【神具】を持つ者持たない者
大変多忙なジャンフランコ君の日常の一幕。
【|自律飛行する魔道具飛行】の飛行試験の翌日朝早く、ジャンフランコはメディギーニ商会を訪れていた。試作機を回収しスフォルツァ領へ向けて搬出しなければならない。
物議を醸した「巨大魔石」こと「コブシ大の魔石」はさすがに取り外して【隔絶された時空】へしまい込んでおく。
試作機をジャンフランコの乗る装甲馬車に積み込むと、取るものもとりあえず出発である。フレデリカのほかに念のため護衛兼説明役としてピエレッタも同行する。
積み荷が積み荷であるだけに、今回はメディギーニ商会を出る直前から馬車の【隠ぺい】と【認識阻害】をフル稼働させておく。隠密状態を維持したまま国境を目指す。リモーネ王国側の国境警備の目を搔い潜って国境を超えるとコルソ・マルケ砦に直行する。
「またまた若様がすごい魔道具を造られたと聞いて年甲斐もなく興奮してしまいましたぞ」そう言って破顔するのはダラヴィッラ。最近またコルソ・マルケ砦の城代を兼任するようになった彼の立会いの下、ジャンフランコの装甲馬車から【自律飛行する魔道具】の試作機が降ろされる。
「ほぉ、これが…既に敵の目を晦ました上で戦果を挙げたというではないですか。こいつが何機かあれば、首都に立てこもるミルトンの連中の馬鹿面も空からバッチリ拝めるというわけですな。夢が広がりますわい」
確かに受け取りましたと一礼するダラヴィッラに試作機とピエレッタを預け、ジャンフランコは装甲馬車をリモーネ王国に向けてUターンさせる。
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装甲馬車は来た時と同じくコルソ・マルケ砦を出る寸前に【隠ぺい】と【認識阻害】を起動して国境を目指す。
本日はレイチェル王女との対面日であるので昼食の前までにはリモーネ王宮に着いておかなければならない。馬車が出せる速度の限界で疾走させる。
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今日のレイチェル王女のテーマは天恵についてのようだ。
先日訪問した際に王女の天恵についてジャンフランコに披露されたが、どうやらあの後になって王女の天恵というのは濫りに他人に明かすものではないと諭されたらしい。
ジャンフランコから見れば王女の天恵は希少な固有の天恵なのだが、貴族の視点では王族が【剣】でも【杖】でもない天恵を授かるのは恥ずべきこと、という風潮があるようだ。
そこから何故か、そもそも天恵とは何か、というところから自分の考えを見直す気になったらしい。
「今は収まりましたけれど、いっとき天恵が得られない騒ぎがございましたでしょう?あの折は多くの貴族家で、折角授かった子であるのに天恵が得られないのであれば平民として育てるしかない、と絶望していたと聞いています」
その後、ジャンフランコ様のおかげで事なきをえたのですけれど、と付け加える。
「貴族は天恵を授かって当たり前、授からない者は平民も同じ、と当たり前のように言われています。そこで改めて思ったのですけれど、そもそも貴族と平民を分けているものとは何なのでしょうか。その身に流れる血によってではなく産まれた後に授かる天恵で分けられることに、わたくしは納得したくはありません。ジャンフランコ様であればどのようにお考えになりますか?」
ジャンフランコが顎に手を当てて暫し考える。
「そうですね。私の見てきたところでは、貴族とは『戦える者』であり、その一点でそうでない者との間に線を引かれることが多いように思います」
「でも、平民であっても傭兵や兵士として身を立てる者はいます。必ずしもそうではないのでは」
「『個』の戦う力で考えてみてください。長年傭兵や兵士として経験を積んだような者であっても、【剣】の天恵を持つ者、【杖】の天恵を持つ者に容易く勝つことはできません。歴戦の勇士が昨日今日成人したような天恵持ちに圧倒的な力の差を見せつけられ敗れることすらままあるのです」
なぜなら、あれは神の権能だから、と付け加える。
次世代に【剣】も【杖】も存在しないということは、即ち次世代では【剣】や【杖】を持つものに敗れ滅ぼされるということだ。だからこそ、貴族家は家門を存続させるためになりふり構わず【剣】や【杖】を求める。赤子に天恵が授けられず騒ぎになったのは、つまりはそういうことだ。
「私の天恵は戦いには役立ちませんけれど」
「戦いは戦場での命のやりとりだけではありませんよ、レイチェル。先日私に示されたように、貴女の天恵は王宮内の会議や外交交渉などの場では強力な武器となります。百戦錬磨の外交官でさえも赤子の手を捻るように簡単に捩じ伏せることができましょう」
それに、と続ける。
