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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
蠢く亡霊たち ー リモーネ王国

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他力本願で一発逆転を望むのは

「ジルベルトは今日どこだったっけ?」

「確か、ローレ教室だったはずですが」

「今日は彼が学生かぁ。面倒な来客と言うと遺跡関係かな?」


 旧ソフィア教会の崩壊後、教会が手掛けていた事業のいくつかはメディギーニ商会が免罪符の担保として差し押さえ、新たに出資者となって運営を続けている。神学校もその一つである。

 おかげでローレ教室も存続し、ジャンフランコ達の学生としての身分も継続している。


「今からそちらに向かうけれど、戦力は必要?」とメッセージを送ると、「念のためフレデリカは伴って下さい。あと、相手に舐められない格好でお願いします」との返事がジルベルトから返ってくる。


『舐められない格好って何だそれ?戦装束(いくさしょうぞく)で来いとでも?』

 舐められたら困る相手というと可能性が高いのは貴族かその関係者だが…。

 ジャンフランコは外出の旨と車寄せで合流することをフレデリカにメッセージするとピエレッタに後を任せて自室に戻り、工房での作業のためのエプロンを外して貴族とも富裕な商人とも取れるような衣装に着替える。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ローレ教室前で馬車から降りると、ローレ先生の秘書役をしているアルミーネが出迎えてくれる。


「『面倒な来客』とのことですが、一体何事でしょうか」

「新しい遺跡を発見したけれど容易に近づけないので助力が欲しいというお客様なのですが」

「必要だという『助力』の内容によりますね」

「学術的なものであればローレ先生でも対応できるのですが、どうもそれとは違った類の『助力』を求められているようなのです」


「先生が強要されて断れないということは相手は貴族かその関係者ですか?」

「ミント伯爵のご家中の方と伺いました」


 嫌な予感が当たったことにジャンフランコは顔を顰める。

「わかりました。ひとまずは話を聞いてみましょう」


 アルミーネに案内されて応接室に入ると、ローレ教諭の正面に、体格のよい男が腕組みをしているのが見える。背の高さはローレ教諭もいい勝負のようだが、細身のローレ教諭と対極的にガッチリした騎士のような体格の男だ。


 応接室に入ると早速に来客と思しき男から睨みつけられるが、ジャンフランコは無視してローレ教諭の横に着席する。フレデリカは護衛の定位置であるジャンフランコの後ろに立つ。

「ローレ先生、僕をお呼びと伺ったのですが」

「ああ。こちらの紳士が遺跡探索の助力を、と当教室に求めてらっしゃるのだがいささか無体な内容でな。にもかかわらず、吾輩がいくらお断りしてもお帰りにならないのだ」


「ふん。このような小僧が来たとて何だというのだ。そもそも儂はミント伯爵家の名代として来ておるのだぞ。たかが学者の分際で。四の五の言わずに首を縦に振ればよいのだ」

 最近では珍しい貴族の権威を盾に無理難題を通そうとする相手に

『まったくどこの田舎貴族だよ』とジャンフランコはぼやくが、それでもため息一つで収めて仲裁に入ることにする。


「まずはご挨拶を。私は当教室の七年生でジャンフランコと申します。ローレ教諭のご指示でもありますし、お話を伺いたいと思いますが」

 その前に、と断って相手の不当さを指摘する。

「ミント伯爵のご家中の方とおっしゃいましたか。今やリモーネ王国では平民が盲目的に貴族に従う必要はないとわざわざ法令で定められております。度を超えて強要する場合は罰を受ける。ご存じないのでしょうか」


「ふん。そのような法令いつまでも有効だと思うな」

 リモーネ王国は比較的法令の厳格運用がされている国である。

 あからさまに法令を無視して貴族の権威で無理を押し通そうとする態度にジャンフランコの脳内が戦闘モードに切り替わる。


「リモーネ王国の政治情勢までは存じませんが、そのような重要な法令が今日明日のうちに覆るとは思えません。その間、ミント伯爵家が存続できる保証などございませんよ」

「何!失敬な奴!ミント伯爵家を愚弄するか!」


 男が剣に手をかけて立ち上がるが、男が抜刀するより早くフレデリカの手に波打った刃の大剣が顕れ、その切っ先が男の喉元に突き付けられている。

 帯剣していなかったはずのフレデリカから剣、それも殺傷力の高そうな異形の大剣を突き付けられて男は驚きに身じろぎ一つできず、その目は切っ先から動かすことが出来ずにいる。


 ジャンフランコはそこでミント伯爵家という家名を思い出した。

 確か、レイチェル王女の「ご学友」を外された貴族子女の中にミント伯爵令嬢もいたはずだ。

 いつだったか。レイチェル王女との対面を辞して帰る途中で数名の貴族子女に取り囲まれて難詰されたのだったか。


「お家が大変な状況であることは私のような者であっても聞き及んでおります。次々と手形が不渡りになり領地の不動産や宝石類がいくつも担保として差し押さえられているとか」

