上映会?反省会?
現状の【自律飛行する魔道具】は間に合わせの改修でとんでもない仕様になってしまっていますが…。
二日間に渡っ(てしまっ)た【自律飛行する魔道具】の飛行試験の締めはメディギーニ商会での「上映会」となった。
ピエレッタが撮影した魔道具の起動から離陸までのシーンに始まり、初日と二日目の【自律飛行する魔道具】の撮影の魔道具が撮影した映像記録が続けて上映される。
軽食と茶菓がテーブルに並べられ少し肩の力を抜いた形式で始められたのは、実際にドローンを通して戦場の空気を味わったジャンフランコへの配慮からだったのだろう。
実際、初日の動く死体が城壁に押し寄せるシーンでは女性陣が悲鳴を上げたりとホラー映画を上映する映画館のような空気感になったし、【破魔】が発動して動く死体が一掃される映像が流れると一斉に歓声があがるのは、戦争映画の観客まんまである。
遺跡らしきものを発見して帰還に移るところまで上映すると、ようやく全員が落ち着いて真顔になる。
ジャンフランコとしてはここで切り上げて引きあげたいところだが、残念ながら会議はここからが本番である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この仕様のまま量産はできない」会議はメディギーニの断言からスタートする。
「一機で国家予算十年分相当の魔石を必要とするなんざ、マトモな商品とは言えないだろ?」
「まぁ、アレは特殊な戦場に合わせてやっつけで改造した仕様だから、アレをそのまま量産するのが正しいなんて思ってませんよ。では最初の仕様に戻すのが正解かな?アレは市場で調達出来るサイズの魔石を前提にしてるから」
「基幹部分に【闇】属性の魔石を使う時点で、その前提はおかしいだろ」
和やかに始まった「上映会」は、そのまま【自律飛行する魔道具】の仕様を検討する激しいやり取りに変わってしまった。
「まず、あの巨大魔石を使うのは絶対にダメだ。一個で国家予算一年分相当の魔石なんてそもそも世に出しちゃダメだろ」
『巨大魔石』というのは、【隔絶された時空】に秘匿されていたコブシ大の魔石のことだ。
「あれだけの価値があるものを死蔵しとかないとダメなんて、そっちの方がダメじゃない?」
「あんなもん市場に流したら、それこそ魔石の市場が崩壊するぞ」
「だからこそ民生品じゃなくて軍用品に使えば?と思ったんだけど」
「おいおい、あれ一機鹵獲されただけでその前提は吹き飛ぶぞ。魔石ほじくり出して売っ払うだけで軍資金はたんまり手に入るわ、ついでに市場も混乱させられるわで敵がホクホク顔になるだけじゃないか」
メディギーニの言うことももっともなので、ジャンフランコは一旦妥協することにして話題を変える。
「まず、あの魔道具に武装は不要ということでいいかな?今回大量の魔石が必要になったのも後付けで【破魔】を降らせるようにしたからだし」
「誰も手の届かない空中から広範囲に攻撃できるんだぞ?武装を最初から排除することはできないだろ」
「【自律飛行する魔道具】 の大きさを考えるとあまり大きな武装は積めませんよ。大きさや重さによっては、そもそも離陸できないかもだし、少なくとも航続距離や速度は確実に落ちます」
武装に関する議論には、魔道具開発に関わった立場からピエレッタも参戦する。
「そもそも、あの魔道具の使用目的の整理から始めようか。アレは元々首都ミルトン制圧作戦のため、上空から偵察する目的で造り始めたんだけど」
「確かに、初期の機体は偵察用途と考えると割とうまくできていましたね。今回も初日の偵察結果があればこそ、有効な対策を立てて二日目には戦果を挙げられたわけですから」
フィオリオ子爵が冷静に「偵察目的」というジャンフランコの主張を支持するが、よりによって彼の娘であるアレックスが反対する。
「でも、その『二日目の戦果』も無視できないくらい大きいんじゃないかしら。今回は相手が相手だったから【破魔】を降らせたけれど、代わりに【睡眠】や【麻痺】を空から降らせて首都丸ごと無力化する、なんてこともできるんじゃない?」
「ああ。ローレ教室やスフォルツァ城の作戦ではいかに気づかれずに接敵するかが大変だったけど、この魔道具を使えば安全な場所から敵を無力化できるわけだね」
【睡眠】を使った敵の無力化はスフォルツァ家の軍事ドクトリンの重要部分を占めるようになっている。ドクトリンとなる前の初期段階から同様の作戦に参加しているティツィアーノはアレックスの意見に賛成する。
「『無力化』に特化しなくてもいいんじゃないかな。時と場合によっては敵に火の雨を降らせたい場合もあるだろうし」
「今回みたいに不死者相手の作戦もあるかもしれないしね」
「作戦に応じて装備を変えられるようにできればいいのか」
「ああ、それならできそうだよ」やや迷走気味だった議論にジャンフランコが割り込む。会議室に備えられた黒板の前に立つと、【自律飛行する魔道具】 を簡略化したような絵を描き、主翼の下に小さな翼状の出っ張りを描き足す。