「 王族が戦場で戦う者ばかりでは世界が殺伐としてしまうでしょう?」
「確かに、人を動かすのが王族の役目ですものね」
「ええ。武力を用いる戦い、知力を用いる戦い、役割分担というのはあると思います。血を流すことなく争いの芽を摘むこともまた、別の種類の勝利となるのです。貴女が授けられた権能は、まさにそのためのものだと思いますよ」
レイチェルの顔に笑顔が戻る。
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「では、平民についてはどのようにお考えですか」
「そうですね。平民とは戦う者ではなく作る者、ですかね。神の権能を必要とせずにコトを成す者たち、ですね」
「権能を必要としない、ですか」
「ええ。私の見る限りは物を生み出し流通させ国を富ませるのに天恵の有無はあまり関係はないように思います」
「天恵はなくともよいのですか?」
「ええ、平民は技術の積み重ねや熟練、世代を超えて伝えられ積み重ねられた知恵でコトを成すのですよ......普通は」
「普通ではない場合もあるようなおっしゃり様ですけれど」
ジャンフランコがウインクしたことの意味が分かったのだろう。レイチェル王女が先を促す。
「人智の及ばない領域に挑む時、天災に打ち克ちたい時などには、人は神々に祈り、その権能を勧請するのですよ。その祈りを形として残したものが【魔法陣】であり、モノとして残したのが魔道具だと、僕は考えています」
【魔法陣】や魔道具だって「世代を超えて伝えられ積み重ねられた知恵」を具現化したものだ。
「では、【魔法陣】と魔道具さえ十分にあれば貴族と平民の差は埋まるとも考えられますね」
「それは...面白い考え方ですね」
コレはジャンフランコ自身にもなかった視点である。
「産まれた時から天恵により【魔法陣】と魔道具を持つのと同じことが出来るのが貴族。【魔法陣】と魔道具を入手すれば貴族と同じことが出来る平民、ですか」
「では、【剣】と【杖】が【魔法陣】と魔道具で置き換えられてしまえば貴族と平民の違いはなくなりますね」
『それを貴女が言うのはどうかと思うけど』
「ならば置き換えの効かない【剣】や【杖】以外の【神具】が気になりますね」
たとえば、と前置きする。
「太古の知恵を紐解くことのできる父様の天恵、レイチェルの天恵も使い方次第では世界の真実に迫ることにも役立てられるのではないですか?そのように『ありきたり』ではない天恵にこそ価値がある、と思えてしまいます」
「他にも色々な天恵をお持ちの方はいると思うんです。なかなか出会えませんけどね」
最大の原因は、旧ソフィア教会が天恵を持った平民を見つけては監禁して自分たちのためだけに権能を行使させていたことにある。そのため、平民の天恵もちは激減している。
経済的理由から神学校に通うことをそもそも諦めている職人の子弟が旧ソフィア教会の毒牙から逃げおおせていることはある意味皮肉だ。もっとも、生産系の天恵に偏っていている彼らの中に稀に希少天恵持ちが産まれた場合は『奨学生』の名目で強制的に神学校に入学させられることが多かったとも聞くが。
「実は王宮にお勤めの方の中にも、探せば素晴らしい天恵をお持ちの方がいらっしゃるのではないかと推察しております」
「貴族家では【剣】と【杖】以外の価値を極端に低く見ますから難しいですね。恥だと思ってご自身の天恵を隠す方が多いとも聞きますし」
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「ところで、そうおっしゃるジャンフランコ様の【神具】はどうなのでしょう?」
「おや?私は『天恵なし』ですよ。神学校に入学するときの判定でそう判定されましたから」
「まさか」探るような視線を向けられたジャンフランコがたじろぐ。
「複数の神々の御加護を授かっているジャンフランコ様が『天恵なし』だなんて、誰も信じませんよ」
さて、どこまで誤魔化しきれるか…
「僕は単に魔道具の神秘に魅入られて【魔法陣】を深く探求していたら神々を勧請するための知識を得るに至った。それだけの者ですよ」
その時、客室のドアの向こうから大音声が飛び込んでくる。
「実はとんでもない天恵を隠しているのであろう?スフォルツァの者は隠し事が好きだからな」
入るぞ、と言って客室に入ってきたのはレイチェルの兄でありこの国の第一王子であるローレンスだ。
「お兄様!不調法にも程があります。ここはジャンフランコ様をお招きしての婚約者同士の語らいの席ですよ。ジャンフランコ様とお話をされるのでしたら別途お時間をいただくようになさいませ」
「ふん。ジャンフランコ殿は至極御多忙と聞くぞ。そのような調整をしておれば何か月先のことになるか分からぬではないか」
