第二十四話
帰宅した俺は早速、オムライスを作り和音の部屋に向かった。
ノックをし返事を待つ。
「何ですか?」
冷めた声が中から聞こえてきた。
「晩御飯、持ってきたから部屋に入れてくれないか?」
少しの間の後、ドアが開き和音が顔を出す。
「わざわざ、運んできたんですか?」
ムッとした顔でそう聞いてくる。
「ああ、話がしたくてな」
「私は話したくないんですけど――」
ここで七緒から習った技を繰り出す。
本当に効果があるとは思えないが、和音の頭を撫でながら強引に部屋に入る。
「ひにゃ、ふにゃ、はひぃ」
よく分からない声を出しながら、和音は床に座ってしまう。
持っていたオムライスをパソコンの前に置き、和音を抱きかかえて俺はパソコンの前に座る。
和音はそのまま膝の上に降ろす。
「ほら、アーンして?」
「はひぃ」
和音は罵倒も抵抗もないまま顔の前に出されたスプーンを口に入れる。
「美味しいか?」
「はい、とっても~」
頭越しで表情は見えないけど幸せそうな声だ。
七緒にこの方法を言われたときは、殺されるんじゃないかと思ったが突然の事態に動揺してるのか和音はされるがままだった。
「なぁ、どうして俺がアニメとかフィギュアとかが好きなのを許してくれないんだ?」
「それは、秘密です~。でも、おに……。兄さんは、私だけを見てればいいんです。そうすれば不良にはなりません」
とろけていても肝心なことは聞きだせないか……。でもやっぱり和音は俺が不良になるってことに抵抗があるのか。
「ならない、絶対に。それに俺は和音の事、ずっと見てるぞ」
言われたからとか演技でもなく、本音を伝える。
「ひゃ、そ、それならいいんですけど」
照れ隠しをするように和音は自分でオムライスを食べていく。
そんな和音が可愛くって、つい頭を撫でてしまう。
「兄さん、その……あの」
「どうした?」
何か言いずらそうな和音に笑みを向けて聞く。
和音は立ち上がって俺の目をまっすぐに見つめて――
「昼間は死ねって言いてごめんなさい。フィギュアも叩きつけて……」
頭を下げて謝ってきた。
立ち上がって側に行き、ギュッと抱きしめる。
「いや、俺も無神経だった。ごめんな。これからは気をつけるから、側にいていいか?」
「はい、はい。もちろんです」
少しの間、おれたちはお互いに言葉にできない気持ちを伝えあうように抱きしめ合うのだった。
・・・・・・・・・・
和音の部屋を後にした俺は、自室のパソコン前に座る。
和音のためにできる事、そうパソコンに文字をうつ。
和音が不安に思っている不良っていうのはたぶん、家事もしないでダラケタ俺の事だろう。
母さんたちが海外にいるからそうならないよう私が導かないとって思っていてくれるんだろ。
これは心配ない。俺はオタク趣味から距離を少し取って、家事のスキルやバイトをしているくらいだから。
俺ができる事といえば、文章能力をあげて和音の絵に負けない人気を得る事だ。
これは俺自身の問題だけど、上達すればもっと漫画が注目を浴びて和音の配信を見るリスナーだって増えるはずだ。
そのためにできることは何だと? 頭を働かせていい案を思いつく。
時刻は午後九時、まだ迷惑にはならないだろうとスマホで天使先輩に(漫画の事で相談があるのですが、今お時間大丈夫ですか?)とメールを送る。
生徒会室に行った数日後に学校で連絡先を聞かれて交換しておいてよかった。
すぐにスマホが鳴る、しかも着信だ。
「天使先輩、とつぜんすみません」
慌てながら、スマホを耳に当てて頭を下げる。
『大丈夫よ。電話の方が早いしね』
「その、漫画の臨場感や楽しさってどうやれば表現できると思いますか?」
「兄妹そろって、似たようなことを聞くのね? もちろん、体験と楽しさよ」
その言葉に以前の和音の魔法少女のコスプレを思い出す。
「ふふ、脳内メモリーに保存してたのね」
俺が黙ってしまっていると、楽しそうにそう言われてしまう。
「いや、その……。和音と毎回あんなことを生徒会でしてるんですか?」
「いいえ、したいけどさせてくれないわ」
その言葉に少し安心する。
「何だか安心しました」
「それはどういう意味かしら? まぁ、今回のアドバイスのお礼は中学生時代でいいわよ」
そんなことをしたら今度こそ和音と暮らせなくなってしまう。
「えっと他の物じゃダメですか?」
「うーん、そうね……。今度問答無用であなたの時間をくれるならいいわよ?」
何をされるんだと、少し恐怖心はあるが俺自身の事ならどうにでもなるだろう。
「分かりましたそれで大丈夫です」
「いい返事ね。じゃぁビデオ通話にしましょう。色々見てあげるわ」
お手柔らかにお願いします。
天使先輩はそのまま日付が変わるまで、文法やテクニックを教えてくれた。




