メディギーニの陣頭指揮
メディギーニ視点で騒動の顛末を語ります。
「妙な【看破】遣いに尾行されました。とりあえず撒いたけど、どこの手の者か探っといて下さい」
さっきスフォルツァ領に向けて送り出したばかりのジャンフランコ様から伝言の魔道具経由でメッセージが届く。
相変わらず無茶振りが過ぎる。
「あんた、【看破】の神のお友達でしょうが。行き先はそっちに聞くほうが早いでしょうに」
メッセージを送ると即送り返されてくる。
「バレたか。あー。予想通り教会の敷地内に入って行くね。大聖堂の裏手、かな?」
暫くして、続報のつもりか新しいメッセージが届く。
「朗報!かな?多分、異端審問官のアジトを突き止めたよ。大聖堂の地下三階、ってとこだね。僕が戻るまで踏み込むのは厳禁だよ」
誰が好き好んでそんな危ない橋を渡るもんかね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(一応)我が主君であるジャンフランコ様が特大の面倒事を抱え込んでしまった、というのが今回のスフォルツァ領への帰還の理由になる。
いや、普通に貴族家に仕えてても、うっかり神を勧請しちまうなんて場面にはそうそう居合わせないはずだぜ?
更に、今回はソフィア教会の坊主の目の前でやらかすときたもんだ。
...それだけでも十分頭が痛いのにな。
さっきのメッセージからすると、どうやら異端審問官にも目をつけられたらしい。…とくればもうこれはソフィア教会と一戦交えることも選択肢に入ってくる。
いや、もう既にジャンフランコ様にとっては「選択肢」ではなくなってるだろうな。
全部の面倒事を「一戦交える」ことで解決するべく、具体的な手立てのレベルで立案を始めてるはずだ。
「何でまぁ、ああも好戦的なんだろうね」
「ジャンフランコ様ですか?」
横にいたアンジェロが俺の呟きを拾う。
「ああ。お前もジャンフランコ様にお仕えする以上、覚えておくがいい。何事か困難に突き当たったとき、戦が選択肢の上位に来ちまう。これがスフォルツァの血だ」
「肝に銘じます」
おいおい、そんな他人事みたいにしてる場合ではないんだぞ?
そう言って息子を叱りつけたくなってしまう。
忘れてはいけない。
今回もまた確実に、あの方の暴走の後始末をする羽目になるのは俺達なのだから。
こんなことなら気を利かすのを止めてフローレンスを留守番に残したほうがよかったか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「女神ソフィア自らの手で、ソフィア教会のもつすべての【聖具】は使い物にならなくなった。ソフィア教会には何の力もなくなったってことだ。一気に畳み掛けるよ」
「まずは貴族家と王家からの支持をソフィア教会から引っ剥がすよ!力の源泉が消滅したとしっかりと実感してもらわないとね!」
伝言の魔道具に浮かんだメッセージを見て、俺は自分の見通しがまだまだ甘かったと悟った。
まさか女神様まで主と同じレベルで暴走するなんて!
どんな方法を使ったか気にはなるが、今はそんなことを考えている場合じゃない、そう気づいた瞬間には、案の定、伝言の魔道具に次から次へと指示が飛んでくる。
「出産の時期が近い貴族家をピックアップして、そこを中心に『ソフィア教会が力を失った。貴方のご子息・ご令嬢は天恵を授かれない』と噂を流せ」
「貴族家の間で十分噂が広まったら、次は免罪符は無効だと貴族、富裕層、平民を煽れ」
「教会関係者の資産を『隠し財産』含めて全部洗い出せ。免罪符について騒ぎが起こるタイミングで全部差し押さえろ」
「王室の動向から目を離すな。王室の手でソフィア教会に引導渡してもらうのがベスト」
正直、どんな悪魔が立案してるのかな、と思う。
巻き込まれる関係者全員、俺を恨まないでほしい。
「マジかよ」
それ以上は返す気力が今はない。
いや、既に事は動き始めている。ノンビリと返事を考えている時間はもうない。
「『中庭の部屋』のメンバーを呼べ」
最初の指示を出すのと、伝言の魔道具が新しいメッセージを表示するのはほぼ同時だった。
「オグルディ枢機卿は保護しておけ。彼は『使える』」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そこから先はまぁ、息つく暇もなかった。
中庭の部屋の立案に従って、標的の貴族家と取引のある商会を呼び出しては噂を捩じ込んでくことの繰り返し。
その結果、まずは貴族家の間での噂の拡がりが、想定を超えて素早かった。
聞いた時にはまさかと思っていた噂が目の前で現実となる。
目の前で天恵授与に失敗する聖職者の慌てよう。
半狂乱となる主の姿に噂が正しいと確信し、主に耳打ちする使用人達。
お貴族様だって人の子だ。自分の子に瑕疵があるなんて考えたくもないはず。
悪いのは教会の聖職者どもだと言われりゃ一も二もなく飛びつくはずだ。
