神学校 入学試験前夜
試験の前夜なのに追い込み勉強ではなく警備の打ち合わせです。
明日は神学校の入学試験という日の夕刻。
ジョヴァンナ邸を訪れたロドリーゴは騎士二人と従者のほかに、一人の少女を伴っていた。
また、ロドリーゴには珍しく騎士のうち一人は女性騎士であった。
男性の騎士と従者はいつものとおり客間へ、女性騎士と少女はその隣の部屋へと下がった。
その日の晩餐は親子3人のいつもと変わらないものであり、翌日の入学試験が話題になった以外は特段変わらず当たり障りのない話題に終始した。
晩餐が終わると、入室した侍女が女性騎士と少女を連れて来た。
ロドリーゴが席を立ち、ジョヴァンナとジャンフランコにも二人を迎えるように促す。
侍女が退室すると、それを待っていたように、女性騎士が少女を伴いジョヴァンナの前に跪く。
「スフォルツァ辺境伯家当主 ジョヴァンナ様 お初にお目にかかります。ソフィア教会の騎士フローレンスと申します。本日は我が娘フレデリカにお目通りの機会をいただきたく罷り越しました。」
「許します。」
短い答えを受けて、女性騎士に伴われた少女が前に進み出る。
「ロドリーゴ・ボルツァ枢機卿猊下。スフォルツァ辺境伯家 当主 ジョヴァンナ様。お初にお目にかかります。騎士フローレンス・ロイックスが一子フレデリカと申します。命により御前に参上いたしました。」
顔を上げると隣に跪く女騎士と同じ白に近い金髪、彫像のように整った意思の強さを感じさせる顔立ちの少女であった。年の頃はジャンフランコと同じくらいであろうか。
ロドリーゴとジョヴァンナがフレデリカと名乗った少女に頷く。
少女の挨拶が終わると、フローレンスがジャンフランコの顔を見てニコっと微笑む。
「そちらのお子様がジャンフランコ様ですね。フレデリカをご紹介しても構いませんでしょうか。」
今度はジャンフランコが前に進み出て声をかける。
「騎士ロイックス様、フレデリカ、ジョヴァンナ・スフォルツァが一子 ジャンフランコです。」
「フレデリカです、ジャンフランコ様。」
簡潔に顔合わせが終わると5人がテーブルに着き、侍女が呼ばれ、茶と茶菓子が用意される。
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「さて、粗方は想像できていると思うが」ロドリーゴが口を開く。
「フレデリカも明日の神学校入学試験を受験する。ジョヴァンナがジャンフランコの、フローレンスがフレデリカの、それぞれ保護者として同伴する。同じ馬車に同乗して試験会場に向かう予定だ。」
「「御意」」
フローレンスとフレデリカが即答し、軽く頭を下げる。
「実際の役目は、フローレンスはジョヴァンナの、フレデリカはジャンフランコの護衛だ。よいな、ジョヴァンナ、ジャンフランコ。」
「わかりました。」
「母様の護衛は女性騎士でよいですが、僕の護衛は男性でなくてよいのですか。」
ロドリーゴがニヤリと嗤い、「神学校は男女別の授業はないよ。教室も男女同室だ。」
「それに、フレデリカは優秀な魔道具使いだ。彼女の天恵はなかなか優秀でね。剣の代わりに魔道具を身に着けていれば、騎士と同等に戦えるんだ。問題があるとすれば、彼女が美人すぎることくらいかな」
赤くなりドギマギするジャンフランコを横目に見ながら、ロドリーゴがフレデリカに立つように促す。
「フレデリカ、君の天恵をジャンフランコに見せてやってくれないか。どんな風に君が戦うのか、彼も知っておく必要がある。」
「御意」そう応えるとジャンフランコの前に立つ。
「わたくしの右手を見ていてください。」
フレデリカが右手の袖を捲り上げると、手首には彼女には不釣り合いな分厚く無骨な腕輪のようなものが見える。よく見ると、それは魔力を込めた魔道具を束ねたホルダーのようなものだった。
「コレが一番しっくりくるので」
はにかむように言うと右手を緩く広げ「フラムベルク」と唱える。
右手首の魔道具が一つ発動の光を放ち右手の平に魔力の塊を形作る。すると右手の平が天恵発動の光を放ち、光が成長していくように伸び、炎が渦巻くような異形の大剣を形作る。
ジャンフランコが唖然として見ていると天恵が解除されたのか大剣の形をした光が出現時と逆の動きで右手の平に戻っていき、最後に魔道具に戻っていく。
ジャンフランコは、前世で繰り返し見たSF大作映画の中で主人公と仇敵が光の剣を出して切り結んでいたシーンを思い出して嬉しくなる。
「コレがわたくしの天恵『戯場』です。」
「金属性の魔力を込めた魔道具の力を武器の形にして使用するスキルなので、武器を持ち込めない場所での護衛にもってこいなのです。」
「ほかにも、こんなのも出せます。アームボース」
今度は魔導具の光がクロスボウの形を取る。
「近接だけじゃなく、離れた場所からの狙撃も出来ますよ。」フレデリカはそう言って光を戻す。
「魔道具に込めるのは金属性だけ?」
「火属性以外ならどれでも、ですね。金属性が一番ですが。次点で土ですね。火属性の相手をすると分かってるときは水属性を用意することもありますね。」
天恵の披露が終わると、席に戻り明日の行動の確認をする。
「ジジ、君は基本的にフレデリカと共に行動することになる。」
「了解です。フレデリカ、よろしくね。」
「こちらこそ」
「それで、天恵検査だが、二人とも『天恵なし」で登録する。切り抜けられるな?」
「先日お話したように、手じゃなくて頭の中に神具を出せるのでバレません。」
「わたくしも魔道具を右手に着けない限り天恵が発動しないので大丈夫です。」
ロドリーゴの問いにジャンフランコとフレデリカがそれぞれ応える。
その後、細々したことを確認して解散となった。
ジャンフランコは自室に戻り試験の準備である。
「フレデリカもそうなんだろうな。」と思いながら、ダイニングルームを後にした。
フレデリカの天恵が金属性なので、火克金で火に弱く、土生金で土で強化できる感じですね。
この辺は某ボールの中に封じた怪物で戦うゲームみたいなものと思ってください。
天恵検査を胡麻化すのは、二人とも特殊な天恵もちだからです。
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