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第三十六話

 グラタンが出来上がる頃、和音がリビングに戻ってきた。


 サラダをテーブルに並べ「もうすぐできるからな」っと声をかけて、準備を進めていく。


 アルルの漫画を読みたいといった時は驚いたが、気に入ったのなら嬉しいので断る理由もなく部屋に行っていいといったけど、今の和音の顔は何かを覚悟した顔だ。


 とにかく食事を追えたら話し合いになりそうだな……。


 そんな事を思いながら、俺は焼きあがったグラタンをテーブルに置いて和音と食べるのだった。


 ・・・・・・・・・・


「漫画どうだった?」


 食後のお茶を和音の前に置いて声をかける。


「その、兄さん! 昔あの漫画を私に勧めたことありましたよね?」


 少し大きな声をだして、俺の目を見据えてそう聞いてきた。


 俺はその事を覚えている。


 いや、忘れる方が難しい。


「ああ、和音が中学生の頃だな。もちろん覚えてるよ」


 俺はそう言って、向かいの席に腰を下ろす。


「あれって、私のためにその……。漫画を選んで持ってきたんじゃないですか?」


 その言葉に驚く。


「確かに選んだぞ。あの時の俺達に少し似てたからな――」


 俺は言葉を考えて、口に出していく。


「ほら、和音ってこの家に来るなり引きこもりになっただろ? あの作品のヒロインは悪と戦うために学校に行かなくなったけど、どことなく和音の事が浮かんだんだよ。まぁ、読んでもらえなかったけど」


 俺は顎をかきながら笑う。


 フィギュアを壊された日、それが和音とのほぼ最後の会話だった。


 その日から半年、俺は七緒と出会うまで和音とまともな会話ができなくなっていたのだ。


「その、本当にわがままでごめんなさい。でも、理由は言えないんです」


 本当に申し訳なさそうに深々と和音は頭を下げてきた。


「いや、いいって。前にも言ったけど、和音が話したくなるまで俺は絶対に聞かない。それに、今は学校にちゃんと行ってるんだ、何も問題ないと思ってるぞ」


 和音はその言葉に顔をあげて、恥ずかしそうに顔を背ける。


「それで、兄さんはあの漫画で私に何を伝えたかったんですか?」


 顔をそむけたまま、ぶっきらぼうにそう聞いてきた。


「それは、あの作品の兄と同じで俺も和音の事世界の誰よりも大切で、絶対に離れないぞってことをだな……」


 言ってて恥ずかしくなってくる。


「ほんとに兄さんは、シスコンですね」


「普通だと思うんだけどな」


「それでいいですよ。後、あの日は本当にごめんなさい。大切なフィギュアを壊して……。それなのに私を今も大切にしてくれてありがとうございます」


 和音は言い終えるなり、リビングから走って出て行ってしまう。


 少しは、見直してくれたって事かな?


 それだと嬉しいな、そう思いながら俺は自室に戻るのだった。







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