自律飛行するドローンの魔道具
『なんとまぁ、一週間ほどでこのような【魔法陣】を書き上げてしまうとは、其方の才は底が知れんの』
ジャンフランコが自作の【魔法陣】の間違い探しを頼める相手は少ない。
【魔法陣】の理解についてはジャンフランコの右に出る人間はいない。
そうなるともう、頼るとすれば神々をおいて他にはいないわけだが、だからといって気軽に秘事の女神を勧請して我が事を頼むのも筋が違うだろう。
『相変わらず神遣いの荒い奴よ』女神が嘆息する気配が伝わる。
『普通は己を加護する主を使役するようなことはせぬのだぞ』だが、文句を言いながらも女神の口調が軽く弾むように変わったのは【魔法陣】をなぞり始めてその出来の良さに気づいたからなのか。
『うむ。問題はなかろう』
【魔法陣】の確認が終わったのか、女神の評価が下る。
『この【魔法陣】を間に挟んで分け身の魔神の権能を行使すれば、其方が定めた通りの魔力が流れることは確認できたわい。魔力の漏れや誤動作に繋がるような単純な間違いもないぞ』
女神の機嫌はよい。
『あとは実際に魔道具とやらを組み上げて動かしてみねば判らんがの』
とりあえず、ジャンフランコ自作の【魔法陣】について、単体での品質保証は合格できた。次はいよいよ【自律飛行する魔道具】に組み込んでの結合テストである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで、これが【自律飛行する魔道具】ですか」
ピエレッタが感心したような声を出す。
彼女は、魔道具を「写し身」に見立てて操るというアイディアを出してきた立役者だ。
彼らが乗る馬車の中に備えられたテーブルの上にはジャンフランコが情熱を捧げてきた魔道具の試作機が置かれている。
黒光りする機体は軽さと高剛性を両立させるために、ジャンフランコが作り上げた【木】属性の新素材製である。【木】属性の繊維を編み上げて機体の形を作り、同じく【木】属性の樹脂を浸透させてから高温高圧で焼き上げて成形した、要は|炭素繊維強化プラスチック《CFRP》をこの世界の技術(魔術?)で再現した素材でできている。
主翼は安定性を重視して機体の左右にほぼ一直線に伸び、尾部には同じく水平に真っすぐ伸びた尾翼がつき、その先端が直角に折れ曲がって垂直尾翼になっている。
ちょうど成人男性が両手を拡げて寝そべったくらいの大きさの機体の背面に背負うように「ダ◯ソン」と呼ばれる筒状の部品がつき、これが機体を前に進ませる力を生み出す。
胴体部分も空洞ではなく、【隠ぺい】と【認識阻害】の魔法陣が描かれ、空いたスペースには燃料代わりにところ狭しと魔石がつめこまれている
流線型を描く機首の上面には魔道具を操作する視界を得るために、そして下部には偵察・撮影用に、それぞれ撮影の魔道具が取り付けられる。
ここまでは先にピエレッタに貸し出されていた試作機からほぼ変わっていないが、今回は機首部分に新たにジャンフランコ自作の【乗り移り】の【魔法陣】が刻まれた基盤が備わる。
「写し身」と本人との繋がりを経由することにより魔道具の行動範囲と把握できる情報量の課題を解決するというピエレッタのアイディアをジャンフランコの技術でカタチにした【自律飛行する魔道具】。
その形やら機能についてアレやコレやと説明したり自慢したり驚いたり。
このまま郊外まで馬車で移動し、【自律飛行する魔道具】試作機の稼働試験を行うのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それじゃ、始めるとしますか」
馬車の中からテーブルごと運び出された試作機の前で、一部が露出した【魔法陣】を覗き込みながらジャンフランコが宣言すると、馬車に同乗していたフレデリカとジルベルト、アンジェロ、ダリアがジャンフランコをカバーできる位置に散開する。ピエレッタだけは騎士でありながら撮影の魔道具を構えて試験の一部始終を記録する担当だ。
撮影の魔道具に映るジャンフランコが小指の先を小刀で突き、小さく溢れた血を二滴三滴と【魔法陣】に垂らすと【魔法陣】に触れて魔力を流し始める。
【魔法陣】を露出させるために開いていた開口部をパチンと閉じると【自律飛行する魔道具】の機体が微かに震えだし、それで周囲の人間にも魔道具が起動したことご判る。
「う。分かってはいたけど、視界が何重にもなるのは気分のよいものじゃないね」
「撮影の魔道具を魚眼タイプにしたことも影響しているかも。目を瞑れば少しはマシになると思いますけど」
言われてジャンフランコが目を瞑ると、それまでの三重映しから二重映しになるだけで随分とマシに感じる。更に意識を向けると下面を映す撮影の魔道具もオフとなり、試作機の視点から見た光景だけが伝わってくる。
ただし、それも周囲三百六十度すべてが一度に視界に入ることから嫌でも魔道具に接続していることが判る。
「ひとまず、【乗り移り】の【魔法陣】と魔道具の接続状態は良好。視界も問題なし。撮影の魔道具の記録は後で確認してね」