「こんな風に 主翼の下に魔道具を吊り下げられる場所をつけとけばいいんじゃないかな。作戦に合わせて【睡眠】でも【火槍】でも魔道具を取り換えて吊り下げられるようにしてさ」
「なるほど、悪くないですね」フィオリオ子爵が会議室の空気を代表して頷く。
「逆に、下向きの撮影の魔道具とか偵察用の機能は攻撃にも役立つから、偵察用を基本にして作戦に応じて必要な魔道具を吊り下げていくっていうのが正解じゃないかな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「偵察を基本にするならするで、今の仕様には不足があるぞ」
「というと?」
「【隠ぺい】と【認識阻害】では不足ってこった。現に空に向かって攻撃してきた相手は結局見つけられなかっただろう?」
「ああ、 【看破】 ですね。確かにそれは欲しいと僕も思いました」
メディギーニの提案にジャンフランコが納得する。
「そうなると、普通の【隠ぺい】や【看破】で大丈夫ですかね。今回も初日の出撃では【隠ぺい】を【看破】されてますけれど」
「【隠ぺい】と【看破】はイタチごっこみたいなとこがあるからなぁ。若様が言ってた『倍量記法』ってヤツなら敵に上を取られることはないんだっけか」
「【秘事】と【看破】の使徒にでもならない限りは上を取れないだろうね。まぁ、僕がその二柱から愛想つかされて縁切りされない限りそれはないんだけど」
今回の飛行試験 でも「倍量記法」の有効性は証明されている。ただ課題もないわけではない。
「魔力消費的にどうなんだ?やっぱりあのクソでかい魔石じゃないと持たない感じか?」
「常時【隠ぺい】と【認識阻害】を使用するのでなければ、結局それほどは魔力を消費しなかったですね。ああ、ただ偵察任務によっては必要になる場合もあるのか…」
「一旦、必要な魔石を洗い出して整理してみましょうか」
そう言うとフレデリカが黒板の前に立つ。彼女が書記役として整理し、最終的には次のようなリストが出来上がった。
〇 【乗り移り】による制御・・・ 【闇】汎用サイズの魔石で十分
〇 推進機の駆動・・・ 【木】汎用サイズの魔石 数個必要
〇 機体の姿勢制御・・・ 【木】 屑魔石で十分
〇 撮影の魔道具 ・・・ 【金】 記録用と合わせて汎用サイズの魔石 二個
〇 【隠ぺい】+【認識阻害】・・・ 【闇】倍量記法なら汎用サイズの魔石
数個必要
〇 【看破】・・・ 【光】倍量記法なら汎用サイズの魔石 二~三個必要
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「【隠ぺい】と【認識阻害】に加えて【看破】は最重要な能力だから倍量記法にしときたいなぁ」
「そもそも、使用する【闇】も【光】も「汎用」と書いてるけどほぼ市場に出てこないし、逆に市場に出せないし」
うーんと腕組みをして考え込むジャンフランコが一つの提案をする。
「魔石の形をしてるのが気持ち悪いなら、機体の各部に魔力をためるようにする?」
その場にいる全員が『機体の各部に魔力をためる』?と反応するが、メディギーニとフレデリカだけが『あーあれか』という顔になっている。
「【木】属性と【土】属性の魔力を素材に空の魔石と同じような構造体が作れるんですよ。今のところ、スフォルツァ城の城壁とかにしか使ってませんけど」
ジャンフランコが頭を掻きながら説明するとその場にいる全員がギョッとした顔になる。
「あ。そういえば【幽霊馬車】にも使ってたか」
「あの板みたいなやつかぁ」御者役をしていて何度か目にしたことのあるジルベルトが思い出したように言う。
「アレなら天然ものより魔力密度上げられるから軽量化とか機体スペースの確保とかにも貢献するし、いいかもね。欠点は通常の魔石みたいに魔力が切れたら交換してってできないことだけど」
「どっちにしろ作戦行動には【幽霊馬車】や【装甲馬車】を使っての移動が前提になるだろうし、そこから魔力の充填ができるなら問題にはならんだろ」
「わたくしはむしろ、交換用に【光】や【闇】の魔石をゴロゴロ持ち歩く方が怖い」
だって、大金を持ち歩くのと同じですもの、とダリアが呟く。
【自律飛行する魔道具】については、大まかな仕様がある程度固まった。これを受けて、この後量産試作をすること、量産試作機に問題がなければ生産のための魔道具を製作すること、量産は量産はスフォルツァ城かコルソ・マルケ砦の工房で行うことが決まった。
さしあたりジャンフランコは量産試作に取り組むことになる。
今回の新要素:
・ 【自律飛行する魔道具】の仕様決定
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めての作品投稿です。
誤字・脱字など見つけられた場合は、ご指摘をいただければ幸いです。
気に入っていただけたらブックマーク・評価・コメントなどしていただけたら励みになります。