そのまま居直ってジャンフランコの方を向く。
「先ほどのレイチェルの問い、いかがか?古の文書にも載っていないような固有天恵をお持ちではないのか?」
「まさか、お戯れを」
「戯れてなどおらぬ!」ダン!と音を立てて空いている席に腰を下ろす。
「雪の中およそ信じられない速さでスフォルツァの城まで辿り着ける馬車があると聞いたぞ。それも隠しておるであろう?」
「スフォルツァは未だ復興のさなか。そのようなモノを保有する力などまだありませんよ」
話がジャンフランコ個人の話からスフォルツァ家の方に脱線したので、これ幸いとそちらに乗っかる。
「信じられぬな。スフォルツァ家の馬車を追っても、常に見失うとも聞くしな。隠し事が上手な家なのであろう」
「お兄様。わたくしが嫁ぐ家をそのように悪し様に言うのはおやめくださいませ」
「では、疑う心を晴らすためにも一度城までお招きをいただきたいものだ」
話が変な方向に向かい始めたことに内心冷や汗が流れる。
「ローレンス殿下はスフォルツァの城で何をご覧になりたいのですか?」
「ふむ。何と言っても魔道具だな。ジャンフランコ殿の商会で扱っている魔道具は魅力的なものばかりで、この国の貴族や富裕な商人の心を掴んで離さぬそうではないか」
さらに!と畳みかける。
「それにも関わらず、同じような魔道具がどこぞの遺跡から発掘された話なぞついぞ聞かぬぞ。他にも王国騎士団に卸している【治癒】や【解毒】の魔道具だが、これも既知の遺跡から発掘されたよりも多くの数が納められたらしいではないか」
そこまで一気に話すと、少し言い過ぎたと思ったのか、一度咳払いをする。
「実はジャンフランコ殿はご自身の思い通りの魔道具を作れるのでは、との噂がある。スフォルツァの城に行けば秘密の工房があるのだとも。その真偽はいかに?」
目を覗き込んで問われるが、ジャンフランコとしてはこっちに脱線するなら何とかなりそうだと少し安心する。
「殿下は私が国王陛下に献上した『八百万の神々』を読まれたことはございますか?」
「おう。読んだぞ」
「では、お分かりでしょう。神々の権能を深く知ることが出来れば、次に神々に至る道を知り、勧請する術に思いを馳せる、新しい魔道具などというものは、そこまでして初めて、作り出せるものだと私は考えております」
ただ、と顔を伏せて悲しい顔を装う。
「それらを記した書物は旧ソフィア教会が禁書に指定して隠し、あるいは破棄してしまったとも聞いております」
このまま旧ソフィア教会の罪状を強調してもよいが、この話の持って行き方次第ではジャンフランコ自身にも利点が生じるかもしれない。
「あるいは王宮の禁書庫に眠っているやもしれません。もし、禁書庫に入る機会を与えていただければ、その場で該当する書物を探し出し、殿下にご案内することもできるやもしれませんよ」
暫く考え込んだローレンス王子が破顔する。
「喰えぬ奴よな。わかった。その旨陛下に奏上しておこう」
約束だぞ、忘れるなよ、と念押ししながら王子が客室を出る。
王子の背中から視線を戻すとレイチェル王女のキラキラした視線に迎えられる。
「お兄様が申し訳ありません。ただ、今のお話は大変興味深いと思います。もし禁書庫に入られる折には、わたくしも同行させて下さいませ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『リモ、いるかい?』
王宮を辞する馬車の中で呼びかけると即座に亡霊から答えが返ってくる。
『主よ、お声掛けいただくのをお待ちしていた』
たどたどしかった亡霊の話し方が変わっていることに驚く。
『君、そんな話し方だったかい?』
『主の魔力を注いでいただいて、命じられた目録を作るために禁書庫を巡っているうちに、人らしく話す術を得たのだと思う』
『それで、目録は出来上がっている?』
『主に目録を報告するには魔力が不足しそうなので、先に魔力をいただけないか』
『お安い御用』
まだ王宮を出たばかりで【死霊使役の鬼神】の【魔法陣】を通した魔力供給の範囲内である。
『ありがたい』
リモの思念が返ってくると唐突に情報のダウンロードが始まる。
『ありがとう。後で目を通すとして、何か他に変わったことはあった?』
『今、まさにローレンス王子が禁書庫を管理する役人に目録はないかと問い詰めているところ』
へぇ、ローレンス王子は行動の人か。
『ない、と答えを得たのであろうね。王子が首を振りながら戻って行ってる』
今回の新要素:
・ 特になし
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初めての作品投稿です。
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