第三十七話
翌朝、俺はいつもより気合を入れて、朝食の準備をしていた。
焼き魚、味噌汁、だし巻き卵。それにホウレン草のお浸しも作ってテーブルに並べている。
和音が今日は姿を見せないな?
いつもならそろそろ来る頃なんだけど……。
俺は不思議に思いながら呼びに行く。
部屋をノックしても返事がないので声をかけながら開ける。
少し前にも似たようなことがあったな……。
そんな事を思いながら、膨らんだ布団をはがす。
和音が苦しそうに息を吐いて、目を瞑っていた。
驚きながら額にでこを当てるとものすごい熱い。
「に、兄さん。兄妹でキスはダメだと思います……」
和音がぼんやりと目を開けて、そう言ってくる。
「そういうんじゃない、熱あるぞ。とにかく薬持ってくるから、まってて」
俺は駆け足で必要な物を集めて、和音の部屋に戻った。
体温計をわきに挟ませて、濡れタオルを額に乗せる。
和音は薄目を開けて、「今何時ですか? 兄さん遅刻しますよ?」っと苦しそうに声を詰まらせて言ってきた。
「大丈夫だぞ、三十九度……。薬飲めそうか?」
体温計を確認したら、すごい熱だった。
「はい、飲めますから……。兄さんは、学校……」
起き上がろうとした和音は、そのまま倒れてしまう。
「病院行くぞ」
学校に電話をして、準備をした俺は和音を背負って病院に向かう。
家から一番近い所は徒歩で十五分くらいなので、大丈夫だと思ったのだが……。
中々に注目を浴びてしまうな。
一言も話さない和音を背負ったまま、速足で進んでいく。
・・・・・・・・・・
家からの最寄りの病院は総合病院で,内科と書かれた案内板を頼りに入口に向かう。
受付に行くと髪の長い看護婦さんは驚いていたけど、すぐに点滴を準備してくれた。
「それでは、葉山さんこちらに」
看護婦さんの案内に従って、和音と違う部屋に入る。
「単なる夏風邪だよ、安心しなさい」
部屋に入るなり、男の先生がそう言ってくれた。
「よかった……」
力が抜けて、危うく椅子から落ちそうになってしまう。
「ははは、しかし君すごいね。妹さんを抱えてくるなんて」
「いや、急いだほうがいいって思ってそうしただけです」
座り直して、頭をかく。
今になって思えば、タクシーを使えばよかったな……。
「うんうん、優しいお兄さんだ。少し休んでから帰りなさい。タクシーを手配しておくよ」
「ありがとうございます」
心を見透かしたようなタイミングで、嬉しい提案をしてくれた。
「兄さん、すみません。迷惑をかけました」
和音の様子を見に行くと目を覚ましていて、俺にそう言ってくる。
「迷惑なんかじゃないぞ。少し休んだら帰ろうな」
「ありがとうお兄ちゃん」
和音はそう言って、安心したように目を閉じた。
俺は横に置かれた椅子に座って、点滴が終わるまで和音の寝顔を見ていたのだった。