そこからは、使用人界隈の横の繋がり、貴族家間の横の繋がり、二つの経路で噂が一気に広まった。
商会が出資している商会に情報を流したのも大きかった。
貴族家の出産というのは彼らにとって一種のビジネスチャンスだ。
出産時に呼ばれて貴族の屋敷に控えていたのが、目の前で泣き崩れる貴族一家を目にする。
結果的に、有力商会の従業員を通じて、ソフィア教会が力を喪ったことは平民の間にも急速に広まっていった。
と言うわけで、今は中庭の部屋の連中と情報共有と現状評価の真っ最中だ。
「もうほとんどの貴族家の間でソフィア教会の情報は共有されてると判断します」
「根拠は?」
「ソフィア教会の枢機卿が数名、王宮に呼ばれて真っ青な顔で出てくるのを目撃されてます。それと」
「何だ?」
「教会騎士団の団長からフローレンス様宛にご伝言を預かっています」
「聞いてもいいか?」
「『我らは祝福を喪った教会と袂を分かつ。貴女は貴女の道を行け』だそうです」
「なるほどね。彼らは男爵家から候爵家まで、幅広い貴族家の出身だ。騎士団を離れて実家に身を寄せれば、ってとこか」
「ご明察」
「待てよ、てことは今、教会は騎士団を失って丸腰ってことか?」
「今まで見たこともない黒衣の連中が大聖堂の周りで目撃されてます。おそらく背に腹は代えられないってことで異端審問官を警備に駆り出してるんでしょう」
「ついに表に出てきたか」
「ジャンフランコ様からいただいた『映写の魔道具』が大活躍してます。顔写真は押さえましたので、お時間いただければ身元の洗い出しまでやっちゃいます」
「そいつはまぁ、追々でいいぜ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
会議室にノックの音が響く。
「商会長に会わせろ、と言う人間が数人。商会を訪れています」
「臨時休業中だ。追い返せ」
「それが、これ見よがしに武器をチラチラ見せてまして」
「面倒だな、【睡眠】の魔道具で無力化して地下に放り込んどけ」
「分かりました」
ふと、訪問者が教会の異端審問官である可能性が頭をよぎる。
「ちょっと待て。拘束する時に【神具】封じの魔道具を忘れずにな」
「了解です。念のため手足の筋は切っておきます」
「ああ。あとで【治癒】すりゃいいだけだしな。今は無用のリスクを抱えたくない」
「もう一つ。この後は正面玄関から、なんてお行儀のよい訪問はないと思っとけ」
「了解です。仕掛け罠の対応レベル上昇と監視体制の見直し、やっときますね」
まぁ、仕掛け罠の殺傷力が多少上がる程度だ。
相手は武力行使も辞さない不届き者だし、まぁ問題はないだろう。
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「悪かったな。続きを聞こうか」
「ああ。噂の伝播の状況でしたね。教会が『女神ソフィアの恩恵を失った』というのは信憑性の高い噂として、上から下まで〜王室から農村部の平民まで〜浸透しきったとみていいです」
「思ったよりも速かったな」
「それで一つ問題が」
「言ってみな」
「どうやら教会は小口の免罪符を農村部でも手広く販売してたようで、教会に対する反感が制御不能なレベルで高まっています」
『あの業突張りども!普通の平民にまで免罪符売り捌いてやがった』
「まずいな。商家や貴族家みたいに割り切ってる層と違って、農村部には信心深い連中が多いからな。さすがに農村部での暴動はマズい」
「後日免罪符を買い取るって情報を農村部で流すのはどうでしょう?」
「よっしゃ。任せた。金額の推計は頼むな。その分は教会資産を差し押さえて取立てる」
「教会資産の価値評価は?」
「完了してます。指示いただければすぐに動けます」
「よし!『強制執行』チームは必要な装備・魔道具を携行して別命あるまで現地で待機だ」
「は!」
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そこから三日の間に、二度ほど黒ずくめの訪問者を拘束する羽目になった。
それ以外で想定外だったのは、こちらから噂を流すまでもなく、免罪符がただの紙切れに変わったことに憤る平民が徐々に首都に集まり始めたことだ。
王国騎士団も無差別に暴れ回らない限りは見て見ぬふりしてやがる。
ノックの音がして商会員が会議室に入ってくる。
「失礼します。こちらの方が面会を希望されてます」
盆の上に置かれた名刺には「ソフィア教会 オグルディ枢機卿」とある。
『あの御仁。上手く拘束から逃れたか』
「わかった。この部屋に通してくれ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あんた、あの時の坊さんだろ?確かオグルディ枢機卿...猊下だっけか」
前回会った時からは随分とやつれてしまって見える。無理もない。「あの場」に立ち会ったことが教会にバレたに違いない。多分苛烈な尋問を受けてたんだろう。
