第三十話
放課後、明日は休みだから今日は私と取材してくださいと和音に言われて俺は校門で和音を待っていた。
「あ、お待たせしました兄さん」
目が合った和音が小走りで俺の側にやってくる。
「いや、今来たところだ。で、今日はどこに行くんだ?」
「その、久しぶりに水族館なんてどうですか?」
何故か頬を赤くしてそう聞いてきた。
子供ぽいとでも思ったのか?
「いいな、タワーの所に行こうか」
そう言って、駅に足を向ける。
ここだと他の生徒の目もあるし漫画の事は口に出さない。
「はい」
俺の少し後ろに和音はついてきてくれる。
・・・・・・・・・・
「本当に久しぶりだな」
館内に入りそう声をもらす。
「そうですね、小学校以来ですかね?」
和音はそう言って身近の水槽をのぞく。
その水槽の横の案内板を見るとチンアナゴと書いてある。
「アニメで見たやつだな、和音見つけられたか?」
「いえ、何もいませんよ? アニメのキャラなんですか?」
「いや、水槽の前でこう……。てやつをだな、やっていたんだ」
周りに人がいないのを確認して、しゃがんで立つ動作を見せた。
ちょうど水槽からチンアナゴが姿を出す。
「へ~。なるほど、変な動きですね」
和音は満足したのか奥に進んでいく。
冷たい、兄さんが恥を忍んで動きを見せたのに。
「お、クラゲだ!」
暗い通路の水槽を泳いでるクラゲにテンションが上がる。
「兄さん、子供っぽい――」
和音が少し笑う。
まずい、兄としての威厳が……。
いやまて、俺に威厳てあるのか?
ヤバい落ち込みそう。
「兄さん? どうかしましたか?」
「いや、何でもない。進もうか」
「? はい、次は何がいるんでしょう」
和音は不思議そうにしつつも一緒に進んでくれる。
「今度はペンギンか」
「楽しそうですね」
ペンギンが泳ぐ姿に和音がそう声を出す。
「そうだな」
「でもこのペンギン、浮気やさんみたいですよ。兄さんみたいですね」
和音が説明書きを見てそう言ってきた。
「いや、俺浮気なんてしないぞ?」
「本当ですか? いつもいろんな女の人といる気がするんですが?」
何だろう、すごいとげを感じる。
後、ペンギン。何和音を陸に上がってじっと見てきてるんだ。
「そんなことないぞ? 和音の勘違いじゃないか?」
あれ? ペンギンが岩場の方に隠れたぞ?
「この前の休みは会長、昨日は七緒。たまに文月さんと電話……」
なんか和音から黒いオーラが……。
「そういわれるとそうかもな。でも、誰とも付き合ってないから浮気じゃないな」
俺は笑いながらそう言って、次のエリアに避難しようと歩き出す。
「……」
なんか和音が今度は寂しそうだな。
「お、カフェがあるぞ! 寄っていかない?」
巨大な水槽の前にオープンカフェをみつけて和音の腕を掴む。
「……。いいですよ」
甘いものでも食べたら、元気になるかな?
「和音、和音の好きそうなクレープがあるぞ! 食べないか? もちろん俺のおごりだ」
「いいんですか?」
「いいに決まってる。好きなの食べてくれ」
遠慮する和音の腕を掴んでオーダーをするためにレジに向かう。
「俺はコーヒで、和音はどうする?」
「えっと、では……。イチゴ姫クレープをお願いします」
和音は少し悩んだ後、可愛らしい名前のクレープを注文する。
少し待ってそれを受け取って、空いていた席に座った。
和音は幸せそうにクレープを食べ始めてくれる。
「美味しいか?」
「はい、このイチゴもとっても甘くて美味しいです! ありがとうございます。兄さん」
良かった、もう寂しそうな感じはない。
「イチゴも甘いのは珍しいな、美味しいなら良かった」
「ですよね! 一口食べますか?」
「……。じゃぁ、遠慮なく」
和音の分が減ってしまうので、ためらったがニコニコと差し出してくれたのでイチゴに齧りつくように食べる。
甘いイチゴと生クリームが絶妙でとってもうまい。
何故か和音は顔を赤くして震えている。
もしかして食べ過ぎたか?
「お、お、お」
「? ありがと、うまいなこれ」
「ひゃぃ。ですよね、ですよね」
そういいながらも何故か食べるのをやめてしまう。
「どうした? 俺はもういらないから、全部食べていいぞ?」
そう言うと和音は覚悟を決めたような顔をして、残りを食べていく。
カフェを後にした俺達はお土産屋エリアで買い物をして、綾瀬へと晩御飯を食べに来た。
「あ、七緒、先輩。いらっしゃいませ~」
七緒が俺達を見つけて、一番奥の座席に案内してくれる。
「外食で悪いな和音、明日は作るからな」
和音と出かけると外食になりがちで申し訳ない。
「謝らなくていいですよ。その、デートみたいで嬉しいです」
「はい、お二人さん。今日はどうしますか?」
初春さんがドンっと水の入ったコップを置いてくれる。
和音が何か言ったけど声が重なって、うまく聞き取れなかった。
「あれ、初春さん? 珍しいですね」
「ああ、ちょうどお客さんいない時間だからな。結には休んでもらっているだ」
そう言われて周りを見ると確かに俺達以外のお客さんはいない。
夕飯には少し早い時間だからかな?
「兄さん、あまり話してたら悪いですよ! 注文しましょう」
「ああ、そうだな。オムライスお願いします」
和音の言葉に俺はいつものやつを頼む。
「ハハハハハ、気にすんなって。七緒呼んでもいいか? アイツにも休んでもらいたいしな」
確かに七緒の性格なら、何か理由でもない限りは休まないだろう。
「もちろん良いですよ。渡したいものもあるので」
「そうか! ありがと、和音ちゃんはどうする?」
なぜか頬を膨らませている和音に初春さんは笑いながら聞く。
「私もオムライスをお願いします」
和音の注文を聞いて、初春さんは歩いて行く。
その後七緒と合流して、三人で夕ご飯を食べた。
水族館で買ったチンアナゴのキーホルダーをあげたら、すごく喜んでくれて俺も嬉しくなった。




