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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
教会を巡る騒乱 ー リモーネ王国

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息苦しさのない世界

気づくと百話目。

 リモーネ王国の首都で起こった騒乱。何の御利益もない免罪符で金を巻き上げていたソフィア教会に対する庶民の怒りが爆発した事件の顛末は、暫くしてからスフォルツァ城に滞在するジャンフランコの元にも届いた。


「教会騎士団が教会と袂を分かったのは正直予想外だったね」

「ある意味、汚れ仕事はすべて異端審問官の領分でしたからね。女神への信仰と忠誠だけで動いていた騎士団ですもの。教会の体たらくを見て、流石に忠誠心よりも落胆と失望が勝ったのでしょう」

「女神の御心が離れたことが分かりやすい形で示されたのも大きいのではありません?【聖具】から女神の権能(けんのう)が喪われたのですから」


 報告された資料を回し読むフローレンスとフレデリカがそれぞれの推測を述べる。ソフィア教会も完全な一枚岩ではなく、信仰をもって教会に属していた者は教会から離れ、教会の利権にしがみついていた者は教皇ほか上層部と共に庶民の怒りの矢面に立たされた。


「それにしても異端審問官のほとんどは逃亡中で未だに手掛かりさえもないのですよね。王国騎士団も大したことがございませんこと」

「フローレンスは厳しいね。流石に主を放置して自分達だけ逃げ出すとは僕にも予想できなかったんだし王国騎士団だって同じだよ。ただ、映写の魔道具(ライブカメラ)で集めた顔形を元に手配書が配られたんでしょう?」

「そうですね。少なくとも異端審問官が大手を振って首都を歩くことはできなくなったと思われます」

 教会の後ろ盾がなくなった元異端審問官は、既に潜伏するテロリストくらいの扱いである。


「と、いうことはだよ?」

 ジャンフランコが興奮を隠せず両手を拡げる。

「もう、異端審問官やソフィア教会を気にして言いたいことも言えない、なんてことは金輪際なくなった、ってことだよね」

「ええ。ジャンフランコ様が発見した【魔法陣】と神々の関係について語っても、それだけで拘束されたり異端審問で生命を落とす、なんてことも今後はありえませんから」

 女神ソフィアが唯一神でないこと、ほかにも神々が存在し、その権能(けんのう)がこの世の万物を動かすことは、ソフィア教会にとって最大の禁忌(タブー)であり、ソフィア教会は全力を挙げてそのような考えを、そのような考えを持つ頭脳ごと葬ってきたのだ。


「それで?異端審問官のいなくなった後、ジャンフランコ様は何をなさるのですか?」

「そうだね。まずはアンジェロ達をはじめ、少なくともスフォルツァ家の中では神々との約定についての知識を共有したいね。知識をもつことがリスクじゃなくなったのだから」

「その後は?」

「そうだね。少し外に出てみるかい?」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ここが分かりやすいかな?」

 城門を出て、街道の先、村落の入り口で幽霊馬車を停めると車外に出る。目の前に広がるのは雪解けと同時に始まった魔力による土壌改良の成果だ。一面に広がる麦畑では春まきの小麦が青々とした穂を付けている。


「雪融け前まではここが荒れ地だったと言っても誰も信じないよね」

 内戦で散り散りになっていた住民の帰還も進んだことも大きい。が、

「【魔法陣】と神々の権能(けんのう)の関係が分かれば、何年も放棄されていた農地を復活させることも可能だったんだ。人智だけで成し遂げようと思ったら、五年も十年も掛かるところを季節一つで成し遂げられるんだからね」

 神々に感謝を捧げたくもなるだろう?とイタズラっぽく笑みを浮かべる。


「そこで、さ。こんなものも作ってみたんだ」

 指さす先にあるのは石造りの小さな祠。

「この中にはね。豊穣の神に祈りを捧げるための【魔法陣】が置いてあるんだ。もちろん、一人が魔力を捧げるくらいで神を勧請(かんじょう)できる訳ではないけどね。でも、【魔法陣】を通す以上、捧げた魔力は確実に神の元に届くよ」

