を【神具】に垂らして自分の「写し身」を出現させる。
会議室に集まる家臣たちの半数の顔が引き攣っている。分け身の魔神の権能のインパクトが大きいと見て悪戯を思いつき、自身は領主夫妻の横に用意された席に戻り、「写し身」に残る質疑応答への対応と量産試作機の仕様説明を任せる。
「武装はどうするのか?」「魔力補充の方法は?」など質問がいくつかあったが、ジョヴァンナはじめ出席者からの反応は概ねポジティブなものだった。こういうプレゼンはインパクトの大きいものを見せた者勝ちだ。
先ほどからロドリーゴほか何名かが触ってみたいのかウズウズしているのが見える。その様子を見てジョヴァンナがはぁと息を吐く。
「隣でここまで反応されてしまえば、反対はできませんものね。いいでしょう。量産試作機の製作の結果次第ですが【自律飛行する魔道具】の量産を許可します」
「ありがとうございます」
「今回は城の工房で量産試作機の製作をなさい。このところ多忙だったと聞いています。少しはゆっくりしていきなさい」
「かしこまりました」
「それで、ゆっくりするように申し付けておいてこんな事をお願いするのは申し訳ないのだけれど」
ロドリーゴの様子を見て再びため息を吐く。
「ここにある試作機で遊びたくてたまらない子供たちの世話をお願いできるかしら」
「それでは、ピエレッタに一通りの動かし方をレクチャーしておきます。試作機を試してみたい皆様はピエレッタからの指示に従って下さいね」
視界の端にピエレッタの引き攣った顔が映るが知るものか、とジャンフランコは彼女に面倒事を押し付けることにしたのである。
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「若様!酷いじゃありませんか!わたくしにロドリーゴ様のお世話まで押し付けるなんて!」
「申し訳ないけど、僕は量産試作を言いつかっちゃったからさ」
「それでも!他の人が飛ばすのを指咥えて見ている役なんか嫌です!本当はわたくしがずっと独占して飛ばしていたいのに!」
ピエレッタの本音がダダ漏れである。
「じゃあ、この後昼食を摂って、その後は午後一杯使って君に【自律飛行する魔道具】の操縦方法のレクチャーをするけど、それでどうだい?操縦方法をマスターした以降は君に試作機の扱いを一任するけど?」
ダラダラと垂れ流されていたピエレッタの不平不満がピタリと止まる。
ピエレッタからは見えないが、彼女の後ろでフレデリカが口を手で押さえてプルプルしているのが見える。
「嬉しいです!それなら大丈夫です!明日からのレクチャーはお任せください!」
「それじゃ、必要な魔石の用意をお願いするね。飛行に関する【木】と【闇】は魔力が充填された魔石を多目に用意しといた方がいいね」
「【光】はどうします?」
「なくても飛ばすだけなら困らないから、なしでいいよ」
「承りました」
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操縦方法を理解するための方法のレクチャーだが、元々【自律飛行する魔道具】の操縦方法はピエレッタの発案なので、内容は試作機を起動して以降、操縦のコツのようなものが中心になる。
静止状態の機体前にピエレッタを誘導し、機体各部を触らせて翼などを動かす感覚を習得させる。
明日以降は彼女がレクチャーする側に回るので、改めて注意点を次々指示しておく。
「短時間に長距離を移動させることになるから、迷子にならないように横で地図を見ている人を必ず置くようにすること、あまり長時間連続で飛ばないようにすること、魔石の魔力残量を常に注視すること、これは必ず守らせるように」
「了解しました」
離陸と着陸の手順をレクチャーし、念のためイメトレにも付き合えば準備は一応完了である。
無事に試作機を離陸させたピエレッタが歓声を上げる。
上空を数回旋回させた後、一度着陸させて問題ないことを確認してOKを出す。
ちょうど城に滞在していたリアッティ子爵を呼びにやり、彼に自分の娘のお守りを任せると、ジャンフランコは量産試作に取り組み始める。
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「ねぇ、ジジ、明日からあのピエレッタに試作機を任せても大丈夫なのかしら?」