「ちょうどいい時に来たね、あんた。そろそろ第二幕が始まりそうか、ってとこだ。教会の中にいちゃ、巻き込まれて酷い目に遭うとこだが、まぁ、運良くここに来れたんだ。仲良く高見の見物と洒落込もうじゃないか」
「其方、何かたく...知ってるのかい?差し支えなければ教えてほしいものだが」
別にコッチも企んじゃいない。我儘な主君と女神様とやらに振り回されてるだけだ。
こっちで把握してる状況を説明してやると顔色が蒼白に変わる。
「第二幕、だと?」
「ああ。さっき『巻き込まれて酷い目に遭う』って言っただろ。そろそろ免罪符がただの紙切れで、後生大事に持ってても何の御利益もない、ってバレる頃合だ。うちも早く動かないと取りっぱぐれるんだが」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ちょうど良いところに商会員が『強制執行』チームの報告を持って入ってくる。ついでに、ソフィア教会の本拠である大聖堂が囲まれていることまで分かってしまう。
横で聞いてるオグルディ枢機卿にゃ、なかなか酷な情報に違いない。
「ホント、ギリギリだったみたいだぜ。商会もアンタも」
商会は差し押さえ資産の保全が間に合うかどうか、オグルディ枢機卿は生命が助かるかどうかの瀬戸際だった訳だ。
「まるで何もかもお見通しのようだな」
「そりゃあ、うちの若様はウンザリするくらい優秀だからな。女神様があんたの教会を見限ったと知ってすぐ、アレに備えろ、コレを準備しろって指令がバンバン飛んできたぜ。おかげでこっちは休む暇もないくらいには大忙しさ」
その後、身の振り方やら何やらを話した後に、ジャンフランコ様がスフォルツァ辺境伯家の継嗣だと伝えた時点で、オグルディの心はポッキリ折れちまったようだ。
「もし、あんたがまだ女神ソフィアの敬虔な信徒であり続けられるのなら、だけど」
『ああ、ここから先は言い方が難しい』
「あんたを中心にソフィア教会を再建する目はあるぜ」
『いや、そんな縋るような目をされても困るんだがね』
「当然だけど、教義についてはある程度こちらの、というか女神ソフィア御自身の意向を反映してもらう必要があるがね」
「それは願ってもないこと。是非もう一度女神のご尊顔を拝し、ご託宣を賜りたい」
「予め言っとくが、女神のお怒りは凄まじいぜ。あんたはその怒りの代弁者として元上司や同僚を糾弾しなきゃならん。それでも構わないのか?」
「構わない!私は罪深き半生を贖うためにも、女神の御心に叶う働きをすると誓う!」
『マジか!狂信者こえーな。少しは躊躇するかと思ったけれど』
「あんたの思いは了解した。手始めに現教皇猊下について王室あての告発状を書いてもらいたい。文面はこちらで用意するから、この後で確認して問題なければサインするだけでいい」
「分かった」
「それまでは一室を用意するから、まずは身体を休めてほしい。必要なら【治癒】魔法の使い手を用意するけれど」
「ありがたい。頼めるか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オグルディ枢機卿が商会員に支えられて会議室を出た後、別の商会員に耳打ちする。
「おい、あの御仁に監視をつけるのを忘れるな」
「やはりソフィア教会の者は信頼しませんか」
「馬鹿。ここ二週間ちょっとであの御仁の心は何度も叩き折られてるはずだ。衝動的に自殺しないように監視を怠るな」
「分かりました。このことはスフォルツァ城には?」
「そうだな。ここまでの進捗と併せて報告しといてくれ」
「分かりました」
「オグルディのおっさん...次期教皇か...あいつの新しい教会の教義の草案も催促しといてくれ」
「承知しました」
とりあえずここまでは多少の逸脱はあるもののジャンフランコ様が事前に描いた絵図面の通りに動いてる。
残るは確実に現教皇はじめ高位聖職者どもの息の根を止める手立てだが...オグルディのおっさんの告発状じゃ足りんかもな。
伝言の魔道具を開いて、ジャンフランコ様に宛ててメッセージを送る。
「最後は教会に引導を渡す役をリモーネの王室に任せたい。確実にするために、大至急若様からも一筆書いて貰いたい。受け渡しはカロン遺跡で」
了承した旨の返信を見て、ようやく肩の力を抜く。
人事は尽くした。後は天命を待つ、ってやつだな。
まぁ、そもそもはチィとばかし面倒な「天命」のおかげで、死ぬほど忙しくしてた訳だけどな。
この後、ジャンフランコの手紙が王室を動かして、となる訳です。
オグルディさん可哀想すぎる。
今回の新要素:
・ 映写の魔道具
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初めての作品投稿です。
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