 それに、と続ける。

「秋には豊穣を祝い、感謝を捧げる祭りが復活するとも聞いてるよ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 村落を抜け、街道の四ツ辻で、また幽霊馬車を停める。


「ここにも祠を置いたんだ」

 小さな祠の中には、【魔法陣】の横に小さな紙が置かれている。

「この【魔法陣】はね。四ツ辻の神の御力を勧請(かんじょう)して、旅路の途中で実感できるくらいの、ちょっとした加護が得られるんだけど」

 興味を持ったフレデリカが【魔法陣】に触れて魔力を流す。

 一瞬だけ光を帯びて、すぐに元に戻る。

「まぁ、転んでも怪我をしないとか、道に迷わないとか、本当にささやかな加護なんだけど、代わりに必要な魔力量も極々少なくて済む。平民でも成人であれば大丈夫なくらい」

「それは便利だと思いますけれど」

「仰々しい神事を行わなくても、すごく身近な場所で、ちょっと思いついた時に魔力と祈りを捧げて加護を得る。こんな体験ができれば、神々を身近に感じる人が増える、そう目論んでいるんだ」

 フローレンスがハッとなってジャンフランコを見る。

「この【魔法陣】を量産するための魔道具も作ったからね。徐々に広げていって、スフォルツァ領〜というか実質旧ミルトンだよね〜の全部の四ツ辻に設置する計画なんだ」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ジャンフランコ様のお考えは何となく分かりました。神々の権能(けんのう)を得る方法、知恵をフル活用してスフォルツァ領を富ませる、そういうことですね」

「そうだね。多少は隣国にお裾分けはするけど、まずはスフォルツァ領かな。リモーネと同じくらい豊かな国になるまではスフォルツァ領が優先だよ」

 産業基盤がしっかりしており、国民の三割近くが中流以上の生活を享受し商業も発展するリモーネと、長きにわたる内戦の爪痕が残るミルトンないしはスフォルツァ領の間には大きな差がある。

「さて、何年かかるか、というところだけれど、少なくともソフィア教会が自滅してくれて助かった、とは言えるかな。堂々と神々の権能(けんのう)について語れるようになったおかげで、数年単位で時間短縮できそうだよ」


「ふふふ。そうすると、スフォルツァ領でメディギーニ商会がガッポリ稼げるようになるまでは、伝言の魔道具(メッセンジャー)をはじめ、便利な魔道具はスフォルツァ家の独占ですね」

「そうなるかな?暫くは見せびらかして羨ましがらせるだけになっちゃう。魔道具使いたさにスフォルツァ家で働きたくなる人が増えたら嬉しいけどね」

 でもね、と続ける。

「スフォルツァ領で商業を盛んにするためには一つ大きくて難しいイベントを経ないといけないんだ」

「何でしょう?」

「独立した国なら必ず持ってるけど、今のミルトンが喪ったものだよ」

「何でしょう?分かりません」

 フローレンスとフレデリカが揃って首を傾げる。


「とりあえずミルトン共和国に引導を渡すまでは手を付けられないから、それまで考えてみて」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 城に戻ったジャンフランコを待っていたのはリモーネ王からの書状だった。


「ジジ。貴方宛ての招待状よ。『リモーネ王国内での貴君の活動を阻害する要因は可能な限り排除した。ついては可及的速やかに王宮を訪問し、相談に乗ってほしい』ですって」

 ジャンフランコはウンザリ顔だ。

「スフォルツァ領で様々行っている実験や神事を自分の目で見て回る時間がせっかく取れたと思ったんですが」

「休暇はもう終わった、と思いたまえ。流石にメディギーニからも『いい加減戻って働いてくれませんかね』って怒りのメッセージが届いてるぞ」


 はぁ、と溜息一つ。


「一週間ほど準備の時間がほしい、とお伝え下さい。リモーネに渡ってから王宮に遣いを立てます」

「四ツ辻の祠」はお地蔵さんのイメージです。


今回の新要素:

・ 路傍の祠と【魔法陣】


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初めての作品投稿です。


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