なんと、あの後「自分も飛ばせてみたい」と言い出したリアッティ子爵と父娘で試作機の取り合いを演じた挙句、魔石の魔力残量ギリギリまで試作機を飛ばし続けたそうである。
「明日以降、仕事を放り出して試作機を飛ばしたがる人の対策が必要そうですね」
その日は久しぶりに親子三人で摂る夕食となる。
と言っても、夕食の席でまで仕事に関する話しか話題に上らないのは相変わらずの三人である。
ジャンフランコからは【自律飛行する魔道具】に関する補足説明のほか、王立騎士団がミント伯爵領へ治安維持のために出発すること、レイチェル王女とのやり取り、更にはリモーネ王宮の禁書庫に入れる可能性などを報告する。
「ローレンス王子の来訪は面倒だな。既にスフォルツァ領内で日常的に利用している魔道具について、ある程度の情報開示は不可避だと考えた方が良さそうだね」
「流石にお断りするのは難しいわね。先にレイチェル王女をお招きしている以上、リモーネとしても継嗣である王子に外交の経験を積ませたいでしょうし」
「母様、来訪を冬まで引き延ばすのはどうでしょう?雪を理由に行動範囲に制限を掛けるとか」
「いっそ、開き直って情報開示してしまうか。輸入を打診されたら値段を吹っ掛けるか、軍事機密を盾にお断りするか、いずれにせよ方針を決めとかないとね」
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「そういえば、旧ミルトンにいた遺跡探索者が政変の影響を嫌ってリモーネに移ってしまっていると聞きました。実はリモーネ王国内の遺跡はもう危険な遺跡しか残ってなくて、彼らはリモーネ王国内では仕事にあぶれていると聞きます」
「ほぉ、ジジは彼らをどうしたいんだね?」
「上手く伝手を頼って彼らをスフォルツァ領内に呼び戻すのはいかがでしょうか。政変前はそれなりに遺跡探索に取り組む商会も多くあったと聞きます。どんな理由でも人をスフォルツァ領内に呼び戻す、あるいは呼び込む方がいいのでしょう?」
「そうね。遺跡探索の知見も政変で失われたものの一つだし、そうやってスフォルツァ領内が失ったものを取り戻す、あるいは新たに取り込んでいくのは大事ですものね」
「では、この件はメディギーニとも相談して進めます」
「商会と言えば、ジジが調整してくれた『工房団地』に進出予定の商会だけれど、仮契約を終えて実際に予定地の見学に訪れたりと順調ですよ。次の春くらいには新しい工房が稼働を始めるのではないかしら」
ジョヴァンナからは他にも農業生産、特に一番荒れていた旧スフォルツァ辺境伯領の回復ぶりと秋の収穫量、農村の復興の状況などについても共有された。
また、朝の会議でも報告されたがミルトン共和国残党の方には今のところ動きがなさそうである。
最後の話題は女神からの要請についてである。
「朝の会議でお見せした【自律飛行する魔道具】の映像にも映っていた崖下の遺跡のようなものですが、あれは遺跡ではなく旧ソフィア教会の昔の拠点であり、逃亡した旧ソフィア教会の残党が今も潜伏する可能性がある、と天恵の女神から警告を受けました。可能なら旧ソフィア教会の残党の殲滅に助力せよとの要請もあったのですが」
「旧ミント伯爵領の更に辺境ですよね。移動に掛かる時間を考えたら非現実的なのではないかしら。貴方がそれ程長期に渡ってリモーネを離れることも難しいでしょう?何より、あからさまな武力行使は内政干渉になります」
「ですが、私には使徒としての義務も 「お黙りなさい!」」
「ジジ、いえ、ジャンフランコ。貴方はそろそろ部下に任せることを覚えなさい」
「そうだね。君に学友を八人も付けた理由を忘れてもらっては困る。彼らにもいずれは各々一軍を率いてもらわねばならないのだよ。彼らにも学びの機会を与えたまえ」
「自らの手で何もかもを動かそうなどと考えるなど、貴方はそろそろ許されないと自覚しなさい。今の貴方がすべきは、隣国のしかも国境付近という政治的にも軍事的にも難しい場所にあっても貴方に利をもたらす指揮官を選任することです。そして、その者が万全の状態でコトに臨めるようお膳立てした上ですべてを任せるのです」
今回の新要素:
・ 特になし
今回は諸々途中経過の確認ですね。
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