突貫工事での弱点補強
前回の試験飛行で洗い出した(?)要改善点に手を付けます。
ジャンフランコはメディギーニ商会で「ほぼ」自室のような扱いになっている部屋に籠る。ここは彼が魔道具と【魔法陣】探求の最初期から使い続けている部屋でもある。
実作業に先立って、まずは【魔法陣】の改良に着手しなければならない。
最初の一手は【破魔】の神の勧請から。
『其方まことに神遣いが粗くなったな。我もそうだが、約定は権能の勧請のために結ぶのであって、神本人を気軽に勧請するためのものではないのだぞ。』
『お時間は取らせませんから。【破魔】の【魔法陣】を強化したいのですが、どこをどう弄れば良いのか教えて下さい。』
『ええい。少しは遠慮せんか。まぁよいわ。コレっきりじゃからな。勧請の時に捧げる魔力量の定義を並列に二重に書けば単純に威力も二倍に...とはならんが確実に向上するぞ。コレでよいな。』
『ありがたく存じます。ちなみに、コレはどの【魔法陣】にも共通の裏ワザなのですか?』
『(これまた厄介な奴に教えてしもうた)知らぬ。己で試してみればよかろう。』
逃げるように【破魔】の神の気配が遠ざかる。
もう少し色々と聞き出したかったが、これだけ聞ければ十分だし、何より今は【魔法陣】の改変が先だ。
前回、こちら側の【隠ぺい】と【認識阻害】を見破った上で攻撃を仕掛けてきた敵がいた。
その対策としてジャンフランコが考えたのが、敵の【看破】能力を上回るよう【隠ぺい】【認識阻害】を強化して敵に発見されないこと、敵の射程距離外から【破魔】による攻撃を放てるよう【破魔】を強化することの二段構えの改良である。
『【神測】【取込】の後に一部を改変して別名で保存して、と。そのまま【神測】【実証】......っとコレはキツいな。確かに魔力を倍量持ってかれるよ。』身構えていたとはいえ、倍の速さで吸い出される魔力に戸惑う。
実際に【魔法陣】を起動してみて改めて実感するが、魔力の消費が二倍になることの影響は決して小さくはない。単純にこのまま【破魔】を連発するとなまなかの魔石ではすぐに魔力を使い果たして空になってしまう。
なかなかに悩ましいが...と考えたところでジャンフランコはあることを思い出してニンマリ嗤う。
魔力消費が問題なら予め容量の大きい魔石を持っていけばいいだけだ。
久々に【隔絶された時空】に手を突っ込むと【光】属性の魔石を十個と【闇】属性の魔石を一個取り出す。例の「軍閥の領地を買い取ろうとしたらお釣りだけでとんでもない額になる」と言われた大人のコブシ大の魔石である。
ついでに、と【隠ぺい】と【認識阻害】の【魔法陣】も倍量記法で改変した版を作っておく。先ほどの【闇】属性の魔石はこのためだ。
とんでもない魔石をジャラジャラと手近な木箱に放り込むと、ちょうどフレデリカとピエレッタが入室してくるところと鉢合わせる。
「若様!その箱に入ってるのは!?」
箱の中身が目に入ったに違いない。ピエレッタは硬直し、魔石の由来を知ってるはずのフレデリカは主の意図に気づいて頭を抱えている。
「まさか、その魔石全部を魔道具の強化に使うおつもりですか!?」
ブルブルと震えるピエレッタに「そうだよ?」と事もなげに答えると「地下まで運ぶから」と手伝いを頼む。
その場で泡を吹きながら倒れるピエレッタ。
「だって、売りに出しても買える人なんてどこにもいないんだし、使わなきゃ損じゃないか。」ジャンフランコの呟きはピエレッタの耳に届いたのか届かなかったのか。
「ねぇ!倒れてる場合じゃないよ。今から突貫作業で試作機を改良するんだから。」ピエレッタを見下ろしながら呟くジャンフランコは前世で死にそうになりながら納期と闘っていた頃と同じ顔になっている。
神々であっても平然とこき使うはずである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何とかピエレッタを助け起こし、引き摺るようにして地下に降りると、【自律飛行する魔道具】の周りに人が集まっている。
「今から作業するので、場所を空けて下さい。」
試作機の背面をパカリと開き、機体内側に描かれた【隠ぺい】と【認識阻害】の【魔法陣】の一部を書き換えた上で、コブシ大の【闇】属性の魔石を木箱から取り出し機体に差し込まれていた魔石と交換する。これで、【隠ぺい】と【認識阻害】が倍量記法の強化版となった。これを【看破】できるのは、この世広しと言えども【看破】の神の加護を受けるジャンフランコただ一人である。
流石に追加で十個の魔石を入れる空きスペースは機体の中には無さそうだと見て取り、別の方法を講ずることにする。前世で読んだ雑誌か何かに描かれていた軍用機は「増槽」と呼ばれる流線型の外部燃料タンクを付けていた。同じような流線型の入れ物を追加して、そこに魔石を入れればよい。
ここからは機体下面側の作業になる。
機体背面の開口部を閉じてロックすると、誰でもいいので、と試作機を裏返すように頼む。
機体そのものにそれ程の重さはないのだが、大きさがあるために一人で裏返すのは難しい。その場にいたフレデリカとピエレッタが二人がかりで機体を動かしにかかる。
ジャンフランコが「材料が要るな」と一言呟くと周りを見回し、一番最初に目に止まった手元の木箱をひっくり返して中身を無造作に床に放り出す。周囲にいる全員の目が真ん丸に開かれているのは転がり出た魔石の巨大さに驚いているのか、それとも魔石の価値を無視したぞんざいな扱いに呆れているからなのか。何せ国が一つ買えそうな魔石がゴロゴロと無造作に床に転がされているのである。
木箱を原料にして目の前の魔石が5個ずつ入りそうな流線型のケースを二つ作り出す。床に転がった魔石をひょいひょいと拾っては出来上がったばかりのケースに詰め込んでいく。
ケースの内側に魔導線を描いて魔石と繋ぎ、フレデリカが手渡してくれた太い魔導線を固定する。
魔石の入ったケースの蓋を閉じると胴体下部主翼の根元辺りに二つとも並べて固定する。ケースに繋がった魔導線を両翼に固定すると、そこを起点に主翼の裏側に先ほどの「倍量記法」で【破魔】の【魔法陣】を描いてゆく。
【破魔】の発動は主翼操作に用意された予備の切っ掛けに紐付けられた。
【魔法陣】を描き終わると【木】属性で薄く透明な保護層を【魔法陣】の上に形作っていく。
片翼が終わるともう片方で同じ作業を繰り返すと、ひとまずは【自律飛行する魔道具飛行ドローン】の対不死者武装は完成だ。
流れるように淀みなく作業し、あっという間に改造を終わらせてしまったジャンフランコに周りは呆気に取られているが、それは敢えて無視する。
「コレで試作機の改造は終了。僕は就寝します。」
操縦者としての役割がなければ、徹夜してでもこの後の検証作業を自力でやるところだが、そこはピエレッタ達に任せて自分は仮眠するのが仕事だ。明日は自らの手でミント領の領都に押し寄せる動く死体どもの上に【破魔】の雨を降らせる必要があるのだ。
今回の新要素:
・ 【魔法陣】の倍量記法(魔力消費二倍 / 威力強化)
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