「貴様!なぜそれを知っている?」

「この国の商家であれば誰でも知っている事実でしょう。僕は縁あってこの国の有力な商家いくつかと知己を得ていまして、その手の情報も知ることができるのです」

 実際にはこの国の有力な商会のほとんどに出資し、商会の経営にもそれなりに深く関与しているわけだが、目の前の御仁にそこまでの情報を与える必要はなさそうだ。


 手形の不払いや不渡りの情報は商家の垣根を超えて共有される情報の一つである。

 短期間に連続して不渡りを出すなどした場合は、必然的にリスクの高い投資先と目され、金利などの面で非常に厳しい条件を課せられることになる。借財を申し入れる先の商会を変えようがどうしようが、すべての商会から等しく「貸し倒れリスクが高い」との評価を受けるのである。


「ローレ教諭がご助力に同意したとしても、その対価の支払い能力をお持ちではないのではないですね」

 男の手が剣の柄から外れ、だらりと下ろされる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「当家にはもうこれしかないのだ」

 力なくソファに腰を下ろした男が絞り出すように声をあげる。


 男がボソボソと語るところによれば、元々ミント伯爵家は遺跡探索にもそれなりに出資しており、発掘した貴金属や魔道具によりそれなりに裕福な貴族家だったらしい。ご令嬢がレイチェル王女の学友に選ばれ、「ご学友」に相応しい品位を保つためのドレスや宝飾品も次々と買い与えるだけの経済力は保っていられたようだ。

 それが、運悪く複数の遺跡探索が連続して失敗したことで資金が枯渇した一方で、王女の「ご学友」の立場に見合うようご令嬢の品位を保ち続けるための出費をやめることはできず、ついには債務超過に陥ったということらしい。

 さらに追い打ちをかけるように令嬢が王女の「ご学友」から外され今までの出費が完全に無駄になったのだから、ある意味踏んだり蹴ったりである。


 そんな状況下で未発見の遺跡をミント伯爵家の者が発見し、そこに一縷の望みをつなげようとした矢先、先遣隊として調査に向かった者が全員消息不明となったのだそうだ。


「未発見の遺跡を誰よりも先んじて探索して価値のある遺物でも出れば一発逆転を狙えると、そうお考えになったのですね?」

「その通りだ」

「ですが、ご家中の力量では手に負えない遺跡であったと」

「恥ずかしながらそう言わざるを得んな」


「だからと言って、危険なものと分かっている遺跡の探索を当教室に無理強いするのは筋が違いませんか?」

「世間知らずの学者など少し脅せば当家の威信を恐れて応じると思ったのだ」


 何とも虫のいい考えもあったものである。

 いかなローレ教諭といえども神学校という組織に所属する人間である。少々脅されたからと言って所属学生の生命が危険に晒されることを承知で遺跡の探索を引き受けることなどできない。


 旧ソフィア教会が倒れ、メディギーニ商会が出資者として学校運営に深く関与するようになった現在ではなおさらである。


「なぁ。遺跡発掘が成功した暁にはそれなりの報酬を支払おうじゃないか。それであれば引き受けてもらえるのではないか?」

「あくまで『助力』ですよね。ご家中からはどれくらいの人を出される予定なのですか?」

「当家から遺跡探索に出せる人員は全員先遣隊に参加して行方知らずになっており、今や探索に出せる人員はおらんのだ」

「それでは遺跡探索の事前準備に係る資金はいかほどご用意いただけるのですか?」

「当家は手元不如意の上にどの商家からも手形引受を拒否されておる。準備もそちら持ちでお願いできないか」

 要は人も金も出さずに成果だけを寄越せと言っているに等しい。

 あまりの他力本願っぷりにジャンフランコは怒りを通り越して呆れ果て、このような御仁の相手をするだけ無駄と判断する。


「時間がもったいないので結論を申しますね。無理です。お引き取りを」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 なおも食い下がろうとする男に再びフレデリカが剣を突き付け、有無を言わさずローレ教室の建物から追い出す。


 ガックリと肩を落として帰る男の背中を見送りながら、ジャンフランコは【追跡】の魔法を発動させる。男の周囲に一瞬キラキラとした粉のようなものが舞うが男はそれに気付かない。


「フレデリカ、ご苦労様。来てくれて助かったよ」

「その前にジャンフランコ様、先ほどの御仁に【追跡】を掛けられたようですが、何か目論んでいらっしゃるのですか?」

「何、さっきの御仁がやろうとしたことの意趣返しがしたくてね。あわよくばお目当ての『遺跡』とやらまで案内してもらえるかと思ってさ」

「道理で、非常に悪いお顔になっています」

 ですが、と一言断わりが入る。

「残念ながら、ただでさえご多忙のジャンフランコ様に遺跡探索をする時間などございませんよ」

今回の新要素:

・ 特になし


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初めての作品投稿です。


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