【閑話】遺跡探索者の意地
【注意】胸糞表現と残酷描写があります。
苦手な方は読み飛ばしてください。
くそ!なんでこのオレがあんなガキどもに追い返されなきゃならんのだ!
そもそも、あのローレって奴の教室とは昔から上手くやれてたじゃないか。
奴らが見つけても手に負えないような遺跡は探索を引き継ぐ代わりに情報料を払ってやってた。
野獣や罠を片付けた後の遺跡を探索させる許可を出してやったり、もちろん、金目の遺物や魔道具は一通り回収した後だが、そんな遺跡でも学術研究のためとか言って奴らは喜んで探索してたし、たまに伯爵家の遺跡探索者が見落とした魔道具を見つけることもあった。
そんな時は買い取ってやったり、あるいは目溢ししてやったり。
そんな風に持ちつ持たれつうまくやってたはずなんだ。
それが、いつの間にか奴らは変わっちまった。
新しい遺跡には手を出さなくなるし、既知の遺跡にもまだ研究の余地があるなんて言いだしやがった。遺跡探索にも出てこねぇし、教室であれこれ研究する方が大事なんだと。
どうやら、何年か前に一度、遺跡探索で痛い目をみたらしいが、そこから臆病風にでも吹かれたか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それにしても、あの女生徒どこにあんな大剣を隠してたんだ?
絶対に見間違いじゃない。あの部屋のどこにも剣なんか置いてなかった。
それに、まさか学生があんな害意しかない禍々しい大剣を軽々と振り回すなんて。
アレは確かフランベルジュとかいう炎の形を模した刀身を持つ異形の大剣。
「炎の形」と言えば聞こえはいいが、あの刀身で斬りつけられたが最後、傷口はグチャグチャに斬り裂かれて治りにくい深い傷が残る。あれは敵を殲滅するための剣ではない。二度と戦場に戻れない傷痍兵を量産する剣だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何だ学者先生の助力は得られなかったのか。まぁ、ダメで元々だったしな」
ミント伯爵領の領都にある伯爵のお屋敷に戻った俺を迎えたのはそんな一言だった。
「申し訳ありません、伯爵。奴らやはり臆病風に吹かれたまんまでした」
「領外の力はなかったものとして遺跡に挑むさ。領地の力だけで探索する、それで十分なのだ」
「それで、先遣隊はどちらに?」
「奴らは徒歩だからな。一週間前に出発させておる。明日の朝出発するとちょうどよいポイントで追いつけるさ」
資金を借りるため奔走した首都ではミント伯爵は意地になってしまっているだけだとの陰口も耳にしたが、そんなことは分かりきっている。伯爵が利口なら最初から爵位と領地を返上して一からやり直そうとしただろうさ。
だが、もう引き返すことなどできん。
決断の時はとっくに過ぎた。
もうマトモな手段など残ってはいないのだ。
既に領地の経営は取り返しのつかないところまで傷んでしまっている。
どの道、遺跡探索で一発逆転を狙う以外に伯爵家を立て直す方法など残ってはいないのだ。
領地の主戦力であるはずの騎士団も既に壊滅的被害を受けている。
遺族への補償の金すら領の金庫には残されていない。
一蓮托生。
残った伯爵家の家臣は手に手に武器を携えて残らずあの遺跡に向かう。
狂っていると言わば言え。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
草木の一本も生えてない荒地の崖下。その遺跡の入り口の周囲には崩れた岩がいくつも転がっている。
前回の遺跡探索から命からがら撤退したとき、入り口近くには先に犠牲となった何十もの騎士の遺骸が横たわっていたはずだ。
それが跡形もなく消え去っているのはなぜなのか。
獣に喰われたにしても鎧や武具は残るはずだがそれも見当たらない。
まぁ、どうでもよい。
どうせ死骸ごとどこかに引き摺られて持っていかれたんだろう。
前回の遺跡探索では何が脅威かすら把握できないまま騎士団が壊滅的な被害を受けて撤退を余儀なくされた。だが、今回は違う。
「第一隊前へ」
手枷足枷を外された囚人達が十人ほど。おっかなびっくりで遺跡の入り口に向かって進む。奴らは後ろから武器を突きつけられ、戻ることも逃げることもできず、ただ遺跡の入り口まで追い立てられ歩かされる。
人道にもとる?それがどうした。
元々奴らはミント伯爵領内で重罪を犯した犯罪者たちだ。
奴らがいの一番に攻撃を受けるのを離れたところから観察して遺跡の脅威の正体を探る。それだけでオレたちの生存確率は上がる。
奴らにとっちゃ刑場で処刑されるかここで死ぬかの違いでしかない。
どうせ死ぬなら少しでも偉大なミント伯爵家のお役に立てる方がマシ、だろう?
おかしなことに、何の攻撃もないまま囚人達は全員が遺跡の入り口に入ってしまった。まぁいい。囚人達はまだまだ連れてきている。
「第二隊前へ」
だが、奴らが全員遺跡に入ってしまっても何も起こらん。
「第三隊の準備をさせろ!」
「おい!遺跡に入った奴らが出てきやがったぞ!」
一人、二人と囚人どもが遺跡から出てくるのが見える。
そのうち、遺跡に入った囚人どもが全員出てきた。
おかしなことに奴らこっちに戻ってこようとしないで遺跡の近くでぼーっとたむろしてやがる。
「おい!どうする?」
「かまわん!第三隊を進ませろ!奴らに一人か二人連れてこさせて話させたらいいだろ!」
追い立てられた囚人達が遺跡まで半ば、といったあたりで突然立ち止まりやがった。そのうち何人かはこっちにむかって走って引き返して来やがる。
奴らの叫び声が聞こえる。
「冗談じゃねぇ!先に行った奴らあんなんなっちまった!オレはゴメンだ!死んでもゴメンだ!」
それが合図になったのか、残った奴らも回れ右して走ってきやがる。
いや、それだけじゃない。ぼーっとしてた連中までコチラに向かって走って来やがった。それもえらい速さで。
逃げ遅れた奴が何人か捕まる。
アチコチで悲鳴が上がるが捕まった奴はすぐに動かなくなる。
ユラリと立ち上がり、奴らがコチラを向く。
「総員!迎撃準備!伯爵をお守りするんだ!」
あっという間に奴らの一人が目の前に迫る。
戦斧を当てるとそいつの片腕が宙に舞う。
けど、止まりやしない。残った腕で俺を掴もうとしやがる。
動きが鈍重なのだけが救いだ。
戦斧を横になぎ、頭を切り飛ばすとようやく動きをとめる、
「こいつら頭が弱点だ!首を狙え!それじゃないと止まらん!」
必死に声を上げて見回すが応えることのできる者は既に一人も残ってなかった。
「こいつ!...喰われ...」湿ったような絶命の音が聞こえ、次には何かを噛み砕くようなゴリッゴリッという音がアチコチから聞こえる。
背後に気配を感じ振り返ると、ミント伯爵の服を着たモノがユラユラと近づいてくる。顔は土気色に変わり、焦点の合わない目でコチラを見ている。
一二歩後ずさると後ろから肩を足を腕を万力のような力で押さえ込まれる。
ミント伯爵だったモノがオレの目の前でクチを大きく開き、直後オレの肩に歯を喰い込ませる、身体のアチコチからも突き刺されるような、切り裂かれるような痛みが走る。
『待て......俺は......未踏の遺跡を制覇し...』
今回の新要素:
・ ミント伯爵家は(事実上)消滅
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