第4話 彗星の刃
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一見静かに見える廃倉庫だったが、裏口の扉には数名の武装した集団が辺りを警戒している。
「傭兵か……? 多勢に無勢だし、戦って騒ぎを起こすわけにもいかないよな……」
陰からその様子をうかがっていた俺は、裏口付近のその状態から屋根裏から潜入することを思い付く。
扉付近のにしか警備が行き渡っていないことを利用して、俺はこっそり廃倉庫の壁をよじ登り、天窓からあっけなく内部への潜入に成功した。
内部を降りた先に広がっていたのは運良く、高級感あふれる一人用らしきオフィス。
「ここなら何かしらの証拠をみつけられるか?」
周りに人気が無いことを確認し、俺はさっそくあたりを物色し始める。
「重要証拠ねぇ…… あっ! 高そうな金の指輪見っけ! こっそり拝借拝借ぅ」
ちゃっかり貴重品を頂きながら机の中を物色していると、ある一冊の資料集のような紙束が見つかった。
中身を見てみるとそれは奴隷売買の契約書類。
あの『スライ・カニング』とかいう富豪のサインが入っており、ご丁寧に日付順に並べられていた。
「重要書類とプラスαゲット! 後はとらわれている奴隷たちの人数確認だよな……」
周りを見渡してみるとこの部屋につながる一つの鉄製の扉が。
俺がその扉のドアノブに手をかけようとしたその時――
扉の向こうからこちらへ向かって足音が聞こえてきた。
「……っ! やべっ?!」
俺は周囲に隠れる場所や逃げ道がないか必死に探し、咄嗟に思いついたのは――
「全く…… 何だあのずさんな契約書は! 足がつく前にあの業者とは手を切らねばならぬな」
「了解しました。後始末はどういたしましょう」
「知らん、任せる」
部屋へと入ってきたのは二人組の男。
一人は護衛らしき屈強な男。
もう一人はこぎれいな服装のいかにもな葉巻を咥えた悪顔の小太り男。
そうか…… こいつが『スライ・カニング』か……
「さてと…… ショータイムの前に最終確認だなぁ……」
そう言って奴は部屋の本棚に収められていた本のうちの一冊を取ろうと、それを傾ける。
するとどこからか「カチャッ」というような音が聞こえたかと思うと、床の一部が開き地下へと続く階段が現れた。
奴がその中へ入って行ったのを確認し、俺は自分の存在がばれなかったことに安堵した。
そう、俺は天井に張り付いていたのだ。
それも昔見た、ア○ソックの霊長類最強のCMの時みたいに、腕の力だけで体を支えていたのだが……
「やっぱりこれは俺には無理だな…… 霊長類最強じゃないと……」
俺の腕ははち切れそうなほどにパンパンで疲労困憊だった。
そして俺も、奴らの後を追って地下への階段へ向かおうとしたその時――
あわただしい足音が階段の下から駆け上がってくる音が聞こえてくる。
俺は再び物陰に隠れて様子を伺うと、なんとあの傲慢そうな態度のオッサンだった『スライ・カニング』が、青ざめた表情で冷静を欠いたように穴から飛び出してきたのだ。
「……ない、いない…… ああ…… どっ、どういうことだ…… 『神子』がいない……!」
「お、落ち着いて下さいスライ様。30分程前に確認した時には確かにまだ檻の中にいたはずです! いくら『神子』とはいえ、調教しているので脱走はありえないはずですから…… 外部から盗まれたと考えるのが……」
えっ!? いや違うから!
確かに幾つか宝飾品はパクったけど、その『神子』とかいうのは俺じゃないから!
「騎士団の手口ではないのう…… となるとやはり冒険者ギルドか! おい! 会場に冒険者どもが紛れとるのやもしれん。探せ!」
マズイな…… コイツらがなんか間違っているとはいえ、会場に冒険者がいるのは本当だからな……
鳳仙花たちは潜入のために大した武器を持っていない。
外で待っている応援部隊が駆けつけるまで、彼らの安全が保証できないな……
……しょうがない。やるか……
「今すぐに会場にいる冒険者を捕えるよう、警護に連絡を……!」
「その必要はないですよ」
「……!?」
二人がこの部屋から出る前に、物陰から姿を現した俺は、この部屋唯一の扉の前に立ち、奴らの行方を塞ぐ。
「何者っ…… そうか。貴様が『神子』を……!」
俺の姿を見た途端、俺がそのなんたらを盗んだのだと察したスライは、顔を真っ赤にして俺に詰め寄ろうとする。
まぁ怒る理由は検討違いだが…
「その『神子』とかいうのは知らないけど、アンタらを捕まえにきたっていうのが本命だぜ」
「スライ様、お下がり下さい。すぐに始末致します」
すると護衛の男がスライを庇うように前に立ち、すごい形相でこちらを威嚇する。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
男が地鳴りのような雄叫びを上げると、その肉体がみるみるうちに膨らみ、それに耐え切れず衣服がはち切れる。
上半身裸になった男の筋肉は、ボディビルダーのように逞しいものとなっていた。
「エクストラスキル…… 筋力増加ってとこか……」
「フハハハハ! 冒険者よ! この男はスキル保持者だ。貴様一人で勝てるような相手ではないぞ!」
スキル……
それはこの世界の存在する、ある一種の特殊能力みたいなもので、血の滲むような努力や突発的な出来事、長年の経験から人に宿る力で、その入手難易度や強力さに応じて、何段階かに振り分けられている。
なかでも上級スキルは、上から二番目の超強力スキル。
普通はそんな奴相手にしてはいけない……けど。
「ドラァアアア!!」
男の右手のパンチが目にも止まらぬ速さで、俺の顔面を狙う。
しかし俺がしゃがむとそのパンチは空を切り、間にできた隙を利用して、相手の懐に入り込む。
そういえば前にレックスが見せてくれた技があったよな……
よし、あれを使うか!
「舐めんじゃ…… ねぇええええ!」
男は咄嗟に左手の拳を俺に向かって突き出す。
しかしそれまでの隙は、背中の剣を構え、技を準備するための時間としては十分だった。
「彗星の刃!!」
それは以前、五芒星の訓練に付き合っていた時にレックスが見せてくれた彼のオリジナル技で、神速で刃を振り下ろす高威力の一撃。
俺の剣から繰り出された彗星の刃は、目にも止まらぬ速さで男の左腕を斬り落とした。
そう……
俺が保持している異世界転移特典とは、スキルの中でも珍しい世界でたった一人だけ使うことができるユニークスキル。
そしてその名は──
「ユニークスキル『鏡像』!」
能力は対象の技や力、能力をコピーして再現すること。
普通悪役が持ってそうなスキルだけど、なんだかんだで最高に頼りになる、俺だけのユニークスキルだ。