【閑話】少々不気味だけれど便利な存在
「殿下、そこまでにございます」
侍従侍女に口々に諌められたレイチェル王女はジャンフランコから手を離す。
「あら、わたくしちゃんと弁えていましてよ」
「いくら婚約されたとはいえ、そのように触れ合うのは些か端のうございます」
ジャンフランコからすれば婚約者を前に別のことを考えていたと見破られ、その上で言い逃れられないよう(物理的にも)ロック・オンされて冷や汗をかくような思いをしたわけだが、周囲からは「少々度を越えた触れ合い」に見えたらしい。
「では、今日はこれにてお暇いたしましょうか。僕もこのままのぼせ上がってしまわないよう、心を落ち着かせたいと存じます」
「あら、なかなか興味深いお話でしたのに、次にお目にかかる時が待ち遠しくなりますわ」
「せっかくですしお見送りさせて下さいな」
「いえ、本日は殿下の護衛を最低限しか手配しておりませんので、こちらにてお見送り下さい」
王女の申し出を止めてくれた王女の侍従に心の中で感謝しながら客室を辞する。
城の奥まった場所からなので、城の車寄せまでにはそれなりに距離があり話す時間もある。
廊下を少し歩き、見送る王女の姿も見えなくなったところでフレデリカが耳元で囁く。
「先程は唇を奪われそうになってらっしゃいましたね」
「君からはそう見えたのかい?」
ジャンフランコの主観では、あと少しで捕食されそうになっていたわけだが。
「彼女、それなりにヤバい天恵を持ってるよ」ふんわりしたお姫様だと思って近づくと痛い目を見ること必定であると思い知った。
「詳しくは馬車の中で話そう。それよりも僕はこれから『上の空』状態で歩くから、馬車まで誘導してくれないか」
ジャンフランコが外見を取り繕いつつ天恵を使うのには神学校の低学年時から見慣れているフレデリカである。
何かを言いかけるがそれはやめて、頷く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『おい、'リモ'。僕の声が聞こえるかい?』
以前と同じように【死霊使役の鬼神】の【魔法陣】を通して呼びかけると、以前使役した死霊から返事が返ってくる。
『主......オレ......ずっと城にいた。呼ばれるの待ってた。......オレ、エライ?』
相変わらず要領を得ているのかいないのか分からない返事ではあったが、ひとまず使役が継続していることは確認出来た。
『前回使役したときから見たこと・聞いたこと、教えてほしいけどできるかい?』
前回は不気味な死霊をただ遠ざけたい一心で使役しただけだったが、彼(?)を使役してできることについて少し探ってみたい。
『主に......オレのコレまで教える......やってみる』
言葉で報告されるのかと思いきや、'リモ'から、情報の塊が神測に流れ込む。どちらかというと、ログをアーカイブしてダウンロードするのに近い。中には座標を伴う行動履歴もあれば'リモ'が見聞きした映像や音声の記録もある。
サッと要約を試みると、最初に行動履歴が位置情報に基づいて図に落とし込まれて出てくる。点が集まって線になり、線が集まって形が出来上がってくる。図にすると分かりやすいが、'リモ'は何度も同じ場所をグルグルと巡回しているようだ。ある場所だけがくっきりとした部屋のような形で浮かび上がってくる。そこから枝葉のように伸びる行動履歴は何だか途切れ途切れで遠目に見ると薄ぼんやりしてくる。
次に、行動履歴に付随する映像や音声が図に紐付けされていく。
『こうして見ると、明らかに記録の密度が違うな。行動履歴もそうだけど映像記録も特定の場所に集中している。'リモ'にとって思い入れの強い場所なのかも?』
映像をパラパラと流し見していくと書籍の並ぶ書架が写り込んでいることが多いのに気づく。
『この場所は何?』
『きんしよこ』
きんしょこ......禁書庫か!
『蔵書の目録はある?』
『ない......けど......作れる.....でも......』
『でも?』
『もうすぐ.......魔力......足りない.......魔力ほしい』
『ちょっと待ってろよ』
使役した時と同じように【死霊使役の鬼神】の【魔法陣】を通して魔力を流せないか試みる。
『繋がり...強くなった...離れても大丈夫』
そこでフレデリカに袖を引かれ、'リモ'から現実の方に意識を移す。
「ありがとう。馬車には一人で乗れるよ」
ちょうど馬車の手前だったのでそのまま馬車に乗り込み、再度'リモ'の方に意識を向ける。
『今から城を離れるけど、声を掛け続けるから返事を返してくれるかな?』
『返事...わかった...』
ピンを送って通信の確立を確認するようなものである。
このまま繋がった状態がどこまで維持できるか試すつもりで馬車を走らせる間中呼び掛けを続けていると、なんとスフォルツァ邸に到着してもまだ返事が返ってくる。
『へぇ、まだ繋がっているよ。ちょっと限界を試したくなるね、コレ』
「フレデリカ、ちょっと予定変更して国境に向けて馬車を走らせてくれない?」
「何をおっしゃってるんですか。今から着替えてメディギーニ商会ですよ。遊んでる暇なんかありません」
「デスヨネ...」
『'リモ'。とりあえず禁書庫の目録をお願い』
『主...了解....した。目録...つくる』
その後何度か試した結果、少なくともメディギーニ商会からなら安定して'リモ'に指示し情報を受け取ることができることがわかった。
そこからさらに距離が離れていくと、情報の受取りに時間が掛かったり途中で止まるようになり、流石に首都を出ると'リモ'も反応を返して来なくなった。
とはいえ、ジャンフランコは意図せずリモーネ王宮内に優秀なスパイを得たようなものである。
今回の新要素:
・ 死霊を使役したら優秀なスパイ・ドローンに?
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