「次は機体の動作試験に移るね。これは目を開けてないとできないのが辛いけれど」
二重映しの視界に混乱しながら片側の主翼の後端を掴む。
「うう。コレが機体を触られたときの感覚か」
片手の人差し指を触られるような感覚に身震いしながら、今度は同じ指を曲げようと意識すると掴んでいる部分が下に曲がり始める。
そのまま掴み動かす場所を次々と変えながら機体を操作する感覚、機体に触れられた時の感覚に自分を馴していく。
「ひとまず機体の操作も大丈夫だね。違和感は...ありまくりだけれど」
「人の体型とは違うものに【乗り移】ってるんですから、仕方ないと諦めて慣れて下さいませ」
「では、次は推進器の試験だね。アンジェロ、ジルベルト、いいかな?」
ジャンフランコに声を掛けられた二人が試作機の主翼をそれぞれ両側から押さえるように掴む。
「おいおい!そんなに強く掴まないでくれよ。僕は男に手を繋いでもらって喜ぶ趣味はないんだよ?」
軽口を叩きながら試作機の機体が背負う推進器部分に少しずつ魔力を流すと、アンジェロ、ジルベルト二人の手にも試作機が前進しようとする力が伝わリはじめる。
段々と流す魔力を増やしていき、男二人がかりでも抑えきれなくなる寸前で魔力を流すのを停めると、「オッケー。ひとまず【魔法陣】と試作機の接続も問題ないよ。結合試験は合格かな?」と周囲に声を掛け、【自律飛行する魔道具】との接続も切る。
「では、ジャンフランコ様は馬車に戻って休息なさいませ」
フレデリカが近づいて肩を貸す素振りを見て、ジャンフランコはかぶりを振る。「馬車までくらいなら一人でも大丈夫」
「ピエレッタは機体に歪みや亀裂が生じてないか、目視でいいから確認をお願い」
「承りました。暫くはご気分が悪いでしょうから、ゆっくりお休み下さいませ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
馬車の座席に座り、息を一つ吐くと目を閉じ、左右の手の指を微妙に曲げたり伸ばしたりしながら【自律飛行する魔道具】を飛行させるための操作のイメージトレーニングを始める。
翼や推進器の単体試験時に取ったデータで、機体の動かし方はある程度想像できるようになってはいるものの、ジャンフランコには空を飛んだ経験などないのだ。
『コレばっかりは実際に飛ばしてみないことにはね』
ある程度落ち着くと立ち上がり馬車の外に出る。
「「もうよろしいのですか?」」フレデリカとピエレッタの声が重なるが、一人は心配そうな、もう一方は期待に満ちた視線をそれぞれ向けてくる。
「うん。このまま飛行テストも済ませておこう」
アンジェロとジルベルトの二人に視線で促すと、【自律飛行する魔道具】をテーブルから持ち上げて地面の上に置く。
ジャンフランコが再度血と魔力を注ぐと魔道具が起動する。
暖気運転をしている間にジャンフランコはゆっくりと馬車に向かって歩き出す。フレデリカが駆け寄り馬車の扉を開けるとフレデリカに支えられながら座席にたどり着く。
「そのまま座席に横になられませ。少しは負担が軽くなります」
「お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」と座席に背を沈め、ゆっくりと目を閉じる。
視界には魔道具から見た映像が広がり、視界の端には機体表面の温度やら魔石の残量やらに並んで推計された残り稼働時間が表示されている。【闇】も【木】も魔石の魔力残量はほぼ満タン。残り稼働時間も十時間を超えている。
速度表示はジャンフランコにしか馴染みのないkm/h表記だが、もちろん今はゼロ表示のままである。
「それじゃ、試験開始するよ」と告げるとフレデリカが馬車の外に向けてその旨を叫び扉を閉じる。「試験開始です!」
指を曲げる感覚を使って主翼を変形させ、推進器に流す魔力を増やしていくと、機体が前に進み始める。機体の下に着いたソリが地面の上を滑る速度を増していく感覚が脚にゾワゾワと伝わるがそれも短時間で終わり機体が上昇を始める。
翼の形と推進器に流す魔力を操作し、どんどんと高度を上げていく。
魔道具が捉えた情報が生き物の知覚に変換されて伝わるのに慣れてくると、身体感覚と機体を動かす感覚の相互作用が働き、自在に動かせるように感じる。
試しに馬車の上空をクルクル回りながら視界を下向きの視界に切り替えると、アンジェロとジルベルトがポカンとクチを開けて上を目上げているのが見える。ピエレッタがカメラを上に向けて構えたまま歩き回るものだから躓いて転びそうになる姿も。
思わずクスクス笑いが漏れるが、「遊んでないで早く試験を進められませ」とフレデリカに言われて「じゃ、次は巡航試験に移るね」と告げて機首を西に向けて高度を上げる。
「ピエレッタにも撮影を止めて馬車の周囲を警戒するように伝えてね」
今回の新要素:
・ 【自律飛行する魔道具】飛行試験開始です。
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